若者を中心にホラー映画ブームが続いている。今観るべきホラー作品をライターのSYOがリコメンドする。
“コロナショック”の初年だった2020年、未曽有のパニックに陥るなかで『犬鳴村』が興行収入14億超のヒットを記録。以降“恐怖の村シリーズ”として『樹海村』(21)『牛首村』(22)が制作し、人気を博した。TikTokほかSNSで火が付いたという白石和彌監督の『死刑にいたる病』(22)や年間興収ランキングトップ10入りした『変な家』(24)ほか、若者を中心とするライト層が多くを占める。
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一方、10万人を動員した「行方不明展」や話題を呼んだ深夜番組「イシナガキクエを探しています」ほか、コア層にも支持されるフェイクドキュメンタリーの躍進も目立つ。
この傾向は2025年も続いており、日本映画のラインナップは傑作ホラーが目立つ。
『きさらぎ駅 Re:』(6月13日より公開中)『事故物件ゾク 恐い間取り』(7月25日公開)『カラダ探し THE LAST NIGHT』(9月5日公開)といったシリーズ続編に『近畿地方のある場所について』(8月8日公開)や『8番出口』(8月29日公開)等のベストセラー小説やインディーヒットゲームの映画化など、若者世代をターゲットにしたコンテンツ力の高い作品群がひしめいているのだ(ドールミステリーを謳う『ドールハウス』も、客層は重なるだろう)。
と同時に、世界各国のホラーが劇場で観られるのも日本の強み(よく「洋画公開が遅い」と揶揄されがちだが、諸外国と比べてラインナップの多様さは随一)。2025年も『ロングレッグス』『プレゼンス 存在』『異端者の家』『ノスフェラトゥ』『サブスタンス』『MaXXXine マキシーン』『罪人たち』『28年後…』といった作品がコンスタントに公開される。
GQ読者もそうだろうが、ホラー好きは「面白ければ洋邦関係なく観る」タイプも多く、他ジャンルに比べて若者世代も多く集客できている。そんなホラーイヤーをさらに盛り上げるべく、映画ライターのSYOが「今すぐ観られる」近作ホラー15本をピックアップした。
国産ホラー5選
『みなに幸あれ』(24。Prime Videoほかで配信中)KADOKAWAによる短編映画コンペティション「日本ホラー映画大賞」の第1回大賞受賞作を長編映画化。田舎に暮らす祖父母のもとを訪れた孫が、恐るべき“しきたり”に触れるという家ホラーや因習ホラーの発展形といえる。笑顔が張り付いた祖父母の気味悪さ、突然動物の鳴き真似をする不可解さ、何かが潜む部屋といったギミックを張り巡らせつつ、明らかに異常な状況を孫以外が受け入れている集団狂気的な怖さも。中盤以降は、SDGsをホラー的に解釈した驚くべき展開が待ち受けている。孫を演じた古川琴音の恐怖演技も出色。なお、第2回日本ホラー映画大賞受賞作『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』は2025年に公開。「近畿地方のある場所について」の作者・背筋が寄稿したパンフレットが売り切れ続出する事態に。
『Chime』(24。Roadsteadにて配信中)『CURE キュア』『回路』の名匠・黒沢清監督がメディア配信プラットフォーム「Roadstead」用に制作したオリジナル中編。劇場公開も限定的に行われ、口コミで話題を呼んだ。チャイムの音をきっかけに、吉岡睦雄扮する料理教室講師の日常に異変が起こるさまを淡々と、しかし狂的に映し出す。何の脈絡もなく壊れる生徒、会話が全くない家族、異常な量の缶を捨てる妻、突然何かに取りつかれたように動き出すカメラワーク等々、不穏なシーンが続出。観客にはスッと理解できないが、何かしらのルールに沿って日常が浸食されていることを伺わせる演出等々、黒沢監督の持ち味がいかんなく発揮されている。
『フィクショナル』(24。U-NEXTほかで配信中)「行方不明展」や「イシナガキクエを探しています」で知られる大森時生がプロデュースを務めたBLドラマの劇場上映版。うだつの上がらない映像制作業者・神保(清水尚弥)はある日、密かに気になっていた大学時代の先輩・及川(木村文)から仕事を依頼されて有頂天に。しかしその内容は、怪しいディープフェイク映像の制作だった。陰謀論や相互監視社会といった題材を絡めつつ、リアルとフィクションの境目が曖昧になった現代の居心地の悪さを無機質に見つめる。
『シライサン』(19。U-NEXTほかで配信中)小説家・乙一として知られる安達寛高が監督・脚本を務め、飯豊まりえが主演した呪詛ホラー。眼球が破裂した遺体が相次いで発見される異様な事件が連続して発生。親友を目の前で亡くした女子大学生の瑞紀(飯豊まりえ)は事態の究明に乗り出すが、謎の存在“シライサン”を巡る恐怖の渦に絡めとられていく。安達監督自身が「『リング』や『呪怨』の系譜につらなるJホラー」と語っているように基本フォーマットは“呪いの伝染”だが、発動条件等にツイストの効いたアイデアが見られる。名だたる名ホラーから何を学び、どう発展させるか──温故知新の意味でも、興味深い。
『呪怨:呪いの家』(20。Netflixで配信中)最後に番外編として、伝説的ホラー映画『呪怨』のシリーズ初となるドラマシリーズを紹介したい。1980~90年代を舞台にした本作は、オカルト番組で共演したタレント・はるか(黒島結菜)の恐怖体験に興味を抱いた心霊研究家・小田島(荒川良々)、転校を余儀なくされた女子高生・聖美(里々佳)、ソーシャルワーカーの有安(倉科カナ)という接点のない人々が次第に「呪いの家」に引き寄せられていく全6話構成の物語。『ケイコ 目を澄ませて』『夜明けのすべて』の三宅唱監督がホラーに初挑戦した。目を背けたくなるような陰惨なバイオレンス描写も含まれており、シリーズの中でも異端作といえる。
世界各国のホラー作品10選
『視線』(22。Netflixにて配信中)夫とともにルーマニアのブカレストに引っ越してきたアメリカ人の女性。異国での慣れない新生活で、彼女は見知らぬ男に監視されている恐怖を抱く。向かいのアパート、街中、スーパーの店内、映画館、電車の車内──。どこにいても付きまとう視線。相手は何者で、なぜ執拗に見つめてくるのか? 日常に転がる“他者”の恐怖を拡張した「人怖(ひとこわ。生身の人間の恐ろしさを描くジャンル)」系ホラー。主演を務めるのは、2010年代以降の名作ホラーとして外せない『イット・フォローズ』のマイカ・モンロー。
『深い谷の間に』(25。Apple TV+で配信中)切り立った断崖の両岸から谷を監視する任務を与えられた、別々の国に属する狙撃手の男女。一人きりの孤独な生活を過ごすなか、向こう岸にいる相手との交流が癒しの時間となった2人は徐々に惹かれ合う。しかし、谷底には恐るべき“あるもの”が蠢いていて──。ミステリー調の立ち上がりからしっとりしたラブロマンスと展開するが、ある事件を境にダークファンタジー、さらにはグロテスクなクリーチャーが跋扈(ばっこ)するアクションホラーとジャンルが次々に変化。良作ホラー『フッテージ』や『ドクター・ストレンジ』で知られるスコット・デリクソン監督、『セッション』『トップガン マーヴェリック』のマイルズ・テラー、『マッドマックス:フュリオサ』のアニャ・テイラー=ジョイが出演。ちなみにアニャは『ウィッチ』『スプリット』『マローボーン家の掟』『ラストナイト・イン・ソーホー』と秀作ホラー/スリラーに多く出演。
『バーバリアン』(22。U-NEXTほかで配信中)仕事の面接のため、Airbnbで一軒家を借りたテス(ジョージナ・キャンベル)。深夜に現地に到着すると、ダブルブッキングで見知らぬ男性キース(ビル・スカルスガルド)が滞在していた。悪天候もあり二人は仕方なく共に夜を明かすことに。翌朝、地下室を発見したテスとキースを身の毛もよだつ恐怖が襲う──。「ありそう」なシチュエーションから始めて、ゾンビ映画的なジャンプアップが秀逸。本作を手掛けた俳優兼映画監督のザック・クレッガーは、ひねりの効いたリベンジ・スリラー『コンパニオン』のプロデュースや児童の集団失踪を描く『Weapons(原題)』等、注目の若手クリエイター。
『セイント・モード/狂信』(U-NEXTで配信中)ある事件を境に、カトリック教の敬虔な信者となった看護師のモード(モーフィッド・クラーク)。末期がん患者のアマンダ(ジェニファー・イーリー)の在宅ケアを行うことになった彼女は、「神の意志を全うするため」と思い込み、常軌を逸した行動に出始める……。宗教ホラーは名作ぞろいだが、A24が米国配給権を獲得した本作は主人公の暴走を冷徹かつ容赦なく突き放す強烈な1本。本作で絶賛を浴びたローズ・グラス監督の新作『愛はステロイド』は8月29日公開。
『MEN 同じ顔の男たち』(22。Prime Videoほかで配信中)『28日後…』や『シビル・ウォー アメリカ最後の日』で知られる脚本家・監督のアレックス・ガーランドによる怪作ホラー。夫の死を目の前で目撃してしまい、傷心を癒すために片田舎にワーケーションにやってきたハーパー(ジェシー・バックリー)。しかし、その地域の住人たちは皆同じ顔をしていた……。女性蔑視や有害な男性性を突いたテーマを「顔が同じ」という寓話的かつ斬新、それでいて総毛だつアイデアで表現。漫画『進撃の巨人』に影響を受けたという衝撃的なクライマックスには唖然とさせられる。
『スリープ』(23。Prime Videoほかで配信中)『パラサイト 半地下の家族』のポン・ジュノ監督の助監督を務めた新鋭ユ・ジェソン監督のデビュー作にして、恩師に「ここ10年で観た中で最もユニークかつ恐ろしい映画」と言わしめた戦慄のホラー。ある夜を境に、夫(イ・ソンギュン)が毎晩異常な行動を取るように。不安に思う妻(チョン・ユミ)は睡眠クリニックに連れていくが、ケアもむなしく奇行は看過できないほどエスカレートしていく。「一番近くにいる人がおかしくなる」恐怖で観る者を攻め立てつつ、予想を超えるとんでもない展開を用意。後味最悪の胸糞映画でもあるため、覚悟して観賞いただきたい。
『ビバリウム』(19。U-NEXTほかで配信中)マイホームを夢みる若いカップルが不動産屋から紹介された住宅地を訪れたところ、そこから出られなくなってしまった──という想像するだに恐ろしい不条理系ホラー。時間の経過もわからず、謎の赤子を育てさせられるという悪夢的展開が続く。近年は監督としても華々しい活躍を見せるジェシー・アイゼンバーグと『28週後...』や『ファーザー』のイモージェン・プーツが次第に疲弊していく姿が何とも不憫。ロルカン・フィネガン監督による次作『NOCEBO/ノセボ』も作家性が爆発した思い込み系ホラー。興味がある方はあわせて楽しんでほしい。
『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』(FODほかで配信中)青春ホラーのお約束に「ウェイ系やパリピがむごたらしく死ぬ“ざまぁ”展開」があるが、本作は一見そうかと見せかけて大きく異なる。触ると交霊できる謎の手の置物で「降霊チャレンジ」をしていた若者たちがルールを破って悲惨な目に遭いはするが、「友人知人の痴態や異変をSNSに晒す無自覚な危うさ」や「大切な家族を失った若者の不安定さ」が自己反省的に描かれていくのだ。本作を手掛けたフィリッポウ兄弟は、ユーチューバーとしても活躍。ホラーの醍醐味を損なわずに現代的な狂気をシリアスに盛り込んだ手腕が高く評価され、続編製作も決定。なお、彼らの新作『Bring Her Back(原題)』は5月末に米国公開。日本公開が待たれる。
『女神の継承』(Prime Videoほかで配信中)ここ日本でもフェイクドキュメンタリー(モキュメンタリー)熱が高まる昨今。同ジャンルの有名どころだとPOV(主観映像)と織り交ぜた『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』や『クローバーフィールド/HAKAISHA』、近作では台湾のヒット作『呪詛』などがあるが、個人的に推したいのがタイの祈祷師一族に密着した『女神の継承』である。韓国ホラー『哭声/コクソン』のナ・ホンジン監督が原案とプロデュースを務めた本作は、とある村に暮らす祈祷師の取材中に不可解な現象が起こり、やがて一大事に発展していくさまを実に生々しく映し出していく。祈祷シーンのリアルさや“何か”に取りつかれた女性のあまりに禍々しい演技、カメラに“あるもの”が映り込む等々、クレバーな恐怖演出の数々が光る。
『シック・オブ・マイセルフ』(U-NEXTで配信中)現代において加速した“病”の一つ、承認欲求。それが行き過ぎるとどうなるかをありありと映し出した北欧発の寓話ホラー。アーティストである恋人にばかり注目がいき羨ましくて仕方がない女性が、違法薬物に手を出して自身の身体を傷つけ、関心をひこうとする。ただ人気者になりたいのではなく、憐憫の対象になりたい、自分を弱く見せたいという欲求が実に現代的。誹謗中傷に対する恐怖から出たカウンターともいえるが、主人公の暴走を他人事として片づけられない身近な怖さが画面全体に満ちている。なお、本作のクリストファー・ボルグリ監督が次に手掛けた『ドリーム・シナリオ』は「ある日を境に大衆の夢に現れるようになった男の栄枯盛衰」を描く都市伝説的な不条理劇だ。
世界的にホラー映画は若手映画作家の登竜門的存在。低予算でもアイデア次第でバズを引き起こせるからだ。日本でもミーム化した『ミッドサマー』のアリ・アスター監督をはじめ、映画祭等で映画会社に見つかり、羽ばたいていった作り手は数多い。近年では『ゲット・アウト』等で知られるホラー工房ブラムハウス・プロダクションのように、特化型の会社も台頭。アイコニックなキャラクターが登場するホラージャンルは昨今のトレンドであるIP(知的財産)ビジネスとも相性が良く、今後もホラー作品は注目の的となるだろう。
文・SYO
編集・神谷 晃 AKIRA KAMIYA(GQ)
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