熟成されたレクサス「LS500h “EXECUTIVE”」は、今なお魅力的なフラッグシップサルーンであるのか? 『GQ JAPAN』ライフスタイルエディターのイナガキがリポートする。
ひとつの完成形──レクサスLS500h “EXECUTIVE”試乗記
レクサスLS500h “EXECUTIVE”の特徴
1.重さは苦にならない
2.すっきりとしたステアリングフィール
3.安全性能
4.総評
1.重さは苦にならない
(前のページから続く)ステアリングを再び握り、今度は巨大なセダンを自らの手で走らせてみる。
試乗車に搭載されているパワートレインは、車名が示す通りハイブリッドシステムだ。スペックシートを確認すると、エンジン型式は8GR-FXS。3.5リッターのV型6気筒自然吸気エンジンに、筒内直接噴射とポート噴射を併用するD-4Sを組み合わせている。エンジン単体での最高出力は220kW(299ps)/6600rpm、最大トルクは356Nm(36.3kgf・m)/5100rpmを発生する。トランスミッションは、有段ギアを組み合わせることでリニアな加速感を実現するマルチステージハイブリッドトランスミッションを採用。車両重量は2280kgのヘビー級であるが、このパワートレインにとってその重さは苦にならない。
システムを起動させても、ハイブリッド車ゆえに無音のままスタンバイ状態となる。アクセルペダルを静かに踏み込むと、スムーズに、そして音もなく巨体が滑り出す。低速域での圧倒的な静粛性こそ、初代セルシオから現代に至るまで脈々と受け継がれてきたLSのDNAそのものだ。
ビッグデータを用いた解析により、日常の走行シーンにおける加速の約90%がアクセル開度半分以下で行われていることに着目し、レクサスのエンジニアは本領域でのハイブリッド制御を見直した。モーターによるアシスト領域を拡大し、エンジン回転数を不必要に上げることなく、豊潤なトルクを活かしてスーッと車を押し出していく。その加速フィールは滑らかで、エンジンが始動した際のスムーズさも見事だ。
燃費性能についても触れておきたい。WLTCモードでのカタログ燃費は13.6km/Lとされている。実際に長距離(約500km)を走行した際の実燃費は12.4km/Lだった。これだけの大柄なボディで、しかも2.2tを超える車重を持ちながら、実用燃費でこの数値を叩き出すハイブリッドシステムの効率の高さには驚く。
近年急速に普及が進むBEV(バッテリー式電気自動車)と比較すると、たしかに内燃機関の音や振動はゼロではない。しかし、充電インフラの制約を受けず、一度の給油で広大な航続距離を誇るという点において、ハイブリッドシステムは現時点での長距離ツアラーとして現実的かつストレスフリーな選択肢であるかもしれない。低速時にトランスミッションの変速に伴うわずかなシフトショックを感じる場面が稀にあったが、全体的な洗練度からすれば些細なことだ。
2.すっきりとしたステアリングフィール
LS500hの走行モードは、ドライバーの気分や走行環境に合わせて多彩な表情を見せてくれる。
まずは「コンフォートモード」を選択して市街地や高速道路を巡航する。本モードでの乗り味は、まさに大海原を悠然と進むクルーザーのようだ。2020年の改良で、新開発のランフラットタイヤの採用による縦ばねの低減、電子制御サスペンション(AVS)の減衰力低減、スタビライザーのばね定数低減、さらにはエンジンマウントの最適化など、乗り心地改善のためにあらゆる物理的アプローチが施されている。
結果、路面からの不快な突き上げやざらつきは遮断され、フワリフワリと心地よい上下動を伴いながら滑るように走る。あまりの快適さに、眠くなるくらいのリラクゼーションを味わえるのだ。
しかし、LSの魅力はそれだけではない。ドライブモードセレクトを操作してスポーツモードへと切り替えると、穏やかだったLSは突如としてアスリートのような顔を覗かせる。エンジンが積極的に介入し、アクセルレスポンスは鋭さを増す。足回りのAVSは瞬時に減衰力を引き締め、あれほどゆったりとしていたボディの動きが収まる。
特筆すべきは、ステアリングフィールである。極低速の市街地走行から、ペースを上げたワインディングロードに至るまで、ステアリングの手応えはとにかく雑味がなく、すっきりとしている。アルミ鍛造アームの採用によるばね下重量の低減も効いているのだろう、路面の状況を正確に手のひらに伝えながらも、不快なキックバックは伝えない。全長5.2m超の巨体を操っていることを忘れさせるほど、クルマのノーズはドライバーの意図したラインを正確にトレースしていく。
ボディ剛性の高さも、正確なハンドリングと高い快適性を根底から支えている。登場時から年次改良を重ねるごとに、目に見えない部分での剛性強化が図られていることがステアリングを通じてひしひしと伝わってくるのだ。サスペンションが設計意図通りに正確にストロークするためには、強靭なボディが不可欠。最新設計のライバル車と比較すれば、特定の路面状況においてロードノイズの侵入がわずかに気になる場面があるかもしれない。しかし、絶対的な静粛性と快適性の基準は依然として世界トップクラスにある。
3.安全性能
現代のフラッグシップサルーンにとって、先進安全技術は妥協が許されない。LS500hには、「Lexus Safety System + A」と呼ぶ最高峰の予防安全パッケージを搭載。ミリ波レーダーとステレオカメラを用いたプリクラッシュセーフティは、交差点右左折時の対向車や横断歩行者への対応、さらにはペダル踏み間違い時の低速時加速抑制など、多角的にドライバーのミスをカバーしてくれる。
また、駐車支援システムである「アドバンストパーク」も優秀だ。ステアリング、アクセル、ブレーキ、シフト操作をシステムが全自動で行い、区画線のない駐車場でも事前に位置をメモリーさせておくことで見事に駐車を完了させる。1900mmの車幅とはいえ、大柄なボディを狭いスペースに停める際のプレッシャーをシステムが完全に肩代わりしてくれるのはありがたい。
デジタルインナーミラーは9.6インチへと大型化・高解像度化され、視認性が向上。さらに後方カメラ洗浄システムまで備わっており、悪天候時でも後方視界をクリアに保つことができる。加えて、障害物の有無にかかわらず急激なアクセル操作を検知して加速を抑制する「プラスサポート」機能も、専用キーを用いることで作動する。これらの高度な安全装備の数々が、ドライバーに心理的なゆとりをもたらし、結果として疲労の少ない安全な長距離ドライブを実現しているのである。
4.総評
今回、レクサスLS500h “EXECUTIVE”と時間を共有し、詳細な技術資料、スペックシートと照らし合わせながら真価を探ってきた。
たしかに、プラットフォームの基本設計年次を考えれば、近い将来に訪れるであろうフルモデルチェンジ、あるいは完全電動化の波に呑み込まれる運命にあるモデルかもしれない。ディスプレイのサイズや派手なアンビエントライト、完全自動運転に迫るような最先端の飛び道具という点では、欧州のライバルたちに後塵を拝している部分があることは否定しない。
しかし、クルマの本質とはカタログのスペック表や最新デバイスの有無だけで語れるものではない。人間が操作し、人間が乗り込み、移動の時間をいかに豊かで心地よいものにするか? といった命題において、LSはひとつの回答を提示している。
「銀影ラスター」の美しさは所有する喜びを満たし、「プラチナ箔と西陣織」が作り出す和の空間はユーザーを深く落ち着かせる。直感的に操作できる物理スイッチを残した良心的なコックピット、居心地の良さを提供するEXECUTIVEの後席、滑らかで静粛なハイブリッドシステムなどすべてが、長年の改良によって熟成され、まるで角が取れて円熟味を増したウイスキーのような深い味わいを醸し出す。
今から買っても遅くないし、むしろ「これだよね」と思える仕上がりだ。新しさだけが絶対的な価値ではない。伝統的な高級車の文法を守りながら、日本ならではの美意識とおもてなし技術を注ぎ込み、愚直なまでに熟成されたLSは、間違いなく「完成形」と呼ぶにふさわしい。
世の中がどれほど急速にデジタル化や電動化へ向かおうとも、人間の感性に寄り添う「本物の高級」の価値は色褪せることはない。レクサスLS500h “EXECUTIVE”は、そのことを静かに、しかし力強く語りかけてくれるフラッグシップサルーンだった。
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