通勤電車を「走るホテル」に変身させた空間設計
JR西日本の長距離列車「WEST EXPRESS 銀河(ウエストエクスプレス ぎんが)」は、同社の豪華寝台列車「TWILIGHT EXPRESS 瑞風(トワイライトエクスプレス みずかぜ)」と比較して廉価版と受け止める向きがあります。確かに料金は桁違いで、乗車する距離と時間が短いことを勘案しても「瑞風」より格段に安い設定です。
【え…!】これがWE銀河の摩訶不思議「三角形の部屋」です(写真)
しかし、筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長)が2025年6月に京都から下関(山口県)までの夜行運転で乗った最上級クラスの個室「プレミアルーム」は、「走るホテル」と呼ぶべき素晴らしい空間でした。これまでに欧米で乗った寝台列車と比べても遜色のない素晴らしい空間で、約13時間半の完走後も「もっと乗っていたい」と後ろ髪を引かれる思いでした。
その魅力の一つになっているのが、「ある物」を思い起こさせる形状です。デザインを担当した建築家の川西康之さんにお話をうかがうと、この空間を最初に提案した際にはJR西日本の車両部から「こんなのは見たこともない」と猛反対されたことを明らかにしました。
2020年9月に運行を始めた「ウエストエクスプレス銀河」は6両編成。ともにグリーン車で夜行運転時には座席をベッドのように転換できる「プレミアルーム」と「ファーストシート」、いずれも普通車で寝台列車の2段ベッドのような「クシェット」、背もたれが大きく倒れる座席「リクライニングシート」、家族らの利用を想定した半個室「ファミリーキャビン」と5種類あります。また、テーブルやいすを設け、利用者が自由にくつろげる「フリースペース」もあり、関西と九州を結んでいた寝台特急の「明星」「彗星」と名付けた一角も設けられています。
国鉄時代の1979年に京阪神を結ぶ「新快速」として運用が始まった通勤形電車の117系を改造しており、種車は「JR西日本が事業計画や車両運用の都合で117系に決定した」(川西さん)そうです。
ところが、川西さんはこの判断に当初は難色を示したといいます。というのも、「ウエストエクスプレス銀河」は開発当時のJR西日本社長だった来島達夫氏の肝いりのプロジェクトで、「様々な座席や設備を用意したい、とくに個室は作ってください」という要望を満たしにくい面があったからだと言います。
一例として、もともと通勤形車両のため空調・換気設備が個室対応になっておらず「空調ダクト設備を大幅に変更することが条件だったものの、天井の高さが一般的な通勤形車両より200mm低い2100mmしかないのが難点だった」と振り返ります。改造後に天井が低くなった対策として「天井が低いことを感じさせないために、可能な限り間接照明を採用した」と説明します。また、照明が点灯した状態で客室をデッキより明るくすることで「視覚的なメリハリを狙った」そうです。
あえて古い編成を選んだ理由とは
117系のどの編成を改造するかは川西さんにゆだねられ、当時は数々の編成が止まっていたJR西日本の車両基地「岡山電車区」(岡山市)で選ぶことになりました。初期型の「0番台」と、1986年製造の「100番台」がある中で白羽の矢が立ったのは、80年製の0番台でした。
川西さんはあえて古い編成を選んだ理由として2つの点を挙げました。1つは台車で、「100番台は(空気ばねを使って構造を簡素化した)ボルスタレス台車の初期の製品を履いており、ベテラン社員から『ぼよんぼよんと揺れる』という声を聞いたため、それならば特急用車両と同じ台車だった0番台の方が良いだろうと思った」と解説します。
そしてもう1つの理由は、「プレミアルーム」を広く確保するためには0番台のレイアウトの方が適していたためでした。川西さんが117系の客室に並んでいた転換クロスシートを取り払って設置したのは、上から見ると通路を挟んで「三角定規」のような個室が並んでいる空間でした。
本当は片方の窓側に延びる通路に沿って四角形の個室を並べると効率が良いものの、「三角定規のような部屋を並べることで、レール方向に広がる『流れる車窓』をデザインした」と言います。それを設計段階で提案したところ、JR西日本車両部からは「こんなのは見たこともない。効率が悪い」との反対意見が出たそうです。
これに対し、営業部門からは「面白いのではないか」との声が出たため、実際のモックアップで比較検討した結果「私の案をほぼそのまま採用していただけた」(川西さん)。また、ベッドにした時の位置を高くし、窓の下辺に合わせることで「ごろ寝の視点で流れる車窓を楽しめるようにしている」のもこだわりです。
三角定規型の個室が生む「一石三鳥」効果
三角定規のような形の部屋のため、ベッドは足元の幅が絞られた台形になります。高校生の息子と2人で乗った筆者は狭いのではないかと危惧していましたが、十分な広さでした。ベッドが高い位置にあるため車窓を眺めやすいのに加え、下には大きな荷物を収納でき、しかも床下から聞こえてくる音も軽減されるという“一石三鳥”でした。
先頭車両の6号車にある「プレミアルーム」がぜいたくな空間なのは、この車両の夜行の定員が9人、昼行でも13人にとどまることが如実に示しています。川西さんは「6両編成で定員100名程度あれば良いという条件だったため、なんとかなる」と判断して「プレミアルーム」に広々とした空間を割り当てたそうです。「プレミアルーム」が6号車、「ファーストシート」が反対側の先頭車の1号車とグリーン車が先頭車にあるのは「床下の静粛性を優先したためです」と教えてくれました。
来島氏の期待通り「様々な座席や設備」を用意した「ウエストエクスプレス銀河」ですが、中には“幻”に終わった設備もあります。それは「食堂車」です。4号車のフリースペース「遊星」の壁には主に国鉄時代に登場した特急形車両や電気機関車、客車などの鉄道車両のイラストが描かれており、これが「東海道・山陽新幹線で走っていた100系の(2階建て車両の2階にあった)食堂車の壁にあった図面のオマージュ」(川西さん)なのは一目瞭然です。
「ウエストエクスプレス銀河」に食堂車を設ける構想があったと聞き、筆者は大阪市にあった旧交通科学博物館でのイベントを取材後、来島氏に誘っていただいて展示車両のナシ20形食堂車で一緒に弁当を味わったのを思い出しました。筆者はその時に「食堂車だとよりおいしく感じますね」とお話しし、来島氏もうなずいてくださいました。
車体色が似た「ウエストエクスプレス銀河」ならばナシ20形のような空間が再現された可能性もあり、「食堂車の夢」が実現しなかったことには一抹の寂しさがあります。
一方で杓子定規にならずに設計し、三角定規のような形の個室を設けるなど遊び心がある列車に仕上がったことが、「ウエストエクスプレス銀河」の根強い人気につながっているのかもしれません。(大塚圭一郎(共同通信社経済部次長・鉄旅オブザイヤー審査員))
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みんなのコメント
従来だと性能が同じ特急形の185系にしようか
とかありそうだけどね。