F1は10月10日、ピレリとのタイヤサプライヤー契約を2027年まで延長したことを発表した。このプレスリリースには、ピレリ以外にももうひとつのタイヤメーカーの名が記されていた。ブリヂストンである。
ブリヂストンも、2025年からのF1復帰を目指し、F1側との交渉に当たっていた。同社は2010年いっぱいでF1から撤退しており、契約が実現していれば、15年ぶりのF1復帰になったはずだ。残念ながら今回復帰は叶わなかったが、それに向けて同社が本腰を入れて動いていたのもまた事実。ゆえにF1のステファノ・ドメニカリCEOがプレスリリースの中で「印象的な提案と仕事ぶりを賞賛したい」と、ブリヂストンについて言及したのだろう。契約を結ばなかったメーカーの名前がプレスリリースに載るのは、まさに異例中の異例とも言える。
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ではなぜブリヂストンはF1への復帰を目指したのか? 同社からの声明も発表されているが、motorsport.comから直接問い合わせをすると、書面での回答が寄せられた。
F1は最高時速300km/hを超えるスピードで走る。しかもそのタイヤはスリックタイヤであり、市販車用のそれとは大きくかけ離れているように見える。しかしながら以前F1に参戦していた時に開発された基礎技術は、市販車用の低燃費タイヤなどの開発に活かされた。
今回復帰を目指した理由も、技術開発や人材育成という目標があったという。
「F1に限らず、モータースポーツは当社にとって”走る実験室”であり、極限の環境の中で技術開発力、生産供給力、ブランド力、人材育成を磨く場です」
ブリヂストンの回答にはそう書かれている。
「例えばモータースポーツで磨いた様々な技術・開発力は、市販用タイヤにもフィードバックしています。また、短時間で転戦するレースタイヤ供給など極限の環境でのオペレーション力も、当社ビジネスの基盤となる総合力に繋がっています」
「F1は、グローバルなモータースポーツの最高峰として素晴らしいプラットフォームと認識しています。このため、当社が”サステナブルなグローバルプレミアムモータースポーツ活動”を推進し、”走る実験室”としての技術イノベーションの加速とブランド力強化を推進していくにあたり、様々な可能性がある中で(F1は)相応しいプラットフォームの一つと考えていました」
なおF1にかかわらず、昨今のモータースポーツ界では、環境対策、持続可能性(サステナビリティ)というキーワードも重要視されている。今回の契約交渉の中でも、このサステナビリティをどう実現するかという点も重要視されていたという。
燃料では、電力を使ったり、活用できていなかったエネルギーを回生して使ったり、さらには石油由来ではない燃料を使ったり……そういう形でサステナビリティを実現しようとしている。ある意味わかりやすい。しかしモータースポーツ用タイヤは再利用が難しいと言われるなど、サステナビリティという観点ではイメージしにくいのが実情だ。
これについてブリヂストンは、次のように説明する。
「当社では、タイヤ単体にとどまらず、バリューチェーンの上流から下流まで(商品を創って売る、使う、原材料に戻す)のサステナビリティを実現することが重要で、これを推進することはタイヤ/ゴム業界のリーディングカンパニーである当社の役割であり、責任であると考えています」
「その実現に向け、サステナビリティを当社の経営の中核に据え、バリューチェーン全体でカーボンニュートラル化、サーキュラーエコノミー(循環経済)の実現にフォーカスする取り組みと、ビジネスモデルを連動させるサステナビリティビジネスモデルの確立を進めています」
「なおモータースポーツ用タイヤにおいては、具体的にはタイヤ原材料における再生資源・再生可能資源比率の向上、走行距離が長く軽量なタイヤの開発、使用済タイヤのリサイクル推進などの取り組みを推進しており、サステナブルなモータースポーツに向けた仕組みづくりを加速しています」
ただ、今回の次期F1タイヤの入札において、技術面や素材面など、どんなサステナビリティ施策を提案したのかということについては「検討内容については、交渉に関することであり回答を控えさせていただきます」との回答に留まった。
なお、ピレリが今回契約したのは2027年まで(2028年はオプション)。一説には、ピレリはこの次期契約を最後に、F1活動を終了させるのではないかと見られており、ブリヂストンはその後でF1タイヤサプライヤーに就任するのではないかと言われる。
これについて「次期タイヤサプライヤー選考への参加を検討する予定があるのか?」と尋ねると、次のような回答が寄せられた。
「今後も様々な可能性を継続検討致します。特定のレースに関する検討状況についてはコメントを控えさせていただきます」
ブリヂストンが再びF1に参戦する日はやってくるのだろうか?
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