データが語る現実 「96%」の根拠
バス会社の「96%が赤字」という現実がある。この問題について、筆者(西山敏樹、都市工学者)は当媒体で繰り返し指摘してきた。2024年版の交通政策白書によれば、保有車両30台以上の路線バス事業者217社のうち、87.1%が赤字だった。黒字を確保できたのは、わずか12.9%に過ぎない(2022年度時点)。
【画像】「えぇぇぇぇぇ!」 これがバス運転士の「平均年収」です! 画像で見る(計15枚)
保有台数30台未満の小規模事業者の多くが赤字経営に苦しんでいる現状を踏まえれば、業界全体としては
「94~96%」
が赤字と見るのが妥当だ。新型コロナの影響が直撃した時期には、実に99.6%の事業者が赤字だったとの国土交通省資料もある。
需要回復の兆しは大都市部で一部見られるものの、経営の厳しさは全体として改善していない。国交省のデータでは、30台以上を保有する乗合いバス事業者の約65%が赤字に転落しており、この10年で赤字事業者が大幅に増加している。2020年から2022年のコロナ禍では、
・テレワークの普及にともなう利用者減
・定期券収入の急減
が重なった。これが引き金となり、事業継続が困難になった事業者が相次いだ。大阪の金剛自動車が実際に廃業した例もあり、今後も同様の動きが広がる可能性がある。
コストと需要の乖離
厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(令和3年)によると、日本人の平均年収は489万円。一方で、バス運転者の平均年収は404万円(83%)にとどまる。差額は85万円。月に換算すると約7万円の開きがある。
労働時間を見ても同様だ。全産業の平均が年2112時間なのに対し、バス運転者は2232時間(106%)。収入が低いにもかかわらず、拘束時間が長い職種といえる。
コストの現実も厳しい。南国交通(鹿児島県)のデータによれば、約300台のバスを動かすための軽油代だけで月に約4000万円、年換算で4.8億円にのぼる。これに車両の購入・維持費が加わる。新車なら1台2200万~2300万円はかかる。大型の中古車でも、改装費を含めると500万円程度が必要になる。
国土交通省「乗合バス事業の収支状況について」(2018年度)では、走行1kmあたりにかかるコストは全国平均で477円。費用の内訳は、
・人件費:57%
・燃料油脂費:8%
・車両償却費:6%
・修繕費:6%
・その他経費(一般管理費等):23%
労働者の高齢化も進んでいる。厚労省調査によると、2021年時点でバス運転者の平均年齢は53歳。筆者が地方都市のバス事業者に調査を行ったところ、平均56~57歳のケースも多く、人件費削減が困難な実態がある。さらに燃料費や物価も高騰しており、日常業務で使用する備品の価格も軒並み上昇。中古車は導入コストこそ低いが、老朽化の影響で修繕費がかさむ傾向も確認されている。
このように、バス事業は構造的に高コスト体質にある。それにもかかわらず、長時間労働で賃金が低く、将来性に乏しいとみなされる職業となっており、ドライバーの応募者は年々減少している。
利用者の減少も深刻だ。2019年と2022年を比較すると、路線バスの利用者数は約3割減少している。少子化と人口減少が続き、DX産業を中心としたテレワークの普及が進む現在、事業環境が好転する要素は乏しい。
黒字を確保している事業者も一部存在するが、それは例外的なケースにすぎない。主に都市部で、住宅地や工業団地と駅を結ぶ路線など、一部に限定されている。業界の大半はいまだ赤字体質のままである。
維持か撤退か、地方自治体の苦悩
路線バスは公共交通の一翼を担う。生活インフラとしての役割を持ち、その機能を麻痺させることは許されない。社会全体で支え続ける必要がある。
しかし、自治体の財政には限界がある。バス事業者に対する補助金も同様だ。国土交通省、都道府県、市町村は「生活路線維持補助金」を交付するが、対象路線が増えれば支援は分散し、結果として零細路線の廃止が相次ぐことになる。
特に、市町村をまたぐ長距離路線では、沿線の一自治体が補助を打ち切れば、路線全体が維持不能になる。バス事業者の経営判断にかかわらず、ネットワークそのものが崩壊するリスクが常にある。筆者の見立てでは、今後10年で自治体から
「コミュニティーバス運行を受託できないバス事業者」
が急増するのは確実だ。事業者の多くは、路線バス・高速バス・貸切バスといった本業に経営資源を集中させたいと考えている。ダイヤ運行型のコミュニティーバスは、時刻表通りに走る必要があるため、経営の柔軟性に乏しい。限られた人員と車両を抱える事業者にとっては、受託の継続が難しくなりつつある。
一方、自治体側も対応を始めている。地域交通活性化協議会では、住民代表などのステークホルダーが集まり、地域交通のあり方を議論。各地で自治体主導の再編事例が見られるようになった。
こうした流れと並行して、DX推進の影響も大きい。AIオンデマンド交通の導入が進み、予約制のワゴン車両による柔軟な運行方式が好評を得ている。決まった時刻に縛られず、利用者の需要に応じて運行できる点が支持されている。
業界に起きている静かな淘汰
2023年12月、大阪府富田林市周辺を営業エリアとしていた金剛自動車が廃業した。このニュースは、バス業界関係者に大きな衝撃を与えた。
背景には、路線バス事業そのものに将来性が見いだせないという構造的な問題がある。金剛自動車のように、大手私鉄の傘下に属さない独立系バス会社は、そもそも経営基盤が脆弱である。これまでも地方では路線バス事業者の廃業例は見られたが、大阪近郊という都市圏での撤退は、象徴的かつ深刻な事態といえる。
また、筆者が業界関係者と情報交換を重ねるなかで、2024年問題、運転士の高齢化、給与水準の低下による人材難といった構造的課題が経営継続を一層難しくしていることが見えてきた。
一部では、京成グループのような系列再編による先手対応、M&A、新興交通企業の地域進出といった動きもある。ただし、こうした施策の効果は現時点で不透明だ。
最近では、子会社化の効果が薄れ、再び親会社に戻す動きも見られる。いずれの選択肢も簡単ではなく、持続可能なモデルを描けていないのが現実だ。
不便と無関心のはざま
通勤・通学利用者の困惑はもちろんだが、高齢者にとって移動手段の喪失は深刻な問題である。「移動の自由」を奪われることで、日常生活そのものが制限される。
バスではないが、最近では富山地方鉄道の事例がしばしばメディアで取り上げられている。地方都市の鉄道も、バスと同様に経営の厳しさに直面している。今春のダイヤ改正では、日中2時間に1本の区間が出たほか、閑散期に日中の運行を取り止める区間も出てきた。こうした判断に対し、ネット上では理解や共感の声は少ない。むしろ
「経営努力が足りない」
とする批判のほうが目立つ。しかし、減便はやむを得ないという判断にも頷ける。これは、事業者と生活者とのあいだで、十分なコミュニケーションが築けていないことの現れだ。経営の苦しさを、事業者側が具体的に可視化し、生活者に判断の材料を提供すれば、理解の土台が生まれるはずである。
例えば、京都市交通局では営業係数を公開している。車内や停留所に掲示されており、生活者が自分の足として使っているバスの経営状況を直感的に理解できる。営業係数とは、100円の収入を得るためにいくらの費用がかかっているかを示す指標で、100未満なら黒字、100を超えれば赤字となる。このように、
・インプット(経営情報の開示)
・アウトプット(地域との対話)
をセットにしたコミュニケーションの場づくりが、いまバス事業には求められている。
近年では、「使えないから使わない」という無関心層も増えている。こうした無関心を関心に変えるためにも、事業者と生活者のあいだで新たな関係を設計し直すことが不可欠である。誰が、どうやって地域の移動を支えるのか。その根源的な問いに向き合い、社会全体で考えるタイミングがきている。
「赤字」でも走る理由
路線バスを含む公共交通は、公費で支えるべきインフラとして広く認識されている。その一方で、自家用車ユーザーを中心に
「なぜ税金を使ってまで維持するのか」
という疑問も根強い。しかし、公共交通は単なる交通手段にとどまらない。観光客の受け入れや、地域住民の移動手段の確保といった
・地域価値
・社会的リターン
にも大きく関わっている。公共交通の廃止は、まちづくりや地域の未来に深刻な影響を及ぼす。とはいえ、理念だけでは続かない。持続可能性を欠いた正義は、いずれ破綻する。
・官民連携(PPP)
・公営化と民間委託の再編といった新たな制度設計
が、いま必要とされている。旧来型の乗合いバスをそのまま続けるべきか。この問いは常に持ち続けなければならない。大型バスを決まったルートで走らせるという発想だけでは、制度疲労を起こし、イノベーションは生まれない。
選択肢は多い。例えば車両面では、タクシー型やバン型の小型車両による乗合い運行。運用面では、AIオンデマンドによる柔軟な運行方式の導入が進んでいる。
担い手についても工夫の余地がある。地域のまちづくり協議会に運行主体を委ねる仕組みも有効だ。地域が自らドライバーと車両を確保する代わりに、補助金はコミュニティーバスより抑えられる。団地やマンション単位でのチャーター型運行もひとつの選択肢である。
・路線バスが抱える構造的な限界
・今後予想されるコミュニティーバスの限界
これらを前提とした上で、新たな移動の形を真剣に議論すべき時期に来ている。民間のテック企業、スタートアップ、さらには宅配事業者など、人の輸送に関心を持つプレイヤーの参入を歓迎すべきである。
もちろん、都市部と地方では最適解が異なる。だからこそ、地域ごとに丁寧で実践的な議論を進めていくことが重要である。
数字の向こうにある「問い」
路線バス事業者の96%が赤字という数字は、破綻の予兆なのか。それとも、変革の入口なのか。いま必要なのは、私たち自身がそれを変革の入口にするという強い意思だ。
求められているのは、利益の尺度を超えて移動の意味を再構築すること。誰が、なぜ、どのように人の移動を支えるのか。この本質的な問いを、社会全体で共有し、考えるタイミングが来ている。こうした議論を投げかけると、決まって
「バスは終わり」
「アイデアだけ並べるな」
といった批判も出てくる。だが、そうした姿勢こそが未来に向けた思考を止め、変化の芽を摘んでしまう。
バリアフリーやユニバーサルデザインの話と同様に、自分の身にも何が起こるかわからない。明日、怪我をするかもしれない。病気になるかもしれない。運転できなくなるかもしれない。だからこそ、
「自分には関係ない」
と済ませるのではなく、誰もが移動を「自分ごと」として捉える必要がある。
未来の交通をつくるのは行政でも事業者でもない。私たち生活者自身だ。地域の足をどう守るか、どう再構築するか。前向きに議論し、考え抜くときが来ている。
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