カワサキモータースジャパンが9月に日本導入を発表したオフロード4輪バギーがついに日本に上陸した。これに合わせて12月に説明会と試乗会が開催されたので、この見慣れない乗り物のインプレッションや販売戦略などを解説したい。
また、2021年10月に川崎重工業グループで初の女性トップに就任したKMJ桐野英子社長に、なぜ日本にオフロード4輪を導入するのか聞いてみた。
カワサキ初の女性トップが日本でオフロード4輪を発売! どこで乗るの? どう遊ぶの? その世界観を調査した
文/市本行平、写真/木村圭吾、カワサキモータースジャパン
オフロード4輪バギーは乗用車とは全く異なる目的の乗り物
カワサキモータースジャパン(KMJ)が新たに日本で発売するオフロード4輪バギーは、アメリカで生産したものを日本に輸入して販売される。主な市場は北米で9割以上を占める。他にはオーストラリアなど広大な国土を有する国が多い。
オフロード4輪バギーは、ATV(All Terrain Vehicle=全地形対応車)という跨って乗る4輪車が発展したもので、元を辿るとバイクから発展したもの。メーカーにはカワサキやヤマハ、ホンダなど世界で事業展開する日本のバイクメーカーが名を連ねている。
中でもカワサキは1988年にオフロード4輪バギーを初めて発売したパイオニアとして知られており、今後も注力する分野としている。2030年の市場規模は2019年の7000億円から2兆円に成長すると予想されており、カワサキは25%の獲得を目指している。
だが、日本でオフロード4輪を販売する目的は「売り上げを期待している訳ではありません。この素晴らしい乗り物を日本の方にも楽しんでいただきたい」と、国内での販売をスタートさせるKMJ桐野社長は言い切った。
カワサキが4輪を売る目的は、バイクと同じように同社のスローガン“Let the good times roll(楽しんじゃえ!)”を実現する一環。そのために「日本でも需要を創出します」と桐野社長は語る。今後日本でどう“楽しめる”かは、販売店の取り組みを後述したい。
テリックスKRX1000 [KAWASAKI] カワサキのオフロード4輪バギーのフラッグシップモデル。価格は363万円でカラーバリエーションはライムグリーンのみとなる
【試乗】バイク並みの楽しさなのにテクニックは不要
結論から先に言ってしまうと、オフロード4輪バギーは「バイク並みの楽しさを簡単操作で得られる乗り物」。オフロードバイクで荒れていたり滑りやすい路面を走る際は全身を使ってのバランス操作が必要だが、オフロード4輪は体力を消耗させることなく走れてしまう。
もちろん特別なテクニックは不要で、オートマ車が運転できれば操作は問題ない。試乗したコースには、まず公道ではお目にかかれないような急勾配があり、勇気を出して進んで行くと「こんなに簡単でいいの?」という感じで通過できてしまうのだ。
そして特に凄かったのは、最もスポーティな「テリックスKRX1000」。4輪としては超軽量な860kgの車体に114PSのパワーでバイクのような弾ける加速に興奮。普段乗る乗用車とは全く違った感覚で、コーナーでは簡単にドリフトしてくれるのが楽しい。
さらに、カワサキのテストライダー(ドライバーとは言わない)のデモ&同乗体験では、大岩がゴロゴロしている急坂を4つのタイヤを目いっぱい動かしながらトラクションさせてヒタヒタと登っていく様が圧巻だった。
バイクと同等以上の非日常感覚を4輪ならではの運動性能で転ぶこともなく楽しめてしまう。こんな乗り物は今までなかっただろう。
テリックスKRX1000で走行する筆者。4輪車でも高揚感はバイク並みに味わえるのが分かった。それもテクニックだけでなく体力も体格もいらないので、女性でも楽しめるはず
車室やエアコンなしのシンプル装備、ナンバー取得は基本不可
カワサキのオフロード四輪バギーは、災害救助など用途が限定できる官公庁向けでは大型特殊として登録できる場合があるが、その他ではナンバー登録は不可としており基本はクローズドコース専用となる。
どの車種も2輪駆動/4輪駆動の切り替え式で低速/高速のデュアルレンジCVTを採用。急坂ではシフトレバーを「L(低速)」に入れるだけで、下りでもエンジンブレーキが強く効くので安心だ。「H(高速)」では車種によるが最高速80~100km/hで走れる。
エンジンは3種類あり、最上級のテリックスKRX1000は並列2気筒999ccで114PS、テリックス4SはV型2気筒783ccで58PS、ミュールは並列3気筒812ccで48PSのエンジンを採用している。エミッションはアメリカとカリフォルニアの規制をクリアしているという。
足回りは、テリックスKRX1000のみリアが4リンク式トレーリングアームで、他は全てダブルウィッシュボーンを採用。ホイールトラベルはKRX1000は500mm前後、テリックス4が250mm強、ミュールは220mm前後を確保し荒地でも高い走破性を発揮する。
いずれも車室はなくシートベルトとロールケージが安全装置となる。ヘッドライトやテールランプを装備するが、ウインカーやバックミラーなど非装備だ。
日本で発売されるオフロード4輪車は2ブランド4モデル。手前からテリックスKRX1000(2人乗り)、テリックス4S(4人乗り)、ミュールプロ-FXTで3人乗りと6人乗りがある
2023年にはオフロード4輪専用コースで気軽に楽しめる!?
オフロード4輪バギーは毎年一定数が並行輸入されており、KMJは日本でも需要があると分析している。ターゲットを一般ユーザー、農場などでのワークユース、スキー場などでのレジャーリゾートユース、官公庁向けの特殊需要の4つに絞って販促活動を行う戦略だ。
販売台数は2022年度は8店舗からスタートして40台を計画、2024年には20店、200台の販売を目指しており、「将来は5割以上を一般ユーザー向けに販売したい」(営業部門、又川氏)という。これと関連して販売店「房総マリーナ」(千葉県いすみ市)の取り組みが注目されている。
太平洋岸まで約1kmに位置する房総マリーナは25年来のカワサキジェットスキーの取扱店で、関東唯一のオフロード4輪取扱店に指定された。河野信和社長はジェットスキーやボートと同じように、車両を預かる業態でオフロード4輪が楽しめる環境作りに邁進しているのだ。
「ジェットスキーが好きな方は乗り物が大好き。冬場や海がしけている時はオフロード4輪を楽しんでもらいたい」と狙い語る。房総マリーナの顧客は8割が都内在住で、手ぶらで来店してもマリンレジャーが楽しめるように施設を充実させてきた。
オフロード4輪では、いすみ市近辺で山を購入してオフロードコースや車両保管施設を建設する計画で、河野社長は「イベント広場やキャンプ場も用意して家族でも楽しめるようにしたい」と構想中だ。
これぞカワサキの標榜する「楽しんじゃえ!」を具現化するオフロードコースは、2023年中にオープン予定だ。
房総マリーナの河野信和社長とスタッフの娘さん。早速テリックスKRX1000を自社で購入し展示中だ。河野社長はいすみ市出身でオフロードコースで「地元にも貢献したい」と語る
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