実戦での勝利とそこで培った技術の民生化を目的とする
アメリカの海軍にはネイビーシールズがあり、イギリス陸軍にはSASがあり、フランスの国家警察にはRAIDがあり、日本の警察にもSATがある。世界各国の軍隊や治安維持を目的とする警察には、特別な任務が与えられた特別なチーム、いわゆる特殊部隊というのが存在している。
500万円・400台が即日完売! 280馬力時代に400馬力! ワークスが生んだ伝説のコンプリートカー4台
そして自動車メーカーにも、同じように特別な任務が与えられた特別なチームが存在することはご存じだろうか?
たとえばモータースポーツで培った先鋭的なテクノロジーやコストがかさみすぎるために通常のプロダクションモデルにはなかなか投入しづらい技術/素材などを惜しげもなく注ぎ込んで、カタログモデルとは一線を画するハイパフォーマンスモデル、極めてスペシャルなモデルなどを開発していく部隊である。
自動車メーカーと並行して独立する関連企業であったり、自動車メーカーの社内に確固として存在する社内カンパニーあるいはディヴィジョンであったりと形態はさまざまだが、クルマ好きの心を躍らせてくれるようなクルマを専門的に手掛けるチームのようなものが、世界中に存在するというのはかなりワクワクする。ちょっとばかり駆け足になるけれど、第1弾として日本メーカー編を紹介しよう。
1)トヨタ GRカンパニー
日本では、わかりやすいところでは最近のトヨタだろう。ご存じ、”GAZOO Racing”を母体に2017年に誕生した、”GRカンパニー”だ。
“GAZOO Racing”のさまざまなモータースポーツ活動から得た技術やノウハウを市販車へと落とし込み、クルマにドライビングの楽しさを求めるユーザーへ車両を提供していくためのスポーツカーブランド、と表現するべきだろう。
台数限定でクルマのすべてを磨き上げた究極的フルチューンコンプリートカーである”GRMN”、走りの味を追求して開発された市販スポーツカーの”GR”、ボディやシャシーにチューンナップを施しスタイリングに専用のディテールを持たせた”GRスポーツ”、さらにはスポーツ系アフターパーツである”GRパーツ”の4つの階層に分けての幅広い展開。
GRスープラやGRヤリスなどが速くて楽しいクルマなのはもちろんだが、車体の見直しやサスペンションまわりのチューンナップが行われているGRスポーツ各モデルも、ベースとなったクルマより一段階も二段階もステップアップした走りの楽しさを味わわせてくれるのだから恐れ入る。
2)日産 NISMO
歴史あるところでは、1960年代からのワークスレーシングチームである大森ワークスを母体にした、日産自動車のモータースポーツ部門を担う、”NISMO”ことニッサン・モータースポーツ・インターナショナル。
近年ではスーパーGTシリーズを戦うとともに、スーパーGTやスーパー耐久などに出場するためのマシン開発を行うなど競技活動を展開してるのはもちろん、たとえばGT-Rなどではホワイトボディの段階で手を入れて車体の剛性を上げるといったメーカー謹製でなければ実現がなかなか難しいチューンナップなどを加えたコンプリートカーの開発も行っている。
スタンダードのGT-Rですら何ら不満はないというのに、NISMOバージョンはちょっと次元が違うと感じられるほどの全域に渡るパフォーマンスの向上を見せている。その出来映えの素晴らしさは、驚異的といっていいくらいだ。
ラリーという戦場で争ったスバルと三菱の特殊部隊
3)スバル STI
スバルとともにある”STI”ことスバル・テクニカ・インターナショナルも、世界にその名が通った存在だ。それは主として1990年代のレガシィやインプレッサによる世界ラリー選手権での長きに渡る大活躍がもたらしたといえるもので、ラリー・マシンを彷彿とさせる“STIバージョン”という台数限定の歴代コンプリートカーも、発売即完売のような人気の高さを見せた。
現在ではBRZでGTレースを戦いながら、スバルの高性能スポーツモデルの開発も担い、ファン達のためのパフォーマンスパーツも手掛けている。
4)三菱自動車 ラリーアート
STIと並んでラリーで大活躍をした、三菱自動車の”ラリーアート”も忘れてはいけないだろう。
1983年にヨーロッパで設立され、翌年には日本国内にも設立。パジェロによるダカール・ラリーの25年以上にもわたる華々しい戦績、世界ラリー選手権のグループBカテゴリー参戦を目指したスタリオン4WDの開発、グループA時代のスタリオンやN1耐久レースのGTOの活躍、1990年代から2000年代のランサー・エボリューションの世界ラリー選手権での大活躍などなど。三菱のモータースポーツ活動を長年にわたって支えてきた存在だ。
もちろんユーザーへのスポーツパーツ供給も行っていたし、三菱のプロダクションモデルのスポーツグレードには”ラリーアート”の名を冠したモデルがいくつもあった。
そして2010年に三菱の業績悪化の影響を受けてパーツ販売を除くすべての業務が停止、ファン達を悲しませることになった。ところが今年の5月、11年ぶりのブランドの復活がアナウンスされた。具体的な活動計画は発表されていないが、クルマ好きとしては楽しみにしながら動きを待ちたいところだ。
じつは別会社の”無限”と復活を期待したい”マツダスピード”
5)ホンダ モデューロ/無限
ホンダには、”モデューロ”と”無限”のふたつがあるといっていいだろう。
モデューロはホンダの純正アクセサリーメーカーであるホンダアクセスが展開するスポーツブランド。完全子会社なだけにホンダの新車開発のチームに加わって同時進行で行われることが多く、パーツ類もホンダの風洞やテストコースなどを経て開発されたものだけに、見た目は控えめながらキッチリと効果を得られるものがほとんどだ。
もう一方の無限は、かつてはツーリングカーレースなどにホンダのワークスとして参戦していた無限の事業を2004年に譲り受けたM-TECが展開している独立系ブランド。独立系とはいえホンダとは密接な関係を保っていて、ホンダのレース用エンジンの開発から供給までを担うなどモータースポーツ活動を支えており、またホンダ車用のスポーツパーツの開発と製造販売を行っている。こちらは街乗りとスポーツ性のバランスを重視するモデューロよりも、モータースポーツの香りが強くより攻めたモノ作りを行っているのが特徴だ。
モデューロも無限も1車種まるごとをプロデュースしたいわゆるコンプリートカーといえるものも作っているし、どちらのパーツもホンダのディーラーで購入できる点でも共通している。
6)マツダ マツダスピード
残念なのは、マツダだろう。以前はマツダの有力ディーラーが1968年に解説したモータースポーツ相談室から発展し、1983年に正式にメーカー直系のモータースポーツ部門となった”マツダスピード”が存在した。
1991年にル・マン24時間レースで日本車初の総合優勝を飾るなど華々しく活躍し、マツダ車のラインアップにもその名を冠した高性能グレードに用意され、またスポーツパーツをユーザーに供給して絶大なる支持を得ていたが、1999年にマツダに完全に吸収されてからは事実上の解体となり、現在ではメーカー開発の純正スポーツパーツにその名を残すくらいなもの。
また2000年代にはマツダの特装車などを担う子会社であるマツダE&TがNB型ロードスターをベースにしてボディを架装したクーペ・モデルやターボチューンを加えたモデルを手掛けたが、現在は車両に関しては本来の特装車系のみに集中している。
今回は国産自動車メーカーの”特殊部隊”を紹介した。次回は輸入車編をお届けするのでそちらもお楽しみに。
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みんなのコメント
手がけたからと言って必ずしもでない。