「跡地どうするの?」従業員の問いがキッカケに
トヨタ自動車は静岡県裾野市で、次世代のモビリティやサービスの実証テストを行う施設「Toyota Woven City(以下、ウーブンシティ)」を建設しています。2025年9月には「第一期エリア」がオープンを迎え、テストコースだけでなく、まるでひとつの都市を新しく造ったような施設の一部がこのほど公開されました。
【まるで未来の街?】これがトヨタの新「テストコース」です(写真で見る)
旧東富士工場の跡地を活用したウーブンシティの敷地は広大で、大部分がまだ建設中です。現時点ではどんな目的で何を行う施設なのか、まだ謎が多いと感じます。特に、トヨタはこの施設を次世代の「スマートシティ」ではなく、あくまで「モビリティのテストコース」だと宣言しています。その理由や根拠はどこにあるのか、取材しました。
厳重なセキュリティゲートを通過してまず目に入ったのは、瀟洒(しょうしゃ)な集合住宅や広場、カフェやコンビニといった商業施設。そして、その周りをぐるりと囲むように整備された400mほどの道路です。この時点で“街”の雰囲気を強く感じますが、すでにウーブンシティには居住者もいます。まだトヨタ関係者の数世帯のみが居住しているとのことですが、将来的にはおよそ2000人の入居を見込んでいます。
それから案内されたのは、住居エリアの一角にあるウェルカムセンターです。ここではウーブンシティの概要や、なぜトヨタがウーブンシティをこの場所に作ったのか、パネルや動画で学びます。
ウーブンシティが整備される前の旧東富士工場は、2011年の東日本大震災の後、生産拠点を東北へと順次移管する“トヨタらしい復興支援”の一環として閉鎖が決まりました。その際、工場の従業員と豊田章男社長(当時)が直接対話し、ある従業員が勇気を振り絞り「東北の工場へ行って働くことができない仲間たちがいる。社長はこの跡地をどうするつもりなのか?」と問いかけたのだといいます。これが、ウーブンシティ構想のきっかけとなりました。
そして「実証実験の街の歩き方」のパネル展示では、施設内で新しいプロダクトやサービスを開発・実証する人たちのことを「インベンター(発明家)」と呼び、住む人・訪れる人を「ウィーバーズ」と呼ぶことなどが説明されています。当然、ウィーバーズには報道陣や一般のツアー客も含まれ、私たちは専用アプリを使って、自由に好きな実証実験に参加することが可能です。
たとえば何かモノを買ったり、イベントに参加したりすることや、モビリティに乗って感想を伝える、アンケートに答えるなどのアクションを通じ、我々はサービスやプロダクトの開発に関われるのです。参加した人たちは、学校の授業でちょっとしたメモをとるような感覚で、付箋用紙に感想や意見を書き、パネルに貼っていきます。これらは来訪者が自由に見られるようになっていました。
歩行者は常に「青」の信号?
続いて、ウェルカムセンターから徒歩で外に出ます。目の前の道路には横断歩道と信号機があり、定期的に運行している自動運転バスの「e-Palette」や、ほかのパーソナルモビリティなどが走っています。しかし不思議なことに、ここではモビリティ側の信号が常に「赤」で、逆に横断歩道の歩行者用信号は常に「青」なのです。
この信号は、実は新しいシステムの実証実験中。モビリティと信号は通信で連携しており、モビリティ側が信号機へ接近すると、その時だけ青に変わるため、赤信号での停車が発生しないようになっているのです。
ウーブンシティ内にはこのように、センサーやカメラなどが内蔵されている「多機能ポール」がいくつも設置されており、今後、新しいインフラをテストする際は、設定を柔軟に変えながら実証を行っていくことが想定されています。
また、信号機はモビリティから情報を受信するだけでなく、カメラで車両の接近を認識して、信号を変えることもできます。この機能の実験車両のひとつが、1人乗りパーソナルモビリティの「スウェイク」です。
スウェイクはLUUPなどと同じ、最高20km/hの特定小型原付に属する乗りもの。16歳以上なら免許なしで乗ることができる、前1輪+後2輪の3輪モビリティです。現在ウーブンシティ内では10台程度が運用中で、服装を気にせず、立ち乗りでパッと乗ることができます。後輪が2つある3輪としたことや、背もたれを設けたことにより、安定した姿勢で乗れるのもポイントです。
また、3輪にしたのは安定性向上のためだけでなく、モビリティを操る楽しさを感じてもらいたかったからとのこと。カーブなどで車体をリーン(傾けること)しながら操れるように設計されており、デモランでは慣れている人がカーブで大きくリーンさせながら、しなやかにスウェイクを走らせている姿が楽しそうでした。
ロボットがクルマを玄関まで連れてきてくれる!
次に見たのは、自律走行ロボットの「ガイドモビ」です。このロボットは、カーシェアに関わる新たなサービス「サモンシェア」の鍵となる存在で、シェアする車両を、住民がアプリで指定した場所まで“連れてきて”くれるのです。
ガイドモビは一見すると、空港などで見かける警備ロボットを大きくしたような印象ですが、自動運転に必要なセンサーやコンピューターが全て埋め込まれており、しっかりとした大きな車輪がついているのが特徴的です。建物内など限定された場所ではなく、舗装された道路での走行を想定しているのだと感じました。
ガイドモビが先導するカーシェア車両は、完全自動運転の装備がなくても、「トヨタセーフティセンス」の搭載車で、かつ小型の通信機を後付けしていれば、どんな車両でもOK。カーシェア車両のアクセルやブレーキ、ハンドルなどの操作は全てガイドモビが考えて通信制御するので、連なって走ることができるという仕組みです。
イメージとしては、電子的にクルマをレッカーで運んでいるような感じでしょうか。現在はテスト中のため、カーシェア車両にはスタッフが乗車していますが、基本的には完全な無人化を前提としたシステムです。ガイドモビさえあれば、利用者の元までクルマを運転して運ばなくて済み、また自動運転専用のシェア車両も必要なくなるのがメリットです。
ガイドモビによって、現在クルマは呼べば10~15分程度で来てくれます。また、帰りも「返却リクエスト」をすると、指定した場所まで連れて帰ってくれるのが便利。玄関先で荷物を下ろしてから、再び返却場所へ運転していく手間が省け、空港などで離れた場所に停めたマイカーと、送迎車を入れ替えるような手段としても有効ではないかと感じました。
トヨタでは、ディーラーでの車両搬送などの用途も想定しているといいます。当面の課題は、最高速度が8km/hなのと、一度に1台しか先導できないことだそうです。
ウーブンシティでは、こうした新しいプロダクトやサービスが、スタッフと住人や来訪者によってテストされています。自分の何気ないアイデアやひと言が、トヨタの知見や技術との“カケザン”につながる。それが世界を変える、まだ存在しない価値を創るきっかけになるかもしれない。ウーブンシティはそんなワクワクに満ちた、“暮らしのテストコース”なのだと感じました。
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