■人々の「自然回帰」が両ブームの陰にあり
日本の市場では、軽自動車、コンパクトカー、ミニバンが人気です。それらを追いかけるように、SUVも年々販売台数を伸ばしています。
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巷では、「SUVブーム」などといわれ、世界中の自動車メーカーから多様なSUVモデルが登場しています。しかし、約30年前にも同じような「四駆ブーム(RVブーム)」というものがありました。当時と今ではブームに、どんな共通点と違いがあるのでしょうか。
最近は、街中のいたるところで「SUV」を見かけ、国内ではミニバンに続く販売台数を記録。世界の市場を見ても、SUVは非常に好調です。
そんな好調な「SUVブーム」から約30年前の80年代から90年代初頭。バブル期の日本で巻き起こったのが「四駆ブーム」です。日産「サファリ」や三菱「パジェロ」、トヨタ「ランドクルーザー」、いすゞ「ビッグホーン」といったクロスカントリー4WDに乗ることがステイタスとなり、日本市場はさまざまな四輪駆動車で溢れかえりました。
このブームをけん引したのは、「パリ・ダカールラリー(現ダカールラリー)」と「オートキャンプ」でした。世はバブルの真っ只中。いかに人と違うライフスタイルを送るか、お金では買えない価値を得るかというユーザーのニーズにおいて、冒険や自然回帰といったイメージがマッチングしたのだと思います。
四輪駆動車はもともと作業車でしたが、この頃から急速に乗用車化の道を進みます。当時一大ブームを起こしたパジェロやランドクルーザーもそうしたクルマで、1・4ナンバーのバンから3・5ナンバーのワゴンへと進化。また、節税目的の8ナンバーベッドキットなども流行しました。
悪路走破性に特化し、舗装路では運転しづらさもあった四駆は、動力性能や操縦安定性の向上も追求され始め、やがてトヨタ「ハイラックスサーフ」や日産「テラノ」のようなSUVや、ホンダ「CR-V」を代表とするライトクロカンが生まれます。
よく「憎まれっ子世にはばかる」といいますが、四輪駆動車は傍若無人な走行による環境破壊やディーゼルの黒煙(Nox)問題、さらにはバブルの崩壊が要因となり、ブームの主役をステーションワゴンやミニバンへバトンタッチ。「四駆ブーム」は「RVブーム」へと看板を掲げ直し、90年代半ば頃まで続きます。
その後、2000年代には四輪駆動車やSUVは影の薄い存在となっていましたが、そのなかでいくつかモデルがその灯を次世代に繋ぎます。それは、トヨタ「ハリアー(RX300)」、BMW「X5」、ポルシェ「カイエン」です。
高級SUVというキャラクターは、経済が上向きだった北米で人気を博し、アッパークラスのユーザーに支持され続けました。セダンやステーションワゴンの後部座席よりも快適な居住性を持つSUVは、こうした富裕層の足として人気を博し、次第に復権していきます。
さらには、フォルクスワーゲン「クロスポロ」やスバル「レガシィ アウトバック」といったクロスオーバー車にもスポットが当たり、再び十分なロードクリアランスを持つクルマが人気をえます。近年では、高級車ブランドからも続々とSUVが登場するなど、かつては「異端児」的な扱いだったSUVは、スタンダードなカテゴリーになっていくのです。
その後もマツダなどは、セダンやミニバンなどのラインナップを大胆に整理し、SUV中心の戦略に舵を切り直しました。マツダの関係者は、今回のSUVブームについて、次のように説明しています。
「かつての四駆ブームがそうであったように、今回もアメリカからの影響が強く見られます。アメリカではかつての四駆ブームのときに子どもあった人が大人になり、楽しく過ごした四駆との思い出を再現すべく、またSUVに乗る人が多いと聞きます。
日本でもこれと似ており、昔四駆に乗っていた方やそのお子さんだった方が、SUVでアウトドアレジャーを楽しんでいるようです」
■同じアウトドアブームでも昔と今では質が違う?
現在のSUVと並行してムーブメントになっているのが、グランピング。またしてもアウトドアレジャーです。グランピングは、10年ほど前からイギリス発祥で流行しているライフスタイルで、世界の情勢不安や景気後退が原因で海外を旅しなくなった人たちが、家の近所で充実したアウトドアライフを楽しむのがきっかけといわれています。
しかし、四駆ブームの頃に流行したオートキャンプなどとは、ブームの質が違うという人もいます。SUV用パーツメーカー・JAOS(ジャオス)社長の赤星大二郎氏は次のように話します。
「かつてのアウトドアブームは、とりあえず人がやっているのだからやってみようという受動的な部分があり、不便さを我慢しながらやるという面もありました。
しかし、現在のグランピングに代表されるアウトドアスタイルは、自分らしく生きるために選ぶ能動的なライフスタイルのひとつ。そのため、豪華で快適、清潔です。これはかつての四駆と、現在のSUVの関係に非常に似ています」
また、昨今のSUVブームについても、次のように分析しています。
「10年ほど前からSUVという大きな流れがありますが、この2年ほどはSUVなら何でもいいというわけではなく、どちらかというとスズキ『ジムニー』やメルセデス・ベンツ『Gクラス』、ジープの各モデルといった本格派四駆の車種が好まれる傾向なのではないでしょうか。
これは、2006年のトヨタ「FJクルーザー」誕生がきっかけだと思います。北米西海岸のファッション感度の高いユーザーを中心にFJクルーザーが非常にウケて、キャラクターがファジーな乗用車系SUVよりもクロスカントリー系SUVの方が、自分の生活様式が反映しやすいライフスタイルカーだということになりました。これはまさに今の日本のSUV市場だと思います」
※ ※ ※
赤星氏によれば、ランドクルーザープラドは一時的にはいかにSUV化するかを模索していましたが、昨今では逆に優れた悪路走破性を持つ『クロカン四駆』であることをアピールする戦略に変わったといい、そのイメージ変更とともに、販売実績が回復しているのは確かです。
こうしたオフロードテイストを前面に押し出すイメージ戦略は、CR-Vやトヨタ「RAV4」といったライトなSUVにも見られます。
RAV4の開発者は「優れたオフロード性能を100%活用するシーンは、先進国ではほとんどありません。でも、そういう性能も持っているという多様性が、これからのSUVを選択する理由になっていくと思います」と語っています。
かつての四駆は、オンロードでの進化を標榜し続けて、現在のSUVに昇華しました。ですが、そのSUVは再び悪路走破性というベクトルに戻り始めています。
もちろん乗用車ライクなSUVが今後無くなることはありませんが、より多様性のあるクルマへと変化していくことは間違いありません。同時に、SUVはブームという一過性のものではなく、セダンやワゴン、ミニバンといったカテゴリーと同線上に並んだことは、もはや否定しようがないのです。
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