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【分析】F1の将来のパワーユニット、そして2026年レギュレーションをめぐる政治的闘争……結論はどうなる?

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【分析】F1の将来のパワーユニット、そして2026年レギュレーションをめぐる政治的闘争……結論はどうなる?

 F1バーレーンGPの金曜日には、F1の将来のパワーユニット(PU)レギュレーションに関する首脳会議が行なわれた。そしてサウジアラビアGPの後には、F1委員会でも将来のPUに関する議論が進められた。

 この今回の会議は、ニコラス・トンバジスが中国で少人数のメディア(Motorsport.com含む)に語ったインタビューをきっかけに開催されたものだった。日本GPの際には各メーカーに招集がかかり、急遽バーレーンに各メーカーの責任者が集まることになった。

■ホンダ、バーレーンで行なわれた”V10回帰”を話し合う会議に参加「2026年のPU規定がF1再参戦決定の大きな理由だったと主張した」と声明

 トンバジスはふたつの核心的な課題を提示した。F1は長期的に何を目指すべきなのか? 仮にその答えが2031年以前に持続可能な燃料を使ったV10エンジンを導入することであるなら、その間の移行期間に何をすべきか? ということだ。そしてこの「移行期間」に関してFIAはふたつの案を提示した。ひとつは2026年レギュレーションの期間を短縮すること。そして、2026年レギュレーションの導入自体を完全に撤廃するという過激な案もあった。

■レギュレーション撤廃案は否決

 しかし会議の主な結論として明らかになったのは、「2026年PUレギュレーションの撤廃案は実施されない」という点だった。我々の取材によれば、3メーカーが明確に「望ましくない方向性だ」と表明したという。その3社は予想通りの顔ぶれだ。アウディとホンダは、F1参戦または復帰の理由として、”電動化と環境配慮を組み込んだレギュレーション”の存在を挙げている。そしてメルセデスも、会議前から反対の姿勢を見せていた。トト・ウルフ代表は再三にわたって「F1は信頼できるパートナーであるべきであり、土壇場でのレギュレーション変更はそれに反する」と主張している。

 会議ではダイムラーのオラ・ケレニウスCEOも早い段階で発言し、同様の立場を明らかにした。アウディとホンダも同様に新レギュレーションの撤廃に否定的だったため、この議題はすぐに却下された。

 なおトンバジスは事前に、2026年レギュレーションを撤廃するには「大多数の賛成が必要」と述べており、仮に一社でも反対すれば撤廃案は通らなかっただろう。FIAの方針は「幅広い合意がなければ、方針の転換は行なわない」というものであり、強行はしない姿勢を示した。

■なぜ議論が複雑なのか? ターボ、KERS、そして他の争点

 2026年レギュレーション撤廃論という“劇薬”は取り除かれたが、当然ながら議論すべきことはまだ多く残っていた。2026年レギュレーションおよび将来のエンジン像に関する議論だ。会議後の声明でFIAは「将来のPUには常に一定の電動化が伴う」と明言した。つまり、今後のF1のPUには必ず電動コンポーネントが含まれるということだ。

 候補として挙げられたのが、V10またはV8エンジンにKERS(運動エネルギー回生システム)を組み合わせる方式だが、これもそう簡単な話ではない。複数のメーカーはmotorsport.comに対し「V10またはV8にKERSを取り付けると、重量がかさみすぎる」と述べている。燃料が多く必要となり、その分重くもなるわけだ。電動に関するコンポーネントを減らして重量を抑えられるかもしれないが、KERS搭載ではそれが難しく、むしろ二重に重くなってしまう恐れがある。

 さらに、ターボエンジンを継続すべきと主張する人たちもいる。アウディは「ターボの方が市販車への技術応用としては現実的」として、自然吸気のV10エンジンやV8エンジンよりも優れていると見なしている。しかし、これも論争の種だ。

 バーレーンGPのFIA公式記者会見でハースのエステバン・オコンは、「ターボはサウンド体験を損なっている」と指摘。「今のエンジンは力強くて優れているけど、昔のような音がしない。自然吸気であれば、6気筒でも5気筒でも、3気筒ですら素晴らしい音がする。でもターボはその音を奪っている」と語った。

 様々な要素が絡み合っているため、F1のPUの将来像に関する議論は極めて複雑である。そのため結論が先送りされているのが現状だ。FIAは「持続可能性、安全性を損なわない範囲での軽量化、エンジン性能、市販車への応用性、音、観客にとっての魅力……これらの相反する要素の間でバランスを取る必要がある」と説明している。

 これまでの会議を通じて少なくとも明らかになったのは、「持続可能性」と「市販車への技術応用性」が今後のF1において極めて重要であるという点だ。これらを無視すれば、自動車メーカーがF1から離れてしまうリスクがあり、それはFIAもF1運営側も何としても避けたいと考えている。

■F1が2026年レギュレーションに関して発しているシグナル

 一方、舞台裏ではさらに大きな争点が存在している。それが、間近に迫った2026年レギュレーションに関する議論だ。この議論は非常に政治色が強く、2026年レギュレーションに対する懸念が未だ消えていないことを裏付けている。

 その懸念点は大きくふたつに分かれる。ひとつ目はレギュレーション全体のエンタメ性(そしてそれがもたらすレースの面白さ)に対する不安である。そして、あるメーカーが他社を圧倒してしまい、F1としての面白さを損なうことになってしまうという恐れだ。

 ウイリアムズのカルロス・サインツJr.はバーレーンGPの際、次のように語った。

「もし2026年の計画に満足していれば、V10エンジンについて声高に語ったりしないだろう。でもそれこそが問題で、僕は2026年に向けたクルマやエンジン、全体の連携について、あまり満足していない。だからこそ『V10を早く復活させたい』って言っているんだ」

 もちろんV10復活は実現しない見通しだが、サインツJr.のこの発言は、2026年レギュレーションにまだ多くの課題が残っていることを示している。

 この見方はパドック内でも広く共有されているが、同時に関係者たちはファンに対してネガティブな印象を与えすぎないよう慎重になっている。なぜなら、今から2026年以降を疑問視し、さらにその先の将来について語ることは、「2026年から数年間は我慢の期間であり、その後にようやく楽しくなる」というイメージを作りかねない。

 マクラーレンのチーム代表アンドレア・ステラはこの点について次のように警鐘を鳴らした。

「まだ2026年レギュレーションのスタート前なのに、すでに別の未来について話している。我々には責任がある。スポーツを一緒に守っていかなければならない。レギュレーションを今から台無しにしてはいけない。もちろん多少の調整は必要だろうが、問題点を冷静に見極めて、協力しようじゃないか。うまくやれば、2026年にも素晴らしいプロダクトを作れると私は信じている」

■政治的な闘争:『スポーツのため』という名目で2026年レギュレーションを変更する?

 とはいえ、現実にはそれほど単純ではない。問題の核心は、2026年レギュレーションに関する議論が非常に政治的であり、各チームが「スポーツのため」と言いながらも実際にはそれぞれ自分たちに有利なように誘導しようとしている点だ。

 バーレーンGPの際の会議とF1委員会では、少なくともメーカー間の格差を埋めるための具体策について話し合いが進んだ。

 motorsport.comの取材によれば、以前のような「トークン制」ではなく、後れを取ったチームに対してテストベンチ使用時間を追加したり、エンジン開発費用の上限(コストキャップ)に特別枠を設ける仕組みが検討されているようだ。

 一方でもうひとつの大きな懸念、つまり電動モーターとエンジンの出力配分を変更すべきかどうかに関しては、議論が難航している。電動モーターの出力は、2026年からエンジンと同等になるが、それでは途中でバッテリーに蓄えられているエネルギーを使い果たしてしまい、レースとしての魅力を損なってしまうという指摘が、今も根強くあるのだ。

 ここでも「F1のため」という主張、「それぞれのメーカーのため」という主張が交錯し、区別が難しくなっている。各陣営が「スポーツのため」と主張しつつも、自らに有利な提案を押し進めようとしているのが実情……現在、議論が白熱しているのはまさにこのポイントだ。

 レッドブル・レーシングは、今のままでは好ましくないシナリオになると警告し、レース中の出力配分(エネルギーデプロイメント)を変更することで問題を回避することを提案している。

 レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表はこう説明する。

「我々はこれを今週になって急に言い出したわけではない。2年前からこの問題提起をしていた。FIAも調査し、今ではリフト・アンド・コースト(燃費を節約するためにアクセルを早めに戻す走り方)が多発することを懸念している。これはF1にとっても、ドライバーにとっても良くない」

「だからこれはロビー活動ではなく、あくまでF1のために提案している」

 一方で、メルセデスのウルフ代表は、ホーナー代表の意見に異を唱える。「F1委員会の議題を読むのは、まるでアメリカ政治に関するツイートを読むのと同じくらい滑稽だった」と皮肉を述べ、「もうコメントは控えたいが、笑うしかない」と付け加えた。

 ホーナー代表は「メルセデスは来年に向けて自信満々だ」と認め、ウルフ代表は「もう2026年まで時間がない、今さらルールをいじるべきではない」と反論。そしてホーナー代表は、さらにこう返す。

「確かに2年前にやるべきだったが、まだ新PUの実戦投入まで10ヵ月ある。遅すぎるとは思わない」

 なお、議論の中心はエンジンのハードウェア自体の変更ではない。焦点は、レース中に使用されるエネルギーの配分量にある。

 FIAはこれに対処するため、350kWまで許される予定だった電力の最大出力を減らすことを検討している。中には最大出力を200kWに抑えるべきとの意見もあるが、これは最も過激な案であり、現実にはそこまでの削減は難しいと見られている。

 電動パワーに関する開発が順調に進んでいるメーカーはこの出力削減に反対し、逆に電動側で出遅れているメーカーはこの案に賛成するという構図だ。

 このように、現在の議論は極めて複雑で政治的だ。一方で、時間は刻一刻と過ぎ、2026年シーズンが近づいている。最終的にFIAとすべての関係者は、本当に「F1のため」に何をすべきかを決めなければならない。

 そして、問われるのはただひとつ……誰が自らの利害を乗り越え、ファンのために最高の製品作りを優先できるのか? ということだ。

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みんなのコメント

4件
  • malulani2000
    RBPTは次期PUの開発が思い通りに進んでない様に思われる。
  • dor********
    欧州、白人って凄いよ!恥の文化はない、どころか厚顔無恥の節操なし
    ノルディックもジャンプもすべてお手盛りのルール改正
    Bopのあるレースなんてレースじゃないもんね
    プロレスよりひどいよルマンなんて
    そうだよ、F1もBopを導入すれば良いよ(笑)
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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