再生のカギを握る「三代目」
日産は2025年10月8日、新型リーフ(日本仕様・B7グレード)を発表した。初代モデルが2010(平成22)年に世界初の量産電気自動車(EV)として登場して以来、三代目となる。
意外と知らない? インターチェンジの近くに「ラブホテル」がやたらと多い理由
次世代クロスオーバーEVとして全面刷新され、走行性能、快適性、効率性が大きく進化した。注文受付は10月17日から開始し、納車は2026年1月以降となる見通しだ。車両価格はXグレードで518万8700円からとなる。55kWhバッテリーを搭載するB5は、2026年2月に発売予定である。
2010年代、トヨタはハイブリッド車(HV)を中心にラインナップを拡充していた。対照的に日産はEVシフトを先導し、世界的にEV市場の黎明期をリードした。しかし2020年代に入ると状況は一変する。テスラ、比亜迪(BYD)、ヒョンデなどの海外メーカーにシェアを奪われた。
日産リーフの累計販売台数は約70万台、総走行距離は280億kmに達する。量産EVモデルが三代目まで継承されるのは世界初の事例である。日産の新たな挑戦は、三代目リーフで
「技術の日産」
を取り戻すことにある。
筆者の意見
三代目リーフを技術面から検証し、差別化ポイントを探る。航続距離は78kWhバッテリー搭載により702km(WLTC)を実現した。バッテリー容量84kWhのヒョンデ・IONIQ5(703km)とほぼ同等であり、75kWhのテスラ・Model Y(635km)を上回る。
最大150kWの急速充電に対応し、バッテリー残量10%から80%までを35分で充電可能となる。長距離ドライブでもストレスなく走行できる。
空気抵抗を抑えるため、ボディ形状を刷新した。Cd値(空気抵抗係数)は0.26で、フェアレディZより0.05低く、日産GT-Rと同水準を達成した。
新開発のEVパワートレインは、モーター、インバーター、減速機を一体化した3-in-1構造とした。従来比でユニット容量を10%削減し、モーター最大トルクは4%向上した。振動を大幅に低減し、滑らかな走りと静粛性の高い室内空間を実現している。
日産は国内で一貫した開発・生産体制を維持することで、品質と安全性能への信頼を確保した。生産は栃木工場と英国サンダーランド工場の二か所で行う。
充電・電力網戦略も深化させている。全国2000店舗以上の日産販売店で急速充電器の整備を進め、耐用年数が経過した充電器は高出力モデルに置き換えられる。
三代目リーフには「V2H(Vehicle to Home)」機能が引き続き搭載される。自宅にV2Hシステムを設置すれば、車両バッテリーから自宅に電力を供給できる。電力需給がひっ迫した際のピークシフトや、停電時の電力供給にも活用可能である。災害時の蓄電池としても機能し、EVを電力社会インフラの一部と位置づける戦略転換が明確に示された。
三代目リーフはモデルチェンジにとどまらない。日産ブランドの刷新を担い、経営再建にも連動する象徴的モデルである。国内販売の主力であるノートなどのモデルチェンジが長期化するなか、三代目リーフ投入はブランド刷新の契機となる。
さらにルノー・日産・三菱アライアンスのEV共通プラットフォーム「CMF-EV」の中核モデルでもある。部品の共通化により徹底したコスト低減を実現しつつ、快適な乗り心地を維持した。ボディ剛性も向上し、横方向の剛性は従来モデル比で66%高められた。
日産は長期ビジョン「日産アンビション2030」に基づき、電動化を推進している。2023年2月のアップデート版では、2030年までに27車種の電動車を投入する計画である。そのうちEVは19車種を予定し、世界の電動車比率を55%以上に引き上げることを目指す。三代目リーフは、この戦略の実現性を占う指標モデルとなる。
筆者への反対意見
日産が直面する課題のひとつは、バッテリー供給の制約と生産リスクである。リチウムやニッケルなどの原材料価格が変動しており、バッテリー調達コストは高止まりしている。
三代目リーフ向けバッテリーを供給するAESCグループの生産設備では、歩留まりが上がらず、生産計画に影響が出ている。栃木工場の9月から11月までの生産は半減程度に下方修正された。英国工場でも生産開始が遅れた。生産は安定に向かいつつあるが、発売直前に計画修正を迫られたことは経営再建の足かせとなった。日産にとって出鼻をくじかれた形である。
EV市場の競争は一層激化している。米国ではテスラやデトロイトスリー、欧州メーカーと航続距離や価格で競合する状況だ。欧州では中国勢が攻勢を強め、手頃な価格帯のEV投入が続く構図となっている。
国内市場では、三代目リーフの日本仕様発表の翌日、トヨタが「bZ4X」のマイナーチェンジを発表した。日産への対抗姿勢を明確に示した形だ。航続距離は従来比で25%伸び、上位グレードで746km(WLTC)を実現した。車両価格は480万~600万円に設定し、50万~70万円の値下げを行った。ホンダも、多目的スポーツ車(SUV)の新型EV「e:NP2」を2025年12月に発売する予定である。
日産のブランド力と販売網も課題として残る。EV販売ではアフターサービスや充電設備の対応力が競争力のカギとなる。都市部では販売店の設備更新が進む一方で、地方では老朽化したインフラが残存しており、地域差の解消が課題となる。
国内販売台数(2025年上半期)は前年同期比10.3%減の22万495台で、過去30年で最低水準となった。新型車投入の遅れが販売不振を深刻化させた格好だ。「技術の日産」を再生するには、三代目リーフの成功だけでは不十分である。矢継ぎ早に新型車を投入しなければ、日産が生まれ変わったという印象を世間に示すことは一層難しくなる。
EV再建は「仕組み」の再構築
日産の経営再建は、製品投入や販売台数の回復にとどまらない。最大の課題は、EVを軸とした持続可能な事業構造を社会全体の仕組みとして確立できるかにある。EVは移動手段としてだけでなく、家庭や地域の電力需給、都市インフラと連動する社会インフラの一部として位置付ける必要がある。この視点を欠けば、三代目リーフの技術的優位性やブランド刷新は、単独では経営再建の意味を十分に持たない。
そのためには、製造・販売・サービス・充電インフラの一連の仕組みを再構築し、システムとしての競争力を高めることが求められる。V2H(Vehicle to Home)や再エネ連携といった新機能を通じ、EVは移動手段から家庭や地域の電力を支えるプラットフォームへと変換される。この仕組みは、停電や災害時のリスク対応、電力ピークシフトといった社会的課題の解決にも寄与する。
さらに、eシェアモビリティやカーシェアリングとの連動は、個人所有に依存しない新たな収益モデルの構築を可能にする。EVを社会インフラの一部として機能させるには、都市部での急速充電網整備や販売店の設備更新だけでなく、地方の老朽化インフラの改善も不可欠である。こうした地域差を解消し、全国規模でEVを活用できる体制を整えることが、再建の成否を左右する。
消費者や自治体との協働も重要である。日産は自治体と連携して再エネ導入を推進し、地域防災計画にEVを組み込むことで、社会貢献とブランド価値向上を同時に実現できる。企業単独の戦略にとどまらず、公共政策や地域社会との相互作用を意識した事業設計こそが、真の意味でのEV再建を可能にする。
三代目リーフの販売動向は、商業的成功の指標を超える。EVを社会インフラとして定着させ、家庭や地域、都市レベルでの価値を実証できるかどうかが、日産の中長期的な再生戦略の核心である。EV再建は、製品戦略だけでなく、社会・地域・制度・サービスといった仕組み全体を再構築する挑戦である。三代目リーフは、その評価指標であり、日産の新しい企業価値を示す象徴でもある。
日産EV復権の分岐点
日産にとって三代目リーフは、「過去の栄光」と「再出発」の交差点に立つモデルである。日産がかつて握りかけたEV覇権を再び取り戻せるかが問われている。
成功すれば、日産はEVシフトにおける主導権を再確保し、経営再建の道も開ける。しかし失敗すれば、日本のEV産業の後退を象徴する事例となるだろう。
最終的な結果は、2026年の販売実績と利益構造の変化によって明らかになる。三代目リーフの投入は、世界初の量産EV復活にとどまらない。日産の再生成否を示す指標としても重要なモデルである。(鶴見則行(自動車ライター))
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みんなのコメント
太陽光パワコンと重複して無駄だしハイブリッドできないものか
そういう社会インフラ規格が全然進んでいないのがBEVの販売障壁になっている
のではないのか