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【海外試乗】スペック競争へのアンチテーゼ。「DS N°8」が示すフランス流プレミアムEVの「新しい贅沢」とは

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【海外試乗】スペック競争へのアンチテーゼ。「DS N°8」が示すフランス流プレミアムEVの「新しい贅沢」とは

BEV時代のフランス流品格と走りを調和させた「DS N°8」

プレミアムBEV市場がドイツ勢や中国車も巻き込み激化する中、フランスのハイエンドブランドDSが新フラッグシップとして投入した「N°8」に試乗する機会を得た。N°8は単なる電動ラグジュアリーではなく、スペック競争とは一線を画し、フランス流の美意識と長距離を快適に走り抜ける性能を高度に融合。フレンチ・ラグジュアリーの新たな世界観を提示する一台だ。

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彫刻のようなフォルムに、Cd値0.24の機能美を宿す

一時ほどではないとはいえ、EU圏はカーボンニュートラル目標と、自動車の純BEV化の旗印を決して降ろしてはいない。ドイツ御三家にボルボ、そして中国車までもが今やしのぎを削るプレミアム・セグメントで、フランス車がどのような存在意義を持ちうるか。ステランティス・グループのハイエンド・ブランドであるDSが放った「N°8(ニュメロユイット/英語読みするならナンバーエイト)」は、その問いに対する鮮烈な回答といえる。N°8は単なる電動ラグジュアリーではなく、DS 7、DS 9に続くフラッグシップ・モデルとして、フランス流の美意識と快適性をかけ合わせた独自の世界観でもって、仕立てられている。

フランスとスイス国境を跨いで行われた国際試乗会のスタート地点で、まず目を引いたのは、サルーンの端正さとSUVの力強さを融合させたようなシルエットだ。全長4.82m、全幅1.9mの堂々とした体躯に、全高1.58mと低くはないが流麗なルーフラインが組み合わされており、モダン彫刻を思わせる造形美を放つ。いかにもブランクーシや未来派の作品が好きなフランス人が手がけたデザインといった印象だ。ヘッドライト周りやリアコンビネーションランプは前後ともフルLEDで、一部がブレード状となっているが、単なるデザイン要素にとどまらず空力的な効果も担う。実際、N°8のCd値は0.24と、アウディQ6 e-tronには譲るがメルセデス・ベンツGLCには優り、BMW i4と同等というエリートレベルにある。

伝統と革新が息づく、フランス流ホスピタリティ空間

車内に一歩入れば、フランス的なホスピタリティが隅々まで行き渡っていることを実感できる。広々としたキャビンにはナッパレザーが惜しみなく使われ、シートのとくに背面には時計のブレスレットを彷彿させるブロック状のパターンが認められる。これはオリジナルのシトロエンDSより、2ドアGTのSMに遡るモチーフだが、DS 7クロスバック以降も連綿とDSのハイエンド・モデルのレザーシートに用いられてきた伝統だ。柔らかさとサポートに優れるのみならず、レザーそのものの上質なタッチをも兼ね備えている。

前席にはヒーター、ベンチレーター、ネックウォーマー、マッサージ機能まで揃い、後席にも冷熱に関わる前2者の快適装備が備え付けられる。無論、ステアリングヒーターもある。いずれブルーを基調とした「エトワール」、白とブルーを組み合わせた「パレス」、室内全体のトーンの明暗によってそれぞれが独特の雰囲気を醸し出す。

クルー・ド・パリ模様のステアリングがもたらす直観的な操作性

インターフェイスも徹底して練られている。クルー・ド・パリ模様を施したX型ステアリングホイールは一見奇抜だが、実際に走行中に扱ってみると自然と手に馴染む。やや上寄りを握るポジションでも、9時15分でも、指や手のひらの掛かりがよい。それでいてステアリング内の中央左右に置かれた集中コマンドも、快適に操作できる。さらに3段階の回生ブレーキは、このコマンドの裏にまとめられたパドルで切り替えられる。ワンペダルモードの切り替えのみ、コンソール側にボタンスイッチとして配されるなど、操作体系は直観的で分かりやすい。きわめてロジックかつ審美的に練られたインターフェイスなのだ。

そして12.25インチのメーターパネル、16インチのセンターディスプレイは、水平基調でワイドな空間を強調する。14スピーカーを備えたフォーカル・エレクトラ3Dサウンドシステム搭載車なら、ドアパネル前方にメインスピーカー×2が廃されている。視覚・聴覚的な体験もインテリアのデザインと一体なのだ。

巨大なパノラミックルーフは光量によって変化するティンテッドガラスで、天頂方向の開放感を格段に高めるだけでなく、アールデコのような放射状のグラフィックも入れられている。デザインのためのデザインではなく、ひとつの世界を創り出しているのだ。

速さより「余裕」。最大航続距離750kmがもたらすもの

走行性能においても、N°8はこれまでのBEVの常識を軽く裏切って見せる。プレミアム・セグメントのBEVとしてWLTPモードでトップとなる最大航続距離750kmを謳っているのだ。今回試乗したFWDのロングレンジ仕様は97.2kWhのバッテリーを搭載し、400Vのシステムだが、最大トルクは343Nmとごくごく絞られ、0-100km/h加速は7.8秒に過ぎない。最高出力は245㎰だが当然、公道で不足はなく、むしろ息の長いリニアな加速フィールに悠然とした力強さ、上質さが伴う。とにかく加速性能を無闇に競うBEVでないことは確かだ。ちなみにAWD仕様は350ps・509Nmと、ある程度はスポーティ仕立てではあるが、いずれにせよ瞬発力よりも、「長距離を優雅に走り抜ける余裕」に重きが置かれている。

もちろん、このロングレンジぶりはパワートレインで実現するのみならず、EVルーティング機能や、ルート上の地形や交通状況をも加味して制御に反映させるDSドライブアシスト2.0といった機能も組み込み、日常使用での再現性を高めている。また音声認識インターフェイスでもあるDSアイリスに車内インフォテイメント用のAIが組み込まれるなど、DS N°8はインテリジェント機能に積極的といえる。

2.2トンの巨体を忘れさせる「まろやかスポーティ」な走り

走りについても述べよう。BEVとしてご多分に漏れず、車両重量は2.2トン弱、正確には2180kgに達する。しかも車速や姿勢に応じて左右輪の駆動力を変化させるベクタリング制御を一切使っていない。にもかかわらず、N°8のハンドリングは驚くべきニュートラル・ステアを保つ。硬く締め上げた足周りではなく、適度にロールを許容し、4輪の接地感が高い解像度で伝わってくる。無論、ドライビングモード切替えでノーマルの他にエコやコンフォート、スポーツを選ぶこともできる。

総じて滑らかな路面ばかりでもないワインディングで、進化したDSアクティブスキャンサスペンションは路面状況を先読みし、しなやかに減衰力を変化させる。21インチホイールを履きながら硬さはまるで感じさせず、BEVにありがちな低速域で細かく間断なく訪れる縦揺れもない。これらは2900mmのロングホイールベースに負うところも大きいだろう。ひと言でいうなら「まろやかスポーティ」なのだ。

もうひとつのN°8の美点とは、静粛性にある。フロントと前後左右ウインドウのアコースティックガラスと多層構造の遮音材によって、高・中周波域の重点的に遮断している。かくして音楽や会話が心地よく響く車内空間を作り出し、「ダイナミック・セレニティ(動的な静謐)」という撞着語法のようなコンセプトを、見事に実現している。

N°8がもたらすものは、分かりやすく見せびらかしやすいキラキラ感とか、踏めば即アドレナリンが分泌されるといったタイプのラグジュアリーではない。日常的に使う/乗ることを通じて、徐々に深まっていく満足感や充足感の方に重きがある。プレミアムBEVとはフレンチ・ラグジュアリーの新領域なり。そんなマニフェストといえる一台になっているのだ。

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文:LEVOLANT 南陽一浩
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みんなのコメント

1件
  • Dr. MAX
    DSのエンブレムが無ければ何故か中国メーカーの車にみえてしまう。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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