Lotus Elise Sport 220II × Exige Sport 410 × Evora GT 410 Sport
ロータス エリーゼ スポーツ220II × エキシージ スポーツ410 × エヴォーラ GT410スポーツ
絶版を迎えたロータス3兄弟を今こそ語ろう。エリーゼ/エキシージ/エヴォーラの偉大なる功績:前編
哀しき惜別
ロータス3兄弟のエリーゼ、エキシージ、エヴォーラが2021年内に生産終了する。ライトウェイトスポーツの王道を突き進んでいた3台の舞台は幕を閉じ、新たなロータスの新型モデルに切り替わることになる。
改めて3モデルに乗ってその魅力を振り返りつつ、新型への思いを馳せた。(後編はこちら)
山田弘樹「デビューから最終モデルまで“1トン”の壁を死守したエリーゼ」
1995年の登場からノームコアな姿勢を貫き、最後まで“1トンの壁”を守りきったエリーゼ。アルミバスタブのフロアを剥き出しにした、ソリッドと言えば聞こえは良いがチープな室内空間。トヨタとの供給関係からいつまでもデュアルクラッチを搭載せず、6速MTだけでやり過ごそうとした保守的な姿勢。その割に高い車両価格と、現役の頃は不満に思う所が多かったけれど、エリーゼがディスコンとなると知った今は「どうして勇気を出して、手に入れておかなかったんだ!」と悔しく思う。人は失ってみて初めてその頑なさや価値に気付くのだ。
特にスーパーチャージャーを搭載したこのスポーツ220は、ロータスの最高傑作だ。過給機をヘッドに乗せたウエットサンプの汎用エンジン。これをミッドシップする重心は確かに高いのだが、それすらも巧みに利用して、エリーゼは自在に曲がる。2300mmの短いホイールベースを絶妙な前後トレッド値でバランスさせ、足付きの良いサスペンションでクイックな挙動を抑え込む。
そのとき俄然、スーパーチャージャーの特性が活きてくる。車体のロールやピッチ、そしてヨーイングモーメントを、アクセルでコントロールする快感。そこにはターボのような危うさがまるでなく、しかも踏み抜けば速い。ライトウエイトスポーツカーは往々にして非力なパワーを使い切ることを美学にしがちだが、軽くて速いに超したことはない。電動化が待ち受ける未来で、もうこんなスポーツカーは、2度と現れないのではないだろうか。
「今回の3台でどれか1台を選ぶなら、断然エリーゼだと思っていたが・・・」
だから筆者は今回の3台でどれか1台を選ぶなら、断然エリーゼだと思っていた。しかし今回改めて3台を横並びに試したことで、エキシージ スポーツ410の、溢れんばかりの刺激に、完全にKOされた。その成り立ちを今一度振り返れば、エキシージはエリーゼの究極進化版。スモールプラットフォームをベースに前後トレッドを限界までワイド化し、70mm延長したホイールベースの間に3.5リッターV6スーパーチャージャーを横置きミッドシップしたスポーツカーだ。
このエキシージが350Sとしてデビューした当時は、ロータスもその過激なドーピングに対して、レーシングカーのごときスタビリティをもって対応していた。足まわりを硬め、空力で重心高を抑え込むようにセットしたその操縦性は、ドライバーにも高い緊張感を強いていた。
それが最終形態へと進化したスポーツ410では、驚くほど洗練されていた。1110kgまで軽量化した車重、フロントのスプリッターや大型化したリヤウイングによるダウンフォースも加わって、その操縦性は正確かつ穏やか。そしてしなやかなサスペンションが、400ps超えのパワーをしっかり路面に伝える。2.6kg/psのパワーウェイトレシオと甲高い快音を、冷や汗ではなくいい汗かきながら楽しめるのである。
まるで合法ドラッグのような覚醒感。エキシージはかつてスポーツカーたちが当たり前のように持っていた刺激と興奮を、現代の流儀で受け継ぐ貴重な1台だった。
「この3台たちがくれた感動や興奮を、再び味わえるのだろうか?」
そういう意味では立ち位置が、一番曖昧になったのがエヴォーラだ。911イーターとして考案されたプラットフォームはエリーゼ/エキシージよりもひとまわり大く、2+2の空間を確保した上で3.5リッターV6を搭載しても、余裕をもって416ps/420Nmの出力と、高い重心を支えることができた。だからこそ筆者はエヴォーラに、速さを求めずGTカーとしての使命を貫いて欲しかった。エキシージ スポーツ410より10Nmほどトルキーなエンジンを搭載しながらも、どこまでもこれを快適に走らせる。“素”のエヴォーラであるGT410スポーツは、まさに現代のエスプリと言える優雅な軽さを備えていた。だから敢えてスポーツラインは出さず、ロータス流のラグジュアリーとして、これを高め続けて欲しかった。
もちろんエヴォーラ GT410スポーツは、いちスポーツカーとして見れば非常に運動性能の高い1台だ。しかしロータスとして刺激を求めるならエキシージの方が遙かに割り切られており、プレミアム感を味わうにはその足まわりとタイヤがハード過ぎる。パワステの効いたステアリングは過敏過ぎ、アンバランスな感じが少しロータスらしくない。
もっともその反省も含めてかロータスは、このプラットフォームを半分使った最後のガソリンモデルを次に造るようだ。そしてそれ以降は、完全なEV時代に突入するのだという。そのとき私たちは、この3台たちがくれた感動や興奮を、再び味わえるのだろうか? 世界中のエンスージアストたちが、今一番それを気にしているのではないかと思う。
吉田拓生「エリーゼがライトウェイトスポーツカーの歴史を完全に塗り替えた」
今度のロータスはアルミ板を接着したシャシーを使うらしい。それがエリーゼに関する最初の知識であり、乗りもしないうちから不安にかられたことを覚えている。
時は1995年、エリーゼ誕生当初のロータスはGMが匙を投げた後、ブガッティを掘り起こした実業家、ロマーノ・アルティオリが所有していた。エスプリの古さがいよいよ隠せなくなり、前輪駆動のエランも浸透はしなかった。日本ではディーラー権も宙に浮いており、革新的なエリーゼの青写真を前にしても、誰も手を挙げない状態だった。
嵐の中で産み落とされたエリーゼは、瀕死のロータス・カーズを救うだけでなく、ライトウェイトスポーツカーの歴史を完全に塗り替えた。そして今、四半世紀に及んだモデルライフを全うしようとしている。
「エヴォーラが2+2シーターだった事実は、偶然ではない」
デビュー当初のエリーゼの車重は700kgを切っていた。90年代の半ばでありながら、エアコンの設定もない、これ以上何も差し引くことができないほどのミニマリズム。ブランドのステータスや、バックヤードビルダーとはとても呼べない規模を考えると、エリーゼの誕生は奇跡に近かった。いや、いくつかの奇跡が重なった結果と言うべきだろう。
アルティオリという自動車世界における「外野」の判断は大きかった。またコベントリー大学が基礎研究を行っていたアルミ接着のテクノロジーと、ミニマリズムを突き詰めるロータス生え抜きのオタク技術者リチャード・ラッカムの偏執がエリーゼの核となっている。伝説のレーシングドライバー、プリンス・ビラの末裔にして、現在はジャガー・ランドローバーのデザイン部門を率いるジュリアン・トムソンが混入させた懐古趣味も、エリーゼという作品に時代を越える素質を与えている。
ロータスは創業社長であるコーリン・チャプマンの時代から、カスタマーが生涯ロータス車と付き合うためのフルラインナップ化に貪欲だった。ミニマム・スポーツカーのエランやヨーロッパ、2+2シーターのエクラ、エクセル、そしてスーパースポーツのエスプリという3兄弟である。チャプマンの遺志を継いだマイク・キンバリー社長がGOを出したエヴォーラが2+2シーターだった事実は、偶然ではないのである。
「エキシージはロータスが誇るスピードモデル」
エヴォーラの生みの親であるロータス生え抜きのエンジニア、ロジャー・ベッカーは、元々工場で組み立てを担当するいち工員だった。そんな彼をテストドライバー兼エンジニアとして育て上げたキンバリーが、ベッカーにエヴォーラの開発を任せたことも必然だったのである。
ポルシェ911を標的に据え、過去のロータス車としては例を見ないほど計画的に産み落とされたエヴォーラ。ロジャーが指揮をとり、彼の息子であり現在はアストンの味を決めているマシュー・ベッカーがヘセルのテストトラックで鍛え抜いたエヴォーラは、OEMタイヤの話が覆ってしまったこと以外はベッカー親子の狙いに忠実に仕上げられた。
2009年、エヴォーラがデビューした当時の想定外は、リーマンショックで揺らいだマーケットが力を失ってしまったことだろう。ブランニュー・スポーツカーの販売で得た資金と、エヴォーラで世に出たラージプラットフォームを使って登場するはずだった新型エスプリの計画も頓挫してしまったのである。
「ブランドの理念を頑なに貫くロータス社は健全なメーカーだ」
ロータス第三の柱として計画された3代目エキシージは、エヴォーラ・プロジェクトと熟成なったエリーゼの邂逅による福音だった。ロータスの中期計画は、スモールのエリーゼ、ミドルのエキシージ、そしてフラッグシップモデルのエヴォーラへと書き改められたのである。
エリーゼのそれを補強しV6エンジンを組み合わせたエキシージSのプラットフォームは社内では「モディファイドスモールシャシー」と呼ばれていた。このアルミバスタブにエヴォーラ由来のリヤサブフレームを組み合わせ、極力コストを抑えて開発された新型エキシージ。このロータスが誇るスピードモデルは、ボクスター/ケイマンでは我慢できない腕っぷしの強いドライバーたちを虜にしてみせたのである。
ブランドの理念よりも、矢継ぎ早に刷新されていく自動車世界のルールに合致させることの方が優先される昨今。21世紀のロータスを引っ張ってきた3台が揃って歩みを止めてしまうのは悲しいことだが、当然の帰結なのかもしれない。むしろ安定した基盤を持って、新たな時代に突入しようとしているロータスは、過去に例がないほど健全な状態にあると言えるだろう。
ロータスはスポーツカーブランドである以前に、根っからの開発者集団でもある。もうすぐ明らかになる彼らの新たな旅路は、これまで以上に豊かなものになるに違いない。
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
掲載誌/GENROQ 2021年 6月号
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