■塩の平原でハーレーにまたがり、時速400km超を達成した日本人
日本では馴染みの無い“ランドスピードレーシング”は、長い直線を使って乗り物の最高速を競うレースです。アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリアなどで開催されています。その中で最も有名な場所が『ボンネビル・ソルトフラッツ』(以下、ボンネビル)です。アメリカのユタ州にある広大な塩の平原を舞台に、映画『世界最速のインディアン』で主人公のバート・マンローが走ったレース、と言えば、ピンとくる人もいるのではないでしょうか。バート・マンローは実在する人物で、この映画も実話を元に作られました。彼が1967年に『インディアン』をベースにした“マンロースペシャル”で記録した時速295.44kmの最高速度(1000cc S-AFクラス)は、今でも破られていません。
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ボンネビルでは、毎年いくつかのランドスピードレースが開催されています。その中でもバイクだけのレースが『ボンネビル・モーターサイクル・スピード・トライアルズ』です。このレースはMotoGPや世界耐久選手権(EWC)を主催するFIMと、アメリカのレース主催団体であるAMAの公認レースで、ここで獲得した最高速度記録はFIMの世界記録とAMAのアメリカ国内記録として正式に認証されます。
そのレースに、2008年から挑戦し続けている日本人がいます。ネバダ州在住の小磯博久さんです。ラスベガスにあるハーレー・ダビッドソンのディーラーでメカニックとして働く小磯さんは、2006年型のハーレー・ダビッドソン「FXD」をベースに自らランドスピードレース用のマシンを製作し、レースにエントリーしています。これまでに獲得した最高速度記録は30以上あります。
ランドスピードレースは、排気量や改造、カウル、過給機の有無などで細かくクラス分けがされています。レースは最長11マイル(約17.6km)の直線コースを走り、1マイル(約1.6km)の測定区間の平均速度が記録になります。ここで過去の最高速度記録を超えれば、今度はコースを逆から走り、往復の平均速度が正式な記録となります。
小磯さんは2018年に時速260マイル(約416km/h)という驚異的なスピードで、シッティングバイク(跨って乗るバイク)としてはメーカーを問わず世界最速となりました。しかしバイクのトラブルで復路が走れなかったために正式な世界記録にはなりませんでした。
翌2019年は塩の路面のコンディションが良くない場所があり、350km/h近いスピードで転倒してしまいます。両腕の骨折で済んだのは不幸中の幸いでした。2020年に向けて準備をしていましたが、新型コロナウイルス感染症の影響による開催中止を経て、2021年夏のレース開催を迎えました。
小磯さんは排気量3000cc(FIMは2500cc)以下、カウル、過給機付き改造車の「ガソリン」と「ナイトラス」を使うフューエルの2クラスにエントリーしています。FIMのガソリンクラスの記録は、小磯さん自身が2013年に出した214.653マイル(345.451km/h)です。
コースコンディションが良かったこともあり、レース初日からその記録を上回る361km/hを出します。そして3日目には往路で393.6km/hという自身の記録を大幅に上回り、そして復路はついに400km/hを超えました。
正式な記録となる平均速度は249.443マイル(401.440km/h)、正式な世界記録で400km/hを超えるという偉業を達成したのです。
その後、ナイトラスを使用するフューエルクラスにスイッチして更なる最高速に挑戦しましたが、レース後半は路面のコンディションが良くなくなったために無理をせず、今年のレースは終了となりました。
小磯さんが記録した最高速度は、2021年の『ボンネビル・モーターサイクル・スピード・トライアルズ』でのトップスピードにもなりました。400km/hオーバーという想像のできないスピード域でのレース、来年も小磯さんの更なる活躍に注目したいと思います。
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