はじめに
先代マセラティ・グラントゥーリズモは、4.7Lの自然吸気V8を積み、史上もっとも騒々しい類のサウンドを放つクルマだった。エンジンをかけると、耳のいいひとなら数ブロック先でも聞き取るかもしれないくらいだ。
【画像】写真で見るマセラティ・グラントゥーリズモとライバル 全4枚
しかし、今やV8は姿を消した。最新モデルは、見た目こそ先代と似ているが、中身は刷新され、エンジンはV6に。プラットフォームは、ピュアEVにも対応する。世界でも爆音の上位にあったクルマが、逆にほぼ無音となったのだ。
それでも、われわれはグラントゥーリズモの電動版であるフォルゴーレをテストしたくてたまらなかった。マセラティのスーパーEVの作り方は、既存の同種とは異なる。スピードに不足はなく、見栄えも並外れていい。
はたして上品なグラントゥーリズモには、もっとクールで、洗練され、効率のいい電動パワートレインのほうがマッチするのか。確かめてみよう。
意匠と技術 ★★★★★★★☆☆☆
ガソリン車もEVも、マセラティのモデナ工場で生産され、グラントゥーリズモ初の四輪駆動を装備する。純粋主義車は好まないだろうが、フォルゴーレについて言えば、760psオーバーともなれば前輪も駆動するのは当然だと思える。
ボディワークを取り去ったとしたら、408psのモーター3基が確認できる。イタリアのバーリで生産されるマレリ製で、1基がフロント、2基がリアに積まれる。最高回転数は1万7600rpmで、合計1224psとなるが、ニッケル・マンガン・コバルトバッテリーの限界があるため、上限は761psに制限される。
このモーター、フォーミュラE由来のシリコンカーバイドインバーターを使用。一般的なシリコンインバーターより軽く、パワー密度も大きい。
92.5kWhの800Vバッテリーは、トリノにあるミラフィオリ・バッテリーセンター製。搭載場所は一般的な床下ではなく、ガソリン車のエンジンとトランスミッション、プロペラシャフトがある位置で、リアアクスルの前で十字状になっている。
そのため、もっと低くできたはずの重心は高くなってしまったが、バッテリーのキャパシティを中心に集めたことで、重量をロール軸近辺に集めることができたと、マセラティでは説明している。パウチ式モジュールを用い、パックの重量は600kg。直流急速充電は最高270kWだ。
当然というべきか、軽くて華奢なクルマではない。フォルゴーレの公称2260kgは、V6のトロフェオより465kg重いのだが、実測はさらに重い2358kgだ。ただし、前後重量配分は50:50とパーフェクトだ。
ちなみに、最近計測したポルシェ・タイカン・ターボSは、公称2295kgに対して2356kg。ドアの数は違うが、この2台はサイズが近い。そして、複数モーターを積むハイパフォーマンスEVは、一般的に見ても非常に重い。
ドライブトレインのほか、荷室フロアやフロントサブフレーム周り、センタートンネルの補強を除けば、フォルゴーレとガソリン車に違いはない。サスペンションは前ダブルウィッシュボーン/後マルチリンクで、2ドアスポーツクーペには珍しいエアスプリング仕様。ダンパーは電子制御で、ホイールとタイヤはガソリン車と同じものだ。
内装 ★★★★★★★★☆☆
キャビンもほぼガソリン車と同じなので、仕上げは上等で、このクルマにふさわしい贅沢さとくつろいだ感じがある。バッテリーが床下にはないので、ドライビングポジションもすばらしい。
ホイールベースが長いので、リアシートも使える。大柄な大人が長時間乗れるわけではないが、短距離だったりティーンエイジャーを乗せたりする程度なら十分だ。
しかし、荷室容量は270Lと物足りない。タイカンに比べるとかなり見劣りする。
EV専用となるのは、シフトパドルがギアチェンジではなく回生ブレーキの調整に用いられることや、12.3インチのセンター画面と12.2インチのデジタルメーターのグラフィックが変更されていることくらいだ。
回生ブレーキは最大400kWの発電と、0.65Gの制動が可能だ。インフォテインメントは、ソフトウェアに多少の待ち時間があり、メニューの構造は多少の慣れが必要だが、標準対応のAndroid AutoとApple CarPlayがほぼシームレスに機能する。
走り ★★★★★★★★★☆
リアモーター2基は、完全に独立して左右各輪を駆動するので、フォルゴーレにはLSDが不要だ。パワーとトルクのデリバリーは、マセラティのヴィークル・ドメイン・コントロール・モジュールが制御する。どの程度の出力を使えるか、前後左右どこにどれだけ分配するかは、選択した走行モードによる。
マックスレンジとデフォルトのGT、スポーツ、コルサの4段階で、761ps/137.7kg-mをフルに使えるのはスポーツとコルサ。GTでは、最大80%に制限される。また、上ふたつを選択すると車高が下がる。
いうまでもないことだが、フォルゴーレは言葉を失い胃がひっくり返りそうになるほど速い。乾きかけの路面であってもクリーンにスタートを切る。タイカン・ターボSをテストしたときもそうだったが、ESPやトラクションコントロールのチューニングはかなり練られている。
タイヤのグリップ限界をギリギリ超えながらも、とてつもない勢いで突っ走るところは、ポルシェのほうがやや上手だが、どちらも巧みにパワーを路面へ伝える。理想的ではないコンディションでも、0-97km/hは2.9秒、0-161km/hは6.4秒、0-241km/hは14.6秒をマークした。V6のトロフェオは、ドライコンディションで3.6秒/8.0秒/18.7秒だった。
主観的な評価では、日常使いでも扱いやすいクルマだ。コルサモードでも、パワーの立ち上がりはうまくマネージメントされていて、つらいシャープさは一切ない。加速は強烈だが、予想が効く。
さらに、湿った路面でわざとスロットルペダルを強く踏み込んでも、シャシーはうまく走ってくれるし、常にコントロールしやすく、前輪の直進回復は素早いが早すぎない。マッスルカー的なところもあるが、かなり洗練されてもいる。電子制御系の出来がいいのは、先に述べたとおりだ。
制動力は、2.3tのクルマとしては上出来だ。パドルで強力な回生ブレーキを呼び出せるのも効いている。摩擦ブレーキとの連携もシームレスだが、ペダルフィールは全体的に無感覚すぎる。その点も、タイカンのほうがしっかりしている。
操舵/乗り心地 ★★★★★★★☆☆☆
乗り心地とハンドリングについては、ちょっと扱いに困るくらい中途半端だ。すばらしくグリップし、レスポンスや精確さは先代では期待できなかったレベルだ。それでも、ドライバーズカーと呼べるほどシャープではない。
同時に、まずまず静かで上質な走りを見せるが、かつてのメルセデスSクラス・クーペに望むような静粛性には届いていない。二兎を追う者は一兎をも得ず。どちらかを追求すべきだったのではないだろうか。
とはいうものの、フォルゴーレは楽しいクルマで、走りのテイストはありふれたものではない。パフォーマンスEVはそのほとんどが、基本的なフィーリングに違いはない。きわめて重心高が低く、方向転換は超ダイレクトだがずっしりした性質だ。
グラントゥーリズモ・フォルゴーレがそれと異なるのは、ICE車的な重量配分によるものだ。ロールや上下動があり、昔ながらのGTのような走りをみせる。われわれとしては、そのほうが好みだ。タイカンにはない気持ちよさがある。
そこにすばらしいドライビングポジションやステアリング、パワーもコーストもうまく調整されたトルクベクタリングが加わって、有能で満足感のあるGTとなれる素質を感じさせる。
欠点は重量と、明らかにアンダーステアなバランスだ。後者は、レイアウトを考えると避けられず、スタビリティのためにわざとそうしたのだとしても、それがどこまで故意なのかはっきりとはわからない。
快適性と静粛性に関していうと、波長の長いところは上々なのだが、荒れた路面ではしばしば過敏だ。113km/hでの室内騒音は71dBAだったが、66dBAのタイカン・ターボSにはかなり差をつけられている。
購入と維持 ★★★★★☆☆☆☆☆
クーペは17万8330ポンド(約3370万円)から、カブリオレは6000ポンド(約113万円)高い。ちなみに、より速く、日常的な使い勝手に優れ、完成度も高いタイカン・ターボSは16万1000ポンド(約3043万円)だ。ましてや、この価格で高速道路でのリアルな航続距離が320kmを切るようなEV、それもGTカーとなると、十分とは言えない。
見方を変えてみよう。2ドアのパフォーマンスEVというと、このすぐ上の価格帯はピニンファリーナ・バッティスタの240万ポンド(約4億5360万円)だ。テスラの新型ロードスターが登場すれば状況は変わるだろうが、残念ながらそっちはまだ市販されていない。
スペック
パワートレイン
駆動方式:フロント/リア横置き四輪駆動
形式:永久磁石同期式モーター、前1基/後2基
バッテリー:ニッケル・マンガン・コバルト、800V、92.5/83.0kWh(総量/実用量)
最高出力:761ps/-rpm
最大トルク:137.7kg-m/-rpm
馬力荷重比:337ps/t
トルク荷重比:61.0kg-m/t
ボディ/シャシー
全長:4966mm
ホイールベース:2929mm
オーバーハング(前):949mm
オーバーハング(後):1088mm
全高:1353mm
足元長さ(前列):最大1120mm
足元長さ(後列):640mm
座面~天井(前列):最大1020mm
座面~天井(後列):880mm
積載容量:270L
構造:スティール/アルミ、モノコック
車両重量:2260kg(公称値)/2358kg(実測値)
抗力係数:0.28
ホイール前/後:9.5Jx20/10.5Jx21
タイヤ前/後:265/35 ZR20/295/30 ZR21
グッドイヤー・イーグルF1スーパースポーツ
変速機
形式:1速リダクションギア
1000rpm時速度:18.7km/h
電力消費率
AUTOCAR実測値:消費率
総平均:3.5km/kWh
ツーリング:3.7km/kWh
日常走行:4.7km/kWh
動力性能計測時:1.6km/kWh
メーカー公表値:消費率
低速(市街地):-km/kWh
中速(郊外):-km/kWh
高速(高速道路):-km/kWh
超高速:-km/kWh
混合:4.3~4.5km/kWh
現実的な航続距離:295km(平均)/307km(ツーリング)/388km(日常走行)
公称航続距離:433~454km
サスペンション
前:ダブルウィッシュボーン/エアスプリング、アダプティブダンパー、スタビライザー
後:マルチリンク/エアスプリング、アダプティブダンパー、スタビライザー
ステアリング
形式:電動機械式、ラック&ピニオン
ロック・トゥ・ロック:2.4回転
最小回転直径:12.4m
発進加速
テスト条件:湿潤・乾燥途上路面/気温7℃
0-30マイル/時(48km/h):1.3秒
0-40(64):1.7秒
0-50(80):2.3秒
0-60(97):2.9秒
0-70(113):3.6秒
0-80(129):4.4秒
0-90(145):5.3秒
0-100(161):6.4秒
0-110(177):7.7秒
0-120(193):9.1秒
0-130(209):10.7秒
0-140(225):12.5秒
0-150(241):14.6秒
0-402m発進加速:10.8秒(到達速度:210.8km/h)
0-1000m発進加速:20.2秒(到達速度:270.9km/h)
0-62マイル/時(0-100km/h):3.0秒
30-70マイル/時(48-113km/h):2.3秒
50-70マイル/時(80-129km/h):2.1秒
ドライ制動距離
30-0マイル/時(48km/h):8.8m
50-0マイル/時(64km/h):24.6m
70-0マイル/時(80km/h):48.4m
60-0マイル/時(97km/h)制動時間:2.63秒
結論 ★★★★★★★☆☆☆
ICEとEVで共用するプラットフォームは、どちらもガッカリさせられることが多い。しかし現行グラントゥーリズモは、そんな傾向に反するクルマだ。V6モデルはこれまでにないほど、スーパーGTとして説得力があるし、フォルゴーレは速くてスリリングでもあり、独特の穏やかさと落ち着きも備えている。
好ましいクルマだといえるのは確かだ。たとえ、かつてのグラントゥーリズモのような魅力的なサウンドはなく、ウェイトが2.4t近いとしても。残念ながら、開発途中のように思えるところもある。航続距離と効率はもっと高める必要がある。走りも、もう少し妥協なく追求してほしい。
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