2008年、当時ポルシェ911シリーズ史上最強と言われた「997型 GT2」が日本に上陸した。カレラGTにも迫るパフォーマンスと気持ちのいい走りはいかに実現されたのか。Motor Magazineではドイツ車特集の中で、「ポルシェの気持のいい走りがパワーだけでは成立していないこと」に着目、911 GT2の試乗とともに、その後登場が予定されていたDCT(PDK)搭載の911カレラ、550psというパワーを得たカイエン ターボSの魅力についても考察している。今回はそのレポートを探ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年9月号より)
カレラGTの最高速に迫る329km/hというスペックが語る実力
同じ911であるにもかかわらず、そのシリーズ中で最もベーシックなカレラを2台手にしても、まだ400万円近いつり銭が受け取れるというほどに高価なGT2。このモデルが911シリーズの頂きに立つべく開発されてきたことは当然だろう。
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そう、GT2とは、何があってもポルシェスポーツカーの頂点に立たなければならない運命を背負って生まれてきた、最強にして最速を狙った911なのである。
実際、そんな911 GT2に秘められたキャラクターは、まずは様々なカタログスペックにもハッキリと示されている。
530psという最高出力は、45年に及ぶ911の歴史のなかでも文字通り史上最大のもの。3.9秒という0→100km/h加速のタイムだけは、4輪駆動ゆえのカタパルト発進とトルクコンバーターを介することによって「ストールスタート」を可能としたティプトロニック仕様の911ターボが実現する3.7秒にひと呼吸分だけ遅れをとる。が、329km/hという最高速データは、911ターボや911 GT3が310km/h止まりであるのに対して明確なるヒエラルキーの差を見せ付ける。
すなわち、これらこそが「史上最強・最速」というタイトルを裏打ちするデータというわけだ。
ちなみに、329km/hというGT2の最高速は、多分に政策的は数値で、本来はこれをさらに上回るポテンシャルすら持ち合わせているのではないか?というのが個人的な想像。
なぜならば、こうしたGT2のデータに、あとほんの1km/hを上乗せすれば、それはポルシェ社が本来はル・マン24時間耐久レースを制するために開発したとされる5.7LのV型10気筒エンジンを搭載した、カレラGTの最高速330km/hと同一値となるからだ。
ポルシェきってのスーパーカーとして開発されたカレラGTと、あくまでも量販スポーツカーである911の1バリエーションとが、同一の最高速を表示することはイメージ的に好ましい事柄ではないという判断が働いていても不思議はないだろう。それゆえ、ここでは敢えてほんの申し訳程度のヒエラルキーをカタログ上に表示した、というのがぼくの見方。もちろん、それが邪推に過ぎない可能性も多々存在するわけではあるのだが。
というわけで、そんなGT2というモデルが「特別な911」であることは、その外観からも見る人がみれば一目瞭然だ。
トップモデルに相応しいスタイルと標準装着パーツ
日常シーンでは路面との干渉が避けられそうにないのを承知の上で、アプローチアングルよりもエアロダイナミクスを優先させたフロントエアダムのデザインや、リアのエンジンリッド上にそびえるシャークフィンのような翼端形状を持つスポイラー。さらには、リアバンパーの左右下部に口を開いた他のシリーズでは見慣れないエアアウトレットなどが、このモデルが並の911ではないことをアピールする。
19インチアルミホイールのスポーク間から姿を見せるのは、高性能ではあるものの極めて高価であるため、ベースの911シリーズではオプション設定、しかしGT2では標準装備のPCCB(ポルシェ・セラミック・コンポジット・ブレーキ)用イエローキャリパーだ。
このモデルに標準装備されるのは、超軽量構造のグラスファイバーとカーボンファイバーによる強化プラスチック製骨格を備えるスポーツバケットシート。ちなみに、後席が用意されないのは歴代の「ハードコア911」に共通の約束事。黄色い指針が与えられた目前のスピードメーターには、このモデルにはまさに不可欠となるフルスケールで350km/hまでの目盛りが刻まれる。
ボディ後端にオーバーハングマウントされた3.6Lのツインターボ付きフラット6ユニットに火を入れると、911ターボのそれよりもさらに乾いたエキゾーストノートがかなりの大ボリュームで耳に届く。実はこのモデルのマフラーはステンレススチール製に対しておよそ半分と、こちらも圧倒的な軽量ぶりを誇るチタン製とされているのだ。
しかし、このGT2用エンジンのさらなる技術的なハイライトは「世界初のテクノロジー」と称されるエクスパンションインテークシステムを採用していることだろう。
最高出力発生時付近では、吸気脈動の敢えて負圧の部分を拾ってシリンダー内へと空気を充填。これによって吸気温度を最大で20度ほども低下させつつ、不足する吸気量はインタークーラーを通過して十分冷却されたターボチャージングが行われた加圧エアで補うことで、出力のアップと燃費の向上を両立させようというのが、このシステムの狙いだ。
こうした工夫により、911ターボと同一の9.0という高圧縮比が確保されたこともあり、このモデルの走りではまず低回転域での実用的なトルクに驚かされる。なにしろ、6速ギアで60km/hという速度、およそ1200rpmという状態でのクルージングすらスムーズにやってのけてしまうのだ。「これが1L当たり150psに近い出力を発するハイチューンエンジンの柔軟性か!?」と驚かされてしまう瞬間だ。
一方で、アクセルペダルを深く踏み込み、2基のターボがフルにブーストを発生させるにいたった際の手の付けられないほどの強烈な加速力は、先の加速データのほどからも改めて紹介するまでもないだろう。
駆動輪上へとタップリ荷重のかかったRRレイアウトゆえのトラクション能力は、正直もはや少々気分が悪くなるほどの強烈なGで背中をシートバックへと押さえつける。
そんな圧倒的パワーを受け止めるべく固められた足まわりは、他の911シリーズであればしなやかな味を提供してくれる電子制御の可変減衰力ダンパーPASM(ポルシェ・アクティブ・サスペンション・マネージメントシステム)との組み合わせを持ってしても相当にハード。これに比べると、同じハードコア系の911であっても、GT3の乗り味などはむしろソフトと感じられるほど。それほどに「男の911」として仕上げられているのがこのGT2というモデルの走りのテイストだ。
新開発された直噴エンジンとPDKを搭載したニュー911カレラ
ところで、前述のように911ターボ用をベースにさらなるハイチューン化を図った心臓でも環境性能への配慮を忘れず、実際にEU準拠のCO2排出量がこの種のハイパフォーマンスモデルとしては298gと非常に少ないGT2。そんなこのモデルでも実践された、混合気温度を低減させつつ高い圧縮比を確保するという考え方をさらに進歩させたエンジンを搭載しつつ、新開発の高効率トランスミッションと組み合わせて世に提案をしたのが、先日マイナーチェンジを行った911カレラだ。
最大120バールという圧力でシリンダー内への燃料噴射が行われる直噴システム採用のフラット6エンジンは、実はシリンダーヘッドはもとよりブロックまわりの設計も従来型から完全に一新したユニット。最高許容回転数を7300から7500rpmへと引き上げ、排出ガス浄化性能もユーロ4からユーロ5レベルへと進化させた上で、エンジンブロック構造を従来の4分割方式から2分割方式へと変更することなどにより重量や部品点数を削減している。さらには、エンジンの組み立てに要する時間そのものも、およそ10%の減とするなど、様々な合理化が図られていることも見逃せないポイントだ。
ポルシェの場合、エンジンの改良は必ず環境性能と出力性能を共に大幅アップさせることが通例だが、新しい911カレラの新エンジンの場合にもそれは外れていない。すなわち、燃費性能を大幅に引き上げた上で最高出力も3.6Lユニットで20ps、3.8Lユニットでは30psとこちらも大幅にアップ。また、やはりオール新開発のインテークシステムを用いることで、エアフィルターの交換インターバルを6万kmから9万kmへと延長するなど、メインテナンス性の向上までを実現させている。
一方、そんな新エンジンを積む新911でのもうひとつの技術的ハイライトが、ついに搭載されたデュアルクラッチトランスミッション。PDK(ポルシェ・ドップルクップルング)の名を与えられたこのトランスミッションは7速のギアボックスと湿式デュアルクラッチのコンビネーションから成立。この新世代トランスミッションの登場で、常用時には2速発進を行い、従って通常は4速ATとしてしか機能をしなかったティプトロニックはカレラシリーズからは姿を消すこととなった。
スポーティな加速のシーンではポンポンポンとリズミカルで素早い変速を行い、一方でパーキング時など微低速シーンでもトルコンATに匹敵する滑らかな走りを実現させるこのトランスミッションをもって、ポルシェでは、「もはや通常のMTTにこれを凌ぐメリットはまったく見当たらない」と断言している。
PDKの7速ギアの各レシオは、1~6速までがMTのそれとほぼ同等で、第7速は100km/hをわずかに1750rpmというエンジン回転数でクリアする完全なるクルージング・レシオという設定。
実は、カタログ上でPDK仕様の燃費がMT仕様を大きく凌ぐのには、この第7速ギアの貢献度が極めて大きい。で、クルージング中もアクセルペダルを深く踏み込めばたちどころにシフトダウンを行い、直ちに強力加速が開始可能なトランスミッションだからこそ、大胆なまでにハイギアードなトップギアを採用することが可能となったわけだ。
そもそも、7つの前進ポジションを備えるトラスンミッションをMTで操作すること自体が不可能な相談。なるほど、どこをとっても「先進のトランスミッション」と呼ぶに相応しいのがPDKなのだ。
史上最強・最速のカイエン、ターボSが再び登場した
一方、そんな直噴エンジンをすでに昨年採用済みのカイエンシリーズにも、ここにきて再び新しいニュースが聞こえている。実に550psという途方もない最高出力を発揮する、ターボSの再度のリリースだ。
2006年のマイナーチェンジ実施時に一時カタログから外されながらも、2009年モデルとして再びリリースされた新しいターボSは、先の911 GT2を「史上最強・最速の911」と紹介するならば、まさに「史上最強・最速のカイエン」という位置づけ。いやこの場合、それはカイエンだけの話題に留まらない。なぜならば、そうした事柄はイコール「史上最強・最速のSUV」というキャラクターに直結するからだ。
従来型の4.5Lから4.8Lへとスープアップされたツインターボ付きの直噴V8ユニットが発する最高出力は、ベース車両であるカイエンターボの500psに1割増し。トルコン式のATを用いつつもその加速力はスタンディングスタートで100km/hまでをわずかに4.8秒でこなし、最高速は280km/hに達する。まさに超弩級のモンスターSUVと表現しても良い動力性能の持ち主だ。
ここまでの圧倒的な性能を追い求めるのは、2002年に生を受けたカイエンというモデルそのものが、「ポルシェのSUV」として他の誰にも負けることのない、あるゆる走行シーンでの「走りの王者」を目指して来たからだろう。
実際、まるで一級のスポーツカーのごときオンロードでの際立つポテンシャルを見せ付けながらも、オフロードでも見逃すことのできない踏破性をアピールするのがカイエンというモデル。その背景には、電子制御による4WDシステムや高度な機能を備えたエアサスペンション、アクティブスタビライザーの設定など、水も漏らさぬ万端たる最新テクノロジー群のサポートがある。
まずは明快なる目標を掲げた上で、贅を尽くしたメカニズムの採用でそうしたゴールを着実に目指して行く。ここに紹介してきたような最新のモデル群に目をやっても、ポルシェというメーカーのそうした変わらぬスタンスは明らかである。(文:河村康彦/写真:永元秀和)
ポルシェ911 GT2 主要諸元
●全長×全幅×全高:4470×1850×1285mm
●ホイールベース:2350mm
●車両重量:1440kg
●エンジン:対6DOHC
●排気量:3600cc
●最高出力:530ps/6500rpm
●最大トルク:680Nm/2200-4500rpm
●駆動方式:RR
●トランスミッション:6速MT
●車両価格:2607万円(2008年)
[ アルバム : ポルシェ911 GT2 はオリジナルサイトでご覧ください ]
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途中で読むのやめたw