ホンダが世界に誇るホットハッチ、「シビック タイプR」にあらためて乗った! 『GQ JAPAN』ライフスタイルエディターのイナガキがリポートする。
ホンダ シビック タイプRの特徴
1.概要
2.エクステリア
3.インテリア
1.概要
究極の前輪駆動スポーツカーといえば、ホンダのシビックタイプRかもしれない。この名前を聞いて、胸を高鳴らせない自動車ファンはいないだろう。
1997年に初代EK9型が登場して以来、タイプRの称号はホンダのレーシングスピリットの結晶であり、市販車の枠組みを超えた走行性能を追求し続けてきた。時代は移り変わり、エンジンは自然吸気の超高回転型VTECから、強烈なトルクを誇る直噴VTECターボへと心臓部を変えて久しいものの、その根底に流れる「世界最速のFFスポーツを創る」の哲学はブレていない。
今、目の前にある最新世代のFL5型シビックタイプRは、自動車業界が電動化へと舵を切る中において、純粋な内燃機関とマニュアルトランスミッションのみを組み合わせた、ある種の「奇跡」のようなモデルだ。現在の時間軸において、こういったクルマを公道で走らせることができる喜びは筆舌に尽くしがたい。
2.エクステリア
試乗車は、レーシングブラックパッケージ装着車だ。ただし、現在のラインナップは本パッケージ装着車のみの展開ゆえ、選択肢はこれのみとなる。ボディカラーは、タイプRの象徴とも言えるチャンピオンシップホワイトではなく、鮮烈でありながらどこか冷徹な印象を与える「レーシングブルー・パール」を纏う。搭載されるエンジンは排気量1995ccの水冷直列4気筒DOHC16バルブターボであり、駆動方式は当然のことながら前輪駆動(FF)、トランスミッションは6速マニュアルトランスミッション(6MT)だ。内装色はブラックに統一されている。
価格は¥6,179,800。さらに試乗車には、ディーラーオプションとして¥70,400のプレミアムフロアカーペットと、¥57,200の前後2カメラセットのドライブレコーダーが装着されており、車両総額は¥6,307,400だ。近年のスポーツカーの価格高騰、とりわけ欧州のハイパフォーマンスカーが軒並み1000万円台の大台に乗ろうとしている現状を考えれば、330psを誇る世界トップクラスのトラックウェポンが600万円台前半で手に入るのは、後述する数々の専用装備や開発にかけられた莫大なコストを鑑みれば、バーゲンプライスかもしれない。
実車でまず圧倒されるのは、低く構えたワイドなプロポーションと、空力を追求した凄みのあるエクステリアデザインだ。ベースとなったシビックの流麗なハッチバックシルエットを活かしつつも、タイプRのために専用設計されたワイドフェンダーによって、全幅はベースモデルから実に90mmも拡大され、1890mmに達する。このワイド化は単なる視覚的な迫力を狙ったものではなく、極太の265/30ZR19サイズのミシュラン・パイロットスポーツ4Sタイヤを四輪に収め、フロントのトレッドを大幅に拡大して強烈なコーナリングフォースを受け止めるための必然的な形状だ。
フロント周りでは、冷却効率を高めるために開口部が極大化されたフロントバンパーと、エンジンルーム内の熱気を効果的に排出するためのアウトレットが設けられたアルミ製ボンネットが目を引く。これらは空気抵抗を低減しながらダウンフォースを稼ぐためのエアロダイナミクス装備であり、機能美そのものだ。
サイドに回ると、空力を意識したサイドシルガーニッシュが地を這うようなスタンスを強調し、足元にはタイプR専用の19インチリバースリムアルミホイールがマットブラックの鈍い光を放つ。その後ろには、強大な制動力を約束するブレンボ社製のフロント大径ベンチレーテッド2ピースディスクブレーキが鎮座しており、真紅のキャリパーがレーシングブルー・パールのボディカラーに対して絶妙なコントラストを生み出す。
リアビューにおいて最も特徴的なのは、やはりグロスブラックに塗装された専用のリアスポイラーだ。アルミダイキャスト製のステーによって強固にマウントされた巨大なウイングは、ルームミラー越しの視界を妨げないよう絶妙な高さと角度に設定されつつ、高速域では車体を路面に力強く押し付ける強力なダウンフォースを発生させる。
さらに、リアバンパー下部のディフューザーから覗く特徴的な3本出しのエキゾーストパイプは、中央のパイプが排気音のコントロールを担っており、見た目の迫力だけでなく排気効率とサウンドチューニングを両立させる機能部品として成立。全体として、先代FK8型のガンダムチックとも揶揄されたアグレッシブすぎる造形から一転し、FL5型は大人のスポーツカーとしての洗練された凄みとエレガンスを併せ持つデザインへと進化した。これは歴代モデルを知るファンにとっても、新規の顧客にとっても、美点として評価できるだろう。
3.インテリア
室内に乗り込むと、そこにはタイプRの伝統である目に刺さるような赤ではなく、レーシングブラックパッケージならではの漆黒の空間が広がる。
従来設定のあった通常モデルのタイプRでは、深紅の専用シートやフロアカーペットが否応なしにドライバーの闘争心を煽る演出となっているが、本パッケージは異なるアプローチをとっている。ダッシュボードやドアトリム、そしてシートにいたるまで黒で統一することにより、フロントガラスへの内装の映り込みや、視覚的なノイズとなる要素を排除。結果として、ドライバーはただ純粋に目の前の道やサーキットのエイペックスと一体になれる、ストイックなドライビング環境を手に入れることができる。
実際に座ってみると、専用シートは高いホールド性を持ちながらも、表皮のアルカンターラ調素材がしっとりと身体を包み込む。長時間の運転でも局所的な圧迫感や疲労を感じさせない、人間工学に基づいた造りだ。専用のステアリングホイールも完成度が高く、グリップ部には滑りにくいアルカンターラ素材が用いられ、素手でもレーシンググローブ着用時でも手のひらに吸い付くような感触が得られる。
目の前には専用10.2インチ デジタルグラフィックメーターが配置されており、通常のドライブモードでは視認性の高いオーソドックスな2眼メーターが表示されるが、ステアリング脇の「+Rモード」スイッチを押すと、画面は一変。レーシングカーさながらの横長のバーグラフ式タコメーターと、F1マシンのようなシフトアップインジケーターを中心とした戦闘的なデザインへと切り替わる。さらに、ダッシュボード中央のHonda CONNECTディスプレーには、専用のデータロガーアプリである「Honda LogR」が表示可能であり、車両の各種センサー情報や水温・油温、サーキットでのラップタイム、タイヤの摩擦円のGフォースなどをリアルタイムで確認できるなど、走りを愛するエンスージアストにとってたまらないギミックが標準装備となる。
しかし、このインテリアと装備類には、日常的な使い勝手を考慮するといくつかの気になる点もあった。まず、600万円を超える車両でありながら、シートヒーターが装備されていない点だ。軽量化とスポーツ走行への特化が最大の理由であることは理解できるものの、冬場の日常使用においては、冷え切ったシートに座る苦痛を強いられる。同価格帯のライバル車たちが軒並みシートヒーターやステアリングヒーターを装備し、四季を通じたグランドツーリング性能を高めていることを考えると、日常の快適性の面ではやや見劣りする。
第二に、室内の収納スペースの乏しさが挙げられる。ベースモデルのシビックと比較しても、センターコンソール周りの小物入れやドリンクホルダーの使い勝手は決して良いとは言えず、大型化したスマートフォンやサングラス、財布などを直感的に置く適切な場所に困る場面がある。センターコンソールにはワイヤレス充電器も装備されているものの、コーナリングの横Gでスマートフォンが滑りやすく、すぐに充電位置からズレてしまうのも気になった(次のページへ続く)。
▲次のページ:「もはや奇跡の1台」
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みんなのコメント
乗ってないだろ。
ベースモデルと違う小物入れ?
ほとんどベースモデルと変わらないと思うけど。