8歳でもらったサプライズプレゼントが、佐々木選手を2輪レースに導いた
2023年、シーズン終盤までMoto3クラスで接戦のチャンピオン争いを繰り広げ、ランキング2位を獲得した佐々木歩夢選手は、2024年、Moto2クラスにステップアップしました。ヤマハVR46マスターキャンプ・チームに移籍し、ゼッケンも22に変わっています。
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クラスとしてはルーキーですが、佐々木選手は2017年からロードレース世界選手権にフル参戦を続けており、通算キャリアとしては今季で8シーズン目です。慣れた様子でトレーラー内にしつらえられたソファに腰掛ける佐々木選手に、一番最初にバイクに乗ったときのことを思い出してもらいました。
「おじいちゃんが8歳の誕生日にポケバイを買ってくれて、それがスタートでしたね」と、佐々木選手は「バイクに乗り始めたきっかけ」を振り返ります。佐々木選手のおじいさんは、モータースポーツファンなのだそうです。
「(買って欲しいと)頼んだ覚えはないんですよ。おじいちゃんがサプライズでバイクを買ってくれたんです。最初のうちは遊びで乗っていたんですけど、乗っているのが楽しかったし、人と競って勝ちたいと思う楽しみを知って、少しずつ上手くなりたいと思い始めてから、もっと頻繁に乗りに行くようになりました」
「僕は小さい頃から自転車に乗るのが好きで、毎日のように外で自転車を乗り回していたくらいなんです」
少年時代からアクティブだったという佐々木選手は、そうしてポケバイで走り込むうちに、さらに速い人たちに出会いました。その度に「もっと勝ちたい」と思い、上のクラスに行きたいと思うようにもなりました。
「やればやるほど楽しかった。それに、負けず嫌いだったんです。人に負けるのが嫌いだったから、その分、頑張りました。それに、競い合いが好きだったんですよ。レースだけじゃないんですが、小さい頃はほんとに、超負けず嫌いだったと家族が言っていました」
佐々木選手のお父さんは、ロードレース世界選手権125ccクラスに参戦したWGPライダー、慎也さんです。けれど、佐々木選手が物心つくころにはほとんどレースを引退していて、小さい頃の佐々木選手は、お父さんがレースを走っていたことを知らなかったそうです。
「家にヘルメットが置いてあったけど、“どうしてヘルメットがあるんだろう?”くらいの気持ちでした。レースを始めてから、(お父さんがレースをしていたことを)知ったんです」
いずれにせよ、佐々木選手はこうしてレーシングライダーへの道を歩み始めたのでした。
「必ず前で走れるという、自信と気持ちがあった」
ロードレースに突き進む佐々木選手は、もてぎ、筑波の地方選手権に参戦し、2014年にシェルアドバンス・アジア・タレントカップ(現在のイデミツ・アジア・タレントカップ)に参戦し、翌年にチャンピオンを獲得します。さらに、2016年にはレッドブルMotoGPルーキーズカップでチャンピオンに輝きました。そして、2017年にロードレース世界選手権Moto3クラスにフル参戦するのです。佐々木選手がプロを意識したのは、世界選手権への参戦が決まったこのときでした。
「16歳のときですよね。ヨーロッパに1人で住んで、スポンサーも増えて、自分で稼いで自分で暮らすようになって。これは遊びだけじゃないんだな、と思いました。それまではほんとに楽しくてやっていたから」
「MotoGPが僕の目標だったけど、仕事としては見ていなかったんです。でも、16歳で世界選手権に来てからは、遊びだけじゃない。プロとしてしっかりとお仕事することになります。もちろん、今でもバイクは楽しくて乗っていますけど、それ以外でしなくちゃいけないこともあります」
「それまでは楽しくてバイクに乗っていた」と言う佐々木選手に、これまでずっと、モチベーションを維持し続けられたのでしょうか、と聞きました。
佐々木選手は「モチベーションはずっとありましたね」と答えます。もちろん、苦しい時期もありました。世界選手権参戦当初の1、2年はうまくいかないことが続き、翌シーズンのシートを見つけることが難しいことさえあったのです。
「ほんとに自分のレベルが足りなくて、トップになれないならレースをやめようと思っていました」
「でも、そのときは10番手や15番手を走っていても、何かがしっかりとうまくいけば勝てると思っていたんです。そういう自信があったからやめなかったというか……必ず前で走れるという、自信と気持ちがあった。それがモチベーションだったかな、と思います。モチベーションをキープできなかったことはあまりないんです。今のところは限界を感じたことはないし、まだまだ成長しているときです。モチベーションも高いし、それに苦しんだ覚えはないですね」
そして、2022年に移籍したチームで佐々木選手は本来の実力を開花させ、2023年シーズンに、見る者の記憶に残る堂々たるチャンピオン争いを繰り広げたのです。
「もし、レーシングライダーになっていなかったら?」
最後に、「もし、レーシングライダーになっていなかったら?」と佐々木選手に質問しました。この質問はバイク一筋のレーシングライダーを困らせてしまうことが多いのですが、驚いたことに、佐々木選手はすらすらと答えます。
「何かの会社を作って、持っていると思います」
「僕はバイクが第一の人生ですけど、レースは何歳までできるかわかりません。40歳くらいまで走っている人もいますけど、僕が何歳までできるかはわからないですしね。僕としては、30歳後半までできれば、成功したキャリアだな、と思っているんです」
話を聞くと、24歳になる青年の達観が窺えます。佐々木選手は自分自身のキャリアと人生を俯瞰し、すでに「その先」を言葉にできるほど考えているようでした。
「世界で活躍できるうちは続けたいです。あとは、若手ライダーを助けられるなら、できるところは関わりたいですね。今すでに、そういうことに携わっています」
「もちろん、自分のレースが一番大事なので集中はしていますよ。でも、将来に向けていろいろやっていきたいなって。レストランを持ったりしてみたいし……。やりたいことがいっぱいありすぎるんです!」
佐々木選手からは、とめどなく「やりたいこと」があふれてきました。それは、レーシングライダーとしてコース上で激しく戦う佐々木選手の、また違った一面でした。けれど、その顔もまた、「佐々木歩夢」であることに違いないのです。
■佐々木歩夢(ささきあゆむ)選手/ヤマハVR46マスターキャンプ・チーム/#222000年10月4日生まれ2014年:シェルアドバンス・アジア・タレントカップ(※現イデミツ・アジア・タレントカップ)に参戦2015年:シェルアドバンス・アジア・タレントカップ チャンピオン、レッドブルMotoGPルーキーズカップ ランキング3位2016年:FIM CEVレプソル Moto3ジュニア世界選手権(※現FIM JuniorGP)に参戦、レッドブルMotoGPルーキーズカップ チャンピオン2017年:ロードレース世界選手権Moto3クラス フル参戦、ルーキー・オブ・ザ・イヤーを獲得2023年:Moto3ランキング2位を獲得2024年:Moto2クラスにステップアップ
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怪我の影響がまだ残っているかもしれないが、まずはモト2への順応に徹して力を蓄えましょう。