「セウォル号沈没事故」を背景にした映画『君と私』は、事件を観客に想起させながら、その時に人生を歩んでいた高校生の日常に寄り添う物語だ。監督は俳優としても活躍し本作が長編デビューとなるチョ・ヒョンチョル。撮影監督をDQM、音楽監督をHYUKOHのボーカルOHHYUKが務める。
運命の日の前日
労働経済学を専門とする近藤絢子が薦める「氷河期世代の苦悩がわかる本」3冊
日本公開にあたって冒頭につけられた字幕から察せられるとおり、これは2014年4月に起きた「セウォル号沈没事故」を背景とする物語である。ドキュメンタリーではない。また、事故そのものの映像は出てこない。いわゆる「実話の映画化」とも違う。この事故の犠牲者304名(死者299名・行方不明者5名)のうち、250名は修学旅行中の高校生だったのだが、この映画は修学旅行前日の彼ら、特にそのなかの数名の女子高校生たちをフィクショナルな登場人物として構築し、彼女たちのありえたかもしれない人生を想像させる物語だ。
済州島への修学旅行を翌日に控えた日、セミ(パク・ヘス)は気がかりな夢を見る。胸騒ぎを覚えた彼女は、ひそかに想いを寄せる友人、ハウン(キム・シウン)の病室へ向かう。ハウンは自転車と衝突して脚を怪我してしまい、修学旅行をあきらめて入院中なのだ。ハウンが留守にしていた病室で、セミは彼女の手帳を見てしまう。そこには「フンババにキスしたい」という謎めいた言葉が書きつけられていた。
「フンババ」というニックネームでハウンが呼んでいる人物は誰なのか? セミは気が気でなくなってしまう。「イケメンだった」とハウンが言う、彼女を自転車でひいた男子高校生だろうか? その事故の現場に居合わせていて、ハウンを助けた、彼女の知り合いらしい大学生風の男性だろうか? それとも、セミがいつも嫉妬してしまう、ハウンが親しくしているもうひとりの女子、ダエだろうか?
それにいちばんの気がかりは、ハウンと一緒に修学旅行に行けないことだ。必死でハウンを説得するセミ。だがハウンは、抱えている事情を誰にも言えないでいた。そして些細なきっかけから、ふたりの気持ちはすれ違いはじめてしまう……。
リアルで立体的な少女たち
監督と共同脚本は、ドラマ『D.P. —脱走兵追跡官—』シーズン1(2021)などで知られる俳優チョ・ヒョンチョル。初長篇監督作である本作で、韓国の重要な映画賞のひとつ、青龍映画賞の最優秀脚本賞と新人監督賞を受賞した。「死を目前にしたある学生の物語」がふと頭に浮かび、「どうしても語らなければならない物語」だと思ったと彼は言うが、女子高校生を、および女子高校生同士の恋愛を、男性監督が描くと聞いて不安に思う人もいるかもしれない。たとえばステレオタイプ的な描写におちいったり、勘違い気味の過度な少女趣味であふれかえってしまうのではないかと。実際チョ・ヒョンチョル自身も、「30代の男性である僕が彼女たちの世界を表現してもいいのか、怖さもあった」と述べている。
だが出来上がった作品に登場する、セミとハウンをはじめとする女子高校生たちは、驚くほどリアルで立体的だ。わかりやすく人目を惹こうとする誇張した演出もなく、画面の色彩も語りのトーンも、一貫して穏やかに保たれる。チョ・ヒョンチョルはこの映画のために予備校の教師をして、実際の女子高校生たちの言葉遣いや話し方のテンポ、会話の流れなどをつかんでいったという。それだけでなく、演じた俳優たちが現場に持ちこんだものもおそらく大きいのだろう。
セミを演じるのは『スウィング・キッズ』(2018)、『サムジンカンパニー1995』(2020)のパク・ヘス。この年齢特有の激しい感情とエネルギーをもてあましている少女を見事に体現する。ハウン役に抜擢されたのは『あしたの少女』(2022)で鮮烈な映画デビューを果たしたキム・シウン。多くの人たちを惹きつけずにおかないハウンのカリスマを、圧倒的な存在感で観る者に伝える。『ただ悪より救いたまえ』(2020)、『別れる決心』(2022)、『密輸 1970』(2023)、『憑依』(2023)、『戦と乱』(2024)、『ハルビン』(2024)など、どんな作品のどんな役でも強い印象を残すパク・ジョンミンが、短い出番ながら絶妙な演技を披露しているのも見逃せない。
君は私で、私は君だ
この映画で特に傑出しているのは終盤の演出である。事故の前日と事故後の日々が、現実と幻想が、まったく大袈裟なところのないさりげない語り口のなかで、複雑に交差していく。セミとハウンもまた溶け合っていく──君は私で、私は君だ。それは、相手と一体になりたいという恋情や、相手のようになりたいという憧れの表われであるだけでなく、ふたりの運命が交換可能であることをも意味しているのかもしれない。セミの運命はハウンの運命だったかもしれず、それはわたしたちすべての運命について言えることでもある。
ラストシーンまで観終えたところで、これが第一にセミの物語であったことをわたしたちは知る。セミは最初、鏡に映った後ろ姿でこの映画に登場した。それ以後も彼女は何度も鏡によって枠取られる。彼女は枠取られる存在、いわば引用符でくくられる存在であり、直接眺められるよりも何かに反射したかたちで、何かを経由したかたちで語られる存在なのだ。つまり映画が開始した瞬間から、セミは追憶のなかにいる。そのことが彼女の輝きを、いっそう哀切でかけがえのないものにしている。
『君と私』著者プロフィール:篠儀直子(しのぎ なおこ)
翻訳者。映画批評も手がける。翻訳書は『フレッド・アステア自伝』『エドワード・ヤン』(以上青土社)『ウェス・アンダーソンの世界 グランド・ブダペスト・ホテル』(DU BOOKS)『SF映画のタイポグラフィとデザイン』(フィルムアート社)『切り裂きジャックに殺されたのは誰か』(青土社)など。
編集・遠藤加奈(GQ)
申込み最短3時間後に最大20社から
愛車の査定結果をWebでお知らせ!
申込み最短3時間後に最大20社から
愛車の査定結果をWebでお知らせ!
愛車管理はマイカーページで!
登録してお得なクーポンを獲得しよう
国道事務所“ノーマルタイヤ”の立ち往生に怒り心頭! 白い“高級ワゴン”雪道でスタックして大渋滞発生 ネット上では「自覚が足りない」「損害賠償を請求すべき」と厳しい声
「自殺行為」 国交省が“雪道で事故ったトラック”を紹介→原因に批判殺到 「ノーマルタイヤよりも悪質」…なにがあった?
ホンダ新型「フィット」発表に“賛否両論”の反響殺到! 「2段ヘッドライトが斬新」「デザインが今風」「可愛さがなくなった」の声も! 「大幅値下げ」でオトクになった大人気「コンパクトカー」中国仕様に熱視線!
「このままいくとヤバい…」兵器爆売れ大国にのし上がった韓国“危機感の20年” 日本はいまだに“対岸の火事”と見る?
自衛隊車両131台のウクライナ供与が完了! 最終分が現地到着 米軍「ハンヴィー」に匹敵と評価された車両も
国道事務所“ノーマルタイヤ”の立ち往生に怒り心頭! 白い“高級ワゴン”雪道でスタックして大渋滞発生 ネット上では「自覚が足りない」「損害賠償を請求すべき」と厳しい声
「自殺行為」 国交省が“雪道で事故ったトラック”を紹介→原因に批判殺到 「ノーマルタイヤよりも悪質」…なにがあった?
せいぜい2~3時間の駐車でしょ? ショッピングモールなどにEV用200V普通充電が設置される意味
【ノア/ヴォクシー独走の裏で】 「セレナ」と「ステップワゴン」販売台数に異変。 ミドルミニバン“2番手争い”が一気に動き出した理由
約600万円の新型プレリュードは高いか妥当か? 同じ金額で選べる新車&中古車を列挙して考えてみた
申込み最短3時間後に最大20社から
愛車の査定結果をWebでお知らせ!
申込み最短3時間後に最大20社から
愛車の査定結果をWebでお知らせ!
店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!
みんなのコメント
この記事にはまだコメントがありません。
この記事に対するあなたの意見や感想を投稿しませんか?