現在新車で販売されているクルマには、基本的な安全装備として、ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)やエアバッグ、シートベルトの搭載が義務化されています。バイクでも、2018年10月以降に販売される新車にはABSの搭載が義務化され、また、エアバッグもプロテクターの一種として普及が進みつつあります。
このように、バイクとクルマでは構造上の違いはあっても、安全性が重視されることは変わらないことから、安全装備については共通している部分も少なくありません。しかし、その中でもシートベルトだけは、バイクに対して普及する様子は一向に見られません。その理由はどこにあるのでしょうか?
クルマにおけるシートベルトの歴史は古く、20世紀初頭にはそのコンセプトがあったと言われています。現在最も一般的な「3点式シートベルト」が、ボルボの技術者であったニルス・ボーリンによって開発されたのは1959年のことであり、それ以降ほぼすべてのクルマに採用されています。
日本では1969年から新車への搭載が義務付けられており、1985年から前席での装着が、2008年から後部座席での装着が原則として義務付けられています。それ以前にも努力義務として装着が強く推奨されていました。
しかし、バイクに関しては後述する一部の例をのぞいて、現在までほとんど装着されることはありません。その大きな理由は、クルマとバイクでは事故発生時の乗員の動きに大きな違いがあるためとされています。
クルマの場合、基本的に乗員はボディの内側に位置しているため、外部からの衝撃はまずボディが受け止めることになります。もし、正面から障害物に衝突してしまった際、乗員がシートベルトをしていなかったら、慣性の法則によって乗員は前方へと吹き飛ばされてしまい、ハンドルやダッシュボード、フロントガラスへの衝突は避けられません。
しかし、バイクの場合、基本的にボディの外側に身体があるため、横転すると身体がボディと路面の間に位置することになります。その状態で引きずられてしまうと身体に大きなダメージがあるほか、破損したタンクから漏れ出したガソリンに引火する可能性なども考慮すると、事故時にはなるべくバイクと身体を離したほうが良いということになります。
つまり、クルマが車内から投げ出されないことを優先するのに対し、バイクはボディから離れることが優先されるのです。そのため、ボディと身体を結束することが目的のシートベルトは、バイクには不向きだと考えられています。
一方、過去にはシートベルトを装備したバイクも、ごくわずかではありますが存在していました。それが、2000年から2002年にかけて販売されたBMWの「C1」です。125ccと176ccの2つのパワートレインが用意されていたC1は、ホンダ「ジャイロキャノピー」のようなキャノピー(屋根)の付いたスクーターです。
屋根は強化貼り合わせガラスでおおわれており、ボディと一体化した構造を持っていることからもわかるように、BMWの自動車開発における知見を活かして開発されています。実際に、自動車と同じ衝突耐久試験を行なったとされています。
このC1には、2点式、もしくは3点式のシートベルトが採用されており、シートベルトを装着しないとエンジンが始動できない仕様となっています。
BMWがC1の開発で目指したのは、ヘルメットを装着しなくてもよいバイクだったと言われています。これは、ヘルメットがないことによる快適性の向上を目指したものではありません。
ヘルメットがライダーの安全を守ることは言うまでもありませんが、その一方で、一部の重大事故ではヘルメットが原因となって死亡事故へつながることもあるとされています。つまりキャノピー(屋根)がライダーのボディを守ってくれるのであれば、ヘルメットは不要となり、その代わりにシートベルトによってライダーをシートに固定することが必要になると、BMWは考えたのです。
その結果、欧州市場ではヘルメット不要のバイクとして販売されたC1ですが、日本国内では安全性が確認できないとして、ほかのバイク同様ヘルメットの装着が義務付けられました。
わずか2年でモデルが終了したことからやはり課題は多かったものと考えられますが、自動車開発の知見を活かした重要な事例となっています。
※ ※ ※
バイクでもクルマでも、安全性が重要であることは言うまでもありません。クルマから始まった安全装備のなかには、シートベルトのようにバイクには不向きと言えるものもありますが、多くの場合、バイク用にカスタマイズされて搭載されているようです。
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4輪はシート上で身体がルーズだと正しい操作が出来ない
2輪は自由が効かないと荷重コントロールが出来ない
それだけの事