IAAモビリティ2025では、自動車メーカー各社から魅力的な新型EVが次々に発表されたが、eモビリティの普及にとって「鶏が先か、卵が先か」とよく言われるEV充電網の整備はどうなっているだろうか。
●ドイツの急速充電器は既に4万2000口
IAAモビリティ2025では、ドイツ連邦交通省(BMV)やアウトバーンGmbH(有限会社)のブースで話を聞くことができた。その紹介の前に、ドイツ連邦ネットワーク庁のデータによると、2025年8月現在、ドイツ国内には13万2994口の普通充電器と4万2147口の急速充電器の合計17万5141口の公共充電器が設置されている。これは欧州で最大の規模だ。
急速充電器の数は、2年前と比べてほぼ倍になっている。その背景には、EnBWやAral Pulse、IONITYなどのCPO(charging point operator=充電設備運営業者)による設置の推進もあるが、ドイツ政府による急速充電器の設置プログラム「ドイツネット(Deutchelandnetz)」による後押しも大きい。
●政府のプログラムで急速充電9000か所を設置
「ドイツネット」を推進する国立充電インフラセンター(NOW)の担当者によると、このプログラムは、ドイツ国内のどこでもEVユーザーが数分以内に200kW以上の急速充電器にアクセスできることを目的に、2026年末までに9000口(points)の急速充電器の設置を計画している。
政府が選定した充電ハブ(Hub)のスペックに対して民間業者が入札する方式で、すでに入札は終えて一般地域(region)では10社と、アウトバーンでは4社と契約し、2024年秋から本格的な設置が始まっている。政府は資金援助をするが、CPOのハブ営業利益から還元を受ける方式で、単純な補助金の供与とは異なる。計画では、4口から16口の充電ポートを備えるハブをregionに900か所、アウトバーンに200か所設けることになる。
●アウトバーンでも走行10分おきに設置
同様にIAAモビリティ2025内のIAAサミットにブースを出していたアウトバーン社(Autobahn GmbH)も、総延長1万3000kmのアウトバーンの15~20kmごとに急速充電器を備えるべく、2026年末までに600か所の急速充電ステーション(4000口)を建設中だ(この中には、前述の「ドイツネット」による設置も含まれる)。既に200か所がオープンしており、さらに急ピッチで設置が進んでいるという。
筆者はちょうど2年前に、マインツからミュンヘンまで430kmをEVレンタカーで走行したが、その際に、アウトバーンのサービスエリアやパーキングには急速充電器がほとんどなく(あってもE.ONなどの古い充電器が2~3口あるのみ)、最新の200kW以上の出力の充電器があるステーションには、アウトバーンを一旦降りて数百m走らなければならず、不便だと思った経験がある。現在進行中の計画では、カフェやガソリンスタンドなどがある日本のSA/PAのような場所に400か所、トイレだけの簡易なパーキングエリアに200か所、計600か所に急速充電器を設置する。いずれも充電器の出力は200kW以上、最小で4口、最大で22口を備えるスペックとなる。
また、CO2排出量の多いトラックについても、連邦政府とともに2030年までに350か所のパーキングで4200口の充電器を設置する計画を進めている。
●プラグ&チャージに対応
またドイツでは、EVの普及を図るには料金精算の煩わしさのない「プラグ&チャージ」が必須と認識し、自動車メーカーもインフラを提供する側もこれに取り組んできた。
フォルクスワーゲンやメルセデスなど自動車メーカーは、いずれも独自のチャージングカードを発行しているが、ユーザーはアプリでデジタル証明書を有効化し、車両のインフォテイメントシステムで「プラグ&チャージ」の通信(ISO15118規格)をアクティベートすることで、欧州90万か所のIONITYの充電ステーションで、プラグインと同時に車両と充電器が通信して認証を行い自動で課金・支払いが可能だ。BP傘下のAral Pulseもこれに対応している。急速充電器の最大手のEnBWは独自の認証システムを使用しているが、異なるCPO間でもプラグ&チャージが可能になるよう整備が進められている。
「ドイツネット」の入札時には、ISO15118の「プラグ&チャージ」に準拠することは条件とはされていないが、「現在一般的かつ将来予想されるすべてのRFIDカードに対応すること」が求められており、これは国際規格であるISO15118を想定していると考えて良いだろう。
●2026年末には5万5000口以上
このように、「ドイツネット」とアウトバーンの急速充電器計画が2026年末に完了すれば、ドイツには5万5000口程度の急速充電器が設置されることになる。さらに、民間CPOで 最大のEnBW、 テスラ(欧州ではCCS2規格を採用)、石油会社系のAral Pulse、eweGO、 IONITY(VW、BMW、メルセデスベンツ、ヒョンデを中心に設立)なども2025年1~8月に前年比20%近いペースで急速充電器の設置を拡大している(CPOトップ10社で約3万口を設置済み)。
また、ドイツでは企業が幹部社員以上に福利厚生の一部として社用車を貸与する関係で、新車販売の約6割がカンパニーカー需要だが、こうした企業フリートでもEVの採用が進んでおり、企業が事業所に設ける従業員用の充電ポートもさらに増加するだろう。ドイツのEVユーザーは会社か自宅で充電するという人が多く、筆者の知人のテスラモデル3のオーナーもほとんど会社で充電すると言っている。アウトバーンで急速充電器を使うのは、自動車で200~300km出張する時や週末旅行くらいだろう。
●廉価EVモデルの登場と相まって、eモビリティの時代が幕開け?
それでもドイツ人がEVの購入を躊躇するとすれば、それは夏のバカンスにクロアチアや北イタリアの田舎などに旅行する時のことを考えるからだ、と長年ドイツに住む日本人ジャーナリストは話していた。フルハイブリッド車のシェアがドイツでも高まっているのはそうした背景もあるだろう。
いずれにしても2026年末には、ドイツ国内ではEVの公共充電網がネックという状況はほぼなくなりそうに思える。フォルクスワーゲンの2万5000ユーロのEVも登場して、廉価なEVと充電インフラの両方が揃ってくれば、もはや「鶏か卵か」が云々されることはなくなり、本格的なeモビリティの時代の幕が開くのではないだろうか。
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