地域の祭りや郷土料理など「無形文化財」というものがあるが、先日、政府はそれらの保護を強化する! と発表。現代アートなども無形文化財に認める方向という。
ならば、歴史あるクルマ界にも無形文化財として認定・保護してほしいものがあるじゃないか! 清水草一氏、大音安弘氏の提唱に加え、編集部も熱く述べてみたい。
最新にして最後の希少車!? シビックタイプRは歴代最高のホンダ車か
【画像ギャラリー】令和が終わっても遺していきたい 文化財のようなクルマたち現行国産車編(41枚)
※本稿は2020年11月のものです
文/清水草一、大音安弘、ベストカー編集部、写真/トヨタ、ホンダ、スズキ、日産、マツダ、レクサス、AdobeStock、ベストカー編集部
初出:『ベストカー』 2020年12月10日号
■F1マシンのエンジンサウンド
かつてF1サウンドは耳ではなく、肌で聞くものだった。それほど音圧があり、サーキットで耳栓は欠かせないほど。が、さまざまな規制の強化はF1の華である魅力的なサウンドまで奪い、F1人気の低迷にも繋がっていく。環境対策は大事だが、あの刺激的なサウンドだけは、無形文化財として守り抜くべき。(大音)
■「何でも自動」の時代に「手動」のMT操作
高齢者の多くもAT世代となった今、MTは愛好家向けが中心に。商用車すら、非設定のものがほとんど。効率さえATに負けることもあり、さらに先進技術との相性も悪い。それでもMTは、ドライバーによる運転の差が出やすく、運転技術を学ぶ意味でも存在あり。何よりもマシンと対話する楽しさは、MT乗りしかわからない魅力。ぜひ無形文化財として保護したい価値だ。(大音)
シフトレバー(写真はスズキ アルトワークス)
■WRCドライバー、異次元のドライビングテクニック
スリリングなコースを全開で駆け抜けるWRC。そんなドライバーたちの腕前は、超一流だ。特に1980年代までは、マシンはすべてアナログなうえ、暴力的なパワーを放っていた。それをテクニックだけでねじ伏せていたのだから、まさに神業。あのマシンと一体となったような匠の走りは後世まで伝えるべきだ。(大音)
https://youtu.be/NatxHkiCeH0
■ヤリスハイブリッドの実燃費
わりとフツーに走って40km/Lが見えてしまう。これだけ燃費がよけりゃ、少なくとも日本ではEVに乗るよりエコだろ! 国によっては(=発電方式によっては)EVに負けるけど、それでも僅差のはず。しかも充電の手間いらず。もはやこの燃費は無形文化財だ! でも日本以外では、EVじゃないってことでエコカーにすら認定されなかったりする。悲運!(清水)
ヤリスハイブリッド。試乗して実際にその驚異的な燃費に「データではわかっていたけど」と驚嘆の声が上がるケースが多い
■運転好きならわかる! 軽トラ独特の走り
“鼻先”がない視界だけでも特有な感じだが、いかにも走りに直結する感覚のMT操作は独特。オフロードでの4WD性能はレンジローバーも敬意を払う!?(編集部)
軽トラはいいぞお!(写真はダイハツのハイゼットトラック)
■ホンダ1990年代タイプRの刺激的エンジンフィール
量産車ながら、職人が手がけたタイプR用エンジンはまさに日本が誇るべき宝。今のVTECターボとは異なる刺激と魅力にあふれていた。現存車を守るべし!(大音)
ホンダ シビック タイプR(1997年)
■国産ミニバンの多彩なシートアレンジ
クルマ好きからすると、「なにチマチマやってんだ」みたいな部分もあったけど、やっぱりスゲエ! 特にシエンタの3列目シートの床下収納は芸術! まさに文化財だ!(清水)
ミニバンのシートアレンジは日本の宝
■ロータリーエンジン(RE)、電動モーターのような滑らかフィール
REの天井知らずの滑らかな回転フィールは、マツダが育んだもの。RE復活の声が聞こえるが、ぜひ発電用だけでなく、今こそ駆動用として復活させてほしい。(大音)
マツダのロータリーエンジン
■世界最小の軽スポーツを作り続けるメーカーの姿勢
商売としては割に合わないS660を本気で開発し、送り出した姿勢こそ、まさにホンダイズム。常にホンダらしさを追い求める姿勢こそ無形文化財。(大音)
ホンダ S660
■軽スーパーハイトワゴンの車内を広く! という開発者の執念
軽の規格内に収めているわけだが、新型誕生のたびに「これでもか」と広くなる車内。開発者の執念の塊。その執念こそが無形文化財だ。(編集部)
N-BOXの荷室。205×255×265mmのダンボールが44個入る。ちなみにN-VANは45個(2018年8月の記事より)
■レジ袋フックの利用方法
あんなにどこでも手に入っていたレジ袋が、突如として貴重品になり、クルマのレジ袋フックが存続のピンチに! でも、あきらめてはいけません。日本には世界に誇る「100円均一ショップ」がある! 100円ショップでS字フックとお好みのエコバッグを買い揃えれば、せっかくのレジ袋フックが有効活用できる! ああ無形文化財。(清水)
レジ袋フック。まさにこれぞ「無形文化財」
■地上80cm(?)、ランボルギーニからの低すぎる視界
運転席から「見た感覚」もぜひ無形文化財に。それにふさわしいのが全高1165mmのランボルギーニウラカン。低すぎる視界は貴重だ。(編集部)
ウラカンEVO
■公用車が批判の的。センチュリーの乗り心地と匠の技
降って湧いたような、トヨタ センチュリーへの集中砲火。そりゃまぁ、トンチンカンな知事の反応にはクルマ好きも激怒だけど、センチュリーに罪はない! 罪どころかあの乗り心地は地上最高! ロールスロイスファントムより上!「そんな高級車、税金で買うな」って、ご意見はごもっともですが。(清水)
トヨタ センチュリー
■オープンカーで感じる風と光
オープンカーの魅力はなにもカッコだけではない。四季で移り変わる風や光、景色の変化を全身で感じられることも。環境意識が高まる今こそ、オープンカーで地球を感じてみたい。あ、上で登場したどこかの県知事は乗らなくていいです。(大音)
レクサスLCコンバーチブル
■土足禁止車
21世紀からこっち、さすがに見ないよね……。見ないだけに発見したら、抱きついてキスしたい。そして「あなたは無形文化財です!」と表彰したい。その肝っ玉の小さな愛車へのかぎりない愛というか防衛意識、本当に貴重になりました。(清水)
■青空駐車でボディカバーをかける愛車精神
雨や雪、強い日差しから愛車を守りたいと、ボディカバーをかぶせる。この光景、少しずつ減っているが、「愛車が愛おしい」という気持ちがにじみ出ているではないか! 担当も昔やっていたが意外と大変。この「愛車・愛」は無形文化財だ。(編集部)
ボディカバーに滲む愛車精神。哀愁すら感じてしまう
■縦列駐車を上手にこなして自慢げなドライバー
運転テク、それを見せる(魅せる)場はたくさんあるが、縦列駐車もそのひとつ。「今どき縦列駐車なんてクルマが自動でやるじゃない」。ま、それはごもっとも。そんな時代だからこそ、美しい縦列駐車を一発で決め、自慢げな顔をしているドライバーを、無形文化財として保護したい。(編集部)
日産の「アラウンドビューモニター」のように、駐車に便利な機能も増えてきた
■バックの際、左手を助手席の後ろに回す行為
私、今でもやってます。バックモニターが付いていても。これで助手席の女性がキュンとしてくれたら儲けもん! バックモニター見ながらバックしたって胸キュンはない! この瞬間がクルマ無形文化財だよね。(清水)
運転手が女性というのもありです
■給油のたびにトリップメーターをゼロにして、燃費を計算する行為
平均燃費が表示される今と違い、昔は実燃費を知りたきゃトリップメーターをゼロにして計算していたもの。もちろん今でもできる。やりましょ!(編集部)
■ハンドルの内掛け
これは土足禁止車よりはまだ生存度が高く、高齢者を中心に何の気になしにふとやってしまう感じが微笑ましくないですか? パワステあるし、内掛けしたって何のメリットもないはずだけど、なんとなくやってしまうその習慣が地味に無形文化財。(清水)
■信号待ちのたびに「地図」を確認して走るドライブ
その昔、知らない場所を走る時、必携だったのが地図。カーナビの急速な普及とともに、地図を信号待ちのたびに開いて見つつ走る行為は、ほぼ消え去った。その希少性ゆえ保護したい。(編集部)
いっしょに地図を覗き込むなんてのも、スマホじゃできません
■痛車の芸術的センス
愛車を好きなキャラクターで飾る痛車。好みは分かれるが、クルマのカスタムも行うなど完成度の高いものも多い。世界への日本車PRにもつながるはず!(大音)
■ボディのワックスがけ
愛車のお手入れの基本だったワックスがけも、メンテが楽なカーコーティングの普及で、今や少数派に。が、あの独特の艶と愛車を大切にする日本人の心は後世に残したい。(大音)
ボディのワックスがけ。
■ガソリンスタンド店員の気持ちのいい挨拶
ガソリンスタンド店員のテキパキした挨拶って気持ちいい! 今どこか無機質な世の中になっているからなおさら。挨拶の先にある心温まる会話もいいです。が、セルフスタンドの増加で、その挨拶に触れることが減った。これはイカン。無形文化財として、認定&保護すべし。(編集部)
ガソスタの元気のよい挨拶も日本の宝ですな
* * *
いかがだろうか。クルマ界の主役であるクルマはもちろんカタチある有形だが、それにまつわる出来事や行為、カーライフには「無形文化財」として認定・保護してほしいものが星の数ほどあることがわかった。菅首相、保護を頼みます。ぜひとも!
【番外コラム】心が通い合う「マナーのクルマ無形文化財」も保護したいね!
(TEXT/大音安弘)
あおり運転が社会問題化する今、予防手段としてドラレコが注目されるが、同時に、ドライバー同士のマナーも見直され、讃えるべきものもあると思う。
信号のない交差点や細い道での譲り合いの際のハンドサインは、言葉が聞こえなくともしっかりと意思の疎通が図れ、道路の流れもスムーズに。譲った方も、相手からハンドサインや会釈で感謝を示されれば、少し幸せな気持ちになれる。
また、ドライバー同士の思いやりが生むマナーといえば、高速道路などの合流で一台ずつ進入するジッパー合流。日本人らしい美しい行為だ。さらに、対向車へのパッシングによる取り締まりのお知らせは、理不尽な待ち伏せ的な取り締まりに遭わずにすむこともあり、助かることも……。ただパッシング行為はあおり運転の誤解を恐れ、今は控える人も多いし、すすんでやるべき行為ではないだろう。
日本人らしい気遣いのある運転マナーこそ、最も守るべきクルマ無形文化財ではないだろうか。安心・安全のためにも。
渋滞などで一台ずつ車線に入る「ジッパー合流」。美しいです
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みんなのコメント
シエンタはそれをちょっとアレンジしたに過ぎない。