ダイハツムーヴキャンバスは、「両側スライドドアが欲しい。でも、全高1700mmより低いクルマ」が欲しいというニーズに応え、誕生した。
そのライバル車として挙げられるのが、スズキワゴンRスマイルである。ワゴンRに両側スライドドアを採用し、全高1695mmに抑えた。
カッコよければ売れる!? “なんちゃってクロスオーバー”がいい!
今回は、ムーヴキャンバスとワゴンRスマイルをあらゆる角度から比較する。どちらに軍配があがるのか?
文/渡辺陽一郎
写真/SUZUKI、DAIHATSU、池之平昌信
[gallink]
「街乗りが中心のクルマ」ムーヴキャンバスとワゴンRスマイルを比較
2021年1~9月に国内で新車として販売されたクルマのうち、軽自動車が37%を占めた。そして軽乗用車の売れ方を見ると、半数以上が後席側にスライドドアを備えた背の高い車種になる。
スライドドアの軽自動車では、ホンダN-BOX、スズキスペーシア、ダイハツタント、日産ルークスなど、全高が1700mmを超えるスーパーハイトワゴンが売れ筋だ。ただし「スライドドアは欲しいけれど、全高が1700mmを超える背の高いボディはいらない」という意見も聞かれる。
2016年に発売されたムーヴキャンバス。発売から5年以上が経過したが売り上げは好調を維持している
このニーズに着目して開発され、好調に売られているのがムーヴキャンバスだ。後席側にスライドドアを備えながら全高は1655mmに抑えられ、フロントマスクは丸みのある形状に仕上げた。リヤゲートも少し寝かされ、車内の広さを最優先させるタントとは雰囲気が異なる。
外装色には、ボディの上側と下側は同色で、中間部分だけが異なる2トーンのストライプスカラーも設定した。この色彩も人気で、ムーヴキャンバスは、2016年に発売されながら今でも1か月平均で約5000台が販売されている(ベーシックなムーヴを除く)。SUV風のタフトに近い売れ行きだ。
ワゴンRにはない両側スライドドアを採用したワゴンRスマイル
このムーヴキャンバスのライバル車が、2021年9月に発売されたワゴンRスマイルになる。全高は1695mmだからムーヴキャンバスよりも40mm高いが、1700mmは超えていない。楕円形のヘッドランプなど、柔和な雰囲気はムーヴキャンバスに似ている。「街乗りが中心のクルマだから」という理由で、ターボを用意しないことも共通だ。そこでこの2車種を比べてみたい。
内装の質感/居住性比較
ワゴンRスマイルのインパネ。カラーパネルは、グレードやボディーカラーに合わせ、3種類を設定する
インパネの造りは、ATレバーの配置など、両車ともに似ている。内装の質感は、発売から5年を経過したムーヴキャンバスも古さを感じさせない。
異なるのはメーターだ。ワゴンRスマイルはステアリングホイールの奥側に配置したが、ムーヴキャンバスはインパネ中央の高い奥まった位置に備わる。運転中にメーターを見る時、ムーヴキャンバスでは上下の視線移動は少ないが、少し左に寄るから一長一短だ。
そこでワゴンRスマイルは、ヘッドアップディスプレイをセットオプションで用意した。インパネの上部に透明のディスプレイを立ち上げて、速度や交差点のカーナビ情報などを見やすく表示する。
前席の居住性は両車ともに互角だ。ベンチシートが装着され、適度に体が沈んだ部分で支えるから、ボリューム感も伴う。後席は両車ともに足元空間が広い。身長170cmの大人4名が乗車して、後席に座る乗員の膝先空間は、両車ともに握りコブシ3つ半に達する。頭上の空間は天井の高いワゴンRスマイルに少し余裕があるが、ムーヴキャンバスでも充分だ。
後席の座り心地は両車で明らかに異なる。ワゴンRスマイルは、前席ほどではないが柔軟性が伴って一般的な座り心地だ。ムーヴキャンバスは体がシートに沈みにくく、床と座面の間隔も不足しているから、足を前方へ投げ出す座り方になりやすい。後席の快適性はワゴンRスマイルが勝る。
*勝敗:ワゴンRスマイルの勝ち
荷室/シートアレンジ/収納設備比較
ムーヴキャンバスは、後席スライドドアと後席の下に収納棚の組み合わせにより、荷物を積み込むまでの動作を最小限に抑えられるレイアウトになっている
ムーヴキャンバスは、後席の下側に引き出し式の収納設備を装着した。引き出した状態で中敷きを立ち上げるとバスケット状になる。買い物袋をシートの上などに置くと、走行中に倒れて商品が散乱する心配もあるが、バスケット状の内部に収めると倒れにくい。その代わり後席のアレンジは単純だ。座面の下に収納設備があるから、背もたれを前に倒すだけになる。広げた荷室の床には傾斜ができる。
その点でワゴンRスマイルには、後席下側の収納設備がない。シートアレンジはワゴンRやスペーシアと同様で、後席の背もたれを前側に倒すと座面も連動して下がり、平らな広い荷室に変更できる。ほかのスズキの軽自動車と同様、助手席の下には容量の大きな収納設備が備わり、ハンドルが付いているから車外に持ち出せる。
両車の機能は一長一短だ。バスケット状になる後席下側の引き出しを有効活用できるならムーヴキャンバス、そうでない場合は、広くて平らな荷室を得られるワゴンRスマイルが使いやすい。
*勝敗:引き分け
運転のしやすさ/視界/乗り心地比較
ムーヴキャンバス、ワゴンRスマイルともにターボを装着しないノーマルエンジンのみ
前方の視界は、ムーヴキャンバスの高い位置に装着されたメーターパネルが少し気になる。ワゴンRスマイルは、インパネの上面がスッキリしていて前方も見やすい。サイドウインドウの下端は、ワゴンRスマイルが若干高く、小柄なドライバーが運転すると、少しクルマに潜り込んだ感覚になりやすい。このように視界については、互いにメリットとデメリットがある。小回りの利きを示す最小回転半径は、両車ともに4.4mで等しい。
エンジンは両車ともにノーマルタイプのみだ。動力性能とエンジンノイズは互角になる。両車ともに街中の平坦路で使うなら不満はないが、登坂路ではパワー不足が感じられる。遮音は相応に行ったが、ノイズも高まりやすい。
走行安定性と操舵感は、ムーヴキャンバスが素直で曲がりやすい印象だ。また乗り心地もムーヴキャンバスが少し柔軟に感じられる。
*勝敗:ムーヴキャンバスの勝ち
先進安全装備/燃費性能
歩行者を検知できる衝突被害軽減ブレーキ、前後両方向の誤発進抑制機能は両車ともに装着するが、ワゴンRスマイルは、後退時にも衝突被害軽減ブレーキを作動させる後退時ブレーキサポートを採用した。従って先進安全装備はワゴンRスマイルが勝る。
またワゴンRスマイルでは、セーフティプラスパッケージをオプション装着すると、ヘッドアップディスプレイ、標識認識機能、車間距離を自動制御できるクルーズコントロールなどもセットされ、装備をさらに充実できる。
2WDのWLTCモード燃費は、ワゴンRスマイルのハイブリッドXとハイブリッドSは25.1km/Lだ。ムーヴキャンバスは20.6km/Lに留まる。ワゴンRスマイルはマイルドハイブリッドシステムを備え、車両重量も軽いために燃費効率を向上できた。そのために燃費数値では、ワゴンRスマイルは、ムーヴキャンバスに比べて燃料代を18%節約できる。
*ワゴンRスマイルの勝ち
推奨グレード/価格の割安度比
ワゴンRスマイルは、上質な内装と実用的な荷室で幅広いユーザーが便利に使える一台
ワゴンRスマイルの推奨グレードは最上級のハイブリッドX(159万2800円)だ。中級のハイブリッドSに、LEDヘッドランプやパーソナルテーブルなど15万円相当の装備を加えて、価格の上乗せを11万9900円に抑えた。このハイブリッドXを選び、車間距離を自動制御できるクルーズコントロールなどをセットにしたセーフティプラスパッケージ(4万6200円)を加えると良い。
ムーヴキャンバスの推奨グレードは、GメイクアップリミテッドSAIII(158万4000円)だ。バイアングルLEDヘッドランプなどを標準装着して、価格はワゴンRスマイルハイブリッドXとほぼ同額になる。
それでも安全装備などは、設計の新しいワゴンRスマイルが充実している。後席の下に装着された引き出し式の収納設備に強い魅力を感じる場合を除くと、ワゴンRスマイルを推奨したい。軽自動車は競争が激しいので、後から発売されたワゴンRスマイルの方が、買い得度を強めやすい事情がある。
*勝敗:ワゴンRスマイルの勝ち
なお、販売店によると、両車ともに納期は約3か月だ。それでも予想外に延びる場合もあるから注意したい。
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みんなのコメント
まあムーヴラテの失敗が活きたんだろうけど。
サイズ感とか価格設定は、寧ろ後から説得力を持ったよね。
キャストなんか中身結構良かったのにデザインでコケたし。
キャンバスだって、タントベースだからモノが悪い訳が無いんだよ。
だからデザイン良けりゃ、そうそう後出しに負けたりはしないハズなんだよね。
スズキはその辺り上手いから、抜け目なく失敗しない程度の対抗馬持って来る。
ダイハツは後出し対抗馬でコケる、それも変なデザインで。