現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > ヒュー・グラントが“最恐おぢ”に! A24のサイコスリラー『異端者の家』──監督インタビュー

ここから本文です

ヒュー・グラントが“最恐おぢ”に! A24のサイコスリラー『異端者の家』──監督インタビュー

掲載
ヒュー・グラントが“最恐おぢ”に! A24のサイコスリラー『異端者の家』──監督インタビュー

恐怖の家に住む一見知的な中年男性Mr.リード。訪れたシスターたちと会話を重ねていくうちに豹変し、彼女たちを絶望のどん底に突き落とす。本作『異端者の家』の監督と脚本を手掛けたのは、『クワイエット・プレイス』の脚本家として知られるスコット・ベック&ブライアン・ウッズ。彼らにサイコパスに扮したヒュー・グラントの魅力や作品のテーマについて尋ねた。

A24×『クワイエット・プレイス』の脚本家×ヒュー・グラント

若者研究の専門家・古屋星斗が薦める、人材育成を考える上で役立つ本とマンガ3冊

ロマコメの帝王として知られるヒュー・グラントが、身の毛もよだつサイコパスに扮した映画『異端者の家』。監督を務めたのは”音を出したら即死”の『クワイエット・プレイス』の原案と脚本を手掛けたスコット・ベック&ブライアン・ウッズ。製作スタジオは『ミッドサマー』や『LAMB/ラム』など規格外の狂気映画を手掛けてきたA24だ。

大雨の中、モルモン教の宣教師であるシスター・パクストン(クロエ・イースト)とシスター・バーンズ(ソフィー・サッチャー)がある家に布教活動に訪れたところから物語は始まる。家の主はMr. リード(ヒュー・グラント)。「雨に濡れるから家の中で話しませんか?」と提案されたシスターたちは「教義で男性だけの家には入れない」と拒否するが、妻が同居していると聞き、安心して家の中に。早速モルモン教の説明を始めたシスターたちに対し、リードは「どんな宗教も真実とは思えない」と言い放ち、持論を展開する。不穏な空気を察知し帰ろうとするシスターだったが、既にリードの巧妙な仕掛けに足を踏み入れてしまっていた。

物語の前半はリードを中心とした対話劇として展開するが、圧倒的な知識と知性の影にちらちらと垣間見えるリードの存在はシスターたちだけでなく、観客をも不穏な気持ちにさせる。信仰と不信仰、どちらの道を選ぶかを突き付けるリードの目的とは一体何なのだろうか──。

本作で監督と脚本を務め、アダム・ドライバーが主演しサム・ライミがプロデュースを務めた『65/シックスティ・ファイブ』など、良質なスリラー/サスペンス映画を手がけてきたことで知られるスコット・ベックとブライアン・ウッズにインタビューした。

宗教への関心をアートに昇華

──宗教をテーマに映画を作ろうと思った理由は?

スコット・ベック(以下、スコット) 僕とブライアンは11歳の時から友達なのですが、ふたりとも宗教というテーマに興味を持ち続けていました。特にアメリカでは法律に宗教のことが組み込まれていたり、生活と宗教が密接に関わっている印象があります。また、年齢を重ねて近しい人や愛する人が亡くなっていく中で、「自分たちは死後どうなるんだろう」という関心が頭の中に存在するようになりました。その関心をアートに昇華した結果、『異端者の家』が生まれました。

──脚本を制作する上でヒントにした宗教や出来事はありましたか?

ブライアン・ウッズ(以下、ブライアン) 私たちはキリスト教徒の家庭で育ったので、毎週日曜日は教会に通っていました。モルモン教はキリスト教の一派でユタ州で生まれた宗教ですが、以前ユタ州で1本の映画を作った際にそれまで何となくしか知らなかったモルモン教のことを深く知る機会がありました。モルモン教は比較的新しい宗教であり、とてもアメリカ的な宗教です。モルモン教を中心にして、カルト的な宗教も含めたあらゆる宗教を描くのは面白い視点だと思い、ストーリーを膨らませていきました。宗教は美しいものであると同時に、哲学でもあり人生観に深く影響を与える恐ろしい部分もあります。死後の世界についても考えさせられます。そういった側面を意識しながら脚本を書き進めていきました。

言葉は武器になり得る

──前半はヒュー・グラントが演じるMr.リードを中心にした密室での対話劇に仕上がっています。どんな狙いがあったんでしょう?

スコット 言葉は武器になり得ると思ったからです。直接暴力を振るわなくとも相手に精神的な痛手を負わせることができます。理論で攻めるという攻撃方法にも興味がありました。この映画はDavid Mamet監督の『Oleanna』(1994)のような、政治におけるジェンダーの力学をめぐる綱引きのような作品から多くのインスピレーションを得ています。言葉と神学を用いることで、同じように宗教を武器にできないかと考えました。演劇的な言葉を使った演出と映画のあらゆるツールを融合させ、非常に映画的な作品に仕上がっていると思います。

役について徹底的にリサーチ

──ヒュー・グラントをリード役にキャスティングした理由は何でしたか?

ブライアン ヒュー・グラントはとてもチャーミングで好感の持てる親しみやすい俳優として、世界中の多くの観客から愛されています。だからこそ、そういった資質で観客を惑わせることができると考えたのです。シスター・パクストンとシスター・バーンズも最初はリード氏に親しみを感じますが、次第に彼の恐ろしい知性が明らかになっていくことで、より一層不安を掻き立てることができると思いました。また、広く知られている通り、ヒューは偉大な俳優のひとりで、特にラブコメ作品で大きな成功を収めていますが、ここ10年はそこまで大きな規模の作品でなくとも果敢に挑戦しています。さらに『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』のウンパルンパ役のように、コミカルでユニークな役も喜んで演じてきた。役にコミットできる素晴らしい役者と仕事ができることに興奮しましたよ。

──初めてタッグを組んでみてどんなことを感じましたか?

スコット できればすべての作品に出てもらいたいと思うほど、本当に素晴らしい役者だと思いました。まず素晴らしいと思ったのは、役について徹底的にリサーチするんです。クランクイン前の何ヶ月も前からメールのやり取りが始まり、セリフの1単語ずつに対してどういう意味があり、どういう意図があるのかを知ろうとしてくれました。おかげで撮影に入ってもとても良い雰囲気で進行することができました。Mr. リードのことも作品のことも知り尽くしていて、まさに一流の役者だと思いました

──リードの圧倒的な知性と知識に強い恐怖を感じたんですが、序盤のシスター2人の会話の中でルー・ゲーリック病をブルーベリー病に聞き間違えるシーンがあります。どんな演出意図があったんでしょう?

ブライアン 面白い質問ですね。聞き間違いではなく、わざと冗談のような間違いをして、違和感のある空気を作ることでシスターたちがどれだけ友好的かをテストしているんです。その反応によって、その後どういういう作戦を取るかということの判断材料にするためにわざと言い間違えました。

──リードが会話の中にラナ・デル・レイやレディオヘッドといった実存するアーティストにまつわるエピソードを出していたことも印象深かったです。

スコット セリフの中に自分たちの趣味を反映することが好きなんです。もちろん今作にとって重要なテーマである神学や宗教について語ることも好きですが、ポップカルチャーにも強い興味を持っています。ポップミュージックはさまざまな形でリメイクされ、新たな形で生まれ変わってきたので宗教の進化を描く上でとてもいいメタファーになると思いました。

ホラー×ポップカルチャー

──シスターたちがとじ込められたシーンではレディオヘッドの「クリープ」が流れ、さらに重い気持ちになりました。あの選曲にもおふたりの趣味が反映されているのでしょうか?

ブライアン そうですね(笑)。ホラーとポップカルチャーっていう全くベクトルの違うものを掛け合わせるのが好きですね。あそこで流した「クリープ」はアコースティックバージョンだったので、新たなレイヤーを加える意図もありました。

──おふたりがスリラーやサスペンス映画を作る際に特に大事にしていることは何ですか?

スコット 観客は先の展開を読もうと意識するものだと思いますが、常にその予想を裏切るような作品にしたいと思っています。あと、セットにもとてもこだわっているんです。プロダクションデザイナーのフィリップ・メッシーナには迷路のような部屋を作り込んでもらい、次の部屋に入ると新たな真実やリードの違う一面が見えてくるという作りにしました。本作は閉鎖的な空間での会話劇がメインなので、ともすると観客が飽きてしまう恐れがありました。なので、撮影監督のチョン・ジョンフンには、観客を退屈させないように、閉所の恐怖感を感じられ、さらにショット毎に変化し続けるように撮影方法にトライしてもらいました。

ブライアン 私は子供の頃から映画館で映画を観るのがとても好きだったんですが、帰り道に友達や家族と観た映画について語り合いながら帰る時間がすごく楽しかったんです。単純に楽しめるエンターテイメント性の高い映画も魅力的ですが、映画から刺激を受けて、何かしら語りたくなって新たな思考が生まれるような作品を生み出せるよう意識しています。

──最後に、おふたりが一番怖いものは何ですか?

スコット まずひとつ目は、『異端者の家』のひとつのテーマでもある死後に何が待ち受けているかということ。ふたつ目は、ブライアンと映画のアイディアを出し合う中で食い違いが生じることです。そうなるとどちらかが折れないといけないですからね(笑)。

ブライアン 私は人前で話すことに恐怖を感じます。だから実はインタビューも苦手なんですよね。人前で話すことをテーマにしたホラー映画は見たことがないので、次はそのテーマで映画を作ってもいいかもしれませんね(笑)。

『異端者の家』

4月25日 (金) TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
配給:ハピネットファントム・スタジオ
© 2024 BLUEBERRY PIE LLC. All Rights Reserved.

公開記念! A24のポップアップを開催『異端者の家』公開に合わせてstyle department_では A24 POP UP を開催。A24の有料会員のみが購入可能であったA24グッズや、本イベントのために再販されるT シャツ、『異端者の家』に関連した書籍など、国内では入手することができなかったアイテムがラインナップする。あわせて『異端者の家』の世界観を表現した店内のインスタレーションやグッズも展開。作品鑑賞の前後にも楽しめるディスプレーにも拘った空間なので、この機会にぜひ足を運んでみて。

「style department_」
4月18日(金) ~ 5月8日(木)
東京都渋谷区神山町 7-12 グランデュオ神山町 102
TEL:03-6804-9078
営業時間: 月-金 13:00 - 20:00 / 土 12:00 ‒ 20:00 / 日 12:00 - 19:00

「style department_Osaka」
4月24日(木) ~ 5月1日(木)
大阪府大阪市北区大淀中 1-12-20 1F
TEL:06-6110-5153
営業時間: 月-土 13:00 - 20:00 / 日 12:00 - 19:00

文・小松香里
編集・遠藤加奈(GQ)

【キャンペーン】第2・4 金土日はお得に給油!車検月登録でガソリン・軽油7円/L引き!(要マイカー登録)

こんな記事も読まれています

『サブスタンス』は脱皮映画!──デミ・ムーアが“ポップコーン女優”というレッテルから抜け出し、人は美=若さへの幻想から解放される
『サブスタンス』は脱皮映画!──デミ・ムーアが“ポップコーン女優”というレッテルから抜け出し、人は美=若さへの幻想から解放される
GQ JAPAN
松坂桃李、俳優を生きるということ──映画『父と僕の終わらない歌』は5月23日公開
松坂桃李、俳優を生きるということ──映画『父と僕の終わらない歌』は5月23日公開
GQ JAPAN
アーティスト・大森元貴(Mrs. GREEN APPLE)はジャンルを超え、自己を媒介に世界をかたちづくる表現者──GQ クリエイティビティ・アワード2025
アーティスト・大森元貴(Mrs. GREEN APPLE)はジャンルを超え、自己を媒介に世界をかたちづくる表現者──GQ クリエイティビティ・アワード2025
GQ JAPAN
パティ・スミスとサウンドウォーク・コレクティヴの競演、『コレスポンデンス』展──ステファン・クラスニアンスキーが作品に込めた思いを解説
パティ・スミスとサウンドウォーク・コレクティヴの競演、『コレスポンデンス』展──ステファン・クラスニアンスキーが作品に込めた思いを解説
GQ JAPAN
GILLOCHINDOX☆GILLOCHINDAE、漫画や日本画が織り重なりモノクロの物語を紡ぐ現代美術家──クリエイティブ・アワード 2025
GILLOCHINDOX☆GILLOCHINDAE、漫画や日本画が織り重なりモノクロの物語を紡ぐ現代美術家──クリエイティブ・アワード 2025
GQ JAPAN
ロレックスからカシオ、スウォッチまで。歴代ローマ教皇の時計は何を物語るのか?
ロレックスからカシオ、スウォッチまで。歴代ローマ教皇の時計は何を物語るのか?
GQ JAPAN
ロロ・ピアーナによる芸術的で映画のようなインスタレーション──2025年、ミラノデザインウィークでおさえておくべきトピックス
ロロ・ピアーナによる芸術的で映画のようなインスタレーション──2025年、ミラノデザインウィークでおさえておくべきトピックス
GQ JAPAN
奇妙でキュートな「ラブブ」人形が世界で熱狂を生む理由
奇妙でキュートな「ラブブ」人形が世界で熱狂を生む理由
GQ JAPAN
陶芸家・安永正臣が窯の中で変容する器に見出す、柔らかく新しい価値──GQ クリエイティビティ・アワード2025
陶芸家・安永正臣が窯の中で変容する器に見出す、柔らかく新しい価値──GQ クリエイティビティ・アワード2025
GQ JAPAN
仲野太賀「現場の空気とか、人間の体温まで映っていた」──短編映画『ラストシーン』公開
仲野太賀「現場の空気とか、人間の体温まで映っていた」──短編映画『ラストシーン』公開
GQ JAPAN
IDAHOBIT(アイダホビット)に考える「フォビア(恐怖症・嫌悪)」と向き合うこと──連載:松岡宗嗣の時事コラム
IDAHOBIT(アイダホビット)に考える「フォビア(恐怖症・嫌悪)」と向き合うこと──連載:松岡宗嗣の時事コラム
GQ JAPAN
藤倉麻子がデジタルと色で鮮やかにあぶり出す都市や郊外の断片──GQ クリエイティビティ・アワード2025
藤倉麻子がデジタルと色で鮮やかにあぶり出す都市や郊外の断片──GQ クリエイティビティ・アワード2025
GQ JAPAN
建築コレクティブ、GROUPが生み出す領域横断的シームレスな空間──GQ クリエイティビティ・アワード2025
建築コレクティブ、GROUPが生み出す領域横断的シームレスな空間──GQ クリエイティビティ・アワード2025
GQ JAPAN
「グッチ オステリア ダ マッシモ ボットゥーラ トウキョウ」に新たなシェフが就任。監修を務めるマッシモ・ボットゥーラが語る
「グッチ オステリア ダ マッシモ ボットゥーラ トウキョウ」に新たなシェフが就任。監修を務めるマッシモ・ボットゥーラが語る
GQ JAPAN
ペドロ・パスカルやトロイ・シヴァンが着用。「Protect the Dolls」Tシャツが広げるトランスジェンダー支援の輪
ペドロ・パスカルやトロイ・シヴァンが着用。「Protect the Dolls」Tシャツが広げるトランスジェンダー支援の輪
GQ JAPAN
日本人は休みベタ? 5月病・6月病が急増中の今こそ、「攻めの休養」でストレスを回避せよ【GQ VOICE】
日本人は休みベタ? 5月病・6月病が急増中の今こそ、「攻めの休養」でストレスを回避せよ【GQ VOICE】
GQ JAPAN
弓削匠 x YOGEE NEW WAVES角舘健悟──アイドル黄金時代の楽曲を、シティポップのように世界へ届ける
弓削匠 x YOGEE NEW WAVES角舘健悟──アイドル黄金時代の楽曲を、シティポップのように世界へ届ける
GQ JAPAN
アラ還のクルマ・バイク学
アラ還のクルマ・バイク学
ahead

みんなのコメント

この記事にはまだコメントがありません。
この記事に対するあなたの意見や感想を投稿しませんか?

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

413 . 0万円 838 . 0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

350 . 0万円 350 . 0万円

中古車を検索
ランチア テーマの買取価格・査定相場を調べる

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

413 . 0万円 838 . 0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

350 . 0万円 350 . 0万円

中古車を検索

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村