日頃、どちらかというと比較的旧式のクルマを扱うことが多い筆者。取材と並行して、自動車関連における様々なお手伝いをさせていただいています。そんなこともあり、車両の搬入移動の機会もかなり増えてきています。
確かに、高速道路や峠のワインディングでの試乗は、そのクルマの様々な部分が見えるものです。比較的交通としての複雑な要素(歩行者や、視界を遮る看板駐停車車両など)が少なく、クルマと向き合うのにはとてもいい環境であることは間違いありません。何より「愉しい」。自動車メディアたるもの、まずそのクルマとの素敵な時間を紹介することは大切な要素でありますから、こうした環境が大切であることは間違いありません。
中古車の試乗レポート第4弾。内装もボディも状態良好!普通に乗れるポルシェ911 カレラ2 ティプトロニック
しかしながら、ちょっとした搬入・車両移動ではわからないことがあるのも事実です。いわばもっとミクロな挙動の特性、クルマの素性、懐の深さのような点をより如実に感じることがあるのです。
いわゆる試乗以外にもざっと年間で1000台以上、先日ふと数えてみると、それほど多くのクルマたちと一緒に過ごしているようです。だからこそ見えてくる位置決め、すなわちトルクの出方やステアリングの特徴、車両感覚のつかみやすさ、ブレーキのタッチなど…様々なことを自然と感じ取っていることに、あるとき気が付いたのです。
実は今年の夏、新車のボルボをまとめて移動する機会がありました。すでにご存じの方も多いことと思いますが、ボルボは今後すべてのクルマを何らかの形で電動化する、という発表をしました。いわゆるEVだ、ハイブリッドだというクルマではないクルマであっても、モーターを併せ持ち、内燃機関を有するモデルであっても、それぞれの「おいしいとこどり」で走らせるというもの。筆者がお手伝いしたボルボもすべてプラグインハイブリッドモデルでした。
実はその際にある種の衝撃的な感動、感心させられたのです。そんな新世代ボルボとの時間で感じたことをまとめてみたいと思います。
「積載車に積めばわかるクルマの良しあし」でいえば、電動化されたボルボの出来栄えは「白眉」といってよい
最近は、積載車に関する仕事がとても多くなりました。もともと小さな会社を興した際、車両製作や販売、イベント運営等も視野に入れていたのです。
自動車関連の仕事をする上でとても重宝しているのが、車両を運搬できるトラックや積載車です。その広くはない荷台にしっかりと固定する…。熟練の技を要するとまでは申しませんが、それでもしっかりと積んでいないと思い掛けない事故につながることもあります。
さらに、ガチガチに固く固定しておけばいいというわけでもないし、緩すぎてはずれたり落ちたりする可能性もあります。一台一台しっかり状態を見て最善を尽くしています。車種を問わずに、その総数で言えば年間で1000台ほども積んでいますから、そのあたりの按配もだいぶわかってきました(日々精進ですし、勉強です)。
それでいいますと、今年の夏に運んだボルボは真新しい新車だっただけに、やはり特別な緊張感を覚えるものでした。荷台を展開すると鉄骨のスロープが出現。重量の関係と、念には念を入れて安全を期すためにすべてのクルマを一台ずつ運ぶということで計画を立てました。積み込む際は、まず荷台に上がる手前で一度停めて左右のスペースを確認。どのくらいハンドルを切って積み込んでいくか、あるいは余裕があるか…等々をしっかりと前もって目論んで置き、そろりそろりと積み込んでいきます。
言葉にすれば訳のないこと。しかし、今どきの新車は絶対的な寸法はかなり大きく、特に幅員に関しては2メートルになろうとするモデルもあります。そのため、しっかり荷台の縁まで余裕を持たせすぎると反対側がずれかねません。寄せすぎてホイールに傷をつけてはなりませんから、場合によっては何度も降りて目視確認をすることになります。それにしてもそこそこの傾斜のついた荷台です。停めるのも本心で言えばできるだけ避けたいですし、その状況下で微調整をしながらゆっくりと積み込むわけです。
非力なクルマ、高回転型のクルマはなかなか手を焼くこともある作業なのです。電動化したモデル、ハイブリッドやEVなども、不躾なクルマの場合、ガバっと発進しようとして絶対的なトルクが大きすぎるために気を使うことさえあるのです。
にもかかわらず、最新の電動化されたボルボのモデル。なんと和やかに、極めて精緻にクルマを操ることができるのです。カタログを見ればびっくりするほど、想像を超える重量級のクルマたちであります。
私が担当したクルマはボルボXC90・V90・S60の3台でしたが、いずれも極めてジェントルであり、ステアリングがどちらを向いていて、どこにタイヤがあるかもよくわかるのです。意のままにじっくりとトルクを滲み出させながら積み込むことができたのです。輪留めにタイヤを付けてイグニッションをオフにして車外へ出るたびに「しかし、すごいなあ…」とブツブツ口に出てしまうほどだったのでした。
そんなこともあり、大柄な新車で普段とは違う緊張感を感じたにもかかわらず、積み込みに要する時間自体はむしろ短時間でできたほどだったのです。こうした性能はSUVモデルなどでは悪路走行時にも絶対にモノをいう美点になるに違いありません。確かに寒い北欧の基準でいえば、たとえドライ路面よりも滑りやすい場面でも安心して走行できる性能を持っていることは最低限のマナーのようなものなのかも。私の記憶ではさすが最新のクルマと思わせ、もっともテクノロジーのチカラを見せつけられた積み込みとなりました。
果たして本当に、自動車の電動化が既存メーカーにとっての危機なのだろうか?
そんな極めてコントロールしやすく、大味なところがまったくない。むしろ、微細な場面でのコントロール性は普通の内燃機関のモデルより上なのではないかと思わせる仕上がり。やはり48Vが利いているのだろうか?気になりましたので、広報担当者の方に聞いてみました。
それによれば、もちろん48Vシステムの恩恵もさることながら、エンジンの仕事とモーターの仕事の間でハイブリッドモデルには絶対に避けられない特有の空走感のようなものがあるという風に思い込んできたものですが、それを補正するようにトルクの落ち込みを制御しているのだそうです。
こうしたクルマ作りは、クルマにこだわりのある通好みの仕上がりを目指す上でも効果的かもしれませんが、しかしアクセルやブレーキを踏み込むという入力行為に対して、反発するような挙動を極力抑えようとする技術。初心者にとっても安心して乗れるクルマに仕上がっているということではないでしょうか。
ステアリングが収集する情報も多く、路面の種類、滑りやすいかどうか。舗装状態の良しあし。速度感などいろんなことを教えてくれます。しかも、ボンネットに納まるエンジン自体は4気筒で比較的軽量。ハンドル操作は神経質なコントロールにも付き合ってくれるし、何より軽妙そのもの。精緻でプレジャー。ボルボのコントロール性の設えは奥深いなあと思った次第です。
同時にある、最近見聞きする論調について果たして、ちょっと考え込んでしまったのです。それは「自動車の電動化は、自動車製造が従来のような高度かつ高コストな開発生産環境を要しなくなり、誰でも気軽にクルマが作れるようになる。一世紀に一度の変革期だ!」という煽りを内包した論調に関して、です。
もちろん、今まで自動車製造を手掛けてこなかった新興メーカーも出てくるかもしれせん。けれども、既存メーカーにしかできないクルマづくりはこれからも健在であり、やはり自動車の製造、技術革新の面において引き続き先駆的な立場で居続けるような気がする、と思うのです。
なぜかといえば「モーターはトルクを発生させるもの」ではなく「自動車である以上どのようにトルクを発生させ、どのようなコントロール性を持たせるべきか」を考えているようにクルマそのもの、ボルボの最新モデルから感じ取ることができたからです。自動車を一言でいえば「移動手段」には違いありません。でも「移動させてくれればそれでいい」のではなく、どのようなルートで、どんな状況化を移動するかにしっかり対応しながら「私たち人間がたどり着けること」が大切なのです。そのためにはこうしたコントロール性など、昨日今日、性能十分なモーターを「選定しておけばそれでいい」という話ではないように思えてならないわけです。
筆者自身「トルクフルなクルマが好き」ですが、トルクの出方がきれいで気持ちいい、などという感想を持つことになるとは思いませんでした。その意味で実に新しいクルマの世界。むしろ、大舟に乗った気分で「どんどん電動化してほしいなあ」と思えるようなクルマに仕上がっていて、クルマはまだまだこれからだな、などと思ってしまったほどだったのです。
モーターを手に入れたボルボはますます遠くまで行きたいクルマに仕上がっている
そしてもう一点最後に言及しておきたいことがあります。「クルマが示す未来とは、過去を捨て去り、何かと決別したバーターで手に入れるようなものではない」ということです。ボルボでいえばわかりやすいところでは内装です。あの革の香り、明るく落ち着いたデザイン。「帰ってきたな」と思える雰囲気をしっかり踏襲していました。
むしろ、オーセンティックで慣れ親しんできたもの。皆が愛おしい、時にこういう世界にあこがれるという雰囲気。それを死守するためにこれくらいのことで済むならば!という電動化なのではないかと思わされたのでした。
森の中の一本道、今漏れ日の下をひたすら、どこまでも走ってみたい。そう思えた最新のボルボ。いろんなクルマを購入することができる今の日本で、わざわざ選ぶ理由が明確。COTYで毎年高い評価を集めるのもよくわかる。それが今のボルボなのだと思った次第です。
最新のボルボ、一度ちゃんと乗っておきたいから…ということで、後日、ちょっとお借りすることにしました。車種はボルボXC40 B5 AWD Rデザイン。2リッターターボエンジンにモーターがついていて、小型ではあるが車両重量でも1700kgに迫るボディをひらりと走らせます。エンジンとモーターを併せ持つばかりでなく、定常運転時など負荷のさほど大きくないときなどはシリンダーが止まる気筒休止の機能まで備わる。どこで何が起きているのか集中してはみたものの、なんだかよくわからない。でもアクセルを踏めば俊敏に応える、軽快だし、段差を越える時なども重量を感じさせることもない。今までクルマに期待していた小気味よさは健在だが、どこでどうやってそういう挙動を作り出しているのかは「教えてもらえなかった」でした。夕鶴の与ひょうはこんな気持ちだったのだろうか。ボンネットを開けても「つう」も機織りもないのだから、物語にもならないわけです(笑)。
そのうち、機械が何をしているか、どう動いているか。判別できなくてもいいかなと思った次第。「できればどこまでも行きたい」そう思えたことに尽きるのです。これからも今までのあのボルボがきっと続いていくのでしょうか…。
自動車会社の作る電動車。ますます楽しみになってきました。
[ライター・画像/中込健太郎]
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みんなのコメント
ずっとメルセデスが最高だと感じてきましたが、安全性能、走りのバランス、価格帯を考慮すると、現在はボルボが完全に並んだと言えるでしょう。
最近のボルボ人気はデザインの良さもありますが、こういった人に与える安心感の進化も大きいと思います。
うしろのガンダムが気になる。