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「全てはチューニング業界の未来のために・・・」HKS初代社長・長谷川浩之の熱き魂【Play Back The OPTION】

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「全てはチューニング業界の未来のために・・・」HKS初代社長・長谷川浩之の熱き魂【Play Back The OPTION】

「技術は努力しかない。それと実験、分析だね。」長谷川浩之

初期のHKSは和製コスワースを目指していた

「全てはチューニング業界の未来のために・・・」HKS初代社長・長谷川浩之の熱き魂【Play Back The OPTION】

1973年10月に、レース用エンジンやチューニングパーツの開発・販売を目的として設立されたHKS。今では、日本を代表するチューニングパーツメーカーにまで成長したが、その推進力とも言うべき存在を改めてクローズアップしようと思う。

HKSの初代社長・長谷川浩之氏である。

2016年11月9日、惜しまれながらこの世を去ってしまったが、長谷川氏がチューニング業界に残した功績は計り知れないほど大きい。誰よりも真剣にチューニングと向き合った男の情熱を、1983年7月号に掲載された「HKSとDaiのフルブースト放談」を通して振り返っていく。

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HKSとDaiのフルブースト放談

新車フル・ターボ化時代、それでもボルトオンターボやチューニング人気は衰えない。その魅力を老舗HKSに迫った!

ターボチューンもいいけど、自分のエンジン、作りたいね by HKS長谷川

Dai(以下、D):相変わらず忙しそうで! 来るたびに凄い製作機械やメカニックが増え、レースの大メーカーみたいになってきましたね。ボルトオンターボは好調ですか?

HKS長谷川(以下、H):新車のターボ車がフルラインされてきても、やはりボルトオンも増加中だよ。純正ターボは、排ガス規制や乗りやすさ、コストとかいろんな要素があって、性能中心に出来ない。ボルトオンのパワーは魅力的なんだと思うよ。

D:純正ターボチューンというシステムが多くなってきていますね。

H:ボルトオンターボ・メーカーだから、純正ターボが出るとやりにくいのか?と思われてるけど、純正ターボチューンこそ、ウチでしか出来ないと思う。例えば、ターボユニットのEXハウジングだけでも変更すると、高回転域のパンチ力が違ってくる。ウチでは、テストして性能に合ったベストマッチのハウジングが作れる。これなら、エンジンルーム見ても、改造車だなんて分からないよ。

D:やはり見た目は控えめで速いのがいい。ターボチューンの良さですよ。

H:従来のキャブチューンは、音がうるさいし、金がかかりすぎるからかな。メカチューンはトータルバランスでパワーアップするから、改造するパーツが多いし、本当にやると難しい。

課題はコンピューター、難しいね、これは

D:純正ターボチューンにしても、最近のエンジンは電子制御のインジェクション。それもどんどん高度化している。コンピューターチューンってやつですよ。専門的な知識や技術が必要ですね。

H:ECCSやTCCSの電子インジェクションは本当に難しいよ。だけど、これをコントロールできないと、チューンできないからね。

D:コンピューターをいじれるチューナーが数少ない・・・。

H:やる気になれば出来ると思うけどね。最初がいけなかった。新車がインジェクションに変わっていったとき、真正面から取り組まず、キャブ仕様に逃げた気がする。もちろん、キャブチューンの良さも認めるけれど、将来的な方向がコンピューターなのは歴然としているんだから、積極的に取り組まないと。

D:そういう社長も、コンピューターなんか全然知らなかったとか?

H:オレがヤマハの研究課にいたときなんか、ターボもそうだけど、コンピューターの「コ」の字も知らなかった。トヨタに出向して担当したトヨタ7という時代、最高のレーシングカーでも使ってなかったくらい。

D:どうやって勉強を?

H:小学生と同じだよ。本を買って読み漁り、その知識を実車で試してみる・・・この繰り返し。分からないことは恥ずかしい!なんて言っていられないから、教えてもらったこともある。技術は努力しかない。それと実験、分析だね。ウチももっと勉強しなければならないので、電子系に強い若い人を育てている。

日産のV6、ユックリ取り組みたいね

D:魅力的なパワフルエンジンが次々に出てきましたよね。1G-G、3T-GT、FJ20、4A-G、そしてL型に代わるV6。楽しみですよ!

H:もう戦争だね。4A-Gなんか8000rpm近く回るらしい。最高パワーが6600rpmで130ps。でも、実車をテストしてみないと分からないね。

D:メーカーのテスト車と比べ、最高速で10km/h、ゼロヨンで1秒は遅いとみたほうがいい。

H:1G-GなんかDOHC4バルブの高回転型はいいけれど、低中速トルクが実走でまったく感じられない。街中じゃ乗りにくいと思うよ。

D:しかし、そこがHKSのようなチューニングパーツ屋の狙い目でもあるわけでしょ!

H:性能に満足できないマニアがチューンするからね。だけど、別の正当性もあるんだ。メーカーがいくら高性能エンジンを作っても、その全ポテンシャルを出すわけにはいかない。オレたちは、その潜在部分をクリアにしてやるわけだ。エンジン本来の良さを発掘して、さらにパワーの可能性を追求する。パーツを強化、改良するだけでも性能アップする場合もある。

D:日産V6はどうなんでしょうかね。伝統の「エル」に代わるわけですが。

H:基本的には、L型よりポテンシャルは高いと思うよ。同じようなボア・ストロークならフリクションが少ないから。問題はブロック剛性。ボルトオンターボの場合、簡単にガスケットを厚くして圧縮比を下げようとすると、バンク中央の一体式INマニのポート部分がずれたりする。だからマニホールドにスペーサーかましたり、ピストンで圧縮比を下げなければいけなくなる。まぁ、V6に関しては、ユックリ様子見ながらだね。

改造文化論は、やれるとこから攻めなくちゃ

D:ズバリ聞きます。社長はチューニングパーツを開発しているわけですが、改造車問題との接点は、どう考えているんですか?

H:これは、真剣に取り組まなければならない問題だ。基本的な考え方はメーカーに準じた品質で、メーカーの上をいくパーツを作ること。ターボキットでも、ちょっとイヤな言い方かもしれないけれど、客を選ぶようにしている。

D:ムチャなユーザーには売らないとか?

H:徹底するのは難しいかもしれないけれど、販売店には「客を見ろ!」と言ってる。車高短車や一見して暴走族風のクルマには売らないとか。改造車も、使い方次第で良識ある人が使えば楽しめるけど、間違ったら危ないことは分かっている。

D:画一的に見れば、公道をブッ飛ばすのはみんな暴走族と言いますが、信号無視やマフラーぶち抜きのクルマで走り回るのと、ひとりで密かに走るのとでは区別していいと思う。

H:「改造パーツを作っているヤツが何を言うんだ!」と言われればそれまでだけど、できるだけ社会に迷惑をかけないような方向に努力しているよ。改造の楽しみくらい、あってもいいだろう。

D:改造車でなくても事故はあるし、スピード違反もある。メーカーなんか、暴走族だろうが運転初心者だろうがクルマを売っちゃう。これこそ問題ですよ。

H:Daiちゃんがよく主張する、改造文化論も、実際には難しいと思うよ。日本じゃね。アメリカやヨーロッパのようにクルマの伝統が無いし。向こうは個人や役人、すべてがクルマをよく知っているし、使いこなせるからね。

必ずやってみせる。和製コスワース目指して

D:社長の目標は、だいぶ近づいているんでしょう。日本で、コスワースやアバルトみたいな、世界に通用するプライベートのレーシングエンジン・ワークスが誕生したら嬉しい。

H:パーツはパーツとして、やはり夢はエンジンを作ることだからね。元々、レーシングエンジンを作りたくてHKSを設立したんだけど、いくら知識があっても失敗した。基礎が無かったんだね。だから、まず実力をつけることにして、ボルトオンターボに全力投入した。

D:オートレース用単気筒DOHCの成功が、最初のジャンピング・ボードというわけですか。

H:本格的なレーシングエンジンを作りたくても、使われる場が無くては開発する意味が無いからね。4輪用から始めても、どこも使ってくれないし、マトモなものができるわけない。オートレース用がターゲットとして、ウチの規模には最適だったんだよ。

D:ものになるまで、何年かかったんですか?

H:3年だね。最初はヘッドにスが入って穴が開いたり、クランクが折れたり・・・。勝てる性能を出すまでも大変だった。次は2気筒、試作段階に入っているよ。

D:その次が4気筒。楽しみですね。

H:この単気筒をやって、レーシングエンジンの難しさも再認識したけれど、可能性も見えてきた。5M-GやFJ20用のカムも作っているけれど、材質なんか実績ある単気筒のノウハウが生きている。

D:夢も近いんでしょう。その時はエンジン1基、下さいよ。ストリートで使うから!

【長谷川浩之】

昭和21年4月8日、静岡県生まれ。中学卒業後、国立沼津高等専門学校に入学。第1期生である。この頃からエンジニアを目指し、42年ヤマハ発動機入社。研究課でエンジン関係を担当し、2年間はトヨタへ出向。49年、独立して株式会社HKSを設立。

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最先端技術をチューニングメーカーとして研究・開発するだけでなく、世のチューニングショップにその技術とノウハウを伝え続け、業界全体の発展を真剣に考えていた長谷川氏。その情熱と魂は、どこかHONDAの本田宗一郎氏に通ずるものがあるように感じる。

改めて、長谷川氏のご冥福をお祈り申し上げます。

【OPTION 1983年7月号より】

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