1年おきに美術と建築の国際展を開催する世界最大規模の芸術祭「ヴェネチア・ビエンナーレ」。2025年は「第19回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展」が開催されている。5月の内覧会を視察した筆者が、ジャルディーニ会場に林立する恒久設置の国別パビリオン、日本館とその関連展示をレポートする。
今年の国際建築展のテーマは「Intelligence. Natural. Artificial. Collective.」(知性、自然、人工、集合体)。66カ国のパビリオン展示の主流だったのは、建築に蓄積された「知性」を総動員して、地球規模の気候変動という喫緊のイシューに挑もうとするプレゼンテーションだった。
7月5日・6日開催の「GQ JAPAN クリエイティブ・ウィークエンド」、参加受賞者たちの展示作品や見どころを紹介!
ベルギー館は建物の中に森林をつくり、植物の持つ知性を利用して室内環境を調整する試みを探求する。デンマーク館ではパビリオンの改修工事のプロセスそのものを見せ、廃材を領域横断的にリサイクルする型破りな方法を探る。ドイツ館では迫り来る猛暑に都市が覆われるグラフィックな映像を見せ、その灼熱を体感した来場者にレジリエントな都市計画のための解決策を提示した。
人権や共生問題を主テーマにした北欧館一方で、人権や共生の問題にアプローチしたパビリオンもある。北欧館(フィンランド、ノルウェー、スウェーデン)では、柱に突き抜かれたグラフィティだらけの車やコンクリートスラブのシェルターといった暴力性を想起させるインスタレーションが展開された。トランスジェンダーのアーティストが烈しいパフォーマンスを行い、標準化された近現代建築の環境がその中で機能する身体をも規制している状況を批評的に表明した。
オランダ館はオルタナティブなスポーツ・バーを展開。
文化の縮図であるスポーツは集団のアイデンティティや一体感を形成するが、均質化や分断、排他性の温床ともなりうる。ここではインクルーシブな未来社会の力学を検証する架空のチームスポーツを提案し、来場者はユニフォームやタオルなどを身につけて実験に参加することができる。
ポーランドは建築の安心感に着目エシカルな展示が多い中、ほっこりさせるのがポーランド館だ。気候や戦争など外界の災禍から人々を守ってきたシェルターとしての建築の「安心感」に着目。雷除けの蜜蝋燭や幸運を受け止めるU字型の蹄鉄飾りなどの伝統的慣習から、現代の守護神である消火器や防犯カメラを祀った装飾的な祭壇まで、見過ごされがちなディテールに建築の本質を見出した。
人間とAIなどの外界の「間」に生まれる対話──青木淳がキュレーションする日本館そんな中、建築家・青木淳が企画する日本館展示「中立点」(英題:In-Between)は異彩を放っていた。急速に進化する生成AIが人間を凌駕する地点が近づく現代。本展では「知」とは何かを問い直すべく、日本古来の空間的・時間的・意識的概念である「間(ま)」を提案する。人間主体でもなく、外界(自然環境やAIを含む人工物)主体でもなく、両者の「間」に生まれる対話に主体を置くことで、その緊張関係の中に宿りうる「第三の知性」に賭けてみようというみずみずしい考え方だ。
日本館の建物は、階段を上がった2階展示室と1階ピロティの半屋外空間によって成り立ち、天井に空けられた穴を通してもう一方の空間が垣間見られるのが特徴。本展では、キュレーター青木とキュラトリアル・アドバイザー家村珠代のもと、藤倉麻子+大村高広、砂木(木内俊克&砂山太一)の出展作家2組がそれぞれ2階と1階の展示を担当した。藤倉+大村が手がけた2階の映像インスタレーションでは、日本館を構成する建築的要素(天井の穴、柱、植栽、動線など)に生成AIが憑依したと想定し、館の改装案をめぐる “ギクシャクした“対話から、人間と生成AIの「中立点」を浮かび上がらせようとする。一方、砂木が手がけた1階の展示では、フロアを繋ぐ虚ろな「穴」や目に見えない「動線」の関係性を抽出した。2階の映像インスタレーションの「穴」の発話に連動して明滅する光を反射する銅板のオブジェクトや、日本館の動線を断片的にトレースする植物のポットなどにより象徴的に可視化している。
日本館の展示は、いくつもの条件が複雑に絡み合い、異質なエレメントがとりとめのない対話を繰り広げる「社会」そのものをアクチュアル/フィクショナルに表現するものだった。さらに各国のパビリオンが道徳的な観点から真っ当な問題解決策とその建築的実践を提示したのに対し、日本館はむしろ現代美術的な角度から「可能性に満ちた問いかけ」を起点とする新しい世界認識を示唆した。異物が交差し対立する局面、答え合わせを求めない対話、その「間合い」のテンションからは、知性や理性だけでなく感覚に強く作用する刺激を受けた。脆弱な人間にとって不安に怯えるだけでない未来のために、あえて誰も操作できない中空に浮かせた「知」のありかに皮膚感覚で希望を感じた展示である。
また、日本館展示に呼応する関連展示として、若手作家の活動支援など日本の現代美術振興に寄与する活動を行うanonymous art projectの主催により、ヴェネチア市内の歴史的建造物を舞台に2組のアーティストの展覧会が開催されている。
ヴェネチア国立考古学博物館の中庭と展示室内では、鬼頭健吾「LINES」が開催。カラフルな角パイプが鏡面の台座に並ぶ本作の出現によって、現代的な色彩と造形が小気味よく場の空気を一新させた。鬼頭はヴェネチアの都市に堆積した歴史を読み解きながら、古典と現代の創造性が対峙するヴィヴィッドな「間合い」を示す。
蜷川実花 with EiMのインスタレーションにも注目蜷川実花 with EiM「INTERSTICE」では、もとは貴族の私邸であったパラッツォ・ボラーニの3つの部屋を使って壮大なインスタレーションを展開している。いずれの作品も、光と影、生と死、自然と人工といった相反する要素の接点を探り、それらを断絶ではなく新たな関係性を生むつながりの場として体感させようとする。
彼らもまた「中立点」という概念の持つ可能性を現代美術のアーティストならではの視点で考察し、既存の世界認識を超えていく広がりのある展示を実現した。建築展のいかにもエシカルな生真面目さに少々気詰まりを感じた鑑賞者に<覚醒>をもたらす機会となるはずだ。ぜひとも足を運んでほしい。
第19回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展 日本館展示 「中立点(英題:In-Between)」会期:~11月23日(日)
主催:コミッショナー|国際交流基金
キュレーター:青木 淳(建築家、AS Co. Ltd.代表)
キュラトリアル・アドバイザー:家村珠代(インディペンデントキュレーター、多摩美術大学教授)
出展作家:藤倉麻子+大村高広、砂木(木内俊克&砂山太一)
公式サイト: https://venezia-biennale-japan.jpf.go.jp/j/architecture/2025
第19回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展 日本館展示「中立点」関連展示鬼頭健吾「LINES」会期:~ 9月28日(日)
会場:ヴェネチア国立考古学博物館 中庭と展示室内
住所:P.za San Marco, 17/52, Venezia, Italy
時間:10:00~17:00 ※入館は16時まで
料金:博物館入館料 8ユーロ (中庭は無料、展示室内は有料) ※今後入場料変更の可能性あり
主催:anonymous art project
キュレーション:拝戸雅彦
蜷川実花 with EiM「INTERSTICE」会期:~ 7月21日(月・祝)
会場:Palazzo Bollani
住所:Castello 3647, Venezia, Italy
時間:11:00~19:00
休館日:月曜日 (7月21日を除く)
料金:無料
主催:anonymous art project
キュレーション:木村絵理子 (弘前れんが倉庫美術館館長)
文・住吉智恵 編集・橋田真木(GQ)
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