この記事をまとめると
■スバル・フォレスターが「自動車安全性能2025ファイブスター大賞」を受賞した
クルマ1台が一瞬でグッチャグチャ! 衝突試験にかかる莫大な費用問題を解決するイマドキの方法とは
■実際に行われている衝突試験の様子をメディアに公開した
■安全に対するこだわりが詰まった製品開発の裏側を覗いた
スバル車における最大の武器はズバリ「安全性」
道路に出て走る以上、いくら自分が気をつけていても、事故を絶対に起こさないとはいい切れない。仮に自身が乗っているクルマが完全無欠の最強防備が施されていたとしても、他車が突っ込んできたら意味がない。しかし、事故をゼロにすることは難しくても、リスクを少なくすることは可能だ。
その「事故軽減」「事故ゼロ」にもっとも近い位置にいるメーカーの一角が、「ぶつからないクルマ」のキャッチフレーズで、ステレオカメラを用いた先進安全装備の代名詞的存在、「アイサイト」を世界中に広めたスバルだ。
そのスバルから、非常にユニークな取材会があると招待されたので、スバルの故郷、群馬県は太田市へ向かったのであった。
この日開催されたのは、誰もが1度はテレビなどで見たことがあるであろう、「衝突実験」の本番を実際に見られるという取材会。ダミー人形が乗っている車両を、何らかの対象物へわざと衝突させるという、誰も傷つかないとわかっていながらも、なかなかショッキングなアレである。
試験前に行われたプレゼンでは、スバルの設計開発陣が「衝突安全はスバルが誇る安全技術のひとつで、これは戦時中の中島飛行機から続く思想のひとつです。たとえば、視界のよさや、AWDを筆頭とした高い操縦安定性は、安全に直結する要素です。これは、飛行機の設計でも同じことがいえます。人を中心にしたクルマ作りを主として、絶対に事故を起こさせないというのが、我々の考える安全思想です」と語る。
スバルといえば、クルマ好きからのイメージでは、「水平対向エンジン」や「AWD」といった要素がよく挙げらるが、実際にSNS上では、スバルに関連するワードや投稿を探すと、パワートレインなどのメカニズムのほか、”安全”という要素にも強いこだわりをもっているファンが多いというデータが出ているそう。これは国内大手メーカーのなかで、スバルだけの特徴だという。思い当たる人も多いのではないだろうか。
ちなみに、スバルの看板技術のひとつである水平対向エンジンだが、これは低重心が最大のメリットとされているだけでなく、じつは正面から衝突した際に、エンジンがキャビン側に寄らず、下側に潜り込んでキャビンのセーフティゾーンを確保する役割も果たしている。また同時に、ボンネットもエンジンが潜ることでよく潰れるので、衝撃吸収性にも優れているとのこと。そのほかにも、ボンネットが潰れることで、歩行者に当たった場合もクッションになる役割ももっている。
筆者は出身地の関係もあって、小学生のころの社会科見学でもここを訪れており、そのときにこの話を聞いた記憶がある。そして、今回も同じことが説明されていたので、この設計思想は長いこと変わっていないという証明だ。
そしてその集大成ともいえるのが、2025-2026における日本カー・オブ・ザ・イヤーを獲得した、フォレスターだ。このフォレスターが、5月28日発表の自動車アセスメント(以下:JNCAP)における「自動車安全性能2025ファイブスター大賞」を受賞したことを記念して、この衝突実験の取材会が開催されたというわけだ。
ではこのJNCAPとはなにか。国土交通省と自動車事故対策機構(以下:NASVA)が一体となって行う自動車安全性能の評価のことで、結果の公表を主として活動している。「予防安全性」「衝突安全性」をはじめ、近年普及している「事故自動緊急通報装置」の3項目の評価が行われるのだ。配点もちゃんとあり、「予防安全性」が85.8点満点、「衝突安全性」が100点満点、「事故自動緊急通報装置」が8点満点、合計で193.8点満点としており、それぞれの点数でA~Eのランク付けが行われ、それを合計した点数で評価される。そこでフォレスターが最高得点を獲得したというわけだ。なお、点数は193.8点満点中184.62点。予防安全に関してはほぼ満点の、85.4点という驚異的な成績を記録している。
ちなみに2025年度は4台試験したうち、5つ星が1台、4つ星が3台だったそうだ。4つ星は「フォルクスワーゲン・ティグアン」「MINIカントリーマン」「ホンダ・アコード」であった。
とはいえ、「5つ星じゃないから安全じゃない!」というわけではないので、そこのところはご安心を。
設計開発陣は、「この成績はもちろん自慢ですが、スバルはこのほかに視界のよさに代表される0次安全にもこだわっています。事故のうち、前方不注意、安全不確認が80%とされているほか、右折はステアリングを切ったり、徐行したり加速したりと操作が多く、安全の確認が疎かになり、事故につながります。そこを、35年以上の歴史がある、完全自社製のアイサイトを武器に、スバル車による事故件数を徹底的に減らし、2030年には交通死亡事故をゼロにしたいと考えています」と、今後の抱負を語った。
前置きが大変長くなったが、ではこの日のメインイベントである衝突試験のリポートに移ろう。
スバル車の驚異的な安全性を目の当たりに
この日行われたのは、「新オフセット前面衝突」というもの。これは、2024年からJNCAPで導入された新しい前面衝突実験となる。自身のクルマに乗る乗員の安全性と相手側へのダメージをどれだけ軽減できるかをチェックして点数化するもので、それぞれが50km/hずつの速度で走ってくることで、相対100km/hの衝突データが取れる。今回走らせるのはもちろんフォレスターで、相手の台車にはアルミのハニカム構造の物体がついており、これの潰れ具合も試験するそう。台車の重さは1200~1400kg相当だという。なお、我々メディアに「こうやります」と見せるだけでなく、ちゃんとデータも取るとのこと。
実験場は巨大な倉庫っぽい施設の内部。スバル側からは「物凄い音がするので、驚いてカメラなどを落とさないように」と脅されたほか、「長袖長ズボンで、防護メガネを必ずつけてください」とアナウンスされ、実験はスタート。正面からぶつけるクルマに当然人が乗っているわけがないので、両車ともワイヤーで牽引され、シャー……という音ととも両車が筆者の真正面に現れた。
次の瞬間、文字にできないような凄まじい衝撃音、いや、爆発音や破裂音ともいえる、アナウンスどおりの物凄い音が会場に響き渡り、一瞬の静寂が訪れた。そして目の前にはぐしゃぐしゃになったフォレスターと台車。あたりはクルマの破片などから出た粉塵が舞っていた。
「これから事故を起こすのでそこで見ててください」なんてことは、日常生活をおくるうえであり得ない事案なので、一瞬の出来事であったが、かなりの迫力を伴う非日常の瞬間だ。
さて、ここからの主役はこのぐちゃぐちゃになったフォレスターである。使われたモデルはスポーツというグレードで、「そこ(矢島工場)のラインから引っこ抜いてきました」という量産市販車とまったく同じ車両。データを取る機械を装備した以外は無改造。そして、このぐちゃぐちゃのフォレスター、どう見ても悲惨な状況であるが、ここからがスバルの凄さだ。
なんとこの状態で、車両の全ドアが問題なく開くという。さらにはフロントガラスもほとんど割れず、乗員保護とそのあとの救助を最優先した設計になっている。「Aピラーより前でなるべく潰してキャビンを守る」というのが、スバルの考え方なんだそう。
筆者は過去に、20~30km/h程度で衝突したというここ5年以内に生産された比較的新しいコンパクトカーの事故車を見たことがある。しかし、そのクルマは運転席側のドアが開かず、助手席しか開かないという状態であった(相手方の車両はほぼ無傷)。それよりもはるかに大きい力を加えていてこの剛性、これを見てしまったらスバルを選びたくなるのも頷ける結果だ。
ちなみに、こういった試験で使われた車両は、専門業者を介してほとんどがリサイクルされるそうなので、無駄になることはないとのこと。筆者は貧乏性なので、「走行距離数キロの新車……直して乗れないのか?」とも思ったが、さすがに新車を買ったほうが安そうだ。
余談だが、この手の車両によく乗っているこれらダミー人形はセンサーの塊で、1体1億~3億円するそう。小型なものや旧型で数千万円とのことだ。なおスバルでは、こうした実験を年に数百回もおこなって、データを収集しているとのこと。毎回クルマを潰すので、掛かる費用は半端ではないが、そうした過酷な試験のうえで、安心安全なクルマが生まれていると思うと、スバルに足を向けて寝られない。
なお、これは社内の試験であるので何度もできるが、JNCAPで行う試験は1発勝負。しかもこちらで使うクルマは、NASVA側で「世間一般の関心があるクルマ」「多くの人が選んでいるクルマ」「手の届きやすい価格のクルマ」など、平たくいえば、よく売れているクルマを選ぶことが多いという。さらに、メーカーの協力は一切得ず、一般客同様にディーラーで3台ほど購入するそうだ。「衝突試験で使う」なんて、ディーラー側もさすがに思わないだろう。なので、フェアで厳格なテストができるというわけだ。その成果が今回のフォレスターのファイブスター大賞獲得につながっている。
ここまでスバルの安全性を紹介してきたが、「それってクルマに乗ってる側の話じゃん。歩行者は無視か?」となった人へ向けて、もうひとつスバルの技術を紹介したい。それが、「サイクリスト対応歩行者保護エアバッグ」の採用だ。自転車好きの人であればご存じかもしれないが、スバルは日本で開催されるUCIプロシリーズ(男子自転車ロードレースの最高カテゴリーUCIワールドツアーに次ぐカテゴリー)の1戦であるジャパンカップサイクルロードレースのオフィシャルカーをはじめ、自転車チームやサポートチームへ車両を供給しており、自転車業界とも根強い関係を長年もっている。
そんなスバルだからこそ考えたのが、この「サイクリスト対応歩行者保護エアバッグ」だ。自転車とクルマの事故は少くないが、自転車に乗っている人が重傷を負う、または亡くなる事故の場合、多くはなんとAピラー周辺に頭をぶつけているというデータがあるそうだ。地面ではないのが驚きだ。たしかにAピラーは、クルマの剛性を確保するうえで欠かせない部分なだけに、とくに強固に作られているのは触ってみると一目瞭然。そこをはじめ、ボンネットやフロントウインドウに人が当たらないようなエアバッグを、スバル車では、フォレスターやレヴォーグなど、代表車種6モデルに採用している。
仕組みは単純で、フロントバンパー内のビームにシリコンチューブが通っており、衝突した人の足などがそのチューブを潰して、圧力を検知すると展開されるという。0.1秒ほどで展開されるので、先に頭部が車両に当たる可能性もかなり低いそうだ。構造は車内のエアバッグなどと同じとのこと。
スバルの関係者は「交通死亡事故ゼロという目標は、メーカー側だけでなくユーザー頼りの面ももちろんあります。しかし、だからといってやらないのではなく、それを目標にクルマ作りをしていくことが、我々スバルの使命です。無理だからではなく、やることに意味があるんです」と語る。
スバルの安全に対する並々ならぬ情熱が垣間見えた、衝撃的な取材会であった。
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リコールばかりで最初からしっかりテストされてない車をさっさと市場に導入してユーザーにテストさせている。