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スペイン人ライターのF1便り:苦戦の時代にF1の覇権を握る土台を築きあげたメルセデス

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スペイン人ライターのF1便り:苦戦の時代にF1の覇権を握る土台を築きあげたメルセデス

 スペイン在住のフリーライター、アレックス・ガルシアのモータースポーツコラム。2019年シーズンはメルセデスがF1第17戦日本GPでコンストラクターズ選手権6連覇を達成し、ドライバーズタイトルもルイス・ハミルトンがほぼ手中に収めようとしている。2010年からF1に復帰したメルセデスが6連覇を飾ることになった強さの秘密を語る。
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 F1第17戦日本GPでバルテリ・ボッタスが優勝、ハミルトンが3位につけたことで、メルセデスはコンストラクターズタイトルを獲得。F1で最も成功しているチームの座を確固たるものにした。そのことは過去数シーズンにおけるチームの勝利数を見ればすでに自明だが、究極の決め手はやはり世界選手権だ。

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 鈴鹿での結果によって、メルセデスは6年連続でコンストラクターズ選手権タイトルを勝ち取った。そして一番重要なのは、日本GP終了時点でハミルトンとボッタス以外のドライバーにタイトル獲得の可能性が消滅したことで、メルセデスが事実上のダブルタイトル獲得となったことだ。メルセデスはこの6年間の選手権で、過去のフェラーリとミハエル・シューマッハーの圧倒的記録(6年で11タイトル)を塗り替えたのだ。

 ただ勝利するだけでも決して簡単な仕事ではないが、フェラーリの記録を破ることはさらに特別なことだ。メルセデスは2010年にF1復帰したほぼその時から、正しい歩みを進めてきた。ブラックリー(シャシーと空力部門)とブリクッスワース(エンジン部門)の技術チームが素晴らしい仕事を復帰後の数年に行うことができたのだ。だがその点を論じる前に、事業計画と運営という側面についても考える必要があるだろう。

 メルセデスのF1における歴史は1950年代までさかのぼる。メルセデスはイタリアのライバルたちよりも多くの資金を投入し、F1で2シーズンにわたって圧倒的優位に立った。そして1955年のル・マンでの大事故(ル・マン24時間レース中、クラッシュによって83人が死亡、180人が負傷した)の後にメルセデスはF1から撤退した。
 メルセデスは2010年までF1に復帰することはなかった。それまでにメルセデスはマクラーレンのエンジンサプライヤーとして大きな成功を収めていたが、その関係は2009年に新興チームのブラウンGPとの買収話がまとまったことによって終わりを告げた。

 メルセデスがF1で再びレースができるようにブラウンGPを売却したのは、ロス・ブラウンだった。多くの人々は、2009年にダブルタイトルを獲得したブラウンGPを引き継いだメルセデスが勝ち続けるだろうと考えた。さらにメルセデスは伝説的ドライバーのミハエル・シューマッハーに加え、前途有望なスターであるニコ・ロズベルグを起用していたのだ。だが、2010年に復帰したメルセデスは優勝できる強さはもっていなかった。

 メルセデスは最初の数年で苦戦していたが、同時にファクトリーでは将来に向けた土台を築いていた。2014年に新レギュレーションが施行されることになっていたので、どこよりも早くエンジンに取り組むことが重要だったのだ。チームはライバルたちよりも1年以上も早くエンジンに着手していた。

 シューマッハーが2013年の新車についてアドバイスすることもあった。しかし、残念なことにシューマッハーがそのマシンを乗る機会はなかった。ニキ・ラウダの交渉力のおかげで、2013年からルイス・ハミルトンがメルセデスに加入したからだ。2008年のF1王者であるハミルトンには、メルセデスが素晴らしいチームとなることが約束されていた。

 それはドリームチームの最初の片鱗であり、冬の間に適切な作業が行われた結果、2013年のマシンは実際に速かった。だが、速いマシンを作るのは“簡単な”部類だが、F1チームがタイヤを作るのは不可能だ。ここで“世界制覇”に向けた最初の政治的手腕のひとつが発揮された。2013年のスペインGP後にメルセデスはピレリを説得して、2013年シーズンを走るマシンでタイヤテストに協力することになったのだ。

 テストはピレリが呼びかけたものなので、メルセデスがペナルティを受けることはなかった。だが利点があることは明白であり、ロズベルグとハミルトンはその後の5戦のうち3戦で優勝した。勝てるマシンを理解するための最後の課題はこうして解決された。

 その間、ウォルフとラウダは別の政治的作戦を完遂しようとしていた。彼らは基本的にブラウンと公平な地位に立つことになったのだ。ブラウンは、勝利の時代に向けたすべての基礎を築いたにもかかわらず、2014年シーズン中にチーム内で彼の地位について対立が起こったため、彼はチームを去る決断をした。

 こうしてウォルフとラウダは、非常に潤沢な資金と、勝てるマシン、そして他のどこよりも優れたエンジンを持ったチームを手に入れた。強力なドライバーたちとともに、素晴らしい2014年シーズンに向けてすべてのことが整ったのだ。そして実際に2014年は素晴らしいシーズンだった。ダブルタイトルを獲得し、その年のほとんどのレースで優勝したのだ。しかしながら、メルセデスにおける最高の仕事は、ブラウンがチームに教え込んだことだ。それは常に一歩前を行けということだ。


 2014年に数々のレースで勝ったメルセデスだが、チームは早い時期から2015年のマシンに取り組んだ。大きなアドバンテージがあるおかげで、その数年はさらなるリソースを後継マシンの開発に割り当てることが可能だった。ブラックリーはほぼ常に、現在に集中するよりも(それは主にエンジニアとドライバーの仕事だった)、将来を見据えていた。その後の活躍は、みなさんもご存知の通りだ。

 F1の新スターとしてのハミルトンの台頭は、FIAにとっても有益なことだった。特にリバティ・メディアは、F1の公的イメージに新しい風を吹き込むことを目指していた。彼らはカリスマ性のあるチャンピオンを必要としており、ハミルトンはそうなるのに完璧な男だった。

 メルセデスとハミルトンは、F1のグローバルな注目度を上げる役目を果たしてきた。現在もF1は勢いがあり注目を集めているが、多くのファンは、他のチームがタイトルを取るところを見たがっている。

 2021年には新レギュレーションが導入され、メルセデスの覇権を止める最善のタイミングがきたと言える。だが2019年の後半にはライバルたちもエンジン、シャシー面で追い上げてきている。

 メルセデスの成功は永続するものではないだろう。新レギュレーション導入後、我々が新たなチャンピオンを目にするチャンスがあるかもしれない。だが、もちろん2020年が先だ……。我々はハミルトンが7度目のタイトルを獲得するところを見ることになるだろうか?

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