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第3章スバル 進化の系譜 名機 スバル「EJ20」型エンジンヒストリー

掲載 更新 8
第3章スバル 進化の系譜 名機 スバル「EJ20」型エンジンヒストリー

第1章ではレガシィと新開発の水平対向4気筒エンジン、EJ20型エンジンの始まりについて。第2章ではEJ20型の初期仕様の詳細とWRXへの搭載について語ってきた。今回は、高出力型エンジンであるEJ20型がどのように改良され進化していったかについて紹介しよう。

出力の改善

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初代WRXに搭載されたEJ20型ターボエンジンは、最初期のレガシィ用EJ20型を大幅改良し、シリンダーヘッドを新設計してより高出力型に生まれ変わっている。

しかし、1993年に登場する2代目レガシィ(BD/BG型)にこのEJ20型が搭載されるにあたり、さらなる改良が加えられた。2代目レガシィは、5ナンバー枠を守る2.0Lの小型車ボディながら、より本格的なグランドツーリングカーとして熟成することが開発目標とされ、グランドツーリングカーにふさわしい高出力エンジンが求められたのだ。

EJ20型エンジンのベースは、このときからより効率を高め、高出力にしながら実用燃費、パワートレーンの静粛性なども追求。特に実用燃費は初代レガシィと比べ10~20%向上させ、満タンで500kmの航続距離を達成することを目指していた。

そのため自然吸気のEJ20型エンジンはバルブ挟み角41度のダイレクト式バルブ駆動に加え、低中速域でのトルクの改良、より排気効率が高い等長ダブルY字形のエキゾースト マニホールドを新採用している。

この新採用の等長ダブルY字形のエキゾースト マニホールドにより、排気抵抗の低減、排気干渉を抑制し、出力、トルクを改善しているのだ。

2ステージ ツインターボの採用

そしてレガシィを代表するGT、RSグレードには、新開発の2ステージ ツインターボが新たに採用された。その目的は高出力と走りのリニアリティの両立で、日常での走行でも低速から力強いトルクを確保することだった。

具体的には、全域でのリニアなレスポンスと3.0L自然吸気エンジンに匹敵する大トルクを引き出し、その結果として5速MT、4速AT用も同じエンジンスペックとなっている。

2ステージ ツインターボのメカニズムは、シーケンシャル ターボとも呼ばれるシステムで、低速時にはシングル(プライマリー)ターボにより過給圧を発生させ、負荷が増大するにつれてよりセカンダリー ターボも過給圧を発生。ツインターボ状態となる仕組みだ。

高出力、高効率ツインターボ

ターボチャージャーの容量を表すA/R比は、初代レガシィのGTが15、RSモデルは20という高速型タービンを装備していたが、この2ステージ ツインターボのEJ20型はA/R比が12のタービンを2個装備している。そのため、低速域ではA/R比12の低速型タービンが作動するため、ターボラグが少なくリニアなアクセル レスポンスを実現している。

高負荷、高速域ではA/R比は12×2のツインターボ状態となり、高出力・高トルクが生み出される。なお不等間隔の排気マニホールドを備えているため、爆発間隔の変動による排ガス圧の変動を抑えるため、左右の排気マニホールドはバランスチューブで結合されている。

低速時のシングルターボ時には、プライマリーターボの排気バイパスバルブは全閉状態で、余剰排気ガスはセカンダリー ターボ側に流され、セカンダリー ターボを予回転させる働きをする。一方、エンジン負荷が大きくなると排気切り替えバルブが開きセカンダリー ターボ側にも十分な排気ガスが流れる仕組みだ。

この2ステージ ツインターボは、ボールベアリング式軸受を採用するなど、異例なほど高コストなエンジン システムとなっていた。

なおこの2ステージ ツインターボの過給圧制御は電子制御式で、インテーク マニホールドの吸気圧、吸入空気量、エンジン回転数、水温、スロットル開度、ノックセンサーなどのパラメーターにより、排気切り替えバルブとウエストゲート バルブを制御するシステムになっていた。

またインタークーラーはWRXと同様に、空冷式となりエンジン上部にレイアウトされた。ボンネット上のエアスクープから流入する空気によって冷却され、エンジン後方のトランスミッション側に熱気が抜けていくようになっていた。

このように2.0L 4気筒のエンジンにツインターボ、しかも2ステージ制御という可変システムを採用した例は、当時は海外を含めても例がなく、特筆すべき高コストで複雑なシステムであったといえる。しかし、市街地や郊外の道路で、アクセルの軽い踏み込みから急加速するような状況でターボの切り替えタイミングが一致してしまうと、一瞬加速が途切れるようなシーンもあった。

WRX STI

WRXシリーズの中で最も高出力仕様を搭載したモデルがWRX STIで、1996年に「WRX TypeRA STi バージョンII」が555台限定で発売された。このSTIチューンのEJ20型ターボエンジンは275ps/6500rpmを発生した。

しかし1996年には、インプレッサ シリーズがマイナーチェンジされ、WRXのエンジンはさらに高回転・高出力化され、当時の国内自主規制値の280psに到達している。

このエンジンは、マスター4シリーズと名付けられている。シリンダーブロックはオープンデッキに変更。点火方式がダイレクトイグニッションから2コイル同時点火に変更されている。シリンダーヘッド部の冷却性の向上、メタル製シンダーヘッドガスケット、低フリクション ピストンの採用、インタークーラーのサイズアップなどが行なわれている。

またこの段階からEJ20型ターボは、WRXの240ps仕様、280ps仕様と、WRX STI verIII用の280ps仕様に分かれている。STI仕様では過給圧アップの他に、鍛造ピストン、インナーシム式バルブリフター、吸気ダクトの補強、ラジエターの冷却性能向上、オートモード式インタークーラーウォータースプレイなどを装備している。

インナーシム式バルブリフターは、バルブ クリアランスを調整するためのシムは、通常リフター上に配置されるアウターシム式だが、インナー式は小径シムをリフター内部に装備するタイプで、小径シムのため重量が軽く、高回転化に有利なため採用している。

その結果、STI仕様の最高許容回転数は7900rpmまでアップし、最大トルクは標準の280ps仕様では329Nm/4000rpmであったのに対し、STI仕様は343Nm/4000rpmと増大されている。

そしてFタイプからはさらにEJ20型ターボエンジンは改良を受け、EJ207(通称PHASE-IIシリーズ)に進化し、新設計のシリンダーブロックとシリンダーヘッドを採用。エアフローセンサーなど補機類も大幅改良している。

コンプリートカー22B STI

1998年には、WRCカーをイメージしたワイドボディのコンプリートカー、「22B STi」が400台限定で発売された。この22Bはワイドフェンダーを備えた本格的なコンプリートカーで、EJ型エンジンはボア径を拡大し、96.9mm×75.0mmのボア ストロークとした「EJ22改」と呼ばれ、2212ccエンジンを搭載した。

使用されているシリンダーブロックはWRCカー用と同じクローズドデッキ構造で、ピストンもアルミ鍛造製、中空バルブ、インナーシム構造の採用に加え、バランス取りも行なわれている本格的なSTI製のハンドメイドエンジンであった。

このスペシャル エンジンは自主規制により280ps/6000rpmながら、最大トルクは363Nm/3200rpmを発生した。

3代目レガシィ

1998年に3代目となるレガシィ(BE/BH型)が登場した。「レガシィを極める」をキャッチフレーズにした3代目レガシィは、GTグレードには改良を加えたEJ20型PHASEIIエンジンを搭載した。

このエンジンは低中速トルクの向上、燃費の向上、振動の低減を目指して改良が加えられた。まずエンジンの骨格では、振動を低減するためにクランクシャフトのスラストベアリング位置を3番ジャーナル部から5番ジャーナル部に変更。

さらにエンジンとトランスミッションとの結合ボルトを従来の4本締めから8本締めにしてパワートレーン結合剛性を高め、全体の振動を大幅に低減させている。

また吸気ポートはストレート タンブルポート形状を採用し、低負荷域での燃焼速度を向上し、トルクの増大を図っている。また、このレガシィからスバルとしては初となる房外吸気、つまり車体の外側から吸気するシステムとしている。

従来は水濠走行を想定し、吸気に水が侵入しないように房(エンジンルーム)内吸気としてきたが、冷気を吸気できる房外吸気の方がトルク向上には有利であることは言うまでもない。

レガシィのコンプリートカーS401 STi

GT用のEJ20ターボは、2ステージ ツインターボを踏襲。エンジン レスポンスを向上するためにタービン翼のサイズを縮小し、さらに斜流タービン翼を採用している。出力は、AT用は260ps、MT用は280psを発生し、このクラスではダントツの出力を誇っていた。

またこのレガシィ セダンをベースに、2002年にはSTIによるコンプリートカー「S401 STi バージョン」を限定販売で発売している。

このエンジンはSTIの熟練工による手組み、バランス取りなどが施されており、エンジンカバーは標準の黒からシルバーへと変更され、シリアルナンバーが入っているスペシャル エンジンとなっている。パワーは293ps/6400rpm、トルクは343Nm/4400-5600rpm。またGD型インプレッサWRX-STIで採用される6速MTを搭載し、ブレンボ製のブレーキやS401専用パーツなどを装備していた。

2代目インプレッサの登場

2000年8月、2代目インプレッサ(GD/GG型)がデビューし、2ヶ月遅れの10月にWRX STIモデルが追加された。

この2代目からEJ20型エンジンは、可変制御技術を採用するなど一段と進化することになった。ベースとなるWRX用のEJ20型ターボは、高出力性能と環境性能を両立させることをテーマに、新開発されている。

燃費の向上や排出ガスのクリーン化に対応しながら、2200rpmで最大トルクの80%以上を発揮する全域高トルク特性を追求しており、高回転・高出力型からトルク追求タイプへの進化を遂げているのだ。

このエンジンから車外(房外)吸気として、より吸気効率を高め、さらに、エアインテークダクト、レゾネーター、エアクリーナーケース容量のサイズを拡大するなど吸気系統を一新。また空冷インタークーラーのサイズも約10%拡大され、冷却性能を向上させている。

エンジン本体では、吸気カムにアクティブ バルブコントロール システム(AVCS)を装備し、連続可変バルブタイミングが実現している。さらに吸気マニホールドにタンブル ジェネレーションバルブ(TGV)を新設し、低回転、低負荷時には吸気流は細いマニホールド部を流れ、空気流速を高めてタンブル流を発生させ、混合気を撹拌して燃焼速度を上げているのだ。

この他に多孔式インジェクター、大径ターボなども採用し、EJ20ターボ標準仕様で250ps/6000rpm、333Nm/3600rpmと低中速トルク重視の出力を達成している。その一方で、WRX STI仕様のエンジンは、スポーツ エンジンとして一段と熟成を加えている。

280ps/373Nmを達成

シリンダーブロックはSTI仕様専用に、セミクローズドデッキ型を新採用している。シリンダー上部の水路には上下左右に結合部(補強ブリッジ)が作られ、かつての完全グローズドデッキ構造に匹敵するシリンダー剛性を実現。しかも、以前のクローズドデッキ構造よりも量産性も高められている。

吸気側バルブは中空バルブで、排気側はナトリウム封入式を採用。またバルブクリアランス調整のためにはシムレス リフターを新採用している。従来は隙間調整シムをバルブリフター内側にセットするインナーシム式としていたが、シムレスの場合はリフターの厚さの設定を選ぶことで隙間調整を可能にしているのだ。この結果、動弁系はさらに軽量化され、吹き上がりの向上、最高許容回転数の向上が実現している。

ピストン、コンロッドも新設計され、低フリクションの鍛造ピストンに、コンロッド大端部はナットレス構造にしている。

このSTI仕様のエンジンも新たにAVCSを採用し、ターボはより大径のアブレダブルシール構造としている。さらに従来型STIモデルに比べ容量を50%増大させた大型インタークーラーの採用、低背圧マフラーなども組み合わせ、高出力化を図っている。

こうした新たな技術を投入することで280ps/6400rpm、373Nm/4000rpmを発生することができたのである。<編集部:松本晴比古/Haruhiko matsumoto>

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みんなのコメント

8件
  • トルクがない分ある回転数で急激に加速するのが古臭いけど今となっては面白い
  • 大径マフラーに変えているBG型
    たくさん走っていた。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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