EVの移行スピードが減速してきて、ハイブリッドが再注目されているなか、スバルはトヨタのモーター/発電機と仕組みを使ったストロングハイブリッドを新開発した。その新しいストロングハイブリッドの駆動用と発電用2つのモーター、フロントデフ、AWDを1パッケージにした「トランスアクスル」を生産しているスバル北本工場を見学する機会があった。はたして工場を見学してどんなことを感じたのか?
文:国沢光宏/写真:ベストカーWeb編集部、スバル
スバル北本工場って凄い!!! トヨタとは違う!? 生き残りをかけた最新のストロングハイブリッドS:HEVの生産工程は目ん玉が飛び出るほど驚いた!!!!!
【画像ギャラリー】スバルのストロングハイブリッドはどれほど凄いのか?生産工程を写真でチェック!(47枚)
■トヨタとは違うスバルの新型ストロングハイブリッド
埼玉県北本市にあるスバル北本工場。建設機械や農業機械などに搭載する汎用エンジンを生産していたが2024年10月からストロングハイブリッド用のトランスアクスル生産工場としてリニューアル
自動車メーカーの工場見学というのは、自動車メディアの記事としては地味だし、あまり関心がないかもしれない。ただクルマ好きならぜひとも読んでいただきたく思う。
なんせ1997年の初代プリウスからハイブリッドについて様々な取材をしてきた私さえ、ハイブリッドの動力伝達系を生産している工場を見たのは始めて。面白いか面白くないかと聞かれたら「すんごく面白かった!」ということになります。
まずスバルのストロングハイブリッドだけれど、生き残り戦略にとって最重要アイテムになる。なんせガソリンスタンドがなくなることを意味するカーボンニュートラルの目標地点である2050年まで25年。クルマの使用期間を10年とすれば2040年くらいからエンジン車は誰も買わなくなるだろう。逆に考えると2040年までの15年間はハイブリッドが主役になる可能性大。
※関連記事「スバルが新開発した2.5Lストロングハイブリッドは先駆者トヨタよりどこが凄い? 大したことはないのか??」
トヨタのハイブリッドシステムを水平対向エンジンに組み込んだストロングハイブリッドの次世代e-BOXERは新型フォレスターとクロストレック(2024年12月5日発売)に搭載される。スバルはS:HEV(SUBARU STRONG HYBRID)と呼んでいる
そんなことからスバルは2020年あたりからストロングハイブリッドの開発に着手する。おそらく様々なシステムを考えたことだろう。
新型ストロングハイブリッド用2.5Lエンジン:118kW(160ps)/209Nm(21.3kgm)+駆動用モーター88kW(119.6ps)/270Nm(27.5kgm)。ちなみにトヨタRAV4の2.5Lハイブリッドは178ps/221Nm(22.5kgm)+フロントモーター88kW(120ps)/202Nm(20.6kgm)+リアモーター40kW(54ps)/121Nm(12.3kgm)
最終的に選んだのが、トヨタと同じようなハイブリッドだった。しかしトヨタのシステムは横置きエンジン用。スバルの縦置きとの共用はできない。そこでスバルはトヨタのモーター/発電機と仕組みだけ使った(トヨタはハイブリッドの特許を開放済み)。
ここまではすでに情報出ている。今回、さらに突っ込んだ取材ができるということはハイブリッド好きの私としちゃワクワクです。一番知りたかったのがトヨタのシステムとの違い。工場の生産工程で使われているパーツを見たらハッキリわかる。
■ストロングハイブリッドシステム用トランスアクスルの生産拠点として刷新された北本工場
トランスアクスルを生産していたみなさんと国沢氏
群馬製作所北本工場(埼玉県)はもともとは汎用エンジンやスノーモービル向け車載用エンジン、発電機を生産、販売していたが、2024年10月から、新たに開発したストロングハイブリッドシステム用トランスアクスルの生産拠点としてリニューアルした。
今回、ストロングハイブリッド用トランスアクスルの生産工程のほか、デジタル化やハード面、ソフト面ともに誰もが働きやすい環境整備といった北本工場の先進的な各種取り組みも紹介した。
ストロングハイブリッド車の生産は、群馬製作所本工場と矢島工場で行う。ちなみにBEVについては、2025年から大泉工場で生産を段階的に開始し、2027年以降にはEV専用ラインを新規で立ち上げるとしているが、BEVへの移行スピードは不透明になっているため、ガソリン車、ハイブリッド車の需要も一定程度継続するとみて、混流生産するとしている。
北本工場でのトランスアクスル生産量は年産20万台規模。スバル全体の生産台数が100万台規模なので、当面20%程度をストロングハイブリッドにしていくということになる。日本市場の場合、2~3年すると事実上ストロングハイブリッドだけになると思う。アメリカだって増えることだろう。北本工場は2倍くらいの規模になると予想しておく。
2.5Lエンジンやトランスアクスルのカットモデルなどが展示
実際、工場内には現物のカットモデルなども置いてあり、懇切丁寧な説明をしてくれた。いろんな意味で「なるほど!」の連続でした。一番の違いは「長さ」。横置き用のハイブリッドユニットは、横置きエンジンと同じくモーターも発電機もギアも(動力分割機構と呼ばれる)横置き。
これをエンジンルーム内に搭載するため、コンパクトにまとまっている。ボンネットを開けると、イメージとしてはエンジンの横にトルクコンバーターとトランスミッションが付いている普通のFF車と同じ。
■ストロングハイブリッドの生産工程で驚いたこと
トランスアクスルの実物。横に長い
縦置きだとそうもいかない。エンジンの後方に発電機。続いてギア。駆動用のモーター。その下側にフロント駆動用のデファレンシャルギアを置き、しかも4WDなのでモーター後方に後輪を駆動するためのカップリングを加えないとならない。写真を見て頂ければわかる通り、ものすごく長いです。何と5つの「機能別ケース」から構成されている! もちろんトヨタのシステムとは全く別物。
発電用モーター、駆動用モーター、フロントデフ、電子制御カップリング(AWD)を1パッケージにしたトランスアクスル
御存知の通り、回転部品は長ければ長いほど振動が出やすくなる。スバルのトランスアクスル(トランスミッションと駆動系の集合体を意味する)ときたら、ウナるほど長い!
トランスアクスルは5つのケースに分かれていて横に長い
当然ながらFFと全く違う精度が要求されるハズ。生産ラインを見て「凄いね!」。例えばモーターの回転軸と、外側のステーターの組み付け精度は許容誤差0.1mmだという。誤差大きいと振動を出す。
専用の精密組み付け工具を作り、その上で全数の誤差検査を行っていた。ちなみに1日組み付け作業をして0.1mm以上の誤差が出るのは100~150回に1回あるかないかとのこと。
振動の影響を低減するため、モーターの組み付け位置精度、中心に対して0.1mmレベルで組み付け&保証
誤差あればラインから引き抜く。基本的に再使用しないという。モーターも発電機も重い回転体。バランスよければハンドスピナーのように気持ちよく回るし、悪いと不快な震動源になってしまう。
さらに難しいのが発電機やデフ、動力分割機構など5つの機能を持つケースを繋ぐ工程。これまた組み付け誤差が出ると不快な振動の原因になってしまう。この工程も見せてくれた(普通、高い技術レベルが必要な工程は公開しない)。スバル、太っ腹です(笑)。シール剤を精密な動き&量で塗布するロボットなど使い、バラ付かないように工夫されていた。いやいや興味深い!
軽量化、薄肉化ケースはロボットが合わせ面にシール材を添付し密閉性を確保
入念な組み付け工程を採用してもやはり誤差は心配ということなんだろう。最終組み付けが終わった段階で、トランスアクスル全数を実際に回転させ、バランスのチェックを行っていた。バランスに問題あると音が違う。それを判定している。
バランス良いと前述のように高価なハンドスピナーの如く「ギューン!」と回る。日本のモノ作り技術、素晴らしいです。
ケースを組み付けている工程。正確さと慎重さが求められる
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