2017年にデビューした2代目ボルボXC60は、ワールド・カー・アワード、北米SUVオブ・ザ・イヤー、日本でも日本カー・オブ・ザ・イヤーなど世界中で数多くの賞を獲得している。折しも、世界的にボルボの販売台数が上昇し、市場の評価が高まる中での受賞だった。では、欧州でボルボの評価はどれほど高まっていたのか。Motor Magazine誌は早速、欧州で現地取材を行っている。ここではその時の模様を振り返ってみよう。(以下の記事は、Motor Magazine 2018年6月号より)
「ボルボ=堅実=安全なクルマ」
少々古い話だが1996年にリリースされた「ザ・ロック」というアクション映画でニコラス・ケイジの演ずる主人公のスタンリーが、「自分はベージュのボルボに乗っているくらい地味で堅実な男だ」と言うくだりがある。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
FBIに所属する化学兵器のスペシャリストだが、普段は大学の研究員でもある彼が重要任務を与えられた時に発した言葉で、いかにその男が普通の人だということを表現するのに、目立たない色の典型であるベージュと、そして地味なクルマの典型としてボルボが選ばれたわけである。つまり今から20年前はまだボルボの知名度はその程度の存在だったのである。
しかし、そこにはメッセージが隠されていた。「堅実」である。すなわち「ボルボ=堅実=安全なクルマ」というものだ。1927年に創立した、このスウェーデンの自動車メーカーは、1944年のPV444ですでに合わせガラスのフロントウインドウと衝突安全構造を組み込んだボディを持っていた。さらに1950年からクラッシュテストを開始、その結果に基づいて開発した3点式シートベルトを1959年にPV544とPV121(アマゾン)に標準装備したのである。
この伝統は現代のモデルにまで脈々と受け継がれており、その結果、たとえばドイツの自動車専門誌「アウト・モーター・ウント・シュポルト」が毎年行う欧州13カ国の読者アンケートで、ドイツ、フランス、イタリアそしスペインなどほとんどの国で、「安全なクルマを作っているメーカーは?」という問いに90%以上のオーナーが最初にボルボを挙げている。
2017年、グローバルでの販売新記録に貢献したXC60
驚くべきは先進の安全性を標榜するメルセデス・ベンツのご当地であるドイツにおいても、ボルボオーナーの93%がボルボの方が安全性に重点を置いたクルマ作りをしていると回答している。
また、2010年から中国のジーリーホールディンググループからの資本を受け、豊潤な資金を得た時期からポジティブな発展を続けており、2017年は57万1577台を販売したが、これは2016年の7%増で、同社にとって歴史的な売り上げ台数である。この躍進の原動力は中国市場で、全体の25.8%にあたる約11万4000台を販売した。これはスウェーデンの約7万4000台を上回る数字である。
この好調な販売の大きな要因となっているのがXC60だ。その安全装備、とくに標準装備のシティセーフティは前方のクルマはもちろん、オートバイ、自転車、歩行者、そして欧州では郊外で頻繁に発生する大型動物の飛び出しにまで反応し、自動ブレーキをかける。
この機能は一度でもひやっとした経験のあるドライバーには現実的で非常に心強い。
初代XC60はアッパーミドルクラスSUVとして、アウディQ5やBMW X3、あるいはメルセデス・ベンツGLCなどに対する別の選択肢としてのポジションを築いてきた。そのマーケティングの背景となるのが、ボルボの持つ伝統ある安全システムである。さらにゲルマンデザインとは一線を画すテイストも提供している。
そして2017年に2代目となったXC60は、日本カー・オブ・ザ・イヤーとワールド・カー・アワードのダブル受賞という快挙を成し遂げたのである。
あらためて試乗してわかったのだが、シャシはしなやかで様々な状態の路面でも、まるで舐めるようにスムーズにこなす。この高度な快適性と、高品質で高度な仕上げ、そして数々の標準安全装備だけを考えても受賞の価値は十分なものであることがわる。
先進技術に積極的な対応を続けているボルボは、アウト・モーター・ウント・シュポルト誌の読者ブランドサーベイ「トレンドに乗っているブランド」の項で10位にランクされている。つまり、ボルボは欧州、いや北米においても、決して地味な存在ではなくなっている。最近はどこへ行っても「ベージュのボルボ」を見ることがなくなったのはその良い証拠である。(文:木村好宏/写真:Kimura Office、Volvo Cars)
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