旅行経験者の七割超が直面する失敗
限られた休日を有効に使おうと、できるだけ多くの場所を訪れ、食事も観光も楽しむために旅程を細かく組む人は少なくない。
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ところが、予定を増やすほど満足度が高まるとは限らない。
AZWAY(東京都新宿区)が国内旅行経験者300人を対象に行った調査(2026年8月31日発表)では、旅行中や準備段階で失敗した、やらかした経験がある人は76.0%に達した。
失敗の内容は忘れ物をしたが44.0%で最多。予定を詰め込みすぎて疲れたが31.7%、お金を使いすぎた・予算オーバーが24.3%で続く。
さらに63.0%が、キャンセル料や買い直しなどの金銭的損失を経験し、1万円以上の損失を出した人も25.7%いた。
出発前の計画や時間配分、事前の情報確認、体力の見積もりの甘さが重なり、現地での出費や疲労につながる実態が浮かび上がる。
事前の確認不足が招く旅先での失敗
失敗の原因として最も多かったのは事前の確認不足・リサーチ不足の52.3%だった。
2位は慣れ・油断の31.3%、3位はスケジュールに余裕がなかったの20.0%。さらに準備を直前まで後回しにしたが16.7%、予算計画の甘さが15.3%と続く。
ここで注目したいのは、旅行前の判断や行動が、旅先での出来事に直結していることだ。
行動経済学には、将来の利益よりも目先の労力回避を過大に評価してしまう「現在バイアス」という概念がある。数週間前にはしっかり準備しようと思っていても、いざ出発が近づくとパッキングや下調べを嫌って先延ばしにしてしまう。こうした心理的なクセが、確認不足や忘れ物といったトラブルを高確率で引き起こす。
一方で、出発前にすべてを完璧に把握することには限界がある。
「天気が良いと思っていた日に天気が悪く、予定していた海の場所に行けなくなりました。予定を急遽変更して別の場所に行きましたが、天気予報を確認して別のところを企画すべきだと感じました」(30代女性・家族旅行・車)
このように、天候など出発後に変化する要素も存在するため、旅行の計画には事前に減らせる不確実性と、現地でしか分からない不確実性が混在している。
また、予定を詰め込みすぎて疲れたという回答の裏側には、疲労以外の問題も潜んでいる。
「今年の夏、京都に2泊3日で旅行をしたのですが、予定を詰め込み過ぎた3日間でした。1日中歩き回る計画で疲れ果て、朝寝坊をしてしまい、急いでチェックアウトしたことで服など忘れ物をしてしまいました。結局着払いで送ってもらい送料がかかりました」(30代女性・夫婦カップル・飛行機)
予定を詰めたことが疲労、朝寝坊、忘れ物、送料という複数の事態へ連鎖している様子がよくわかる。
旅行では休息や食事、荷物整理などの時間も必要であり、予定表に書かれない空白の時間が削られると、思いがけない場所で負担が生じる。
格安移動に潜む時間と体力の損失額
交通費や宿泊費を抑えることは支出管理につながるが、価格だけでは見えにくいコストも存在する。
「青春18きっぷで移動、楽しいけれどけっこう体力的にきつく、目的地についたら寝込んでしまいました。旅費は安くなったけれども、会いに行った友人家族に迷惑をかけたし、何日かつぶれてしまいました」(50代女性・一人旅・新幹線)
安価な移動手段は、時間に余裕があり移動そのものを楽しめる人には合理的だ。
しかし、ある選択をしたことで失われた別の選択肢からの最大利益を指す機会費用の視点で考えれば、移動費を削る代償として現地で元気に遊べたはずの滞在時間を手放すのは、かえって高くつく選択になり得る。
出費を計算する際は、その移動に何時間使い、到着後にどの程度の余力が残るかまで見極める必要がある。
今回の調査で金銭的損失の金額を見ると、0円が37.0%で最多だが、5千円未満が19.7%、5千~1万円未満が17.7%、1万~3万円未満が15.3%と続き、5万円以上も3.0%存在した。
忘れ物や予約ミスが、そのまま手痛い追加支出に変わるケースも多い。
「昨年の秋、温泉旅行に行った際、スマートフォンの充電器を自宅に忘れてしまいました。現地に向かう途中で電欠になりかけ、観光地の調べ物やマップの確認ができず大変困りました。結局、現地のコンビニで急遽高い充電器を買い直す羽目に。それからは、出発前に必ず持ち物リストを作成し、前日夜に指差し確認をするように徹底しています」(30代女性・夫婦カップル・新幹線)
「急遽旅行先でレゴランドにも行こうとなり行ったが、その時期はプールの時期で、水着や着替え、バスタオルなど持参せずそのまま行ってしまいました。現地で足りないものは買えばいいと思っていたが、中のものは全て高くて、揃えたら相当な金額になってしまいました」(30代女性・家族旅行・車)
現地では選択肢が限られ、日常とは異なる割高な価格での購入を余儀なくされる。
せっかくここまで来たのだからと理不尽な追加出費を許容してしまう背景には、非日常の空間で財布のひもが緩むメンタル・アカウンティング(心理的会計)や、すでに支払った費用を取り返そうと意地になるサンクコスト(埋没費用)の誤謬が強く影響している。
旅行の慣れと油断が招く意外な出費
金銭的損失があった人の中で慣れ・油断を失敗原因に挙げた割合は38.1%に達したが、損失がなかった人では19.8%にとどまり、両者には18.3ポイントの開きがあった。
旅行に慣れている事実が、必ずしもリスクを下げるわけではない。
「一昨年の夏、北海道旅行に行き、空港には余裕でついていたのに、空港内で楽しく遊んで食べているうちに乗り遅れてしまいました。余裕があるのに馬鹿なことをしたと後悔しかありませんし、無駄金を使ってしまいました」(50代男性・家族旅行・飛行機)
時間的な余裕を作っても、それを別の行動に費やしてしまえば乗り遅れのリスクは消えない。
一方で、スケジュールそのものに余裕がなかったケースも散見される。
「旅行前の仕事が思った以上に長引いてしまい、予定していた便に間に合いませんでした。急いで次の便を探しましたが、その日の便には乗れず、結局翌日の飛行機で移動することになりました。時間には余裕を持つことが大切だと実感しました」(30代女性・夫婦カップル・車)
現地での余裕だけでなく、出発前にどれだけの時間を取れるかも重要なポイントになる。
失敗の傾向は移動手段によっても変わる。自家用車・レンタカーを主とした143人では渋滞・混雑を甘く見ていたが21.0%。新幹線・電車では13.2%、飛行機では11.9%だった。
それに対し交通機関に乗り遅れた・乗り間違えたは、新幹線・電車で19.8%、飛行機で16.7%、自家用車・レンタカーで7.0%となっている。
旅行の計画を立てる際は、どう移動するかに応じて確認すべき項目を変えなければならない。
同行者の違いが生むトラブルの特徴
同行者によっても失敗の傾向は異なり、家族旅行では忘れ物が58.3%と全体の平均を大きく上回った。
また、夫婦・カップルでは同行者とケンカ・気まずくなったが20.4%で最も高い。
行動経済学の不平等回避モデルによれば、人間は負担の不均衡に対して強いストレスを感じる生き物だ。少人数ゆえに運転や予約管理などのタスクが一方に偏りやすく、それが感情的な対立へと発展しやすい。
「テーマパークで遊んだ後、ホテルまでの距離をあまり考えておらず、電車での移動で混雑と疲労から子供も泣くし私達もイライラして、どっと疲れてしまいました。ケチらずにテーマパーク隣のホテルを予約すればよかったと後悔しました」(40代女性・家族旅行・車)
少し離れたホテルを選べば宿泊費は抑えられるが、移動に伴う混雑や疲労の負担はかさむ。旅の選択肢を比べる場面では、金額だけでなく体力まで含めた総合的な視点が求められる。
失敗を防ぐ対策として最も多く挙げられたのは予定を詰め込みすぎないの44.3%だった。
次いで持ち物リストを作るが37.0%、予約内容をスクリーンショット・共有するが36.3%、天気・運行情報を直前に確認するが30.3%と続く。
特にしていないと答えた人は9.3%にとどまり、90%以上が過去の原因に応じた何らかの対策を行い、手痛い経験を次の計画に生かそうとしている。
個人旅行で問われる旅程管理と余白
今回の調査から見えてくるのは、旅程にどれだけの余白を残せるかという問題だ。
訪問する観光地を一つ増やせば移動時間が生まれ、休息時間が削られることで、急な予定変更に対応する余力も失われていく。
一方で、多少疲労してもより多くの体験を持ち帰りたいと考える人もいるため、何を優先するかでふさわしい計画の形は変わってくる。
多くの旅行者が行っている対策は手元のスマートフォンで完結するものばかりだが、扱う情報が増えればそれだけ負担も増す。
かつて主流だった旅行会社のパッケージツアーであれば、旅程管理やトラブル時の補償は会社側が担ってくれた。しかし、自ら手配する個人旅行が当たり前になった現代においては、旅程を管理するリスクはすべて旅行者個人に委ねられている。
あらゆる情報を網羅しようとすれば出発前の作業量が膨れ上がり、いつの間にか情報収集そのものが目的化してしまう。
だからこそ、半数以上が確認不足を失敗原因に挙げながらも、何も対策をしていない層が1割未満にとどまった点は興味深い。必要な情報を、いかに適切なタイミングで拾い上げるかが問われている。
失敗の経験から考える将来の旅の形
今後、デジタルサービスやAIの進化によって旅の計画作りがさらに容易になったとしても、個人の見えない体力や細かな価値観まで正確に反映できるとは限らない。技術の進歩だけで旅行の失敗がゼロになるわけではないのだ。
今回の調査結果が示しているのは、旅行先での失敗が誰にでも起こりうる普遍的な出来事であるという事実と、そこから学びを得て次善の策を講じようとする旅行者の姿である。
時間や費用、体力、そして同行者との関係性までを含めて考えたとき、自分にとって予定を詰め込むことと余白を残すことのどちらが合っているのか。
今回寄せられた生々しい数字と体験談は、その判断を下すための有益な材料を提供してくれている。(本間めい子(フリーライター))
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