あらゆるスポーツにも、仕事にも当てはまる
元MotoGPライダーの青木宣篤さんがお届けするマニアックなレース記事が上毛グランプリ新聞。ヤングマシン本誌で人気だった「上毛GP新聞」がWEBヤングマシンへと引っ越して、新たにスタートを切った。1997年にGP500でルーキーイヤーながらランキング3位に入ったほか、プロトンKRやスズキでモトGPマシンの開発ライダーとして長年にわたって知見を蓄えてきたのがノブ青木こと青木宣篤さんだ。最新MotoGPマシン&MotoGPライダーをマニアックに解き明かす!
世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.104「日本メーカーがここまで支配し続けてきたことが異常であり偉業」
『マシンのせい』とは違う角度から見てみると──
最近ファビオ・クアルタラロ(ヤマハ)とマルク・マルケス(ホンダ)の影が薄いと感じませんか? ふたりとも、今、言われ放題の日本メーカーに乗っているから、「そりゃヤマハだからでしょ」「ホンダだからだよ」と、すべてをマシンのせいにしたくなる。
しかし、ふたりともれっきとした世界チャンピオンだ。クアルタラロやマルケスほどのライダーなら、いくらマシンが不調でもピカッと輝くものを見せてくれてもおかしくない。しかしここのところ輝きが完全に影を潜めているのだ。いったいふたりに何が起きているのか。今回はちょっと違う角度から、このふたりの存在感の薄さについて解き明かしてみたい。
MotoGPライダーにマネージャーが付いていることは、皆さんよくご存じだと思う。イメージとしては、「ライダーに少しでも有利な契約を取り付け、契約金を高める人」という感じだろう。多くのマネージャーは、まさにその通りの存在であり、契約請負人の役割を果たしている。
しかし、長らくクアルタラロのマネージャーを務めていたフランス人のエリック・マヘさんの役割は、それだけではなかった。マヘさんは、かつて、元Moto GPライダーのランディ・ド・プニエのマネージャーとして成功を収めた人だ。そして成功で得た資金を、若いフランス人ライダーの育成に充てた。クアルタラロはその急先鋒と言っていい。
マヘさんが優れているのは、クアルタラロのような若手ライダーを、金ヅルとは思っていないことだ。彼は本気でフランス人MotoGPライダーを育てようとし、金銭面だけではなく、精神的な支えになろうとした。
若きクアルタラロは、速さこそあれ精神的にはまだまだ未熟で、かなり不安定だった。熱くなり過ぎて勝てるレースを落としてしまい、そのせいでドーンと落ち込むようなことを繰り返していたのだ。好不調の波は激しかった。
そこをサポートしていたのが、マヘさんだった。マネージャーの枠を超え、家族同様の深い付き合いをすることでピーキーな性格のクアルタラロの信頼を得て、精神的支柱になった。
―― エリック・マヘさん(撮影は2020年)
落ち込んだ時には励まし、調子に乗り過ぎている時はほどよく抑え、言っていいこと・悪いことを伝えたり、ファクトリーライダーとしての立ち居振る舞いを教えたり、チームとの間にたって緩衝役をしたり……。そうしてクアルタラロをチャンピオンの座にまで押し上げたのだから、マヘさんは影の立役者なのだ。
今年6月、クアルタラロはマヘさんと決別するという道を選んだ。元ライダーとして、クアルタラロの気持ちは分からないでもない。物事がうまく運んでいない時は、何か環境を変えたくなるものだ。言い換えれば、自分以外の何かのせいにしたくなる時がある。
しかしワタシには、誤った選択のように思えてならない。マヘさんとの決別以降、クアルタラロからはヤマハに対してよりアグレッシブなコメントが聞こえてくるようになった。ファクトリーライダーだからこそメーカーにハッパをかけるのも大事な役割だが、最終的にメーカーのやる気を引き出さなくては意味がない。
クアルタラロのようにピーキーなキャラクターのライダーほど、マヘさんのような抑え役、調整役が必要なのだ。マヘさんと決別したクアルタラロの周辺には、何やらギスギスした空気が流れているように感じる。それが彼の走りから輝きを奪っているのではないだろうか。
―― ファビオ・クアルタラロ選手。
マルケスが苦戦する99%と95%の違い
もうひとり影を薄めているマルケスだが、だいぶ事情は異なる。彼の場合は、転倒を厭わない110%の走りが持ち味だったが、さすがに痛い目に遭いすぎた。イギリスGP以降は走りのレベルを下げ、完全に守りに入っている。
しかし彼は守りの走りなどしたことがないものだから、下げ幅がうまく調整できていないようだ。マルケスほどの身体能力や反射神経の持ち主なら、99%の走りでも十分に渡り合える。しかし今は95%ぐらいにまでトーンダウンしてしまっているのだ。守りの走りに関する経験不足が、彼の影を薄めている大きな要因だ。
―― マルク・マルケス選手。破竹の勢いを見せた2013~2015年あたりと比べるとライディングフォームもちょっとおとなしい。
2020年の転倒・負傷以降、ずーっと苦境が続いているマルケスだが、メンタル面はどうだろう。今、マルケスもクアルタラロ同様に、ホンダにハッパをかけている。「来季はついにホンダを離脱してドゥカティ入りか」という噂も、かなり信憑性を帯びてきた。もちろんホンダに対して辛辣なことも言っているマルケスだが、クアルタラロよりは穏当かつオトナなやりとりをしているように感じる。
実はマルケスも昨夏、長年にわたってマネージャーを務めてきたエミリオ・アルサモラと決別している。アルサモラはマルクの弟、アレックス・マルケスのマネージメントも担当していたが、兄弟揃っての決別だ。
後任のハイメ・マルティネスは、レッドブル・スペインでモータースポーツマーケティングを指揮している人物。いかにも、という感じの人選で、レッドブルとのリレーション強化や数々の契約、プロモーションなどに力を発揮しそうだ。しかしマルティネスさんは、マヘさんのように精神的支柱といった役割を果たすことはないはずだ。
それでもマルケスが比較的落ち着いて物事をハンドリングできているように見えるのは、彼自身のパーソナリティもあるが、何よりガッチリと家族が脇を固めていることが大きい。弟のアレックスは別メーカーとはいえ現役MotoGPライダー。そしてピットには熱を上げて応援しまくるお父さんの姿があり、お母さんのサポートも熱烈だ。
家族のような存在だったマヘさんと決別した、クアルタラロ。マネージャーが誰であれ、実の家族にがっちりと囲まれている、マルケス。やり方はいろいろだが、レーシングライダーにとってメンタルが極めて重要なのは間違いない。あらゆるスポーツもそうだと思うが、「最後はメンタル」なのだ。
ワタシ自身も現役時代、メンタルトレーナーに会いにニュージーランドまで行ったことがある。F1ドライバーのメンタルケアもしているような人だった。「ああしなさい」「こうしなさい」と言ったアドバイスをくれるのではなく、「スタートの瞬間にはどんなことを考えてる?」など細かく尋ねてくる。
そして彼からの多くの質問に具体的に答えていくうちに、「ああ、オレって結構弱気だったんだな……」といった具合に、自分の精神状態が客観的に分かるようになった。相手に言葉で伝えるためには、まず自分の頭で考えるからだ。
自分で自分の特性を理解して、メンタルをコントロールすること。スーパーシビアな戦いを繰り広げているMotoGPライダーにとって、今や必須事項だ。そして、どんな仕事をしている人にも当てはまる、非常に大事なことだとワタシは思う。「最後はメンタル」。ワタシも、あなたも。
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