現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > 昭和の大スター「石原裕次郎」が愛したガルウイング! いまでは1億円以上で取引される「ベンツ300SL」とは

ここから本文です

昭和の大スター「石原裕次郎」が愛したガルウイング! いまでは1億円以上で取引される「ベンツ300SL」とは

掲載 更新 5
昭和の大スター「石原裕次郎」が愛したガルウイング! いまでは1億円以上で取引される「ベンツ300SL」とは

大スターには超カッコいい「外車」がよく似合った

 作家、政治家として昭和と平成に少なからぬ足跡を残し、先月鬼籍に入った故・石原慎太郎さんは、自動車に関わることでは東京都知事時代のディーゼル規制で知られるが、若かりしころは「ラビットスクーター」で南米1万kmを横断し、ヨットをたしなむなど、じつは大の乗り物好きという一面もあった。実弟にして昭和の大スター、石原裕次郎さんも然り。数年前の「石原裕次郎の軌跡」展では、生涯の愛車として有名な「メルセデス・ベンツ300SLクーペ」、いわゆる「W198」のガルウイングが久々に銀座に現れたとあって、話題となった。

熱狂的なスポーツカー愛好家の「石原慎太郎さん」が溺愛した2台の名車とは

もともとレーシングカー「W194」として開発

 300SLはメルセデス・ベンツが戦後に初めて打ち出したスポーツカーながら、テクノロジー的にも市場の好みという点でも過渡期にあって、様々なバリエーションが存在する。そもそもレーシングカーとスポーツカーの区別自体が、今ほど明確でもなかった時代だ。

 300SLの「SL」とは「シュポルト・リヒテ(スポーツ・ライト)」の略。このころのメルセデスのサルーンである「300」の3L直6エンジンをベースとし、新たな鋼管チューブラー・シャシーとボディに載せた2座のレーシングカーで、大陸縦断レースのようなカテゴリーに参戦する。それが基本方針だった。

 サルーン由来のエンジンと4速トランスミッションは、耐久性と信頼性に優れていたが背が高く、50度傾けて低められたボンネットに押し込まれた。鋼管チューブラー・フレームとアルミパネルによる軽量なボディワークは、キャビンはコンパクト、フロントグリルは後傾させ、今でも驚異のCd値0.25に仕上がっていたという。

 ちなみにガルウイング採用の理由は、そもそも剛性確保のために用いた複雑な三角トラス構造のせいでサイドシルを低くできず、通常の水平に開くドアが困難だったので、上に跳ね上げて解決したため。

 こうしてレーシングカーとして開発された「W194」は、1952年にメキシコのレース「カレラ・パナメリーカーナ」を制した。その個体は今もシュトゥットガルトのメルセデス・ベンツ博物館にある。

アメリカの敏腕ディーラーが市販化を提案

 いずれアメリカ大陸、次いでル・マン24時間を制したW194に、ニューヨークの敏腕ディーラーで「ポルシェ356」も扱っていたマックス・ホフマンが、W194の市販モデルを作るよう、メルセデス・ベンツに持ちかけた。これが1954年にニューヨーク・ショーで発表された「W198」こと「300SL」に繋がる。

 時を同じくして欧州では、当時の開発部長だったルドルフ・ウーレンハウトの指揮で、W194の後継として開発された「W196」が、F1で圧倒的な強さを見せ始める。1954年の2.5Lレギュレーションに合わせた2.5L直8エンジンは、やがて3Lに拡大されて2座のロードスターである「W196S」に派生した。

 よりロングノーズで、いかにも空力に優れそうなストリームラインの2座ロードスターは、スポーツカーレースを席巻。これがスターリング・モスがミッレミリアにおける史上最速タイムを叩き出す原動力となった、「300SLR」だ。そんな絶頂期の1955年ル・マン24時間で、ワークスの300SLRの1台がモータースポーツ史上最悪となる84名が死亡する事故を起こし、このときメルセデス・ベンツはモータースポーツから完全撤退を表明した。

ガルウイングのクーペからオープンカーに移行

 とはいえ300SLRの流麗なストリームラインの残響を、当時の人々が市販車300SLに認めないワケもなかった。ル・マンでの事故以前より、先述のウーレンハウト自身は300SLRの市販モデル化も考えていたらしく、レース用に数台分が用意されたシャシーとは別に、自分で公道を走らせて開発用途に充てた「ウーレンハウト・クーペ」を造っていた。この個体も、メルセデス・ベンツ博物館で現在も見られる。

 そして当時のアメリカでのオープンカー人気も手伝って、1957年のジュネーブ・サロンでは、乗降性にコツを要するW198ガルウイングは「300SLロードスター」、つまりオープンボディにとって代わられた。クラシックな丸目のヘッドランプから、縦長でウィンカー一体の「ユーロ・ランプ」に顔つきが変わったのもこのときだ。ジュネーブ・サロンは春に行われ、メーカーは各国ディーラーのオーダーを受注して、夏以降に翌年モデルとして生産が始まるのが通例なので、300SLロードスターは1958~1963年生産とされる。

裕次郎さんが自らの300SLを「顔面変更」した理由は?

 昭和の大スター、石原裕次郎さんがギャラを丸々とつぎ込んでまで300SLを手に入れたのは昭和38年(1958年)。中古車として手に入れたことは有名だが、当時すでに300SL自体は縦目顔に進化していたころだった。海外でもときどき、フロントをクラッシュしたガルウイングが、年式をまたいで縦長ユーロライト仕様に変更された例はあるが、裕次郎号の「3・せ3838」の個体は、当時の輸入元「ウエスタン自動車」に依頼し、縦目に替えさせたといわれている。それが確かに、前後関係で考えても整合性のある話だが、残るナゾは、なぜ裕次郎さんが300SLに縦目を欲したか? ということだ。

 おそらくは、300SLRやウーレンハウト・クーペの、丸ライトだが縦長プレクシグラス付きのフロントマスクのイメージが大スターの念頭にあって、より新しいロードスターモデルの縦長ライト顔に、よりそちらに近い印象を覚えたためではないか? 後の映画「栄光への5000キロ」での510ブルや、小暮課長のガゼール・オープンなど、演じている間もカーガイだったボス(ビッグをつけなくてもボスは元々ビッグなもの)のプライベートだと思えば、腑落ちするのではないか。

 ノーマルの300SLガルウイング・クーペは近年、オークションでも1億円近い高値で取引されることすらあるが、「ツルシのまんま」を拒否した昭和の大スターのやんちゃぶり、そして生涯大事にしたというエピソードが加われば、それどころでは済まない価値がある。タイムレスに輝き続けるものとは、そういうものなのだろう。

こんな記事も読まれています

もしや未来のレジェンドか!?!? 次世代電気自動車「Honda0(ゼロ)シリーズ」が衝撃 しかもほぼそのまま市販モデルになるってマジか
もしや未来のレジェンドか!?!? 次世代電気自動車「Honda0(ゼロ)シリーズ」が衝撃 しかもほぼそのまま市販モデルになるってマジか
ベストカーWeb
ガルウイングにした本当の理由は? AMG初の独自開発「SLS AMG」はメルセデス・ベンツ「300SL」の再来でした
ガルウイングにした本当の理由は? AMG初の独自開発「SLS AMG」はメルセデス・ベンツ「300SL」の再来でした
Auto Messe Web
RB、アイウェアブランド『HUGO Eyewear』とのパートナーシップ締結を発表
RB、アイウェアブランド『HUGO Eyewear』とのパートナーシップ締結を発表
AUTOSPORT web
「見た目」にビビなら買い! 日産ジューク・ハイブリッドへ試乗 内装とデジタル技術をアップデート
「見た目」にビビなら買い! 日産ジューク・ハイブリッドへ試乗 内装とデジタル技術をアップデート
AUTOCAR JAPAN
フォーミュラEが面白い! 日産とシェルの関係や過去のシーズンを知って、今期後半をもっと楽しもう
フォーミュラEが面白い! 日産とシェルの関係や過去のシーズンを知って、今期後半をもっと楽しもう
Auto Messe Web
アストンマーティン代表、ストロールへの裁定は厳しいと語る「しっかりと理解されないまま判定が下された」/F1第5戦
アストンマーティン代表、ストロールへの裁定は厳しいと語る「しっかりと理解されないまま判定が下された」/F1第5戦
AUTOSPORT web
ヨシムラSERTが転倒後に追い上げ優勝、3ART綿貫も3位。TSR、Étoileは無念のリタイア/EWC第1戦ル・マン24時間
ヨシムラSERTが転倒後に追い上げ優勝、3ART綿貫も3位。TSR、Étoileは無念のリタイア/EWC第1戦ル・マン24時間
AUTOSPORT web
ホンダの「V8スポーツカー」!? 500馬力超えの「FRマシン」! “NSX後継機”目された「HSV-010」とは
ホンダの「V8スポーツカー」!? 500馬力超えの「FRマシン」! “NSX後継機”目された「HSV-010」とは
くるまのニュース
アルファ・ロメオ 車名に "ケチ" つけた政治家へ苦言「名前より雇用守る努力をせよ」 中国企業に危機感
アルファ・ロメオ 車名に "ケチ" つけた政治家へ苦言「名前より雇用守る努力をせよ」 中国企業に危機感
AUTOCAR JAPAN
「彼は僕を見てさえいなかった」リカルド、接触時のストロールのオンボード映像を見て激怒/F1第5戦
「彼は僕を見てさえいなかった」リカルド、接触時のストロールのオンボード映像を見て激怒/F1第5戦
AUTOSPORT web
ハースのヒュルケンベルグが10位「最大限の結果を出した。重要な1点」小松代表は「完璧なレース」と喜ぶ/F1中国GP
ハースのヒュルケンベルグが10位「最大限の結果を出した。重要な1点」小松代表は「完璧なレース」と喜ぶ/F1中国GP
AUTOSPORT web
アロンソ「セーフティカーで戦略変更も、良いレースに。1周でいいからトップを走りたかったけどね」/F1中国GP
アロンソ「セーフティカーで戦略変更も、良いレースに。1周でいいからトップを走りたかったけどね」/F1中国GP
AUTOSPORT web
乗って納得の「ロープライス実力派」 ホンダWR-Vは背伸びしない、等身大のパートナー
乗って納得の「ロープライス実力派」 ホンダWR-Vは背伸びしない、等身大のパートナー
AUTOCAR JAPAN
ハミルトン「極端なセットアップ変更が、かつてないレベルのアンダーステアを引き起こした」メルセデス/F1中国GP
ハミルトン「極端なセットアップ変更が、かつてないレベルのアンダーステアを引き起こした」メルセデス/F1中国GP
AUTOSPORT web
経験を信じたWRTとリスクを避けたマンタイ。雨中のタイヤ選択がLMGT3上位の明暗分ける/WECイモラ
経験を信じたWRTとリスクを避けたマンタイ。雨中のタイヤ選択がLMGT3上位の明暗分ける/WECイモラ
AUTOSPORT web
レクサスが新たな「小さな高級車」展示! 全長4.2m級でも上質さ健在!? 「LBX」の実車見たユーザーの反響は? in 菅生
レクサスが新たな「小さな高級車」展示! 全長4.2m級でも上質さ健在!? 「LBX」の実車見たユーザーの反響は? in 菅生
くるまのニュース
【カーコーティング技術を住宅設備に】総合家庭用品メーカー「レック」と「KeePer技研」が共同企画した家庭用水まわりコーティング剤が販売開始
【カーコーティング技術を住宅設備に】総合家庭用品メーカー「レック」と「KeePer技研」が共同企画した家庭用水まわりコーティング剤が販売開始
driver@web
先行ピットインを決めたディクソンが逆転勝利。初参戦プルシェールは11位完走/インディカー第2戦
先行ピットインを決めたディクソンが逆転勝利。初参戦プルシェールは11位完走/インディカー第2戦
AUTOSPORT web

みんなのコメント

5件
  • 以前私が調べた点と食い違いがあります。

    まず、後に裕次郎氏の物になる車は、1953年頃、O氏と言う方がヤナセに直接掛け合い、センターロックホイールなどフルオプション状態で発注した、当時ヤナセが正規輸入した唯一の車で、ウエスタンが入れた車両ではありません。

    これは当時の写真がヤナセに現存するので間違いないですし、この写真にも写るオリジナルの丸目を、ロードスターのヘッドライトに交換したのは、O氏かその次のオーナーかだという事で裕次郎氏ではありません。

    数年後、当時の大スター同士で親交のあった力道山氏所有のガルウイングを見た裕次郎氏が、その車を譲ってもらえないか頼みこむも、力道山氏は断ったのですが、その際、唯一輸入された元O氏の300SLの居場所を秘書に調べさせ、その時、すでにヘッドライトがこの状態で見つかったこの車を裕次郎氏に紹介、1959年、晴れてこの車のオーナーになったというのが真相の様です。
  • 昔、小樽にあった裕次郎記念館に展示してありました。ここには、映画「栄光の5000キロ」で使われたブルーバード510のラリー車も展示してあって、クルマファン注目の施設だったんですが…
    それにしても、当時の映画スターはすごかったんだねえ…
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

1342.01783.0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

100.02250.0万円

中古車を検索
SLの車買取相場を調べる

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

1342.01783.0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

100.02250.0万円

中古車を検索

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離(km)

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村