GT-Rが最強・最速であるための進化の中身
平成元(1989)年に誕生し、数々の記録と功績を残したR32スカイラインGT-R。その伝説は30年以上経った現在もなお色褪せることなく、この先も語り継がれていくことだろう。どのように誕生し、いかに進化していったのか。今ここであらためて、デビューからBCNR33にバトンを譲るまでの6年間の軌跡を辿ってみたい。
(初出:GT-R Magazine159号)
P901の主役を担い世界ナンバー1を目指して開発
コードネーム「RX」で呼ばれるR32スカイラインの開発は、’86年1月からスタートした。3月にはシャシーの設計部門が「90年代に日産は走りの性能において世界ナンバー1を目指す」と語り、その主役の1台がR32である、と述べている。これは後に社内の啓蒙活動「P901」として世に広められた。
販売の主役となる2000GTSシリーズの基本構想は、7月の役員会で承認されている。R31スカイラインよりホイールベースとオーバーハングを切り詰め、サスペンションを一新して運動性能を飛躍的に高めようとした。この役員会の席上でイメージリーダーを追加することも決められている。首脳陣以外には「GT-X」と言っていたが、これが「GT-R」プロジェクトだ。
その使命は、サーキットで常勝神話を復活させることにある。そのためにRB20DET型直列6気筒DOHCターボをベースに、排気量を2.4Lに拡大した。が、グループAレースを制するために最終的に排気量を2.6Lまで引き上げている。駆動方式はスカイラインらしさにこだわりFRとした。だが、レース仕様は700ps近くまでパワーアップされ、発生するトルクも強大だ。そこで最終的に4WDとなった。4WDは開発の最後の最後で電子制御トルクスプリット式4WDのアテーサE-TSの実用化の目処が立ち採用を決めた。そして’88年10月、走りの聖地である、ドイツのニュルブルクリンク・オールドコースに持ち込まれ、過酷なテストを行い、ついにはポルシェの最速タイムを更新している。
【前期型】日産の技術を結集し16年ぶりに復活したGT-R
R32スカイラインは’89年5月22日にベールを脱いだ。この席上で16年ぶりにGT-Rの復活が告げられ、8月21日に発売を開始すると発表されている。発売時期が夏になった理由は、アテーサE-TSを熟成させるための時間が十分ではなかったからだ。GT-Rは2ドアクーペをベースに、フェンダーを広げ、フロントグリルは2本スリットの専用デザインとした。グループAレース参戦を意識して、リヤエンドには大型のスポイラーを装備している。
パワーユニットは、総排気量2,568ccのRB26DETT型直列6気筒DOHCにセラミックタービンを組み込んだツインターボだ。最高出力は300psを予定していたが、官公庁を刺激しないように280psにディチューンされた。また、トランスミッションは大容量の5速MTのみで、6速MTと電子制御4速ATの採用は見送られている。
サスペンションは4輪ともマルチリンク式で、後輪も操舵に加わるスーパーHICASも装備した。注目のアテーサE-TSは、FR状態から走行状況に応じて前輪にも駆動力を配分。50対50のリジッド4WDの状態まで前後のトルク配分を連続的に変化させる。LSDは応答レスポンスに優れた機械式だ。
全幅は1,755mmまで広げられ、225/50R16のBSポテンザRE71に鍛造のアルミホイールを組み合わせた。ブレーキは放熱性を高めた穴開きの大型ベンチレーティッドディスクを4輪に配し、前輪は対向4ピストンキャリパーとしている。ABSも標準装備していた。
【前期型DATA】
●発表 ’89年5月22日
●発売 ’89年8月21日
●車体番号 BNR32-000051~017466(欠番なし)
●当時の車両本体価格 445.0万円
●設定ボディカラー
#KH2 ガングレーメタリック #KG1 ジェットシルバーメタリック
#732 ブラックパールメタリック #AH3 レッドパールメタリック
#TH1 ダークブルーパール
【中期型】安全性が向上するも車重は50kg増
R32GT-Rが初めてマイナーチェンジを行ったのは’91年8月。最大の変更点は、強化された衝突安全の法規に合わせボディを補強したこと。その一環として、側面衝突時の安全性を高めるために、ドアの内側にサイドドア・インパクトビームを組み込んだ。安全対策を徹底した結果、車両重量は50kg増えている。
また、高速走行での照射性能を高めるために、プロジェクター式ヘッドライトをH3CバルブからH1バルブに変更し、レンズ面も広げて光量を増やした。点灯時の表情が微妙に異なる。インテリアではコンソール部分にシボ模様が追加され、シートベルト警告灯も加わっている。
信頼性を高めるためにパワーユニットも改良。シリンダーブロックを補強し、クランクシャフトの形状も変えている。弱点だったリヤブレーキキャリパーのシール材やクラッチカバーなども改良品に変更された。
ボディカラーは、ジェットシルバーメタリックに代わってスパークシルバーメタリックが登場し、新色としてクリスタルホワイトとグレイッシュブルーパールが追加された。
【中期型DATA】
●発表/発売 ’91年8月20日
●車体番号 BNR32-212001~(試作車は210001~)
●当時の車両本体価格 451.0万円
●設定ボディカラー
#KH2 ガングレーメタリック #732 ブラックパールメタリック
#AH3 レッドパールメタリック #TH1 ダークブルーパール
#326 クリスタルホワイト #KLO スパークシルバーメタリック
#BLO グレイッシュブルーパール
【後期型】各部が熟成されたR32GT-R最終形態
GT-Rも基準車と同じように、中期型からコストダウンのために本革巻きステアリングの革の質感を下げた。だが、安全性を高めるためにオプション設定ではあるが、運転席SRSエアバッグシステムを選べるようになっている。
そして’93年2月、2度目のマイナーチェンジを行う。メカニズム面での最大の変更点は、クラッチの作動方式をそれまでのプッシュ式からプル式に変更し、圧着力を高めたこと。踏力が軽くなり、クラッチの切れるタイミングもわかりやすくなった。加えて5速MTのシンクロ機構も改良され、3速や4速でも滑らかにギヤがつながるようになっている。
細かいところではリヤのデフカバーに刻まれていた冷却フィンが省かれ、凹凸のない形状となっている。また、7色あったボディカラーは5色に減らされた。整理されたのは、青系のダークブルーパールと、グレイッシュブルーパールだ。
また、後期型が登場したときの最大のニュースは、グループAレース3連覇を記念して「V-spec」を発売したことだ。走りに磨きを掛けるために、GT-Rのブレーキとタイヤのポテンシャルを高めている。タイヤはBSポテンザRE010だが、225/50R17で、アルミホイールは日本BBSの鍛造(8J)を組み合わせた。タイヤの外径が大きくなったため、全高は15mm上がり、最低地上高も5mm高い140mmだ。
名門ブレンボ製のブレーキシステムを採用したことも特筆すべき部分。17インチの大径ローターとなり、耐フェード性が飛躍的に向上し、安心して踏めるようになった。標準車の16インチローターと比べると、フロントは28mm大きい324mm、リヤは3mm大きい300mmだ。ブレーキとタイヤが変更されたため、アテーサE-TSのコンピュータ制御や足の味付けも変更している。
V-specの最終進化モデルが’94年2月に発売された「V-spec II」だ。違いはタイヤのみで、認可を待っていた偏平率45%の245/45R17サイズのポテンザを履いた。
【後期型DATA】
●発表/発売 ’93年2月3日 ※V-specIIは’94年2月14日
●車体番号 BNR32-300001~314649
●発売当時の車両本体価格 445.0万円 V-sepc 526.0万円 V-specII 529.0万円
●設定ボディカラー
#KH2 ガングレーメタリック #732 ブラックパールメタリック
#AH3 レッドパールメタリック #326 クリスタルホワイト
#KLO スパークシルバーメタリック
【NISMO】グループAレース用の限定モデル
’90年3月、グループAレース参戦のためのGT-Rのベース車両、NISMOが500台だけ限定発売された。変更点は空力パーツやエンジンパーツである。
冷却性能を向上させるためにグリル内側の形状を変え、バンパーフェイスの左右にはエアインテークを追加した。ボンネットの先端に導風用のフードトップモールを装着しているのも特徴だ。サイドビューではリヤタイヤの前に加えられたサイドシルスポイラーが目を引く。リヤスポイラー下にはサブスポイラーが加えられた。
RB26DETT型エンジンは、耐久性を考慮してセラミックタービンをメタルタービンに交換し、最大過給圧を調整する開弁圧も高めている。また、オプションでNISMOブランドの大型空冷インタークーラーも設定。フルオートエアコンやオーディオ、リヤワイパーなどを取り去り、30kg軽量化したのも売りだ。
中期型が登場した’91年7月にはN1レース仕様を発売している。’93年以降はV-spec、V-spec IIの登場とともにベース車が代わっており、これを徹底的に軽量化したまさにサーキット専用車両だった。
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みんなのコメント
理論を理解出来なかったため、採用を渋った。
「より高質な走りを実現するためには、マルチリンクは不可欠だ」と考えたシャシー
開発スタッフは、技術担当役員の自宅まで押し掛けて説得し、ようやく採用が決まった。
との話がある。
今の日産に、これだけの情熱を持っている社員がどれ位居るのか、甚だ疑問だ。