先進性へ驚かずにいられない戦前の傑作
20世紀の量産車として、最高評価を与えるべき1台が、シトロエン・トラクシオン・アバン。前輪駆動にモノコック構造、ウイッシュボーンとトーションバーを用いたサスペンション、ダンパーを備えたエンジンマウントなど、先進性へ驚かずにいられない。
【画像】価値上昇の可能性アリ シトロエン・トラクシオン・アバン 戦前に生まれた傑作たち 全168枚
3速MTをエンジン前方へ配置したフロントミドシップで、優れた操縦性と快適性を両立。戦前のお手頃なファミリーカーでありながら、他社を遥かに凌駕する内容にあった。発売は1934年だが、1957年まで生産が続いたことにも納得できる。
4気筒エンジンには、オーバーヘッドバルブを採用。ドライブシャフトには、現在のCVジョイントへ通じる機構も組まれた。フランス・ジャベルの工場だけでなく、ベルギーや英国でも生産され、コラムシフトの商用バン、コメルシアーレも作られている。
英国では、ロンドンの西へ位置するスラウ工場で1934年に生産は始まり、計2万台がラインオフ。ボディパネルはフランスから輸入されたが、レザーやウッドなどの内装素材にメーター、スイッチ類などは、英国製が積極的に用いられた。
課題はモノコック構造の亀裂と腐食
モノコック構造のボディ前方からアームが伸び、エンジンとMT、サスペンションを支持。堅牢性は高かったが、初期の例には負荷による亀裂も生じている。生産が進むにつれ改良されたが、現存例でも腐食が足を引っ張り、ヒビが見られる例はある。
この亀裂と腐食の対策が、トラクシオン・アバンを維持する上での最大の課題。戦前に設計されたクルマだから、頻繁な点検整備も必要になる。特にグリスアップは重要で、1600km毎に26か所。エンジンオイル交換も、同等の距離で実施した方が望ましい。
スタイリングを手掛けたのは、フラミニオ・ベルトーニ氏。風洞実験を経て、滑らかなフォルムが導かれている。設計を担当したのは、アンドレ・ルフェーブル氏。創業者のアンドレ・シトロエン氏率いる優秀なチームによる、傑作といっていい。
一般的なボディは、今回の例のようなレジェール・サルーン。ロングホイールベースのノルマーレの他、スタイリッシュなロードスターやクーペなども存在する。ダブルシェブロンが誇らしい、クロームメッキ・グリルは標準。サンルーフはオプションだった。
オーナーの意見を聞いてみる
「妻の目を盗んで、2019年にレジェールを買いました。でも、彼女も気に入ってくれましたけどね」。今回の車両を所有する、サイモン・ロイド氏が笑いながら振り返る。
「ロンドンのとあるクラシックカー・ディーラに、トラクシオン・アバンが並んでいて、以前から気になっていたんです。これは1952年式でフランス製。走行距離は6万9000kmで、英国には1990年に来ています」
「内装はオリジナルで、ヒーターは当時物の社外品。エンジンやMTはオーバーホール済みで、ボディは部分的に再塗装してあります。フランスまで走ったこともありますが、扱いやすくて乗り心地は抜群。現代の交通にも対応でき、運転は本当に楽しいです」
「丁寧な変速は必要ですが、ダブルクラッチを挟めば噛みません。いつも整備をお願いしているのは、専門店のデボン・トラクションズ。素晴らしい仕事をしてくれます」
英国で掘り出し物を発見
シトロエン・トラクシオン・アバン・ライト12(英国仕様)
登録:1939年 走行:11万4200km 価格:2万4995ポンド(約525万円)
英国スラウ工場で生産された、右ハンドルのレジェール・サルーン。1980年代に廃車寸前で発見され、徹底的なレストアを経て復活した。エンジンはID 19用の1.9Lユニットが載っている。その後は、大切に維持されてきたという。
ベージュとブラックのツートン塗装は、最近塗り直されたもの。電動パワステに電動燃料ポンプ、オルタネーターを備え、クラッチは新調済みで、日常性を高めている。
シトロエン・トラクシオン・アバン 15/6(英国仕様)
登録:1965年 走行:10万400km 価格:1万3490ポンド(約283万円)
右ハンドルのビッグシックス。英国製で、6年前にレストアを受けている。現オーナーは殆ど走らせていないそうだが、2023年の整備時にクラッチは交換済み。塗装や内装はリフレッシュが必要とのことだが、モノコックの状態は良く、好調に走るらしい。
購入時の注意点やスペックは、シトロエン・トラクシオン・アバン【UK中古車ガイド】(2)にて。
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