スバル車にリコールが発せられている。水平対向エンジンのバルブスプリングに不具合があるという。そのバルブスプリングについて、どのような要件が求められるのか、その要件を満たすのはなぜ難しいのか、今回の事象はなぜ生じているのか、いろいろ考えてみた。
バルブスプリングとは、ポペットバルブの開閉に必要なばねである。端部の一方はシリンダーヘッドのシート部に、もう一方はポペットバルブのステム端部に備わる、コッタで固定するシートに密着している。
一般的にばねには、弾性限、疲労強度、耐へたり性の3つの高さが求められる。弾性限という言葉はなじみがなく、わかりやすく言えばばねの反発力のこと。これはばね鋼を製造する際の炭素量でコントロールする。一般的なばね鋼では含有量0.5%程度、含めすぎると硬くてもろくなる性質になる。お察しのように、疲労強度も炭素含有量によるところが大きい。耐へたり性を左右するのはケイ素で、こちらは1.5%程度。こちらは入れすぎると鋼材の表面に脱炭層が生じやすくなり、疲労強度および耐へたり性の低下をもたらす。このほか、ばね鋼に粘りを出すためのバナジウム、耐食性を高めるためのクロムなどが含められる。
スバルのリコール通達を見ると「基準不適合状態にあると認める構造、装置又は性能の状況及びその原因」の欄には以下のようにある。
『原動機の動弁機構部において、設計が不適切なため、バルブスプリングの設計条件よりも過大な荷重及び一般的な製造ばらつきによる当該スプリング材料中の微小異物によって、当該スプリングが折損することがある。そのため、エンジンから異音が発生し、また、エンジン不調となり、最悪の場合、走行中にエンジンが停止するおそれがある。』
材料中の微小異物、折損とあるので、上記含有物のうち、炭素あるいはケイ素含有量のいずれかによるものか。
方や、ばねには製造の難しさもある。
ご存じ、ばねは変形することで仕事をする。変形しているときは表面で荷重を支えているとともに、ねじれが生じている。かりにばね表面に傷が入っていたら──想像のとおり折損する可能性が高い。事実、サスペンション用ばねが壊れるときの主たる原因は、跳ね石などによる表面の傷がもたらす腐食である。
表面の傷を廃するため、ばね鋼は製造時に、一般的な圧延工程に先んじて溶削という工程をとる。角材の状態にある原材料の表面を1000℃以上の状態で溶かしながら削り、表面を整える。その後、ローラーで延ばしながら角断面を丸棒に整えていく。ばね鋼を仕立てる際、ばね鋼からスプリングに成形する際、バルブスプリングをシリンダヘッドに組み付ける際──考え始めればきりはなく、可能性はどこにでもある。しかし今回の折損は製造時の不具合という印象ではない。
いずれにせよ、スバル車に搭載されている水平対向エンジンは、シリンダヘッドカバーはサイドメンバーギリギリのところに備わる。しかも左右だ。直列エンジンであれば縦積み/横積みいずれでもヘッドカバーを外してカムシャフトを外し──それでも大変なおおごとだが──つまり車載状態での交換が可能だが、水平対向エンジンはそのスペースに乏しい。「サブフレームごと降ろしてしまったほうが早い」となるのは必至で、しかしそうなると時間も手間もかかる。
対象となる型式は、DBA-GJ6/GJ7/GP6/GP7のインプレッサ、DBA-SHJ/SJ5のフォレスター、DBA-ZC6のBRZ。インプレッサとフォレスターは該当エンジンがFB20型、BRZはFA20型。FB16型や25型、ターボ仕様が含まれていないところを見ると、2.0ℓ自然吸気用のバルブスプリングに不具合が見つかった、ということだろうか。
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