手頃な価格で環境負荷ゼロのモビリティ
執筆:Greg Kable(グレッグ・ケーブル)
【画像】フォルクスワーゲンID.ライフ 現行のID.3とID.4 ゴルフGTIとも比較 全71枚
翻訳:Kenji Nakajima(中嶋健治)
1台のコンセプトカーを完成させるには、数100万ドル(数億円)規模の費用が必要になる。そんなクルマを運転させてもらえる機会は非常に限られ、とても貴重な体験となる。
フォルクスワーゲンID.ライフ・コンセプトは、2021年のミュンヘン・モーターショーで発表された。そんな1台限りのコンプとカーを、ヴォルフスブルク・テストコースで運転させてくれるという。その提案を聞いて、意気揚々とドイツへ向かった。
新しい純EVクロスオーバー・コンセプトが目的とすることは、手頃な価格での、環境負荷ゼロによる個人モビリティを指し示すこと。オリジナルのビートルが、内燃エンジンの自家用車への門戸を手頃な価格で開いた、80年前をなぞるように。
ID.ライフの量産版は、2025年に2万ユーロ以下(260万円)の価格で発売される計画。5シーターで、セアトなど、フォルクスワーゲン・グループの他ブランドからも兄弟モデルが誕生するだろう。
スペイン・マルトレルにあるグループ内の工場で、新しいフォルクスワーゲン・モデルの生産準備が始まっているそうだ。EUからの大規模な補助金を受け、年間50万台の電気自動車の量産に対応できる施設が完成しつつある。
ID.ライフの量産版は、ID.2と呼ばれる見込み。ID.3より小柄なボディで、内燃エンジンで走るTクロスに相当するモデルとなる。さらにコンパクトなID.1の噂も聞こえてくる。登場すれば、e−Up!を置き換えるモデルとしてショールームに並ぶだろう。
生産方法も持続可能性を意識
当初の計画では、新しい純EVクロスオーバーの発売は2027年が予定されていた。だが、欧州市場では想定より早く電気自動車がユーザーへ受け入れられており、2年前倒しで計画が進められている。
恐らく、ID.2は成功するだろう。量産版を公道で運転できるまでに4年も待つ必要があるが、その前触れとなるID.ライフのステアリングホイールを握れて、とてもうれしい。何しろ、世界に1台しか存在しないクルマだ。
ID.ライフのデザインで目指されたことは、小さなID.3を描き、クロスオーバー風に仕上げることではなかった。フォルクスワーゲンによれば、時間を感じさせないデザインの確立を狙ったという。大胆な変更なしに、将来の量産車へ展開できるものとして。
量産版のID.2を一足先にイメージできるだけでなく、持続可能性を意識した生産方法も、具体的に提案されている。クリアコート塗料の着色剤には、天然の木材チップを利用。開閉できるルーフは、リサイクルPETで作られているという。
ID.ライフのスタイリングは、フォルクスワーゲンのID.3やID.4といった既存モデルとほとんど共通性がない。コンパクトなボディに最大の実用性を与えるため、ボクシーなプロポーションをまとっていることも特徴だ。
全長は4091mm、全幅が1845mm、全高が1599mmで、全長の割に背が高くワイド。Tクロスと比較すると、144mmも短く、46mm広く、15mm高い。
バッテリーはリン酸鉄リチウムを想定
ベースとするプラットフォームは、フォルクスワーゲン・グループのMEB。ホイールベースは2550mmに短縮され、プラットフォームを同じとするID.3より100mm短い。
駆動用バッテリーの容量は57kWh。フロアパンに敷き詰められ、車内の床面もフラットだ。量産版では、他にも異なる容量のバッテリーが搭載されるとしている。
このバッテリーは、ID.3のものとは素材も異なる。現在のフォルクスワーゲンは、コストの高いリチウムイオン・ニッケル・マンガン・コバルト(NCM)セルを用いているが、ID.2ではリン酸鉄リチウム(LFP)セルが想定されている。
高価な金属を使用する必要がないため、バッテリーの製造コストを抑えられるとのこと。だが、リン酸鉄リチウム・バッテリーはまだエネルギー密度が低く、使用温度が低いとパフォーマンスが低下しやすいという特性がある。4年後に、どう進化するだろう。
ID.ライフの駆動用モーターは、フロントアクスル側の低い位置に1基搭載される。固定比のシングルスピード・リダクションギアを介して、フロントタイヤを駆動するFFだ。ID.3とはここでも異なる。
最高出力は234ps、最大トルクは29.5kg-mがうたわれる。0-100km/h加速は6.9秒、航続距離は402km以上になるという。だが通常の量産仕様では、ここまでのパワーは与えられないだろう。高性能なGTXが加わる可能性は高いようだが。
フロントアクスル内に駆動用モーターを搭載するという決定は、コスト面での理由が大きかったという。車両後部に広い荷室空間が得られ、パッケージング上でのメリットもある。四輪駆動は想定されていない。
この続きは後編にて。
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みんなのコメント
なんかイヤだなぁ。