2026年6月5日、スーパー耐久富士24時間レースの熱狂を背景に、富士スピードウェイのイベント広場に、トヨタの豊田章男会長(モリゾウ)、中嶋裕樹代表取締役副社長(ジャイアーノ)、レーシングドライバーの佐々木雅弘選手らが勢ぞろいした。ちょっと文脈を説明するのが難しいが、とりあえずこの席で、「今秋(2026年秋)に北米生産カムリを日本導入すること」、「右ハンドル仕様が用意され、国内年間10,000台の販売を狙うこと」が明らかにされた。以下、このややこしい話を現場レポートをふまえて説明します。
文:ベストカー編集局長T、画像:佐々木純也、トヨタ自動車
【画像ギャラリー】北米カムリ画像一覧と富士「ケンカ」イベント全画像、TRカムリとGRカムリ、わりとガチでかっこいいぞ!!(46枚)
規格外のカスタム対決!700馬力「GRカムリ」vsグラチャン仕様「TRカムリ」
ことの発端は今年(2026年)1月に開催された東京オートサロン2026。このプレスカンファレンスで、トヨタは「GRガズーレーシング(豊田章男会長/モリゾウ)vsトヨタレーシング(中嶋裕樹副社長/ジャイアーノ)喧嘩3番勝負」という社内抗争(?)を発表、まあ簡単にいうと「どっちがかっこいいクルマを作れるか」という企画があって、今回はその最終決戦——「北米生産カムリを使ったカスタムカー対決」が実施される、ということ。
プロレス的な煽り合いと笑いに彩られたイベントは、やがて衝撃の日本導入発表へと転じ、最後にはモリゾウが日本の自動車産業全体に向けて贈る魂のメッセージへと昇華した。今秋の北米カムリ上陸計画と、700馬力カムリ誕生の舞台裏——その全貌をお伝えする。
「北米でカムリを見た若者たちは、親世代がSUVに乗り続けているから逆にセダンがクールでかっこいいと感じている」——中嶋副社長のそんな一言から、富士スピードウェイで開催された本イベント・カスタム対決の幕は開いた。GRとTR、それぞれが独自に北米仕様カムリを手がけ、富士の地で初めてその全貌を明かした。
チームGR(モリゾウ&佐々木雅弘選手)の「GRカムリ」は、エアロダイナミクスを意識した上品なスポーティセダン。しかしその真価は外見ではなく心臓部にあった。フロントに3気筒エンジン、リアに4気筒エンジン——2基を積んだ4WD構成、つまり「トヨタ初の7気筒」という前代未聞のショーカー仕様だ。最高出力はなんと700馬力。エンジンに火が入った瞬間、2基が奏でる野太くも上品なサウンドが会場を圧倒した。「市販を見据えて、パッと見た瞬間にかっこいいと思えるクルマを目指した」と佐々木選手は語る。
対するチームTR(ジャイアーノ中嶋裕樹副社長&特攻隊長・泉屋亨(開発エンジニア))の「TRカムリ」は、昭和の熱狂をまるごと呼び戻すグラチャン(グランドチャンピオンシリーズ)オマージュの猛者だ。誇張しすぎたハンマーヘッド、突き出したチンスポイラー、圧倒的に張り出したビス留めオーバーフェンダー、そして天まで届く竹槍マフラー。「ジャイアーノの応接室をイメージした」という車内にはシャンデリアが輝き、センターコンソールのクリスタルシフトノブには生産地ケンタッキーのバーボンが封入される。
エンジンは新開発の2Lスポーツユニットを搭載し、FRに大改造済みという本気仕様だ。互いに点数をつけ合い(GRが49点、TRが48点)、会場を沸かせた両チームだが、「最終審判はお客様がする」(中嶋副社長)という一言にすべてが集約されていた。
この2台、「どっちがかっこいいか」は富士スピードウェイを訪れたお客さんの投票によって決着する。明日、6月7日(日)の正午までに富士スピードウェイのイベント広場へ行けば投票できるので、ご興味ある方は(スーパー耐久富士24時間レース観戦の合間に)お立ち寄りください。
最大のサプライズ! 北米カムリが右ハンドル化で日本市場へ帰還
イベントのトークバトルは社内の立場を忘れて奮闘するジャイアーノ中嶋副社長により盛り上がりを見せるなか、終盤に入って、
「まだ誰も気づいていない秘密がもう1つある」
——ジャイアーノ中嶋副社長がニヤリと切り出したその瞬間、会場の空気が変わった。TRカムリのハンドル位置。北米仕様なら当然「左」のはずが——「右」だった。
「我々トヨタ自動車は、GRより一歩先んじて右ハンドルを用意した」
「ジャイアーノ」から「トヨタ自動車の中嶋裕樹副社長」へと表情を切り替えたその瞬間、計画の全貌が語られた。
「カムリを日本へ持ってきたい。北米で正規生産したクルマを右ハンドル化し、日本の法規・車検をすべてクリアした形でお客様にお届けしたい」
マジか。マジです。
タンドラとハイランダーはすでに大臣認定を取得して日本に導入済み。カムリについては2026年6月末の型式認定取得を目指しており、今秋の国内市場投入を計画している。販売目標は年間1万台。「今日これ言っちゃうよ、と営業担当の宮崎(洋一)副社長(※苦労人)に伝えたらOKが出た」とジャイアーノは笑いを交えて明かした。
その笑顔の裏にあるのは、数字を伴った本気の事業計画だ。カスタムパーツについても両チームともに市販化を念頭に開発しており、カムリ日本上陸はクルマ1台の話にとどまらない広がりを持っている。
豊田章男会長が語る「真の狙い」——全員がWINの新戦略
なぜ今、北米生産のカムリを日本に持ってくるのか。豊田会長はその深意を丁寧に語った。
「トヨタは今、世界中でクルマをつくらせてもらっている。Made by Toyotaのクルマがアメリカで、中国で、アジアで生まれている。そうしたクルマを日本に導入することが、トレードバランスの改善にもつながる」
日米の関税問題が自動車産業の大きな課題となっているこの時代、「単に関税を交渉するだけでなく、自動車産業に関わるすべての方がウィナーになれる方法を探したい」と豊田会長は言う。お客さんがウィナーに、政府がウィナーに、パーツメーカーや販売会社、チューナー、そしてメーカーもウィナーに——あらゆるステークホルダーが勝者となる構図を、1台のクルマを通じて実現しようという考えだ。
日本のファンが長年愛してきたカムリという車名を、北米生産という形で日本に戻す。それはファンへの恩返しであり、日米貿易バランスへの貢献であり、新しいモノづくりの形の提示でもある。豊田会長の言葉には、ビジネスの論理と自動車への愛が、不思議な密度で共存していた。
「この指とまれ」——モリゾウから日本の自動車産業全体へのエール
イベントの締めくくりで、豊田会長はゆっくりと、しかし確かな熱量をもって語り始めた。
「このGRとTRの喧嘩から生まれたクルマがこれです。これをスタートに、トヨタの商品をもっともっと楽しくしていく。『頭おかしいんじゃないの』と言われるくらいのことをやれる会社に変わっていく。みんなが努力してくれています」
そして声に感情を乗せてこう続けた。「自動車業界というのはお客様あってのもの、道があってのクルマ。そして販売店、パーツメーカー、チューナー、整備業者——本当に多くの人たちの未来がかかっています。だからこそ、まずトヨタが率先して商品を楽しくしていく。この指とまれの精神で、日本の自動車産業でもっと素晴らしい未来を作りたい」
さらにこう言葉を重ねた。
「わたしは単なるクルマ好きの会長として言いたい放題言うだけの立場になりましたが、トヨタに限らず、日本の自動車メーカーはみんな頑張っています。どうか自動車産業全体を応援してください」
クルマへの愛と、業界全体への感謝と、未来への覚悟が溶け合ったその言葉は、富士の空の下に居合わせたすべての人の胸に、深く刻まれた。
予想価格530~680万円——スペックと価格でアコードと比べてみた
感動と興奮に包まれた発表の後、クルマ好きなら誰もが気になるのが「で、このカムリは実際どんなクルマで、いくらで買えるのか」という現実的な問いだ。現行北米仕様カムリのスペックをもとに、日本市場での姿を先読みしてみよう。
北米生産の現行カムリは全長約4,915mm×全幅1,840mm×全高1,445mmという堂々たるボディに、2.5Lハイブリッドを全車標準搭載。システム出力225~232hpを誇る。右ハンドル改造・型式認定・輸入コストなどを加味した日本での予想価格は530万~680万円前後(編集部予測)。最大のライバルは、同クラスセダンの実力者・ホンダ アコード e:HEV(約545万円)だ。
比較項目北米カムリ
(導入予定・編集部予測)ホンダ・アコード e:HEV全長約4,915mm約4,900mm全幅約1,840mm約1,860mm全高約1,445mm約1,450mm車両重量約1,540~1,630kg約1,590kgエンジン2.5L ハイブリッド2.0L ハイブリッドシステム出力225~232hp147ps+184ps駆動方式FF/E-Four(AWD)FFのみ日本価格(予測)約560万~680万円
※編集部予測559.9~599.94万円
カムリが持つ最大のアドバンテージは2点。ひとつは2.5Lエンジンによる余裕の動力性能——アコードの2.0Lに対し、特に高速巡航や長距離走行で差が出やすい。もうひとつが「AWD(E-Four)の設定」だ。アコードはFFのみ。北海道・東北・北陸・信州など積雪地域での需要を取り込めるかどうかが、年間1万台目標達成の鍵を握るといっても過言ではない。「右ハンドル・AWD・2.5Lハイブリッドセダン」という希少な組み合わせは、それだけで購買動機になり得る強力なポジションだ。
(※ちなみにホンダも米国からパスポートとインテグラの輸入を開始すると発表している。がっぷり四つ! 思う存分盛り上げてほしいぞ)
今秋の日本上陸へ——北米カムリが拓く新しい地平
700馬力を誇るGRカムリは今秋さらに完成度を高め、モリゾウ自らのテスト走行が予定されている。一方、量産ベースの北米カムリも右ハンドルに生まれ変わり、年内の日本導入を目指す。
プロレス的な煽り合いとユーモアに彩られた富士のイベントは、実は日本の自動車産業の次の一手を告げる重要な舞台でもあった。関税問題、貿易収支、電動化——難題が山積する時代に、トヨタはエンタメの力を借りながら本気のメッセージを世に送り出した。
北米カムリの日本上陸は、1台のセダンの話にとどまらない。「この指とまれ」と呼びかけるモリゾウの旗印のもと、日本の自動車産業が新たな地平へと踏み出す、その第一歩なのかもしれない。
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ハイランダーの値段から比例計算すると550万円くらいになるが、450万円くらいに抑えるとか?