タフなハイラックスが選ばれる国を3日間
text:Matt Prior(マット・プライヤー)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
新しいランドローバー・ディフェンダーを、アフリカのナミビアで初試乗する。ここは人口密度が地球上で2番目に低い国。人口は250万人で、ベルギーの国土とほぼ同じ面積の国立公園が広がり、地形はどこを切り取ってもチャレンジング。
クルマといえば、堅牢なトヨタ車が選ばれるような国。新しいディフェンダーは無事に走りきれるだろうか。
ナミビアであっても、首都のウィントフックへ行けばレンジローバーを目にする。国を問わず、裕福な人が選ぶモデルなのだろう。だが、モンゴルに次ぐ広さの荒野が広がる国だから、トヨタ・ハイラックスの方がヒエラルキーでは上かもしれない。
事実、新車10台中、4台はトヨタ車。以前はその割合がもっと高かった。ハイラックスの走破性と長寿命を裏付ける。ディフェンダーを試乗する土地は、他のクルマでは耐えられなかった環境だともいえる。
新しいディフェンダーが2019年に発表された。フォルクスワーゲン・ビートルのように、リニューアルが難しいクルマだったと思う。
先代のディフェンダーは独立シャシーを備えていた。1948年の方法で作られたクルマは、長いモデルライフの中でアップデートを受けていたが、1980年代にはできることが尽きていた。ユビキタス時代、多くの人が受け入れられるクルマではなくなっていた。
SUVではなく、4x4
それを横目に、ニュー・ビートルやBMWミニ、フィアット500など、象徴的なモデルがリニューアルして登場。どれも簡単な仕事ではなかったはず。
「アイコンの再発明に関して、様々なマーケティング調査を行いました。得られたすべてが真実です」 とジャガー・ランドローバー社のCCOを務めるフェリックス・ブラチュティガムは話す。かつてはポルシェに勤務し、今回の試乗に同行してくれた人物だ。
ガレージにはポルシェ911 GT3 RS 4.0と、最新のジャガーFタイプのMT車が納まっている。きっと読者も好きなタイプの人だと思う。「端的にディフェンダーを説明するなら、秀でた能力(ケイパビリティ)でしょう。SUVではなく、4x4なのです」
筆者はあまりSUVと4x4を区別しない。ジープ・ラングラーやメルセデス・ベンツGクラス、トヨタ・ランドクルーザーなどをウェブで見ると、いずれも自動車メーカーはSUVに分類している。
ディフェンダーを表現するのに、SUVは適切ではないとブラチュティガムは話す。ランドローバーとしては、ディフェンダーが他にはない「本物」だと感じて欲しいのだろう。「ランドローバーは3本柱のモデル構成に戻りました」 とブラチュティガムが加える。
昔のランドローバーのように戻ったのだろうか? 筆者はそうは思はない。確かに、新しいディフェンダーは能力に優れたクルマの1台ではあるはず。
だが仮に、ランドローバーの開発がポルシェ911やホンダ・シビックのように進められてきたのなら、定期的なアップデートがあり、モデルサイクルも存在したはず。技術的な進歩も徐々に得られていたに違いない。
アルミ製のモノコックボディ
新型は、先代のディフェンダーの足跡に、プレミアム性を備えたクルマとして再登場した。初代ランドローバーが生まれたきっかけともいえる、質実なニーズに合わせたクルマではない。
ポルシェ911は常にスポーツカー。シビックは昔からファミリー向けのコンパクトカーだ。新しいディフェンダーは、変わった。必ずしも悪いことだとはいわないけれど。
まずはボディを眺めてみよう。デザインの好みは、人によって異なる。見慣れるにつれて、感じ方も変わってくる。実際、筆者は2019年に見たときとは違う印象を持っている。
ハードウエアは、客観的に評価できる部分。切り立ったリアエンドには、横開き式のテールゲートが付く。ボディ長が異なる90か110に応じて、3ドアか5ドアが選べる。土台とするのは、ジャガー・ランドローバー製のアルミニウムD7アーキテクチャだ。
アーキテクチャを共有するからといって、他のモデルをベースにしているわけではない。このD7と呼ばれるプラットフォームは、ジャガーXEやレンジローバーなども土台としている。純EVのジャガーIペイスすらD7だ。
もちろん、部分的なモジュールやクラッシュ構造は共有する。フロントアクスルとダッシュボードの間に納まる、高価なエンジンも共有することになる。
ディフェンダーの場合、表面のボディパネルだけでなく、内部構造も含めたホワイトボディ全体がアルミニウム製となるのが大きな特徴。ボディの位置も、ランドローバー社のモデルの中で一番高い。
ガソリンとディーゼルだけでなくPHEV版も
フロントとリアのサブフレームはスチール製で、接着剤とリベットで接合。そこへ、4輪ともに独立懸架式のサスペンションが組み付けられる。フロントはウィッシュボーン構造で、リアはインテグラルアームを採用する。
独立シャシーは存在しないモノコック構造。リジッドアスクルでもない。ジープ・ラングラーは前後ともに、トヨタ・ランドクルーザーやメルセデス・ベンツGクラス、その他のピックアップの多くが、今もリアはリジッドアスクルなのと反する。
ランドローバーによれば、ねじり剛性は29kNm/degを確保しているという。最大積載量は900kg、牽引重量は3500kgまで許容する。ちなみに北米では規定上、3700kgまで引っ張れる。
エンジンは2.0Lの4気筒ディーゼルターボが、200psと240psの2種類。2.0Lの4気筒ガソリンターボが300psで、3.0LのV6は401psを発揮する。プラグイン・ハイブリッドも間もなく登場予定。
「グレタさんに批判されるような、(環境意識の低い)最後のモデルとはしたくありませんでした。正当化できるクルマだと思います」 とブラチュティガム。今回の試乗車は、最も強力なディーゼルターボとガソリンターボの2台だ。
すべてのエンジンはZF社製の8速ATと組み合わされる。MTは用意されない。おそらく今後も。電子制御されるセンターデフとリアデフを備え、ランドローバー自慢のテレインレスポンス・システムで武装する。
ラングラーやGクラスのように、デフロックはできない。ローレシオのトランスファーは備える。
古いディフェンダーの雰囲気を残す車内
追って登場するベースモデルには、コイルスプリングが標準装備。初期のクルマ、試乗した110シリーズと間もなく登場する90シリーズには、エアスプリングが採用される。ディフェンダーの秀でた能力を支える、数多くの技術の1つだ。
運転席に座る。目前に広がるインテリアは、古いディフェンダーの雰囲気も残す。フラットなパネルがダッシュボードに大きく伸び、両サイドにはグラブハンドルが付いている。
小さなメーターパネルに計器類が並ぶ。ステアリングホイールが大きく、ドライビングポジションは高い。ゆったりしたシートと、視界に優れる点は新しい。クルマの見切りもわかりやすい。ドアミラーも大きい。
初代ディフェンダーはフォード・フィエスタ並みに狭く、フォード・フォーカス並みの短さだった。新しいディフェンダー110は、ミラーも含めた全幅で2105mm、スペアタイヤも含めた全長は5018mmもある。
ランドローバーのモデルの中でホイールベースは最も長く、3022mm。ディフェンダー90は、全長とホイールベースがそれぞれ500mm短い。
「この信号機を過ぎたら、今後3日間は舗装路を走れません」 助手席から教えてくれた。ディフェンダーの実力を確かめるため、相当なオフロードをたっぷりと走り込んだ。
3日後、滑らかなアスファルトに出会った時は、雪の溶けた春の道を走るように気持ちよかった。独立懸架のモノコックだが、ブラチュティガムの話す通り、気やすくSUVと呼べるクルマではなかった。
この続き、ドライブ・インプレッションは後編にて。
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