「ジープの元祖」を開発したのはどこ?
1941年に誕生した「ジープ」はアメリカ陸軍が開発した小型軍用車両です。画期的なパートタイム4WDの駆動方式を持ち、人員の移動、物資の輸送、連絡、斥候(偵察)、戦闘などに活躍し、ときには電話線の敷設、負傷兵の移送なども行いました。その活躍ぶりから、第2次世界大戦を連合軍の勝利に導いたとも評されます。
もともと「ジープ」とは戦場で兵士たちが名付けた愛称です。由来は諸説ありますが、彼らが読んでいたマンガ『ポパイ』に登場する、何でもできる不思議な動物「ユージン・ザ・ジープ」から取ったという説が広く知られています。
「ジープ」は、第2次世界大戦後に民生用としても販売され、軍民問わず活躍することになります。現在、「ジープ」の商標と製造権を所有しているのはステランティスN.Vです。それ以前、民間向けの「ジープ」を長らく販売していたのはクライスラーで、さらに時代を遡ると第2次世界大戦中に「ジープ」を製造していたのはウィリス・オーバーランドとフォード・モーターです。
その基本設計の優秀さから、「ジープ」はアメリカ以外の国でもノックダウン生産やライセンス生産、あるいは無許可のコピー生産が行われており、製造に携わったメーカーは多く、派生車種は数え切れないほどあります。
それでは「ジープ」を最初に発明したのはどのメーカーになるのでしょうか?
ドイツ軍の「キューベルワーゲン」以上の車両を要求
「ジープ」誕生のきっかけは1939年9月のドイツ軍によるポーランド侵攻でした。ヨーロッパで戦争が勃発し、中立の立場を表明していたアメリカも遠からず大戦への参戦が不可避になると考えるようになったのです。そこで、米陸軍はドイツ軍の「キューベルワーゲン」を性能面で上回る小型軍用車両の開発を国内の自動車メーカーに打診しました。その時の要件は下記の通りです。
1、高低2段切り替え式の副変速機を持つトランスミッションを備えること。
2、四輪駆動車であること。
3、積載量は4分の1トンで、CAL30(30口径機関銃)が搭載可能であること。
4、ブラックアウトライティング(灯火管制)システムを標準で装備すること。
5、スクウェアなボディスタイルで、折り畳み式のウインドシールドを備えること。
6、車両重量を1275ポンド(585kg)以内に抑えること。
7、ホイールベースは75インチ(1905mm)、車高は36インチ(914mm)以内に収めること。
8、エンジン出力は40hp以上あること。
9、舗装路の最高速度は50マイル(80.5km/h)以上、最低巡航速度3マイル(4.8km/h)以下であること。
10、試作車70台を75日以内に製作し納入すること。
この厳しい条件に応募したのはアメリカン・バンタム、フォード、ウィリスの3社だけで、そのうち期限内に試作車を提出することができたのはバンタムだけでした。同社が納入した試作車は1カ月にもおよぶ厳しいテストで優秀な成績を収めたことから、米陸軍は量産を前提に改良を加えた増加試作車を追加発注しました。
零細の自動車メーカーが「ジープ」を発明
アメリカン・バンタムだけが陸軍の求めに応じて、短期間で小型軍用車両を完成させることができたのは、このメーカーがアメリカでは珍しい小型車専門メーカーだったからです。その前身はアメリカン・オースチンで、この会社は小型車を得意とするイギリスのメーカーの現地法人であり、デラウェア州の工場で左ハンドル化されたオースチン「セブン」を生産していました。しかし、世界恐慌の余波で同社は倒産します。そして、実業家のロイ・エバンスがアメリカン・オースチンの資産と生産設備を買い取り、1936年に設立した新会社がアメリカン・バンタムでした。
アメリカン・バンタムは、1938年にオースチン「セブン」の発展型である「60シリーズ」の市販を開始しますが、このニューモデルはまったく売れず、創業当初から深刻な経営不振に陥ります。そのような時期にもたらされたのが米陸軍による小型軍用車両の公募でした。これを起死回生のチャンスと見た社長のエバンスは、チーフエンジニアであったハロルド・クリストと相談の上、フリーランスの自動車技術者カール・K・プロブストを招聘。クリストがプロジェクトマネージャーを務める一方で、プロブストが設計・開発・製造を担当し、急ピッチで開発作業が行われました。
こうして完成したアメリカン・バンタムの試作車が「ジープの元祖」であり、開発者のカール・K・プロブストが「ジープ」の生みの親となったのです。
零細メーカーゆえに米陸軍から不遇な扱いを受けたバンタム
今日、「ジープ」を開発したアメリカン・バンタムの存在はほとんど知られていません。ステランティスN.Vの日本版公式HPにある「ジープの歴史」で、わずかにその名が見られる程度です。
それというのも、アメリカン・バンタムは自身が生み出した「ジープ」の生産権を取り上げられ、成功の果実を得られぬまま、1956年にアメリカン・ローリング・ミルズに買収されて、社名も残っていないからです。バンタムは従業員わずか15名の零細企業であり、工場も町工場に毛が生えた程度で、赤字経営であったことが原因でした。
試作車と増加試作車の「BRC-60」の高い性能に満足した米陸軍でしたが、量産を考えたときに不安を感じたのが、アメリカン・バンタムの企業体力でした。このような零細企業に米陸軍の主力となる小型軍用車の生産を任せることはできないと考えた米陸軍は、強権を発動してバンタムの設計を業界中堅のウィリスと大手のフォードに公開。次のプレ量産車を3社による競作としたのです。
この米陸軍の決定に基づき、ウィリスは「MB」、フォードは「GP」、バンタムは「BRC-40」という改良型を提出しました。審査の結果、ウィリスが僅差で正式採用を勝ち取り、フォードはウィリス「MB」のライセンス生産車である「GPW」の生産を行うように命じられます。そして、アメリカン・バンタムには、輸出向けに少量の「BRC-40」とジープ用のトレーラーの生産が許されただけでした。
偉大なクロスカントリー車を発明しながら、それにふさわしい対価も名声も得られなかったアメリカン・バンタムが辿った運命は悲劇としか言いようがありません。しかし、米陸軍による冷徹な判断があったからこそ、「ジープ」は大量生産されて連合軍勝利の一役を担うことができたとも言え、評価が難しいところです。(山崎 龍(乗り物系ライター))
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みんなのコメント
大戦後半(44年だったといわれている)ウィリスは
「ジープはうちが開発した!!」と一面ぶち抜きの新聞広告を出し、その中で、プロジェクトXのごとき開発物語(ほとんどが、アメリカンバンタムの苦労話をまんまウィリスの苦労話にしたらしい)まで掲載をした。
で、これにブチ切れたアメリカンバンタムは、「虚偽の広告で消費者を惑わせている」と、公正取引委員会に告発。
結局ウィリスは、同じく一面ぶち抜きで、原型を開発したのはアメリカンバンタムであること、自分たちが嘘をついていたことを謝罪する広告を掲載することになったのだとか。
さらにその裁判で「今後ウィリスとその関連メーカーは「ジープを開発した企業」と名乗ってはならない」という命令まで頂戴しています。
20世紀初頭にアメリカの自動車メーカーは大小1000社あったとされ、それが最終的に3社しか残らなかったという厳しい現実。