アルファタウリの角田裕毅は、F1参戦3年目を迎えた2023年のシーズン前半戦で見事なパフォーマンスを見せた。マシンの戦闘力が苦しい中でも3度の10位入賞を果たしたことは、結果以上に高い評価を受けている。
そんな角田を支えている裏方のひとりが、パフォーマンス・コーチを務めるマイケル・イタリアーノだ。彼はこれまでダニエル・リカルドを担当していたが、リカルドが2022年限りでF1を離れたため、2023年の開幕前から角田を担当している。
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イタリアーノは、角田としっかりと関係を構築してからその仕事を始めたわけではなかったが、すぐに友人と言える関係を築いたようだ。
「僕はこれまでひとりのドライバー(ダニエル・リカルド)としか仕事をしたことがなかったんだ。だからちょっと興味があった。(2022年の)最終戦アブダビで30分ほど会ってコーヒーを飲んだだけだったからね」
イタリアーノは、motorsport.comの独占インタビューでそう語った。
「30分のコーヒー(ミーティング)では、多くのことは測れない。だからそのミーティングは、ユウキが変化に満足しているかどうかを確認するためのものだった。そして彼は満足していた。その後は文字通り、オフシーズンのトレーニングキャンプのためにドバイで会ったんだ」
「ファエンツァに行って1日か2日、彼と一緒に過ごして仲良くなる、という感じではなかった。ドバイに直行したんだ! すぐにお互いを知るしかなかった」
「ドバイでは一緒にいる時間が長かった。頭の中では『(すぐに友達になることを)押し付けるな。ありのままの自分でいて、様子を見よう』と思っていた。2人の相性が合えば、自然にそうなるものだろ? ありがたいことに彼は私のくだらないユーモアを気に入ってくれた。彼はそれを笑ってくれるし、『ああ、これはイージーだ!』と思ったね」
角田はF1のポッドキャストで、トレーナーと友人のような関係を築く方が好みだと語っていた。イタリアーノの同じような考えを持っており、今やすっかり角田と仲良しになっているようだ。
「ダニエルとは長い付き合いだったから、友達だった。だからユウキがトレーナーが友達である必要があるというのは理解できる。コーチとしての役割を楽しむためには、友達的な要素があったり、仲が良かったりする方がいいんだ」
そうイタリアーノは語った。
「ユウキはロンドンであまり過ごしたことがない。私は6年間住んでいるから、ロンドンのことはよく知っている。だから、彼がロンドンに着いたとき、『僕がまだやったことのないことを見せてくれ』って言ったんだ」
「そこで私は彼をバーチャルリアリティのゲームセンターに連れて行ったんだ。VRゴーグルを装着して、文字通り360度3Dの部屋に入るんだ」
「彼はシューティングゲームが大好きだ! だから、一番怖いゾンビゲームを選んだ。それで装備をつける前に、彼は……すごく緊張してるのがわかったんだ!」
「大丈夫か聞いたら、『ゾンビは嫌いだ!』って言うんだ。ゲームを変えないかとも言っていたけど、それを外から撮影した動画はかなり面白いよ」
「最初のゾンビが僕らに向かってくるとき、彼は『こんなことしたくない! こんなことしたくない!』って叫んでいたんだ。でも最後には気に入って、ゴーグルを外したがらなかった。彼は最も多く切るして、最後に自慢する権利を得た。でも最初はちょっと弱気でおかしかったよ」
「彼は僕の家族にも会ったし、僕の彼女にも会った。そして、みんなで夕食を食べたんだ」
角田といえば、彼がいつかレストランを開店したいと思っていることはご存知の方も多いだろう。イタリアーノとは食の好みも近いようで、その面でも相性は抜群のようだ。
「そう、彼は大の食いしん坊なんだ。彼は食べ物が大好きなんだ。僕も料理が大好きなんだ。だから、毎晩、夕食にどこに行こうか、みたいな感じで、それが彼のちょっとしたモチベーションになっているんだ」
「いろんな国に行って、その土地の料理を食べてみる。美味しいレストランに行く。私もそれが好きなんだ。だから、それはとてもいいことなんだ」
「彼も僕もスパが大好きだし、今のところ彼が好きなものは私も好きなので、かなりラッキーと言えるかもしれない。彼の好きな料理はイタリア料理と日本料理だ。私と同じ。だからイタリアンと日本食をよく食べるんだ」
デビュー当初の角田自身のコメントの通り、彼がトレーニング嫌いなドライバーであるという印象を持っているファンも多いかもしれない。実際、F1ドキュメンタリーのNetflixのF1ドキュメンタリー『Drive to Survive』の中で、「朝からトレーニングさせられて一日が台無しだ」と言っているシーンもある。
しかし、彼の身体つきの変化を見ても分かる通り、角田がしっかりとトレーニングをしているのは明らかだ。イタリアーノも角田にトレーニングをさせようと苦労していることはないという。
「彼は変わったと思うよ。彼がトレーニングが嫌いだとは思わない。トレーニングの重要性を理解していると思う」
「私がこのチームに加わってから、彼はとてもハードにトレーニングをしてきたけど、彼は文句を言ったことがない。なぜこんなことをする必要があるのか、と聞いたこともない。予定外の休みが欲しいと言ってきたこともない」
「うん、まあ(ネットフリックスは)見なくても良かったかもね! 僕は一歩下がって、彼がどうやってトレーニングしているのか、何が彼を突き動かしているのか、彼がどう反応するのかを見ていた。コーチングには常に様々な方法があるんだ。ドバイで少し実験して、何が本当に彼をやる気にさせ、何がそうさせないかを突き止めたんだ。とてもクールだったよ」
成長する角田裕毅、でも歌は勘弁?
角田のイメージとして、無線で怒鳴るドライバーだという印象も多いのではないだろうか。彼が生み出した『トラフィック・パラダイス』というフレーズも他のドライバーに使われるなど愛されているが、イタリアーノ曰くその面でも角田は成長を見せているという。
「無線は成熟の証と言えるかもしれないね。年齢を重ねるにつれて、自然に成熟していくものだと思う。ここ2、3年の怒鳴るような状況は、おそらくユウキが自分の感情をうまくコントロールできていなかったんだと思う。彼はそれについてとてもオープンにしている」
「そう、僕らは良くなっているんだ。バルセロナ(スペインGP)でペナルティを受けたとき、彼は無線で怒鳴ることもなく、エンジニアに敬意を払って冷静に対応した。だから、これは今年のハイライトだと思う」
「彼はクルマの中で落ち着いているとき、とてもいいドライブをすることを自覚しているからね。感情に流されるとミスをする。だから、彼がもう少し感情をコントロールできるようにするのは、ちょっと譲れないことなんだ。それは自然なことだと思うよ。彼は22歳だ。私が22歳のとき、自分の感情をコントロールできなかった。そして大人になるにつれて、自分自身についてもっともっと知るようになる。そうすれば、もう少しコントロールできるようになる」
「残念ながら、F1では時間がない。スポットライトを浴びているのだから、普通の人や普通のティーンエイジャーよりも早く適応する必要がある。だから、彼はハードワークをしているんだ。今年が終わるころには、怒鳴るような無線はなくなっていると思うよ」
しかし、角田が移動中に車中で歌う歌に関しては、複雑な印象を持っていると彼は明かす。
「彼は歌が大好きなんだ。車の中で彼を黙らせることはできない。とにかく歌いたがるんだ」
「彼はJポップを歌うから、彼の歌を聴きながら日本語を勉強しているんだ。でも、彼はアコースティックな、ソフトなアコースティック・カントリー・ミュージックも好きになってきた。彼は今、ジギー・アルバートの曲を少し歌っている。彼の曲は好きなんだけど、ユウキが歌っている彼の曲は好きじゃないんだ(笑)」
前述したようにリカルドがF1を離れたことが、イタリアーノが角田を担当するきっかけのひとつとなったが、数奇なめぐり合わせだが、今やリカルドはF1に復帰し角田のチームメイトとなっている。
リカルドと仕事していた時との違いについて訊かれ、イタリアーノは次のように答えている。
「ダニエルはシニアドライバーのようなもので、かなり確立されていた。彼はすでに長年にわたってプロとしての資質をかなり強く築いていた。だから、それを維持することと、少しずつ向上する方法を見つけることのほうが重要だった」
「一方でユウキは若手で、自分の地位を築こうとしている。3年目は勝負の年と言えるかもしれない。もし改善の兆しを見せなかったり、本当に良い兆候を示さなかったりしたら、おそらく次の若手ドライバーが入ってくるだろう?」
「コーチングのスタイルはまったく違うんだ。先ほども触れたように、彼のモチベーションの上げ方はダニエルのモチベーションとはかなり違う。だから、コーチとして調整する必要があるんだ。ユウキの目標はダニエルとはまったく違う」
勝負の年に、まさに相性バッチリの相棒に支えられ、躍動している角田。サマーブレイクはしっかりと身体を休めるとともに、後半戦に向けてイタリアーノと共にトレーニングを積んでいることだろう。
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