技術進展と乖離する世論構造
SNSやネットニュースには、依然として電気自動車(EV)に否定的な言説が多く見られる。よく指摘されるのは、車両価格の高さや、一回の充電で走行できる距離の短さ、走行中のバッテリー切れへの不安などだ。さらに、集合住宅を含めた充電インフラの未整備も問題として挙げられている。
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こうした批判がある一方で、EVの技術的な課題は着実に解決されつつある。欧州や中国では、すでにEVの普及が進んでいる現状がある。
それにもかかわらず、否定的な意見がまかり通るのは、日本の新車販売に占めるEVの割合が約2%と低く、依然として少数派だからだと考えられる。
本稿では、世間でよく聞かれるEV批判や普及を妨げる要因を検証し、なぜEVアンチの言説が根強く残っているのか、その背景にある構造的な理由を掘り下げる。
558万人を支える雇用基盤
日本の自動車産業は、我が国の基幹産業のひとつである。産業構造上、その重要性はこれまで重視されてきた。日本自動車工業会によると、2022年の自動車製造業の出荷額は62兆7942億円に達する。これは全製造業の約17%、機械工業全体の約39%を占める規模だ。
また、日本各地に分布する自動車メーカーの工場は、企業城下町を形成している。これにより地域経済や地元の雇用に大きな影響を及ぼしていることも特徴である。
自動車関連産業の就業者数は558万人にのぼる。これは日本の全就業者の約8%に相当する。販売店や修理・整備業者、金融業、運送業などが周辺を取り囲み、広範な産業群を形成している。
EV普及の推進には大規模な技術転換が不可欠だ。しかし、裾野の広い自動車産業の規模が、かえって障害となっている。加えて、慎重な姿勢を強めるメカニズムも働いており、拙速な事業転換が進みにくい側面がある。
その結果、自動車産業とその周辺には、EVシフトに対して慎重にならざるを得ない空気が漂っている。
中国製EVと価格競争の現実
自動車産業は各国において、単なる輸送手段の生産を超え、国家の成長モデルや社会的価値観を象徴する基幹産業と位置づけられている。米国では全長6m超のピックアップトラックが売上上位を占め、広大な国土と安価な燃料、個人主義的ライフスタイルがそれを後押しする。
一方、中国では共産党政権による資本配分と補助政策がEVの急速な普及を促進してきた。都市空間や通勤様式までもが、EVを前提に再設計されつつある。
対照的に、日本の自動車産業は8社が競合する稀有な構造を持つ。内燃機関における性能と信頼性は世界水準を凌駕し、品質管理と耐久性への信仰は、高度経済成長期からの輸出競争を通じて形成された。これは製品開発だけでなく、消費観念にも深く根を下ろしている。
ただし、この強みが裏目に出る場面もある。技術的優位を守ろうとするあまり、制度的保守性が強化される。その結果、EVのような異質な技術体系への転換を「自国の強みを放棄すること」と無意識に捉える心理が働く。
とくに中国製EVの台頭に対しては、安全性や信頼性を盾に否定的評価が先行する。一方で、日本製EVが価格競争で劣勢に立たされている現実は語られない。そこには
・工業立国としての自負
・製造業優位が崩れることへの不安
が交錯している。
国内では欧米の脱炭素戦略に対し、「理想論」「現実味に欠ける」といった反発が目立つ。欧州に対する冷笑的な視線と、中国主導のEV拡大への敵対感情が混在する構図だ。その背景には、かつて技術覇権を握っていたという記憶と、台頭する中国への拒絶感がある。こうした感情がEVシフトを「外圧」と見なす温床となり、
「我々のやり方を変える必要はない」
という空気を正当化している。EVアンチの言説が単なる技術批判を超えて、産業ナショナリズムに接続しているゆえんである。
日本では自動車産業が経済基盤であるだけでなく、社会構造とも密接に結びついている。地方自治体の多くで、自動車メーカーは税収・雇用・インフラ整備を支える存在であり、政治的な発言力も有している。
そのため、EVシフトに伴う事業再編は、雇用やサプライチェーンの根幹を揺るがす。技術移行の問題にとどまらず、社会構造そのものの再設計が求められる。既得権益の再編に耐えうる制度設計が欠如していること、そしてそれを避けようとする社会的無意識こそが最大の壁である。
家計の1割を占める負担
自動車の維持費には
・税金
・保険
・駐車場代
・ガソリン代
などが含まれる。車種による差はあるが、一世帯あたりの年間負担は約30万~40万円に上る。日本の平均年収から見ると、自動車関連費用は家計支出の約1割を占めている。家計負担が大きいため、日本の消費者は自動車の耐久性やリセールバリュー(再販価値)を重視し、ブランド価値へのこだわりが強い。
また、新しい技術に対しては慎重な消費心理が働きやすい。これまでにない技術の導入に対しては一種の抵抗感があり、アーリーアダプター(新しい製品や技術をいち早く取り入れる消費者層)の反応を経て徐々に浸透する傾向がある。
EVに関しても同様だ。バッテリー寿命への不安が根強く、リセールバリューに対する懸念も拭えない。EV購入補助金といったインセンティブも効果が限定的で、消費者のEV購入決断には至っていない現状である。
EV環境負荷の現実と課題
日本のEV普及を論じる上で、エネルギー政策は避けて通れない課題である。現在の日本の電力構成は、火力発電が68.6%を占める一方、再生可能エネルギーは21.7%、原子力発電は8.5%にとどまっている。EV普及を加速させるには、火力発電依存から再生可能エネルギーへの転換が不可欠だ。
2025年4月、トヨタ自動車の豊田会長は米自動車専門誌のインタビューで、
「トヨタが販売したハイブリッド車2700万台による排出ガスは、900万台のEVに相当する。なぜなら、日本では火力発電が多いからだ」
と述べた。日本の電力が火力発電に依存しているため、EV1台がハイブリッド車3台分の環境負荷を抱えているとの指摘である。加えて、
・原発再稼働の見通しが不透明であること
・送電網の老朽化
もEV普及の障壁となっている。送配電網の更新や急速充電ステーション設置には巨額の投資が必要だが、その費用負担の議論は事実上棚上げされたままだ。
一部のEVアンチは、電力不足や電気料金の高騰を懸念材料として挙げ、EVへの前向きな評価を拒む言説を展開している。こうした主張は、根拠の乏しい不安を煽っている面も否めない。
多様技術が交錯する脱炭素戦略
日本の地球温暖化対策は、EV一辺倒ではない。実際には多様な技術が並存している。水素燃料電池や合成燃料などの代替燃料、さらにハイブリッド技術への分散投資も進んでいる。
技術ポートフォリオは多岐にわたり、EV普及が全面的に推進されているわけではない。国家戦略として技術選択が慎重に行われているが、その結果、どの技術が主流になるかは明確でない。
消費者が選択肢を絞りにくくなる側面もある。この政策分散がEV支持を相対的に弱めている可能性がある。
トヨタのマルチパスウェイ戦略も同様である。エンジン車、ハイブリッド車、EVなど複数の選択肢を消費者に提供していることが、逆にEVシフトの足かせとなる可能性がある。
EVに関する情報伝達も、普及の大きな課題となっている。
特に技術的に専門性の高い情報は、消費者に敬遠されやすい。そのため、EVの特性やメリットが正確に届きにくい状況だ。メディアが扱う情報の質や量にも偏りがある。EVの広告はエンジン車やハイブリッド車に比べて控えめであり、構造的な制約が存在する。
さらに、EVアンチは意図的にネガティブ情報を拡散する。これにより誤解や偏った認識が広がっているが、歯止めはかけられていない。EVに対する不安や誤認識が広まる現状が放置されているのは残念である。
日本企業の失敗回避文化
これまで日本が経験した技術転換では、安定志向が強く根付いていることが改めて確認できる。
過去にはアナログ放送から地上デジタル放送への移行や、ガラケーからスマートフォンへの変化があった。しかし、いずれも爆発的な普及には至らず、既存の環境や機器、システムとの互換性が重視された。
技術転換が社会の主流として明確になるまでは、普及が進みにくい傾向がある。これは自動車業界にも当てはまり、消費者の慎重な姿勢が一層強まることが容易に想像できる。
この背景には、日本特有の失敗回避の文化が存在する。企業も失敗を恐れ、慎重な意思決定を続ける傾向が強い。自動車メーカー各社がEV普及に全力投球できていない現状は、この文化を反映しているといえる。
輸入車依存の価格構造
日本で販売されているEVの新車価格は多様である。軽EVの日産サクラは300万円以下、大衆車のテスラ・モデル3やヒョンデ、BYDは400万円から。高級車のメルセデスベンツやボルボは600万円以上となっている。
これらのEVの約8割以上は輸入車だ。日本の厳しい安全基準や性能要求が車両価格を押し上げている。つまり、安全・安心を確保するためのコスト上乗せと解釈できる。
日本のEV価格をグローバル市場と比べると、中国メーカーとの価格差が際立つ。例えば、BYDのドルフィンは日本で299万2000円から販売されているが、中国国内では10万元(約200万円)以下である。こうした価格差が拡大し、日本市場は割高なEVが占める構図となっている。
技術革新と慎重派の狭間
EV普及を巡る議論は、単純な賛否を超えた複雑な現象である。EVアンチによる否定的な言説は、日本のエネルギー政策や自動車産業の技術革新を見据えた慎重な主張でもある。
ただ否定に終始するわけではない。日本でEV普及を進めるには、多様な選択肢を示しつつ、市場を形成することが必要だ。
消費者にとっての最善策は一様ではない。選択肢の広がりを認めながらも、最適な選択を見極める目が求められるだろう。(三國朋樹(モータージャーナリスト))
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