市場動向と車種シェア
2025年に日本国内で売れた乗用車はおよそ253万台だった。前年と比べて大きな変化はないが、内訳を見れば市場の「EV離れ」は鮮明である。バッテリー式の電気自動車(BEV)は約4万台にとどまり、全体の1.6%に過ぎない。
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一方、ハイブリッド車(HV)の需要は依然として根強く、全体の6割にあたる約153万台を占めた。この背景には、日本のエネルギー供給体制やインフラの制約がある。こうした市場の現実は、自動車メーカーの経営戦略に大きな影響を及ぼしている。
象徴的なのが、2026年3月12日に発表されたホンダの方針転換である。三部敏宏社長は「将来に負債を残さないため、断腸の思いで決断した」と語り、2040年までの「脱ガソリン」目標を事実上修正し、開発を進めてきた主力EVの中止を決定した。
旗艦セダン「サルーン」やSUVの開発を断念し、損失額は2027年3月期までに最大2兆5000億円に達する見通しだ。これにより、ホンダは上場以来初の連結最終赤字(最大6900億円)に転落する。米国のEV普及策の撤回や中国メーカーとの激しい価格競争に直面し、急進的なEV戦略はわずか数年で「止血」を優先する現実路線へと舵を切った。今後は北米を中心にHV販売を2.2倍に増やし、強みであるエンジン技術を活かした戦略転換を急ぐ。
メーカーがこれほどの巨額損失を覚悟してEVから後退し、HVを強化する現状は、BEVが「次世代の正解」だけではなく、極めてリスクの高い選択肢であることを示している。補助金頼みの市場構造や将来の資産価値への不安は、もはや無視できない状況にある。
しかし、こうした「EV劣勢」の時代だからこそ、ユーザー個人の視点に立って合理性を問い直す価値はある。メーカーの経営判断と、個人が手にする「一台の損得」は必ずしも一致しない。
本稿では、車を購入する際の判断材料を多角的に検証する。比較対象として、トヨタのbZ4Xとプリウスを選び、同グレード「G」で条件を揃え、どのような状況でどちらの車を選ぶのが理にかなっているのかを詳しく掘り下げていきたい。
補助金による価格調整
車両価格を比べると、bZ4Xが480万円、プリウスが約325万円。155万円の開きがある。この大きな差をどう埋めるかが、賢い買い物の出発点になるだろう。
まず目を引くのが、国が進めるBEVへの手厚い助成だ。2026年1月以降に登録される普通車であれば、CEV補助金として最大130万円が戻ってくる。東京都のように独自の支援を行う自治体なら、さらに60万円が上積みされる仕組みだ。ちなみにHVには補助はないが、PHVであれば85万円を上限に、国からの支えが得られる。
補助金をフルに活用すれば、bZ4Xは実質350万円で手に入る。プリウスとの差は25万円にまで縮まり、この程度の金額なら維持費などで十分に取り戻せる範囲に見えてくる。さらに東京都民であれば、ZEV補助金のおかげで実質305万円となり、プリウスよりも20万円ほど安く買える計算だ。これほど初期費用が抑えられるなら、BEVを前向きに考える人が増えるのは自然な流れといえる。
しかし、補助金による見かけ上の安さは、車本来の価値を見えにくくする恐れがある。BEVを買うことは、メーカーの技術だけでなく、国や自治体の財布を頼りにしている側面が強い。制度は時の政策で変わるものであり、ずっと続く保証はない。予算や決まりが変われば、その価値は根底から揺らいでしまう。
国内でBEVが思うように売れていないのは、こうした不透明さが影響しているのだろう。将来、補助金が減ったりなくなったりしたときに、中古車としての価値が急落する恐れがある。この先行きの見えない不安こそが、多くの人が購入に踏み切れない大きな理由になっている。
燃費と燃料コスト比較
燃料の性質がそもそも違うため、燃費の数字をそのまま突き合わせるのは骨が折れる。だが、公表されているデータから横並びで計算することはできる。プリウスの燃費はリッター28.6kmだ。対するbZ4Xは、1kWhの電力でおよそ9km走る計算になる。これを1kmあたりの燃料代に直してみると、プリウスの約6円に対して、bZ4Xは約3.4円。BEVの方が4割ほど安く済むわけだ。
トヨタが公開しているシミュレーターを使って、もう少し具体的に見てみよう。ひと月の走行距離が500kmなら、燃料代の差は1260円。これが1000kmになると2521円まで広がる。年間にすれば数万円の節約になる計算だ。補助金を使って車両価格の差を25万円まで縮めておけば、たくさん走る人ほど、早いうちにもとが取れることになる。
ただ、こうした計算には、充電に費やす「時間」というコストが抜けている。シミュレーターの試算はあくまで自宅での充電が前提だ。もし出先での充電が月に3回を超えてしまうと、燃料代の安さは消え、むしろHVより高くつくこともある。外で急速充電器を探し回り、そこで何十分も待つ時間は、持ち主にとって目に見えない損失だ。浮いた数千円のためにこの時間を差し出せるかどうかが、判断の分かれ目になるだろう。
外での補給が欠かせない人にとっては、どこでもすぐに給油できるHVの自由さが、目に見える数字以上の強みになる。BEVがもたらす安さは、安定して電気を補給できる場所があるという条件と引き換えに成り立つものだ。
自動車税・減税の影響
「エコカー減税」は、2026年4月30日まで続くことになった。このおかげで、車を買ったときにかかる重量税が、初めての車検とその次の車検で免除される。具体的な数字でいえば、プリウスなら約2.2万円安くなり、bZ4Xは約5万円ほど引かれる計算だ。両者の開きは、数万円といったところだろう。また、車を手に入れるときにかかる地方税「環境性能割」は2026年3月31日に終わる予定だが、今はどちらの車も税金はかからない。最大で3%ほど取られるこの税金を本当になくすのかどうか、今の国会で話し合いが進んでいる。
こうした税金の仕組みは、毎年のように見直しの議論にのぼる。2025年10月に開かれた第219臨時国会では、走った距離に応じて税金を取る「走行距離税」の導入は見送られた。しかし、政府や与党は2028年5月から、BEVやPHVを対象に、重さに応じて税金を取る新しい仕組みを始めるつもりだ。大きな電池を積んだ電動車は、それだけ車体が重い。その分、道路にかける負担もこれまでの車より大きいと考えられているのだ。
こうした方針の切り替えは、BEVが特別な優遇を受ける段階から、社会を支える仲間としてふさわしい負担を求められる段階に移ったことを物語っている。これからBEVへの税金が少しずつ増えていく流れは避けられず、今までのようなお得感は薄れていくはずだ。
今の免税はあくまで一時的なものにすぎない。車が重いことが将来の出費に直結するかもしれないというリスクを、買う側もしっかり心得ておくべきだろう。
維持費と保険料の実態
プリウスであれば、一年間の手入れにかかるお金は2万円ほどといわれている。対してbZ4XのようなBEVは、エンジンという複雑な仕組みを持たない。直す場所が少ない分、さらに数万円ほど安く済ませられるのが魅力だ。ただ、長く乗り続けるつもりなら、電池の交換という重い負担を忘れてはならない。HVの電池なら、10年から15年、あるいは15万kmから20万km走った頃が替え時だ。その費用は15万円から40万円といったところだろう。
これに対し、BEVは8年から10年、もしくは電池の力が7割を切った頃が目安になる。その費用は数十万円から、時には100万円を超えることもある。これでは修理するよりも、いっそ新しく買い替える方が現実的だ。
保険についても、よく考えておく必要があるだろう。高い電池を積んでいる分、事故で壊れた時の修理代は跳ね上がる傾向にある。たとえ小さなぶつかり方であっても、電池を守るために「全損」と扱われることがあり、それが保険料を押し上げる一因になっている。
日々の点検が安く済んでも、いざという時の負担はBEVの方がずっと重い。消耗品が少なくて済む良さと、肝心な場所が壊れた時の途方もない出費。このふたつをどう見比べるかが、自分に合った一台を見極める上での大事な所となるはずだ。
再販価値と中古車市場
数年で車を乗り換える人が増えるなか、あらかじめ将来の下取り価格を決めておく仕組みがよく使われるようになった。トヨタの店が出している3年契約のプランを見ると、プリウスの価値はだいたい半分くらいで維持されている。
これに対してbZ4Xは半分から6割ほど。数字だけ見ればBEVの方が有利に思えるが、実はここに落とし穴がある。この数字はメーカーが売りやすくするために支えている面があり、中古車市場での本当の力とは必ずしも一致しないのだ。
実際に2、3年経った中古の値段をのぞいてみると、プリウスが新車から1割、2割の下落で踏みとどまるのに対し、ほとんど出回っていないbZ4Xは2割以上も安く売られていることが珍しくない。これほど差が出るのは、電池がどれだけ弱っているか外から判断しにくいからだろう。中古で買おうとする人は、目に見えない劣化を恐れる。その不安がそのまま、値段の安さとして跳ね返ってきているわけだ。
手放す時の値段を考えれば、人気があって流通も落ち着いているプリウスの方が先を読みやすい。bZ4Xは、将来どれほど電池の力が保たれるかわからないという不安が、買うのをためらわせる大きな理由になっている。自分の資産を守るという点では、根強い人気があるHVが有利だ。持っている期間が長くなればなるほど、電池の状態が値段に与える影響は大きくなり、両者の差はもっと開いていくだろう。
消費行動における心理要因
人が車を選ぶとき、損得勘定だけで決めることはまずない。理屈よりも、心の動きが最後に背中を押すからだ。HVであれBEVであれ、地球にやさしいという点では変わりなく、どちらを選んでも「社会に役立っている」という誇らしさを手にできる。
かつてプリウスに乗ることは、環境への意識の高さを周りに伝えるひとつの流行だった。しかし今、BEVを選ぶ人の思いは、もう少し自分に近いところにあるようだ。いざという時の電源として使えたり、音のしない車内で心地よく過ごせたりといった、自分の暮らしを豊かにする実感を求めている。
結局のところ、買うかどうかを決めるのは、使い勝手の良し悪しだけではない。その車を通して、自分がどんな人間だと見られたいか、という思いも強く働く。手堅い買い物としてのHVを選ぶか、それとも不安はあるが時代の先を行くBEVを選ぶか。充電の手間を「新しい体験」として面白がれるのか、それとも先の見えない不安を嫌って堅実さを取るのか。こうした心の揺れこそが、最後の決断を導き出している。
条件依存の合理的選択
ここまで、プリウスとbZ4Xを例に、さまざまな角度からどちらを選ぶのが理にかなっているかを見てきた。補助金を使えば、買う時の値段の差はたしかに縮まる。しかし、手放す時の値段が安定しているかどうかが、結局のところ判断を大きく左右している。数年で乗り換えるつもりなら、中古車としても人気が高いHVがやはり強い。
だが、一台を長く大切に乗り、走る距離も長いのであれば、BEVの燃料代の安さがじわじわと効いてくるはずだ。BEVがもっと広まるには、外で充電できる場所を増やすことや、電池がどれくらいもつのかという確かな裏付けがもっと必要だろう。こうした不安が取り除かれて初めて、多くの人が安心して選べるようになるのではないか。
今の時点で、どちらが優れているかを一概に決めるのは難しい。もし「補助金をもらえて、家に充電器があり、長い距離を走り、かつずっと乗り続ける」という人なら、BEVは賢い買い物になるだろう。逆に「マンションに住み、売る時の値段を気にし、短い期間で乗り換える」というのであれば、HVの方が納得感があるはずだ。
BEVは、住んでいる場所や暮らし方とセットになって価値を生む、投資のような性格が強い。一方でHVは、どんな環境でも使いやすく、いざという時も価値が落ちにくい手堅い財産といえる。自分にとって一番の乗り物は、日々の暮らしの土台がどうなっているかで決まる。カタログに載っている性能の数字だけで、どちらが勝っているかを語ることはできないのだ。(加川康子(モビリティライター))
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みんなのコメント
お出かけするのに充電スタンドの位置まで計算して行動したくもないよね