原点回帰とでも言いましょうか、2021年はシンプルな車体デザインを持つ単気筒モデルが人気を博しました。ホンダ『GB350S』、そして新車で購入できるラストチャンスとなった『SR400ファイナルエディション/リミテッド』です。
まずはGBから見ていきましょう。20年9月に『ハイネスCB350』としてインド市場にて発売されると、わずか4ヶ月で1万台のセールスを記録。現地350~650ccクラスで高いシェアを誇る「ロイヤルエンフィールド」の牙城を崩すべくホンダが打って出たニューモデルで、クラシカルなデザインが日本でも報じられると大反響となりました。
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日本国内では車名を改めて、21年4月に『GB350』、7月に『GB350S』としてデビュー。年間予定台数の4500台を大きく超える受注がすぐに入り、バックオーダーを抱える大ヒットモデルとなっていくのです。
その対抗馬となったのが、1978年(昭和53年)の発売以来ロングセラーを続けてきたヤマハSR400でした。新車を買う最後のチャンスとして「ファイナルエディション」が限定5000台、「リミテッド」が1000台のみ3月に発売され、瞬く間に完売。新旧シングルエンジン搭載車が、バイクファンらに熱視線を浴びました。
ちなみに“GB”は、1983年に『GB250クラブマン』が、85年に『ホンダGB500/400ツーリストトロフィー』「GB400ツーリストトロフィーMkII」が発売された、由緒正しきホンダ・シングルの系譜。当時を知るライダーには、懐かしきネーミングでもあります。
さぁ、爆売れの要因をさぐるべく『GB350S』、そして『SR400ファイナルエディション』に乗ってみましょう。
両車を目の当たりにしてまず感じるのは、車体サイズが“ちょうどいい”ということ。このサイズ感もまた人気の秘訣でしょう。
大きすぎない車体は普段の街乗りでも取り回ししやすく、両車とも気兼ねなく跨がれ走り出せます。シート高は『GB350S』『GB350』がいずれも800mmで、標準的とでもいいましょうか。カタログ値を比較すると『SR400』は790mmですから、GBのほうが10mm高いことがわかります。
実際に跨ると、数値以上に足つき性がいいのはSR。サイドカバーの張り出しがなく、シート形状もスリムで足を地面に出しやすい。
車両重量は『GB350S』が168kg、『GB350』は166kgで、175kgの『SR400』より軽くなっています。ただしSRを含め、いずれも250ccクラスなみで押し引きを苦にしません。乗り手の体格を問わない、日本の環境にもジャストフィットする車体サイズは、大きな魅力と言えるでしょう。
視線が高く、窮屈にならない余裕あるライディングポジションも共通するところ。それでも『GB350S』はハンドルやメインステップ位置を『GB350』から変更し、よりアグレッシブな乗車姿勢に。
グリップが若干ながら低くなって、ステップがわずかに後退。緩やかながら前傾姿勢もつくれ、積極的な走りをイメージさせてくれます。
SRもリラックスできる上半身が起きたライポジですが、緩やかな前傾姿勢もでき、シングルスポーツであることを主張してきます。ハンドル幅もスリムで、車体も細い。ヤマハらしい軽快な走りを跨った瞬間から予感させます。
スタンダードの『GB350』はスチール製の前後フェンダーやクローム仕様のマフラー、前19/後18インチの大径ホイール、グラブバー、大型のテール/ブレーキランプなどを備え、よりいっそうクラシカルなスタイルです。
一方、スポーツ仕様とした『GB350S』は前後フェンダーがショートタイプの樹脂製となり、サイドカバーもシャープな面構成としスタイリッシュに。ラバーブーツ付きの正立式フロントフォークを備え、リアホイールを17インチに小径化。マフラーもバンク角をより深める形状としています。
よりスポーティな『GB350S』ですが、まん丸のヘッドライトやシングルディスク仕様のフロントブレーキ、ツインショックを持つ車体は令和に登場したニューモデルとは思えないオーソドックスなものです。
『SR400ファイナルエディション』は正真正銘のレトロといったムード。クローム仕上げの二眼メーターやヘッドライトリム、鉄製の前後フェンダー、クロススポーク仕様のホイール、水平基調でクッション厚のあるロングシート、真っ直ぐに伸びたマフラー、どれもが古めかしい。
SRと比較すれば、『GB350S』はやっぱり新しくてモダン。エンジンやマフラーはブラックアウトされ、キャストホイールのスポークワークもスタイリッシュ。灯火器類はヘッドライトを含めオールLEDですし、メーターもアナログ速度計に液晶ディスプレイが組み合わされ、ギヤポジションや燃費も表示してくれます。新旧が融合したデザインであることがわかります。
ゆったりとした操縦安定性と穏やかな旋回性の中に『GB350S』はリヤを17インチ化し、よりワイドなラジアルタイヤを履いて、スポーティさを増していることも付け加えておきましょう。タイヤサイズなど車体各部の諸元は下記の通りです。
■タイヤサイズGB350:フロント100/90-19、リヤ130/70-18GB350/S:フロント100/90-19、リヤ150/70R17SR400:フロント90/100-18、リヤ110/90-18
■キャスター/トレールGB350/S:27°30´/120mmSR400:27°40′/111mm
■ブレーキGB350/S:フロント油圧式ディスク、リヤ油圧式ディスクSR400:フロント油圧式ディスク、リヤ機械式リーディングトレーリングドラム
■燃料タンク容量GB350/S:15LSR400:12L
エンジンは両モデルとも空冷SOHC2バルブ単気筒。スチールパイプ製のセミダブルクレードルフレームに搭載するGBの新作エンジンは、ボア・ストローク=70×90.5mmという超ロングストローク設定と質量の大きなフライホイールの採用で、力強いトルク感と味わい深さを徹底追求してきています。
デュアルバランサーを備え、クランク軸前方の1次バランサーで35%、クラッチと同軸上にあるメインシャフトバランサーで15%、それぞれ振動を打ち消し、エンジンの鼓動をクリアに乗り手に伝えています。スペックを比較すると下記の通りです。
■ボア・ストロークGB350/S:70×90.5mmSR400:87×67.2mm
■総排気量GB350/S:348ccSR400:399cc
■圧縮比GB350/S:9.5SR400:8.5
■最高出力GB350/S:20PS/5500rpmSR400:24PS/6500rpm
■最大トルクGB350/S:29Nm/3000rpmSR400:28Nm/3000rpm
■始動方式GB350/S:セルフ式SR400:キック式
■アシストスリッパークラッチGB350/S:ありSR400:なし
■トランスミッションGB350/S:5速SR400:5速
■チェンジペダルGB350:シーソーペダルGB350S:トゥーアップ/ダウンSR400:トゥーアップ/ダウン
馬力は排気量でも上回るSRの数値が高いもののGBはトルクで勝り、実際に走ったときも3000rpm以下でよりいっそうの力強さが感じられます。
GBはワイドレシオで、早めにギヤを上げて低回転で流しても平然とクルージングでき、ロングストロークエンジンならではのゆったりとした穏やかな出力特性でノンビリと流せるのです。
対してSRは、タタタッと軽快に回っていく。シフトを早めに上げて悠然と流すより、最適なギヤを選んでアクセルをグイグイ開けて走りたくなります。軽快なハンドリングもそれを助長し、コーナーも気がつけばペースが上がっていくのです。
なお、トップギヤ5速での100km/h巡航は『GB350S』は3600rpm、『SR400』は4500rpmで、SRはよりアクセルを開けて走ることとなります。
低音は迫力があって重厚で、高音は弾けるようにハツラツとしたサウンド。歯切れの良い排気音も両車の持ち味です。
GBでは膨張室をシンプルな1室構造、エキゾーストパイプを二重管構造とすることで、燃焼そのもののエネルギーに満ちた“鼓動”がライダーへクリアに伝わるようにチューニング。SR400も2016年モデル以降はインジェクションモデルとなったものの、キャブレター仕様車の排気音を解析し、音色のベストバランスは何かを突き詰め、単気筒らしい歯切れのいいサウンドを実現しています。
心地いい排気音や鼓動を感じながら走れる、これがシングルエンジンを積むGBやSRの大きな魅力であることは間違いないでしょう。両モデルに乗って改めて感じました。
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みんなのコメント
昔の作りそのままを頑なに守り続けて遂に力尽きたSRと、現代に合わせてこれからまだたくさんやれる見込みのあるGBを対決させることに無理がありあり。あれだけ頑張ったんだから、静かに引退させてやんなよ。