高まる道路重視と共有資源の課題
NEXER(東京都豊島区)と藤岡コンクリート工業(群馬県藤岡市)が共同で行った住環境における道路インフラ整備に関するアンケート(全国の男女500人、2026年6月23日発表)から、住民が住む場所の道路環境を厳しく見ていることが分かった。
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調査によると、住む場所を選ぶ際に道路環境をとても重視する(14.8%)やや重視する(45.6%)と答えた人は合わせて60.4%にのぼった。移動のしやすさや騒音、安全性といった点から、多くの人が住まいの周辺の道路環境を重く見ていることがうかがえる。さらに、道路の状態(舗装、側溝、排水など)が住みやすさに影響すると考える人は73.4%(とても影響すると思う29.8%、やや影響すると思う43.6%)に達し、道路整備と暮らしの質は深く結び付いているという認識が広がっている。
経済学の視点で見れば、道路は人々の暮らしや経済活動を支える社会資本であり、経済学者の宇沢弘文(1928~2014年)が唱えた「社会的共通資本」を代表する存在でもある。利益だけを求める市場の考え方に委ねるのではなく、社会全体で守り育てるべきものとされている。
一方で、道路は誰もが利用できる反面、利用が集中すれば混雑や傷みが生じる
「共有資源」
という性質も持つ。利用を制限しにくい非排除性と、利用者同士が限られた資源を使い合う競合性を併せ持つため、十分な維持管理が行われなければ、使い過ぎや補修の遅れによって道路が荒廃する共有地の悲劇を招くおそれがある。
道路への不満と資産価値への意識
日頃の不満に目を向けると、自宅周辺の道路に何らかの不満を持つ人は全体の53.4%(特に不満はないと答えた46.6%を除く)にのぼる。
不満の内容で最も多かったのは道路のひび割れや凹凸(22.6%)で、次いで歩道が狭い・整備されていない(19.6%)水たまりができやすい(16.8%)街灯が少ない(15.6%)と続いた。こうした道路の傷みや補修の遅れは、歩行時のつまずきや車の振動など、日々の暮らしの負担につながっている。
行政が道路整備を進めるかどうかを判断する際は、移動時間の短縮走行費用の減少交通事故の減少の三つを金額に換算し、費用便益分析(CBA)を行う。この調査で明らかになった住民の不満は、こうした便益が十分に得られていないと日々の暮らしの中で感じていることを示している。
こうした道路の整備状況は、住みやすさだけでなく、不動産の価値にも影響すると受け止められている。調査では、道路整備が住みやすさや住宅・土地の資産価値に影響すると答えた人が72.4%(とても影響すると思う27.0%、やや影響すると思う45.4%)を占めた。
道路が整えば土地の人気が高まり、資産価値も上がるといった、将来の売買のしやすさを見据えた意見も寄せられている。道路環境の良し悪しは、個人の資産価値を左右する要素として広く認識されていることがうかがえる。
資産防衛と財政規律の構造的摩擦
こうした住民の意識の高まりに対し、道路の維持管理を担う地方自治体には別の考え方があるだろう。
住民にとって、舗装の傷みやひび割れを早く補修し、安全を確保して資産価値を守るよう求めることは自然な考え方だ。一方で自治体には、限られた税収と予算を地域全体のさまざまな公共サービスへ適切に配分しなければならないという役割がある。
実際に、道路の整備や補修に使われる費用は一般会計の土木費から支出される。財源は地方税や地方交付税、国庫支出金や社会資本整備総合交付金に加え、地方債で賄われている。しかし、多くの自治体では道路整備に充てた地方債の残高が高い水準にあり、実質公債費比率や将来負担比率といった財政指標を踏まえながら、厳しい予算運営を続けているのが実情だ。
そのため、すべての要望にすぐ対応することは難しく、自治体は道路の重要性や交通量、傷みの程度に応じて、補修の優先順位を決めなければならない。その結果、財政に余力のある自治体や重要な路線では補修が進む一方、財政が厳しい自治体や生活道路では補修が後回しになることも少なくない。住民にも自治体にも、それぞれの立場に沿った判断があり、その積み重ねによって地域ごとの道路整備に差が生まれている。
インフラ維持の代償と居住地の選択
道路インフラの維持と改善には、常にトレードオフがともなう。道路整備に重点的に予算を配分し、地域の魅力を高めて住宅の価値低下を防ぐ取り組みは、短期的には住民の満足度を高める効果がある。一方で、自治体の財政負担は増え、福祉や教育などほかの公共サービスに回せる予算は少なくなる。道路へ予算を振り向けることで、ほかの行政サービスに充てる機会が失われるという負担は避けられない。
反対に、自治体が財政規律を重視して道路の維持費を抑えれば、短期的には財政の健全性を保てる。しかし、長期的には舗装の劣化が進み、地域の住みやすさや資産価値が低下し、地価の下落につながるおそれがある。
かつて、自動車の普及にともなって市街地が郊外へ広がった結果、道路や上下水道の維持管理費が増え、多くの自治体の負担となった。現在、国がコンパクトシティを進めているのは、居住や都市機能を一定の地域へ集め、固定資産税や都市計画税などの税収を安定させるとともに、道路などの維持管理費を抑えることが目的である。
ひとりひとりが住みやすさを求めて郊外へ住宅を建てることは、それぞれにとって合理的な選択である。しかし、その選択が積み重なると、地域全体では中心市街地の空洞化が進み、道路の維持管理費を押し上げる結果につながる。また、自治体が費用削減を優先して一部地域の道路補修を大きく減らせば、その地域の衰退を招き、地域全体にも影響が及ぶ可能性がある。
今後5年、10年と道路インフラの老朽化が進む中、この課題に明確な答えを見いだすことは容易ではない。限られた財源の中で道路環境をどう維持するのか、その費用を誰が負担するのかという問題は、地域社会の持続につながる重要な課題である。これから住まいを選ぶ人や住み続ける人にとって、目の前の道路のひび割れは、その地域の財政状況や将来のまちづくり、資産価値を考える上で重要な判断材料となるだろう。(大居候(フリーライター))
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