問われる「再設計」
日野自動車の小木曽聡社長は、2025年3月期の決算説明会で、三菱ふそうトラック・バスとの経営統合について言及した。日刊自動車新聞によれば、小木曽社長は「1日でも早く最終合意にたどり着きたい」と述べ、統合に向けた準備が進んでいることを強調した。また、両社がシナジーを見据え、統合の価値を共有していることも明らかにした。4月22日には、複数のメディアが両社が最終合意に向けて調整中であると報じている。
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両社は、当初2024年中の経営統合を予定していたが、日野による認証不正問題や米国当局の調査などが影響し、2024年2月に統合時期を未定とした。しかし、この経営統合は単なる企業合併ではない。トラック業界全体の枠組みを再設計する起点となり、業界に衝撃を与える可能性がある。
本稿では、トヨタとダイムラートラックという異なるDNAを持つ企業が統合に向けて連携する点に注目し、単なる合併にとどまらない業界再編としてのインパクトを考察する。
日野と三菱ふそうの歴史
両社の歴史を振り返ると、いずれも戦後の大型車両の復興を支えてきた。
日野は、東京瓦斯電気工業を母体に大型車両を生産し、輸送インフラの中核を担ってきた。一方、三菱ふそうは、三菱重工業の前身である三菱造船が始めた大型車事業を起源に、2003(平成15)年からダイムラートラックとの提携を築いている。両社はディーゼルエンジン技術に強みを持ち、長距離および中重量輸送市場を分け合ってきたが、開発思想や販売ネットワークは全く異なるものだった。
2022年には日野で排出ガス・燃費不正問題が発覚した。この問題はただの不祥事ではなく、従来の開発・認証プロセスの制度疲労を示すものであった。その後、エンジン性能競争からシステム統合を重視したモビリティ戦略への転換が進み、最終的に経営統合に向けた決断が下された。
米中と日本の間で揺れる車輪
両社による経営統合が具体化した背景には、
・商用車の電動化競争の激化
・トランプ関税による世界的な貿易摩擦への懸念
・大型車両の内需縮小
といった要因がある。米国では、トランプ政権下で製造業の復活を掲げた政策が進行している。一方、中国では政府主導のもと、バッテリーやデジタル制御技術が急速に商用車分野へ展開されている。こうした両極の間で、日本のトラックメーカー各社は厳しい選択を迫られている。
ダイムラートラックは、北米市場での販売が全体の4割近くを占める。生産・販売拠点も強固で、再編を重ねつつ着実な前進を図っている。一方、トヨタグループは商用車を事業の中心とは捉えておらず、日野にとって日本市場は全体の3割程度にとどまる。むしろ国内市場は、グローバル戦略における“実験場”の性格が強い。
こうした構図のなかで、日野と三菱ふそうの統合は、日本発の技術開発を国際競争につなげるための布石と位置づけられる。日産とホンダが経営統合に至らなかった乗用車業界とは対照的に、トラック業界では資本と技術の融合が急速に進んでいる。
いすゞと傘下のUDトラックス(旧・日産ディーゼル)、日野・三菱ふそうの2大陣営に再編が進み、業界は新たな集約のフェーズに入った。系列の再編から、機能の融合へと段階が進む。今後は、組織の枠を超えた研究開発や商品戦略の共通化が、カギを握るテーマとなる。
持株会社である理由
報道によれば、トヨタとダイムラートラックは出資比率を同等とする持株会社を設立し、日野と三菱ふそうを完全子会社として傘下に置く方針とされる。この枠組みにより、トヨタは日野の親会社ではなくなる見通しだ。
そこにはトヨタの戦略的な意図がある。日野への直接的な支配を避けつつも、資源配分や技術協業を主導する
「中立的なコーディネーター」
としての立ち位置を確保しようとしている。ダイムラートラックとの共同ガバナンス体制は、主導権争いを回避するだけでなく、相互牽制による統治の透明性向上という副次的な効果も狙う。
この経営統合におけるトヨタの長期戦略は、「支配しないことで支配する」という構造そのものを体現している。
電動化と自動運転における「共通化」の可能性
トラック分野では、EV化や自動運転の共通化は容易ではない。乗用車と異なり、
・走行距離
・積載重量
・稼働率
といった要件が大きく異なるためだ。両社が独自に積み上げてきた電動パワートレインや制御技術は、開発経路に依存する部分が大きく、単純な統合では整合が取りにくい。
ただし、新たな共通アーキテクチャを設計することで、ソフトウェアやAI制御領域ではシナジーが生まれる可能性がある。
経営統合の成否は、最終的にはユーザーが決める。運送会社をはじめとする大口ユーザーは、ブランドや車両価格よりも、稼働率とアフターサービス網の広さを重視する傾向がある。ブランド再編が信頼の維持にどう影響するのかがカギとなる。整備網の統合やデジタルサービスの共通化が実現すれば、ユーザーの利便性は大きく向上する。
さらに、生産・調達・物流の各ネットワーク再編は、地方経済にも影響を与える。部品メーカーや整備業者、輸送関連企業まで裾野は広く、波及効果は大きい。
都市部ではデジタル投資による効率化が進む一方で、地方では整備体制の維持や人材のリスキリングが課題となる。全国一律の最適化ではなく、地域の特性に応じた再構築が求められる。
「規模」か「知」か
今回の統合は、企業体力の強化なのか、それとも既存モデルの延命なのか。トラック業界にとって、新たな競争単位の形成は避けられない。カギとなるのは、グローバル供給網を軸とした機能単位への移行である。
トラックは物流の手段だけではない。
・災害対応
・都市インフラ
・地域雇用
といった視点から、社会を設計する装置へと進化できるかが試されている。
この再編の帰結を決めるのは、経営者でも株主でもない。輸送の現場を支える運転手や整備士、そして社会全体がその恩恵を実感できるかが問われている。重要なのは、その視点を持ち続けることだ。
企業の論理を超えて、誰のための業界再編なのかを改めて問い直す必要がある。業界再編は、自動車産業全体の構造を変える可能性をはらんでいる。同時に、私たちひとりひとりの想像力もまた試されている。
日野と三菱ふそうの経営統合が、どのような結実を見せるのか。今後もその行方を注視したい。
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みんなのコメント
日頃から中国寄りだから気を付けた方が
いいですよ。
その証拠に文面がやたら上から目線だし
トラックの作り方、開発の仕方、方針が日野とベンツでは違いすぎると思う
価値観が違いすぎるとうまく行かないのは人間関係も会社も同じと思う