SUVブームの勢いに押され、ステーションワゴンは選択肢が減ってきた印象がある。ところがいまだに根強いニーズがあり、着実にバージョンアップを続けている。今回は、ちょうどいいサイズ感の、使い勝手のいい最新モデルをピックアップ。完成度の高さをチェックした。
最近では、ファミリーカーといえばSUVやミニバンが主流となりつつある。1990年代から2000年代に流行したステーションワゴンはすっかり影をひそめてしまった。当時、国内メーカーがこぞってカタログモデルにステーションワゴンを加えていたが、今では数えるほどしか残っていない。
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しかし、ヨーロッパを見ると、確かにSUVのシェアは伸びているが、自動車メーカーはステーションワゴンをラインアップに入れ続けている。高速道路の走行が多いヨーロッパでは、重心の高いSUVだと疲れがたまるという人も多く、荷物をたくさん積めて高速でのコーナリング走行も安定しているステーションワゴンを好む人が多いそうだ。
実際に、ミドルクラスのステーションワゴンをメインモデルとして、新型車を発表しているメーカーも多い。そこで今回は2021年後半に登場した新型のハッチバックをベースにした、ステーションワゴンに試乗した。
まず、フォルクスワーゲン『ゴルフ』は昨年、8年ぶりにフルモデルチェンジを果たした。新型車の特徴は、デジタル化、電動化、運転支援システムの3つを大幅に進化させたこと。デジタル化したインターフェイスは見た目はシンプルだが、実際に使ってみると、タッチセンサーが多すぎて、運転中、操作に戸惑うこともあった。
そして、電動化。48Vマイルドハイブリッドシステムを搭載した。ベルト駆動式のスタータージェネレーターと、リチウムイオン電池を組み合わせて、発進にエンジンをサポートする方式を採用した。ただし、EV走行はできない。また運転支援システムは、同一車線内車速運転支援、緊急時停車支援、降車時警告機能などを採用し、これらを標準装備としたことで話題を集めた。
一方のルノー『メガーヌ』は、大幅に改良された最新モデルで、先進運転支援システムとドライブを快適にサポートする装備が充実。また運転モードや室内照明などはタッチスクリーン操作に対応した。一方でエアコンの操作はダイヤル式を採用しており、意図的に使い分けているようだ。運転支援システムは再発進機能付きアダプティブクルーズコントロール、後退時の後方車両接近警告、歩行者検知機能付き衝突被害軽減ブレーキなどを採用。全体的にレベルアップを図り、標準装備が充実している。
ヨーロッパで鍛えられた走りとパフォーマンス
ルノー『メガーヌ スポーツツアラー』
Specification
■全長×全幅×全高:4635×1815×1495mm
■ホイールベース:2710mm
■車両重量:1390kg
■排気量:1333cc
■エンジン型式:直列4気筒DOHCガソリンターボ
■最高出力:159PS/5500rpm
■最大トルク:270Nm/1800rpm
■変速機:7速AT
■燃費:16.6km/L(WLTCモード)
■車両本体価格:330万円
※「INTENS」
フロントバンパーとグリルは新しいデザイン。ヘッドライトはLEDでカメラのセンサーでハイビームとロービームが40km/h以上で自動で切り替わる。カメラとレーダーによる検知装置も搭載。
全長は『ゴルフ』より5mm短いがホイールベースは40mmも長い。全高も10mm高い。ルノースポールモデルへの使用を前提とした高剛性シャーシで18インチタイヤを装着する。
全幅は『ゴルフ』より25mm広く、ゲート開口部は地面から600mmと低め。サイドウインドウが車体後方に向かってせり上がっているので、リアゲートのウインドウは上下方向がやや狭い。
長く、広く、スポーティーに進化
VW『ゴルフ ヴァリアント』
Specification
■全長×全幅×全高:4640×1790×1485mm
■ホイールベース:2670mm
■車両重量:1460kg
■排気量:1497cc
■エンジン型式:直列4気筒DOHCガソリンターボ
■最高出力:150PS/5000~6000rpm
■最大トルク:250Nm/1500~3500rpm
■変速機:7速AT
■燃費:17.0km/L(WLTCモード)
■車両本体価格:390万3000円
「eTSI Style」
ヘッドライト、ボンネットの先端はルノーよりも低め。フロントウインドウの面積も『メガーヌ』より広い。全幅は1790mmで1.8m以内に収まっているので使い勝手が良い。車重は70kgほど重い。
先代の『ヴァリアント』よりホイールベースは35mm、全長も65mm大きくなった。ウインドウの面積は『メガーヌ』より広い。ホイールは17インチ、タイヤは225/45サイズを装着している。
リアゲートの角度はクーペライクで寝かせ気味だが、リアウインドウは大きく、後方視界もしっかり確保している。リアゲートはオプションで便利なパワーテールゲートを初採用している。
走りと実用性を絶妙なバランスで両立したヨーロピアンワゴン
ルノー『メガーヌ スポーツツアラー』
エンジンルーム
1.3Lのガソリンターボエンジンはルノー+日産+三菱のアライアンスとダイムラーの共同開発。4000回転でも音は小さく抑えている。
運転席と各種装備
運転席の目の前にある計器類は、スポーツ/コンフォート/エコの各モードごとにデザインが変わるため、スイッチを見なくてもすぐにわかる。
シートスペース
前席の位置調整は手動で行なう。着座位置はやや低め。ホールド性は良好。後席は着座位置が高めなので身長180cmクラスだと厳しい。
ラゲージスペース
荷室の床板は2段階で高さを調節できる。サブトランクはスペアタイヤの場所なので広い。左右幅は『ゴルフ』より広いが奥行きは短い。
【 ココがポイント!】スポーティーな走りを楽しめるマニュアルシフトモード付きAT
デジタルとアナログを巧みに組み合わせた運転席回りのデザイン。7速ATは従来型のシフトレバーを採用しており、マニュアルシフトモード付き。パドルレバーがないため、変速は手元のシフトレバーで行なう。
【 ココがポイント!】4:6で前倒しできる後席の使い勝手はいまひとつ
後席の背もたれは4対6で前倒しできるが、床面はやや傾斜がある。右側に2名分のスペースはあるがやや狭い。背もたれを引き起こす時にシートベルトが座席には挟まってしまった。
VW『ゴルフ ヴァリアント』
エンジンルーム
エンジンは4気筒1.5Lと3気筒1.0Lのいずれもガソリンターボ。1.5Lは0→100km/hの加速が7秒台の俊足だ。
運転席と各種装備
計器類はデジタル化されており、操作には慣れが必要。メーターのデザインはドライビングモードを変えても同じ。
シートスペース
やや低めの着座位置でスポーティーな運転感覚。後席はやや低めの着座位置だが、膝まわりに余裕があり、狭さは感じない。
ラゲージスペース
ゲートを開けた時の開口部は『ゴルフ』のほうが大きい。開口部の高さは路面から約630mm。床面のボードは2段階の高さで調節できる。
【 ココがポイント!】操作系スイッチを集約したインターフェイス
『ゴルフ』のシフトレバーは短い。エンジン始動・停止からシフトモードの選択、サイドブレーキの操作まですべてこの前席中央に集約している。パドルシフトはあくまで回生用。
【 ココがポイント!】クラストップレベルの積載量を誇るラゲージルーム
後席の背もたれは4対2対4の3分割前倒式を採用。中央はアームレストを兼ねたラゲージルームスルー。ラゲージルームは先代より22L拡大、最大1642Lとクラストップレベルの積載量。
走り重視で選ぶなら『メガーヌ』、居住性、快適性で選ぶなら『ゴルフ』
ルノー『メガーヌ スポーツツアラー』
[運転性能]1.3Lガソリンターボはスポーツモードにするとトルクフル。ハンドリングもモードごとにメリハリがある。18点
[居住性]前席は圧迫感もなく視界も良好。後席はスペック上はホイールベース、全長ともに長いが実際は広くない。17点
[装備の充実度]安全性に関してはLEDヘッドライトに始まり主要な装備は標準装備。エアコンもダイヤル式で操作しやすい。19点
[デザイン]サイドウインドウはウエッジシェイプで、クーペのスタイリングを強調。ボディーカラーは6色ですべてメタリック。18点
[爽快感]1.3Lターボエンジンは音も抑えめで、軽快。パドルシフトはないがスポーツ走行も可能。全体にスポーティーな印象だ。18点
[評価点数]90点
VW『ゴルフ ヴァリアント』
[運転性能]走行モードはメリハリがある。アクセルオフでコーナリング走行する時は慣れが必要。ブレーキもややクセがある。17点
[居住性]前後席ともに膝、肩、頭上に狭さを感じない。特に後席は身長180cmクラスもOK。ガラスの面積は大きくて明るい。19点
[装備の充実度]今回から新しい安全装備は採用されているが、LEDライトを含めて多くがパッケージオプション設定なのが残念。18点
[デザイン]おなじみの顔に大きなウインドウの実用性と角度をつけたテールゲートのバランスは良い。ボディーカラーは7色。18点
[爽快感]コーナリングマシンではないが後輪の剛性感は高く、ハンドリングを楽しみたくなる。見た目以上にスポーティー。18点
[評価点数]90点
【OTHER CHOICE】海外勢と比べて圧倒的に車種展開が少ない日本勢
今回、国内メーカーが発売しているステーションワゴンが何台あるのか調べてみたところ『カローラツーリング』『カローラフィルダー』『ホンダシャトル』『マツダ6ワゴン』『レヴォーグ』『インプレッサ』『リューギ(ミツオカ製)』だけだった。日産、三菱、スズキ、ダイハツ、レクサスにはステーションワゴンはない。造らない理由は「需要がない」からだという。本当にそうなのだろうか。
一方、輸入車を調べてみると、メルセデス・ベンツ、BMW、アウディ、ジャガー、ボルボはステーションワゴンを日本で販売している。今回、取り上げたVW、ルノー、プジョーを合わせると8ブランドが扱っている。
販売台数も一定数が見込まれている。ステーションワゴンのベースになるのは4ドアや5ドアのセダン。これがしっかりできないとワゴンは造れない。日本のメーカーは売れないからといってセダン造りにも消極的だ。今一度クルマ造りの基本を見直してほしい。
プジョー『308 SW』322万円~
トヨタ『カローラツーリング』221万6500円~
取材・文/石川真禧照 撮影/望月浩彦
※本記事内に記載されている商品やサービスの価格は2022年2月28日時点のもので変更になる場合があります。ご了承ください。
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みんなのコメント
セダンからワゴンを作るんじゃないよ。ワゴンや5ドアHBの、パーティッション無しで車を先に開発する。そうすれば、パーティッション付きのセダンはそれ以上の強度や剛性はすぐ達成できるのは容易に想像できる。車が発売される順番とは必ずしも一致しないけど。
SUVが作れればワゴンの開発そのものは容易なはず。でも作らないのは、「売れない」からではなく、売る能力・売るマーケッティングを向上させる余裕がないから。特に、日本車の欧州での地盤沈下が大きいと思う。欧州で見込めないとワゴンはなかなか難しい。