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藤原ヒロシはなぜBANAを選んだのか──新しいアジアの顔

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藤原ヒロシはなぜBANAを選んだのか──新しいアジアの顔

アジアの音楽シーンが世界的に注目されるなか、藤原ヒロシは韓国のインディーレーベルBeasts And Natives Alike(BANA)と契約を交わした。彼はBANAに、どんな可能性を見出したのか。

“契約”というより、“約束”

藤原ヒロシの今月気になったもの、買ったもの「cado FOEHN 003」──連載:HIROSHI FUJIWARA WHAT I WANT

昨年10月、「藤原ヒロシが韓国の音楽レーベル“BANA(Beasts And Natives Alike)”と契約」とのニュースが流れた。周知のように藤原ヒロシといえば、1980年代に日本のクラブミュージックシーン黎明期を牽引したDJ/音楽プロデューサーであり、90年代以降、ストリートファッションに決定的な影響を与えてきた存在だ。前述の報道では、ともすれば藤原がいわゆるK-POPに象徴される韓国のショウビズ界と“コラボ”するかのようにも受け取られかねない。しかし、実情は全く異なるものだ。

「NewJeansがデビューした時に、たまたま彼女たちの曲を耳にして、良い曲だなと思ったんです。それまでのK-POPとは全く違う印象で。それで、誰が曲を作っているのだろうと気になって調べたら、250(イオゴン)という人物が楽曲のプロデュースをしていると知り、程なくして、彼とソウルで会うことに。その彼が所属する音楽レーベルがBANAだったんです」

繰り返しになるが、藤原ヒロシといえば、“キング・オブ・ストリートファッション”。しかし、BANAのクルーたちは、藤原のファッションシーンでの存在感以上に音楽でのキャリアをリスペクトしていたという。

「BANAの人と話した時に音楽的なバックグラウンドが僕と似ていると思った。よくよく話を聞けば、BANAのファウンダーであるキム・ギヒョン(Kim Keyon)はメジャーフォース(80年代に藤原が参加した日本のクラブミュージックのパイオニア的コレクティブ)のことも詳しく知っていて」

つまり、藤原とBANAの出会いは、日本にクラブミュージックの革命をもたらしたレジェンドと韓国の新進気鋭の音楽レーベルが自然に惹かれあった結果だった。

「ギヒョンとは一緒に音楽を作ろうという話を以前からしていて、これからBANAとアルバムを作ることになっています。韓国にある彼らのスタジオでレコーディングしようと、ずっと言われているんですけど、延ばし延ばしになっている状態で(笑)。なので、“いつまでに何枚”みたいな話ではないんです。彼らと交わしたのは、僕のなかでは“契約”というより、“約束”と言った方が近いかもしれない」

確かに“契約”の2文字は、音楽シーンを“エンタテインメント産業”として分析・解説することの方が、作品やパフォーマンスの良し悪しを評価するより気が利いているとされる昨今の風潮のもとでは、それなりに重たい響きを持つ。しかし、そうした“重さ”を徹底して遠ざけるのが藤原ヒロシの流儀だ。

「もともと、日本のレコードレーベルと契約があったわけではないし、そもそも、音楽制作のためにレーベルと契約を結ぶ必要も今はないんじゃないかな。むしろ、煩わしいことの方が多いだけで。例えば、僕は曲ができたらストリーミングでもなんでも、すぐにバンバン出せばいいと思っているんです。今さらフィジカルなパッケージにする意味も大してないでしょう。ところが、日本のレーベルって数年前の時点でも、まだCDを売ることを目的にしていて、アルバムの目処が立たないと曲をリリースできないって言われるんですよ。それに、そういう条件のなかで、大手のレーベルからリリースが決まったとしても、予算が潤沢にあるわけでもない。だったら、自由にやりたいじゃないですか」

一方、BANAは大きな資本を元手にリリースやプロモーションを戦略的に仕掛けるのではなく、なにより創造の自由を尊重するオルタナティブな精神を持った、文字通り「インディペンデントなレーベル」なのだと藤原は言う。

「僕にとっては、韓国でBANAというインディーレーベルを見つけたことが、まず面白いんですよ。逆に、今ってアメリカやヨーロッパ、あるいは日本に本当の意味でのインディーレーベルって、どれくらい存在するのかなと思う」

確かに、メインストリームの“エンタテインメント産業”の発展だけでなく、オルタナティブなシーンも着実に育っているというのは、韓国をはじめとするアジアのポップカルチャーの成熟の証しだろう。

「僕が10代の頃は、音楽に限らず、ポップカルチャーの世界は完全に欧米が中心だった。それが、今、変わりつつあるのを感じます。しかも、その変わっていくポップカルチャーの世界のなかで、K-POPのようなメインストリームの音楽だけではなく、インディペンデントでオルタナティブな音楽シーンが生まれてきているのが面白い。そもそも、韓国のメジャーなエンタテインメントの世界とは一線を画したオルタナティブな人たちだから、BANAとやりたいと思ったわけで」

彼らに教えられた“自分の可能性”“インディペンデントでオルタナティブな音楽シーン”。日本において、それは90年代にピークを迎えたようにも思う。当時は国内レコードレーベルの関係者の間でも、欧米の優れたアーティストと肩を並べる作品を世に送り出そうとする思いが少なからず共有されていた。しかし、そうした熱気が現在の日本では薄れ、代わりに他のアジア諸国へと移っていったのだろうか。

「もちろん、日本にも良い音楽を作ることに一生懸命な若くてインディペンデントなアーティストたちがいるだろうけれど、現在の日本では、そうしたアーティストたちが多くのリスナーの支持を集めるのが難しいように感じます。一方で、BANAのアーティストや、やはり韓国のHYUKOH(ヒョゴ)、台湾の落日飛車(サンセットローラーコースター)といったバンドは、メインストリームとは違う場所にいるけれど、それぞれの国の音楽シーンのなかでしっかりと支持を集めているように見えます」

アジアの音楽シーンは大きな変化と成長の時代を迎えた。その只中で一際個性を放つBANAからの誘いは藤原を新たな挑戦へと向かわせる。

「世界的にポップミュージックの進化って90年代で止まったように思うんです。それは見方を変えれば、ロック、ヒップホップ、ハウス、テクノと全てのジャンルで、それぞれロジックが整ったとも言える。これからは、そうやって完成したロジックをミックスすることで面白い音楽を作ることができる時代になると思うんです。どういうことかと言うと、僕が80年代に作っていた音楽を─自分としては今さら興味もなかったけれど─BANAのクルーたちは新鮮で面白いと言ってくれる。彼らと一緒なら、僕が昔作ったようなものをベースに、それをアップデートしたものができるんじゃないかと。そんなふうに自分の可能性を彼らに教えてもらっている部分もあるんです」

藤原ヒロシfragment主宰。ラグジュアリーブランドからクルマ、時計、スイーツまで、分野を横断したデザインとコンセプトワークを展開する一方、音楽プロデューサー、リミキサー、シンガーソングライターとしても活動している。

写真・梶野彰一、文・鈴木哲也、編集・岩田桂視(GQ)

文:GQ JAPAN 鈴木哲也

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